艦隊これくしょん Mercenary Fleet   作:Colonel.大佐

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#5 「初出撃」

「艦娘諸君、艦隊結成初の実戦だ」

 翌日、ブリーフィングルームに集まった艦娘たちを前に提督は開口一番そう告げた。

 提督は手持ちの資料から、海図を取り出し、ホワイトボードにマグネットで貼り付ける。

「今回の任務は海域警護任務だ、作戦開始時間は14:00。参加戦力は全員だが、艦隊を2つに分ける。まず先行し、海域を警備し安全の確保にあたる艦が2隻、それから、海域に急行中の船舶を護衛する4隻の2つだ。船団ではなく1隻のみだが、重要船舶だ。沈めさせるな」

 提督は説明を続けながら、海図を指し示す。

「目的の海域はここだ。幸いにも危険度は低く制海権をほぼ握ったも同然の海域だが、未だに群れからはぐれた駆逐イ級の小規模な艦隊や稀に軽巡洋艦を旗艦とする敵水雷艦隊が紛れる事もある。発見次第これに攻撃を加え、撃沈しろ。作戦が順調に行けば、18:00で別部隊が海域警護を引き継ぐ。まあ、全員が夕飯時には帰ってこれるだろう、そん時はビールを冷やして待っていてやる。以上だ、質問は?」

 提督の言葉に、一瞬だけ静寂が返る。

 質問を切り上げられる前に、弥生が控えめに手を上げた。

「提督……今回の編成は……?」

 その一言に、提督はふと思い出したように手元の資料を見返した。

「船舶護衛は霧島、最上、不知火、弥生で行う。過剰とも言える戦力だが、備えるに越した事は無いだろう。海域への先行警備は隼鷹と叢雲の2人だ」

 

 

 群青色の海面。雲ひとつ無い青空。

 そこには、海と空以外は何も無かった。かろうじて、艦娘がそこに2人立っているだけだった。

 大海原のど真ん中に立っている叢雲は、自分がなぜこんな所にいて、戦いに備えているのだろうかと自問自答した。まさに穏やかそのものの海であるし、敵の影など見当たらない。初めての実戦と聞いていた叢雲は、安心したような、それでいて拍子抜けしたような感覚を覚えていたが、それでもこの海の底から“何か”が現れそうな不安を感じていた。

「それにしても、こんな海域を警護する理由なんてあるのかしら……」

 叢雲は不思議がっていた。船団を護衛するわけでもなく、周囲の制海権を確保したも同然な海域をなぜ自分たちが守るのか、それが不思議でならなかった。

「ここらへんは浅瀬でね……肉眼でもハッキリ見えるんだよね……下見てみなよ」

 隼鷹は下を指差す。

「っ……?」

 叢雲は海面、自分たちが立っている下を見てぎょっとした。

 岩礁か何かと思っていたそれは、船だった。艦橋に付いたレーダー、特徴的なマスト、単装の主砲……船体が真っ二つにへし折れ、ぐったりと力尽きたように海底で横転したそれは、アメリカ海軍のイージス艦――アーレイバーグ級の残骸だ。何十年も昔に沈没したのではなく最近になって沈んだであろう残骸からは魚が出入りし、その残骸を周回するかのように、魚の群れが泳ぎまわっていた。

