はるな『ですっ!!』
ひえい「♫も~い~くつ寝る~と~、」
砲雷長「……何処からつっこむべきかね?」
一尉「スルーの方向で」
息抜きなんだから書きたいものを書く。作者なりの生存報告と思ってください。
単縦陣。艦隊行動における陣形、その基本中の基本である。前に従って付いて行くだけでいい。まあ、実際には先頭艦の起こした波に後続艦は影響を受けるので、等間隔の単縦陣を保つのは難しいのだが……。
しかしそんなことは、この場においては関係ない。単縦陣は陸でも組まれる。
陸での「単縦陣」とは幹部自衛官が連れ添って飲みに行くことだ。
「新年明けて初めての上陸だ、皆盛大にやろう」
第一護衛隊群司令の掛け声で各々のグラスを掲げる幹部たち。最新鋭の護衛艦「はるな」は第一護衛隊群の直轄艦であり、司令が座乗しているのは当然である。こうして陸での単縦陣に司令がついてくるのもまた当然。
そして、彼に周りの幹部たちが気を遣うのも当然である。盛大にやろうと言われても、なかなか楽しむのは難しい。
まあ、適当なところで解散、その後幹部たちは三々五々となって飲み直すのだろう。司令だって鬼じゃない、すぐ切り上げてくれることだろう。
「それでは、祖国の明日へ!」
「カンパイ!」
「乾杯」
別の店に入ってグラスを振り上げるのは砲雷長。応じるのは「はるな」の幹部自衛官二人。司令に合わせる新年会が終われば、あとは自由に上陸を楽しむ。本当は僚艦の人間も交えてやれたなら良かったのだが、任務の都合上この街には「はるな」しか寄港していない。残念だ。
「いや、今年も一年、何もないといいねぇ」
「それに尽きる、うんうん」
ちなみにメンバーは砲雷長と同期の船務長、そして一尉。ここ最近の会話がはるにゃに関することばっかりなので、もうはるにゃ同好会とでも名乗ったらいかがだろうか。
とはいえ、上下関係が最も重視されるのが軍隊である。一尉は歳が近いとは言え上の階級と席を共にしているわけで、素直に酒を楽しむことはできずにいた。
「しかし、自分まで呼んでいただかなくとも…」
一尉だってこの国の民族なわけで、誘われたら断れない性格だ。だから彼らに誘われるまま付いてきたわけだが、まあ居心地はよくない。この国の民族はそんなに酒に強くないわけで、一尉だって決して強いほうじゃないのだ。酔ってうっかり変なことを言ってしまったら大変だ。
「まぁ一尉、そんなに畏まらないでくれ、今日は陸でないと話せないことがあってな」
「話せないこと……ですか?」
陸でしか話せないこととはなんだろうか。何だかんだで「はるな」は広い。プライベートな話は任務中でない限り出来ると思うのだが。
「あぁ、それは……」
「砲雷長! お酒お注ぎしますっ!」
唐突すぎる提案。誰だ、こんな場違いなことを言う奴は。
「いや、まだ飲み始めたばっかりなんだけど……ってええ?」
「? どうしt……ええっ?」
その声に反応した砲雷長、船務長まで素っ頓狂な声を上げる。
それも当然だ。一体どこから持ち出したのか分からない一升瓶を抱えているのは、はるにゃと同じ巫女衣装を意識したのかしていないのかよく分からない装束の女性。ところが違うのだ。
そう、違うのはそのサイズ、はるにゃの身長は100ほどであるのだが、目の前の女性の身長は一尉たちとほぼ同じかそれより低いぐらい。こちらが座り、向こうが立っていれば当然こちらが見下ろされる形となり、薄くオレンジに輝く照明が白い服に反射する。
そして狙っているのであろうむき出しとなった肩、ハリとツヤを兼ね揃えた肌は、短く揃えられた茶髪と相まって程よい濃淡となり、やや碧の混じる瞳と紅潮した頬が白い装束に映える。
なんというか、こう、あれだ。目のやり場に困るのである。
「何やってるんだ……ひえい」
「ひえっ、なんで分かったんですか!?」
驚きの声を上げるひえい。ツッコミを入れてはならない。
「いや、分かるよそりゃ」
いくら艶があったとしても、大人になっているにしても、衣装がはるにゃのそれと同じなのである。護衛艦「はるな」の化身であるはるにゃの衣装は当然市販されているはずがなく、同じ格好をするのは同型艦ぐらい。となれば彼女がはるな型ヘリ搭載護衛艦の二番艦である「ひえい」の艦娘であることはこの国に軍隊がいないことよりも明らかというもの。
しかし当のひえいは全く気づかれないと思っていたようで、がっくりと肩を落とす。
「そんなぁ~戦艦時代の姿で現れれば気づかれないと思ったのにぃ……実際司令たちは気付かなかったし」
……それは、気付かなかったのではなく、気付かない『フリ』をしていたのでは?
