艦隊これくしょん Mercenary Fleet   作:Colonel.大佐

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#1 「赴任」

 鎮守府に着任する提督の秘書艦になってほしい。

 司令部から通達された命令は至極簡素かつ重大なものだった。

 とうとうこの時がやって来たか、と、吹雪型5番艦の叢雲は覚悟した。

 艦娘の適正を持ち、文字通り軍に“徴用”された彼女にとって、初めての任務であったが、それは責任重大な仕事である。新たに新造された艦隊を指揮する司令官の補佐、それと同時に初戦における経験不足の提督たちをサポートするという責任重大な仕事。

 不安と期待を胸に、軍の輸送機で目的地である基地へとやって来た叢雲は、信じられない物を見ているような気分になっていた。

 

「……ここが、鎮守府よね?」

 彼女の目の前に広がっているのは、おおよそ軍港と呼ぶには程遠い施設だった。

 港ではある。一応は港なのだが、どうも規模が小さすぎる。田舎の港町とも言えるような小さな漁港ぐらいの大きさ、整備こそされているが建ててから相当の時間が建ったであろう兵舎や司令部と思しき建物。蔦や雑草が伸びるフェンス、放置されて久しいであろう軍用トラックなどがこの施設のくたびれ加減を助長していた。

 港の隣にはとても小さな滑走路が用意されているが、こちらも軍港と同じく設備も放置されっぱなしのようだった。

 話に聞かされていた“鎮守府”のイメージとはあまりにかけ離れていた。叢雲が想像していた鎮守府は、巨大な軍港であり数多くの戦隊、艦隊が軒を連ねていたはずだった。だが、ここはどう考えてもそれらの精鋭の軍事基地とは程遠い、ひどい場所だった。

 まさかの左遷人事か、と叢雲はがっくりと項垂れた。

 同期の艦娘たちは、みなベテランの提督と最強の精鋭艦隊に引き抜かれていた。なのに、自分だけはこんな鎮守府で閑職まがいの事をしなきゃいけないのか、と自問する。

 とにかく、叢雲は提督へ会いに、錆の浮いた案内板を頼りに建物の二階にある執務室へと向かった。

 

「はあ?」

 叢雲は思わず素っ頓狂な声を漏らしていた。

 執務室のドアは鍵が掛かったままだった。そればかりか、一枚のメモ書きがセロテープで張られている。

 “滑走路で昼寝中”

 所要にて外出中、または不在だったならまだ理解できた。

 しかし、そればかりか滑走路で昼寝してます、とは一体どういう事なのか。

 彼女も艦娘であるが、それと同時に軍人である。このような左遷まがいの辺境基地、そしていい加減な司令と来れば腹立たしい気持ちも沸いてくる。叢雲は小走りで建物を出ると、滑走路へと向かった。

 

 滑走路の脇には1機の軍用機が鎮座していた。双発のプロペラエンジンを載せた小型の機体――アメリカ軍が使用していたCOIN機(軽攻撃、対暴動機)、OV-10。ネイビーブルーに塗装され、真っ白な識別帯を機主に塗ったそれは、明らかに司令部の使用している機材とは全く異なった、異質な存在であった。

 その翼の下、日陰に人影があった。木製のビーチチェアを広げ、雑誌をアイマスク代わりに昼寝をしている。

 まず、叢雲の目に飛び込んできたのは提督の服装だった。

 一般的な海軍用の仕官制服ではなく、それは野戦服だった。黒一色で染められたBDUに、ピストルベルトを付けている。足には、これまたBDUと同じく黒色のコンバットブーツがはめられている。

 叢雲は提督の腰を見た。ピストルベルトにぶら下がっていたのはホルスターだった、そこからは黒光りする自動拳銃のハンマーとグリップがはみ出している。

 ――珍しい。今時、自動拳銃まで持ち出す提督がいるなんて。

 内海、それも極めて辺鄙な場所にあるこの基地で、わざわざ自動拳銃を携帯する提督など叢雲は見た事が無かった。

 

 叢雲は、提督に声をかけた。

「あなたが提督?」

 返事はない。

 代わりに、提督はもそもそと身体を動かし、雑誌を少しだけ持ち上げると、叢雲を見た。

「俺が提督だが」

 また雑誌をずらし、提督は昼寝の続きをしようとする。

「……今日から部隊に配属になった特型駆逐艦5番艦の」

「叢雲、だろ」

 寝ようとしながら提督が答える。

「今朝からプロフィールを読んだよ。どうせ今の所はヒマだし、ま、ゆっくりやろうや」

 叢雲は今度こそ怒った。

「いい加減にしなさい!あんた本当に提督なの?給料でも泥棒する気?」

「……」

 昼寝の続きをしようとしていた提督は、思わず叢雲の大声にびくっと身体を震わせた。提督は雑誌をどけて、むくりとビーチチェアから起き上がった。

 思わず叢雲は息を呑んだ。いい加減な口調だったが、顔つきは精悍で、目つきは鋭く、彼が只者ではない人間である事を容易に物語っていた。でもその威厳は一瞬で、あくびを漏らしてからぐっ、と背を伸ばして眠気を飛ばすと、提督はやる気があるのか無いのか解らない様子で、話を始めた。

「まぁ、今日中にやらなきゃいけない事もあると言えばあるし……まあ、仕事にするか」

 こりゃとんでもない鎮守府に着任したな、と叢雲は改めて後悔した。

 

 ビーチチェアと雑誌を片付けた提督は、叢雲と一緒に執務室へと向かっていた。

 簡単な自己紹介を互いに済ませると、2人は手始めと言わんばかりに雑談を始めていた。

「あまり言いたくないけど、ここは相当なおんぼろね。左遷されたのかしら」

「左遷と言うよりも何と言うか……俺はそもそも軍人ですらないからな……」

「は?どういう事よ、その格好だしあんた提督でしょ?」

 叢雲の言葉に、提督は首を左右に振った。

「軍と契約を結んだ雇われ司令官だ。軍属とも言えるだろうが、正規の軍人ではないな。いや、元軍人だったが」

「あら、退役してまた復帰したの?それとも、傭兵か何か?」

 ああ、と提督は答える。

「そんな所だ」

 提督はポケットから鍵を取り出すと、執務室の鍵をはずし、ドアノブを捻った。

 ドアを開ける前、提督はふと思い出したように叢雲へと向き直った。

「ああそうだ……言い忘れてたな。着任おめでとう、戦争を始めるぞ」

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