艦隊これくしょん Mercenary Fleet   作:Colonel.大佐

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#3 「艦娘たち」

 翌朝。叢雲と提督は滑走路に立っていた。

 本日付けで赴任する艦娘たちを迎える為だったが、予定の時間が近づいてもなお、艦娘を乗せた飛行機は到着する気配が無かった。

「来ないわね……」

「そうだな……」

 2人揃って待ち続けているが、一向に来ないため、提督はいつものようにビーチチェアを広げて寝転がって雑誌を読んでいる。

 叢雲も、もはやマイペースな提督に対して怒る事も呆れる事も無駄だと思い、諦めてその横で木箱に座ってぼんやりと空を眺めている。

「なあ叢雲」

「何?」

 提督は雑誌を読みながら話を始める。

「艦娘になる前は何してたんだ」

「何って……内地で普通に生活していただけよ。学校に通っていて、友達と遊んで、家に帰って家族と過ごして……」

「そうか」

 提督は叢雲の言葉を聴いてから、意外そうな顔をする。

「未だに艦娘についての事はよくわからんのだが……その、何だ。艦娘になると記憶ってどうなるんだ」

「記憶?」

 何の話だろうか、と叢雲は不思議に思った。

「艦娘になると、その艦が文字通りの軍艦だった頃の記憶ってのが混在するんだろう。そのうち、自分が人間だったのか軍艦だったのか、記憶が混在するって事は起きないのか?」

「んー……確かに、言われて見れば……」

 叢雲は思い返す。

 確かに、自分の人生は今まで平穏そのものだった。艦娘の適正を見出され、徴用されて艦娘になっているが、記憶が混在している部分も確かにある。

 太平洋の戦い、米海軍との死闘、艦載機の攻撃、敵の雷撃、奮闘する乗員と言った光景が、昔見た戦争映画のワンシーンのように客観的に脳内に入り込んでいるし、人としての“名前”もあるのだが、それと同時に頭のどこかで自分を駆逐艦の名前――“叢雲”として自然と名乗ってしまう癖が、艦娘になった直後に付いたのも事実だ。

「俺は艦娘の事を知らなきゃいかん、命を預かる身としては特にな。今後も色々と聞くかもしれんが、その時は……」

 提督が話を続けようとした矢先、遠くからエンジンの爆音が響き始める。

「おっと、そろそろ来るな」

 提督は起き上がると、ビーチチェアを畳んだ。

 叢雲も立ち上がると、東の空を見た。青い空に浮かぶ黒い点――ヘリコプターの機影は、基地へ近づきつつあった。

 

 爆音を鳴らしながら、滑走路へ一機のヘリコプターが着陸する。

 国防海軍の日の丸を付けたCH-53E輸送ヘリ、スーパースタリオン。ずんぐりとした巨体には50名近い兵員を乗せる事が出来たが、機体後部のハッチから降りて来たのは僅か数名ほどの人影だけだった。

 それから、何個かの手荷物を降ろすと、スーパースタリオンは再び離陸し、まるでこの基地にはもう用は無いと言い放つようにそそくさと飛び去っていった。

 滑走路に取り残された人影――艦娘たちは、周りに聳えるみずぼらしい基地の施設を困惑しながら見回し、どうしていいかも解らず立ち尽くしている。

 提督と叢雲は、そのまま毅然とした足取りで何をしていいかも分からないまま取り残されている一団――艦娘たちへ会う為に向かった。

 

「すいませーん」

 艦娘の1人が手をパッと上げて提督へたずねる。

「ボクたちの着任する鎮守府ってここで……」

「よく来た。艦隊へようこそ!俺が提督だ」

 提督の言葉を聞いた艦娘たちの反応はさまざまだった。

 ハズレのような場所に赴任した事に対する失望、目の前の黒い迷彩服の男が提督であるという驚愕、そもそも何も反応せず黙って辺りを見回す者。

 叢雲も、つい昨日は自分も同じような反応をしていたのか、と思いつつ、新たな仲間の到着に内心、期待感や安心感のような物を感じていた。

「とにかく挨拶は後にして……叢雲、施設を案内してやってくれ。一通り終わったら全員をブリーフィングルームに集合させろ」

「わかったわ」

 とにかく顔を見て満足したのか、提督はそのまま滑走路を離れて執務室へと向かっていった。

 呆気に取られる艦娘たちを前に、叢雲は1日分の年長者として、そして提督の秘書艦として挨拶を始めた。

「叢雲よ、よろしく頼むわ」

 

 1時間後。簡単な施設の案内が終了した所で、艦娘たちはブリーフィングルームに集められた。

 すでに提督は資料やら何やらを用意して待っていたのか、艦娘たちが部屋に入ってきた時には部屋の壁にかけられたスクリーンの前で、パイプ椅子に座っていた。

 艦娘たちが席に着き、叢雲が「案内が終了しました」と提督へ報告すると、提督はようやく腰を上げた。

 ブリーフィングルームに集められた艦娘の顔を見ながら、提督は話を始めた。

「では改めて自己紹介をしよう、俺が提督だ。各自、官姓名……は言わなくていい、右から名前と艦種を言え」

 提督の言葉を皮切りに、一番右に座っていた艦娘――紫色の髪をした艦娘が席を立った。

「えーっと、商船改造空母、隼鷹でーっす!」

 癖毛を揺らしながら、明るい声を上げる。提督は何も言わずに、表情も変えずに彼女の名前と艦種を黙って聞いた。

 思いのほか提督が無反応だったのか、隼鷹は少しだけトーンダウンすると席に座った。

 次いで、隣の席のショートヘアの艦娘が席を立つ。

「航空巡洋艦、最上です」

 提督はうむ、と頷くだけだった。

 最上が座ると、今度は隣の艦娘がスッと席を立った。

「陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です」

 凛とした、武人のような態度の彼女は、すぐにスッと席に座った。

 次いで、隣の席のメガネをかけた艦娘が席を立つ。

「金剛型戦艦、霧島です」

 そして、最後の一人となる艦娘が席を立った。

「睦月型駆逐艦3番艦、弥生、です……」

 