「会戦当初の海域だね。艦娘がいなかった頃、アメリカと日本の軍艦がここで深海棲艦とドンパチしてたのさ」

「知らなかったわ……」

 驚く叢雲だったが、隼鷹はさらに別の方向を指差す。

「あっちには航空母艦が沈んでる。ヘリ空母ってヤツかな。向こうには護衛艦が沈んでいて、その隣には……」

「つまり、軍艦の墓場ね」

「ま、そんな所だろうね」

 隼鷹は周囲を見回した。

「あともう少しで、サルベージ船が来る筈よ。私たちの仕事は引き上げ作業の護衛」

「……提督の言っていた資源獲得の仕事って」

 叢雲の言葉に、隼鷹は笑って答える。

「そう言う事。いやー、こんな調子で給料が入るなら、ここの部隊に来て良かったとか思うんだけどなー」

 隼鷹はあっけらかんとした様子で周囲を見渡しながら呟く。

 叢雲は、次第にこの軽空母の艦娘がどんな艦娘なのか解って来たような気がした。

「緊張感が無いわね」

「まあ、前の仕事は激務だったしね……あたしみたいな軽空母がガンガン使い潰されるような所だったし」

「穏やかな話じゃないわね……どんな艦隊よ」

 叢雲は隼鷹の話にギョッとするが、隼鷹は平然とした雰囲気だ。

「話題のブラック会社ならぬブラック鎮守府って所だったからね。艦娘は兵器以下として見なされてなかったし、駆逐艦のお守りを任されて南方や北方を行ったり来たりしてね……いっぱい沈んださ、あんたみたいな子が沢山ね。あれは地獄絵図だったよ……」

 ふと、隼鷹は自分の言葉が誤解を招くような物だったと気がつき、叢雲へ謝りの言葉を入れようとする。

「ああ、ごめんごめん、別に今のは――」

 言いかけた所で、隼鷹は思わず言葉に詰まった。

 叢雲は手持ちの艤装――槍をぎゅっと掴んだまま、ただ隼鷹の話をこれ以上聞くまいと言わんばかりに、顔を強張らせて立ち尽くしていた。

「もしかして、出撃初めて?」

「そ、そうよ……建造されて、基礎訓練を終えて、派遣されたばかりで……」

 張り詰めた緊張の糸が、叢雲の言葉を徐々に硬くさせていく。

 だが、隼鷹はふふっ、と笑うと叢雲の肩を優しく叩いた。

「安心しなって。あたしがいるからには大船に乗ったつもりでいなよ、艦載機もあるし、そっちには魚雷や主砲もある、相手が雑魚の駆逐艦程度なら十分戦えるって」

「そう、かしら……」

 叢雲は珍しく弱気になる。隼鷹はそんな叢雲を励まそうと、屈託のない笑顔を作ってみせる。

「ま、敵が来たってどうにかなるって。もう暫くすれば、護衛の別働隊も来る事だし」

 隼鷹の言うとおり、あと30分ほどで船を護衛しに別働隊がやってくる。戦艦の霧島、重巡洋艦の最上、駆逐艦の不知火と弥生、過剰とも言える護衛戦力だ。

 

「……」

 だが、次の瞬間には隼鷹の顔に険しい物が走った。

「どうしたの?」

「……何か悪い予感がする」

 隼鷹はそう言うと、急いで懐から巻き物のような物を取り出した。

 彼女の装備する、空母の要――飛行甲板をすばやく展開した隼鷹は、紙を取り出して、甲板へと置いた。

「航空隊、発進!」

 隼鷹が号令をかけた瞬間、紙のそれは甲板の上を滑りながらたちまち、飛行機の形となって飛んでいった。

 すぐさま空へと舞い上がった隼鷹の艦載機は、そのまま西の空へと向かっていく。やがて空に浮かぶ点となっていた艦載機は隼鷹の甲板へと舞い戻ってきた。

「こりゃマズいねえ」

 隼鷹は険しい表情を浮かべる。

「敵の駆逐艦が3隻、西から接近してくる」

 

