艦隊これくしょん Mercenary Fleet 作:Colonel.大佐
まだ若干の暗さを残した空と上り始めた朝日、合間に流れる白い雲、晴天。
波穏やかな群青の海の上は平時であるなら、平和な海と言えた。だが、今日いまこの海域は状態こそ穏やかなれど、地獄絵図が繰り広げられていた。
砲声、機銃の発射音、怒号、悲鳴。耳を劈くような戦場の喧騒が、その海上で行われている。
水柱、黒煙、爆炎が辺りに咲いては、すぐに海面下に呑まれて消えていった。
艦娘たちは、その海域の真ん中で戦いを続けていた。
駆逐艦、軽巡洋艦、軽空母で編成されたその艦隊は、円陣を組んで戦いを続けていた。
海域の四方には、無数の黒いシルエット――深海棲艦が彼女たちを取り囲んでいる。深海棲艦は。駆逐艦を筆頭に重巡洋艦、戦艦と言った艦種が軒を連ねている。そして、その数は明らかに艦娘たちの数を上回っていた。
目尻に涙を浮かべながら、絶望の表情で歯を食いしばり、暁型駆逐艦の艦娘が主砲を手当たり次第に乱射している。
「撤退は!撤退はまだですかっ!」
必死に叫びを浮かべながら応戦する彼女のすぐ隣に、飛翔音と共に戦艦の手法弾が着弾する。狙いは外れ大きな水柱を上げ、その煽りを受けて彼女がよろめいた。
「もう駄目よ!早く提督へ撤退の進言を!!」
長良型軽巡洋艦の艦娘が、円陣の中央に陣取る軽空母の少女へと急いで進言する。
携帯無線機のレシーバーを付けた軽空母の少女は「うっさい!さっきからやってる!」と苛立ちを隠さずに叫んだ。
「提督!もう無理や、これ以上の進撃は――」
通信を遮るように、一際大きな爆発音が彼女の後方で鳴り響いた。
戦艦の砲撃の直撃を受けた駆逐艦の艦娘が、破壊された艤装を派手に撒き散らす。服は破け、よろめいた彼女は、かろうじて海の上に立っているだけの状態となっていた。
大破状態に陥った彼女は、ようやく砲撃のショックから立ち直る。だが、もはや戦えるだけの能力はなく、その場に崩れ落ちそうになった。だが、次の瞬間に空気を裂くような飛翔音が彼女の耳に飛び込む。
それが、彼女が最後に聴いた音となった。
重巡洋艦の放った主砲弾が、艤装を失い艦娘から人間になりかけた彼女の身体を無残に引き裂いた。
直撃を受け、砲弾が上半身を抉り取り、血の霧と肉片を汚く撒き散らした。スカートの付いた腰と両足を残すだけとなった身体の残骸は、そのまま臓物の残りをぼたぼたと撒き散らしながら海中へと沈んでいった。
軽空母の艦娘はそれを呆気に取られながら目撃していた。たった今、戦友が亡くなったという光景を目の当たりにして、呆気に取られている。
「貸してッ!」
軽巡洋艦の艦娘が、彼女の耳から無線機のレシーバーを無理やり奪い取った。
すでにその艤装はぼろぼろで、大破も同然の状態となっている。満身創痍の状態になりながら、必死に提督との通信を試みる。
「空母艦載機全滅!こちらの損害は中破2、小破2、大破1、轟沈1!!大至急撤退を進言します!!」
すぐに返事が返る。
それを聴き、怒りと焦りが混じった最大限の大声で叫んだ。
「お願いです!!!艦隊を撤退させて下さい!!!」
次の瞬間、飛翔音と共に飛んできた流れ弾が、軽巡洋艦の艦娘に命中した。
ぐしゃ、とスイカが潰れるような破裂音が軽空母の艦娘の耳に入る。
それから、真っ赤な血が彼女の顔面にべっとりと張り付いた。
「嘘……」
どさり、と彼女の身体に重たい物がのしかかった。
先ほどまで、彼女の隣でレシーバー越しに大声を上げていた軽巡洋艦だったものが、彼女の身体にもたれかかっていた。
首から上……下あごを除いて、死体の顔は吹き飛ばされていた。もたれ掛かった死体は、彼女の肌や服、艤装をべっとりと血で染めながら、ずるずると海面に沈んでいった。
――嫌だ、こんな所で死にたくない。
彼女は、すでに戦う事を諦め海面に蹲る。
周りで応戦していた駆逐艦たちの主砲が、次第に散発的な発砲になっていく。弾薬が残り僅かになってきている。
砲撃が終わり、艤装も所々破損し、服も破けた残りの駆逐艦たちは、すでにもう戦える程の力を残していなかった。
――助けて。
深海棲艦の雷撃部隊が、肉薄を開始する。
魚雷発射管からの一斉発射が、もうすぐ艦隊を襲うだろう。
刺し違えようと、絶望感に身をすり減らしながらも尚、残った闘志を奮い立たせた駆逐艦たちも、雷撃の姿勢に入る。
だが、損傷を考えると発射できるのはせいぜい数本程度であり、どれだけの効果があるかも解らない。
――神様。
両陣営の魚雷の発射音が響く。数え切れない航跡を描きながら、魚雷が彼女たちへ群がるように迫った。