 全員の顔と名前を覚えた提督は、全員の顔を見回してから話を始めた。

「艦隊へようこそ。今日付けで君たちは原隊から離れ、正式に当部隊へと配属された。元の艦隊とはかなり違った部隊なので、今から説明する」

 提督はひとつ咳払いをする。艦娘たちは、少し不安を残した顔で提督を見つめている。

「ざっくりと説明すると、ここは傭兵の艦隊だ。他の鎮守府と違って、報酬はほぼ歩合制となる。危険な作戦に参加したり、敵を多く撃破するほど報酬は上乗せになる。逆に通常の、他の艦隊と同じような任務をするのなら、他所と給料はあまり変わらない」

 叢雲は提督の隣で話を聞きながら、昨日の話を思い出していた。

 提督は雇われた司令官である。だが、艦娘たちは国防海軍所属の“戦力”である。人間が艦娘として改造されている以上、艤装を外せば兵器から人となる、当然、彼女たちにも給料は出るのは事実である。しかし、給料は大抵、艦種や階級によって左右される。もちろん階級が低ければ低いほど安く、高ければ高いほど高給となる。退役後の恩給も似たようなものだ。話を聞く限りではこの艦隊は艦娘への報酬に制限が無い。さすがは実験艦隊と言ったところか、と叢雲はこの艦隊のシステムに関心する。

 他の艦娘も同じような反応だったが、提督の次の言葉は極めて冷酷無慈悲だった。

「ただし任務を拒否するのなら拒否料が発生する、作戦によっては凄まじい額になる事もある。また、無許可離隊や脱走は通常の艦隊以上の厳罰となる、最悪の場合、銃殺の対象となる可能性もある事を忘れるな」

 拒否料、銃殺。

 物騒な単語が出てきた瞬間に、艦娘たちの反応は極めて悪いものに切り替わった。

「あ、あの、銃殺って……」

 最上が恐る恐る声をあげる。提督は頷いた。

「銃で処刑されるという意味だ。上層部の連中は俺たちが金で動き堕落するのを危惧している。万が一にも脱走が見つかれば連帯責任となる。内地の家族にも重罰が下るだろう」

 ぞっとする話だった。叢雲はかろうじてこの衝撃を受け止めた。一応は上層部から正式な命令を経てやってきた彼女に取って、これぐらいは想定の範囲内だ。

「また、俺たちには近い内に監視が付く。正規部隊から派遣された将校……まあ、おそらく艦娘になる可能性があるが、不穏な動きが無いか常に監視されるだろう。謀反は許されない、もし仮に反乱を起こした場合は、正規軍と連合艦隊がこの基地を更地にする。もし生き残れば軍法会議の後に本土の親族まで処罰されるだろう、よって俺たちはある程度の首輪を付けられて戦争をする事になる」

 提督はそう言うと、叢雲を一瞬だけ見た。

 現状、監視役の艦娘となれば残る選択肢は叢雲1人だけだった。叢雲は、甘んじてその疑惑の視線を受けた。

「さて、話は変わるが――今の艦隊はかなり逼迫した状況にある。戦況が、という意味ではない。基地として成り立っていけるかどうか、だ」

 提督のいきなりの言葉に、艦娘たちは疑問の顔を浮かべた。

「案内して貰って皆も理解していると思うが、ここはおんぼろの哨戒基地を改造した海軍基地だ。上層部が気を利かせて入渠用設備を4つ用意したが……建造ドックは1個しか無い。おまけに各設備は我々で整備しなければならないし司令部からの任務を伝える担当官や食堂の飯炊きもいない、ついでに言うとPえ……酒保も無い!つまり俺たちで全てどうにかしなければならないという事だ」

 提督の言葉で、すべてを理解した艦娘たちはそれぞれの反応を浮かべた。

「えー……それって、私たちでこの基地を運用しろって事?」

 隼鷹が半ば信じられない話を確かめるように呟く。

「そうなる」

 提督の言葉に、叢雲を除く全員が言葉を失っていた。

 とんでもない所に赴任した、それが現実となった顔をしている。

「別に悲観するな。補充は後から幾らでも寄越せる、これから俺たちで回していけばこの基地も大きい規模になっていく、後から来た連中に先輩面していられる権利でも貰ったと思え、しゃんとしろ」

 提督の明るい言葉に、艦娘たちも多少希望が持ててきたのか、ホッとした表情を浮かべた。

「それで……本題に入るがこの中で料理が得意なヤツはいるか?いなければ暫くはレーションで暮らす事になるぞ」

 しかし、結局事態は深刻だった。

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