 叢雲の背筋に嫌な感覚が走る。

 とうとう現れた敵。

 そして、海域にたった2人だけ取り残されている間の悪さ。緊張感がピークに達した叢雲は、すぐさま西の方角へ向けて手法の砲口を向けた。

「ああっ、まだ早いよ!その主砲じゃ射程圏外だってば」

 隼鷹は慌てて叢雲に指示を飛ばす。

「あたしの艦載機で数を減らしてみる、上手くいけば全部沈められるかも」

「もしダメだったら?」

「そん時はあんたの出番」

 ニヤッ、と隼鷹は笑うと、すぐさま艦載機を発艦させた。

 一気に舞い上がった数機の艦載機は、そのまま西の空へ向けて飛び立つ。

 叢雲は、そこでようやく水平線の向こうから白い航跡を残して迫り来る、3つの船影を見た。

 真っ黒な身体、鯨に獰猛な歯をつけた様なシルエット、そして両脇に艤装を施したそれ……駆逐イ級の姿だった。

 次第に距離を縮めていく中、隼鷹の艦載機はハエのように駆逐イ級へと群がった。

 次の瞬間、水柱と爆発が巻き起こる。派手に身体の破片を撒き散らしながら、一瞬にして3隻の駆逐イ級は木っ端微塵に粉砕された。

「凄い……」

 呆気にとられる叢雲だったが、隼鷹はまだ勝った気でいなかった。その爆発と水柱の向こうから、まだ動く船影を目撃していたからだ。

「生き残りが肉薄してきた……来るよ!トドメを刺しちゃって!」

「解ったわ!」

 叢雲は槍をぎゅっと握り締めながら、精神を集中させる。

 マニピューレーターと繋がった連装砲が、ゆっくりと照準を合わせる。駆逐イ級は、すでに爆撃と銃撃で身をすり減らし、傷付きながらもその足を止めず、全速で隼鷹と叢雲へ肉薄を決めようとする。

 徐々にシルエットが大きくさせて近づいてくるそれは、すでに砲は付いていなかった。だが、その魚雷発射管は健在であり、今まさに発射の態勢に入ろうとしている。

「沈みなさいっ!!」

 叢雲の連装砲が吼え狂う。

 発射された2発の砲弾のうち、1発が手前の水面に当たり水柱を上げる。

 そして、2発目が駆逐イ級へと命中した。

 爆発と共に、全速をかけて突っ込んできた駆逐イ級は四散した。

 頭部を失い、残った身体がそのまま水面下へと沈んでいく。決死の攻撃をかけた敵の、あっけない幕切れだった。

 砲撃の姿勢で固まっていた叢雲は、ようやく緊張感から開放された。気を抜いてしまったら、この海面にへたり込んでしまうと思ったが、隼鷹が叢雲の背中をばんばんと叩いた。

「やれば出来るじゃん!よくやったよ、叢雲!」

「あ、あたしが、倒した……!?」

 初めての撃破、初めての戦果。

 緊張感から開放された疲れが、どっと叢雲の身体から湧き出てきた。

 

 

 

「作戦完了、艦隊帰投しました!」

 基地の埠頭に、霧島の快活な声が響く。

 日も落ち、すっかり夜になったころ、艦隊は無事に基地へ帰投した。

 埠頭にはわざわざ提督が待っており、全員の帰還をその目でしっかりと見届けていた。

「任務ご苦労だった。十分に休め、飯も買って置いたぞ」

 提督の面倒見の良さに、一同はようやく提督との距離感を掴めたのか、リラックスした雰囲気になっている。

 そして、提督は足元に置いたクーラーボックスを手に取ると、蓋を開けて皆の前に差し出した。

「そして――約束のビールだ、飲めない奴向けにコーラも用意しておいたぞ」

「ヒャア!たまんねぇな提督!」

 隼鷹は目の色を変えて喜ぶと、早速1本のビール瓶を手に取った。もはや国内では貴重品となって、輸入物の外国産黒ビールだ。

「では、お言葉に甘えて」

 霧島もビールを1本手に取った。

「ボクはコーラでいいかな……」

「不知火はビ……コーラを貰います」

「貰います」

 後の最上と不知火と弥生の3人も後に続いてクーラーボックスから各々飲み物を取っていく。

「叢雲、お前は酒飲まないんだったな、ほれ」

「……こっちを貰うわ」

 叢雲は提督に少しの笑みを差し出すと、そのまま冷えたビール瓶を手に取った。

 提督も、そんな叢雲の顔を見て少しだけ顔を綻ばせた。

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