普段のひえい――――艤装作業は退屈だといってしょっちゅう「はるな」に遊びに来る――――ははるにゃと同じ程の身長だし、ゲンキな女の子といった感じだ。しかし目の前にいるのは快活な少女、真っ直ぐで穢れのない好意が眩しいというものである。
総監によれば艦娘の容姿は見る側と見られる側双方の心待ちで変わるという。確かに酒を扱う場所に小学校にも入っていなさそうな幼女が居るのはおかしいし、ひえいの判断は正しい。そのついでにちょっと驚かしてやろうと言うところもまたひえいらしい。
そんなひえいのイタズラ心を利用し、司令たちはひえいといい感じの雰囲気を過ごしていたのだろう。
司令……けしかr、いや羨ましい。うん羨ましい。
「ひえいの成長した姿がこれなのか……」
とグラスを置いて砲雷長。成長というか、先祖(?)返りであると思うが、まあそんなことはどうでもいい。
「どうです? カッコイイでしょ?」
いつも思うが、ひえいは独特な感性の持ち主だ。真っ直ぐで眩しい。さっきも似たことを言った気がするが、大事なことだ。二度ぐらい言ってもいいだろう。
「はるにゃも成長したらこんな風になるのかね……」
とおつまみの柿ピーを落としたことにも気づかず船務長。一尉はこの前見た榛名の姿を思い出す。とても、儚さを備えた姿だった。それだけはよく憶えている。
「んー、でもはるなお姉様は昔の姿にはなりたがらないと思いますよ? なんでかは分かりませんけど」
首を傾げつつひえいはいう。戦艦「比叡」は一番初めに沈んだ戦艦だ。終盤まで生き残った「榛名」とはまた、感じ方が違うのだろう。だからこうやって戦艦時代の姿になれるのかもしれない。
そんなことを一尉がぼんやり考えていると、砲雷長がグラスを傾けながらひえいに聞いた。
「そういやさ、戦艦比叡にとっての榛名は三番艦……つまり妹だよね? なんでまたお姉様なんて呼ぶの?」
あ、それ聞いちゃうの? 一尉は背に冷や汗が流れるのを感じた。この隊は表向きには先祖――――つまり帝国海軍――――に敬意を払わない。過去と現在は隔絶されたものであり、それを政府も民衆も望んでいるからだ。
我々にとっても過去は『形式上』タブーであり、はるなにとってもそうだ。
それは現在に限った話ではないはずで……榛名がそうであったように、比叡だって少なくない爆弾を抱えているはず。
「んぅー? お姉様をリスペクトしちゃいけないんですか?」
しかし返ってきたのは、やけに抜けたひえいの疑問形だった。
「いやいや、そんなことは言ってないけど」
砲雷長がそう言えば、ひえいはグラスをぐいっと傾けて――――いつの間に自分の分を用意していたのだろう?――――から言い放った。
「ひえいにとっては、どんな時代でもお姉様はお姉様です。ここは譲れません!」
語気を強めてそう言うひえい、彼女も既に酔ってるのだろうか。ひえいは先程まで司令たちの所にいた、彼らは当然酒を勧めたことだろう。彼女の艶やかな表情は酒の産物か……よいものだ。
はるにゃにもお酒を……おっと、危ない思考が始まりかけた一尉は慌てて首を振る。自分は自分自身の仕事場であり家でもあるはるにゃさんになんてことを考えているのだろうか。ともかくこのままじゃいけない。話の方向を変えねば。
「そ、そう言えば砲雷長、さっきの話……」
「ん? ああ、そうだった。陸でないと話せないことがあるんだよ。ひえいも来ちゃったけど、彼女にも聞いてもらおう」
「何の話なんですか?」
それなんだがな、とひと呼吸置く砲雷長。
「2月1日は、護衛艦「はるな」の進水日だ」
「「「あー」」」
そう言えば、そうでしたね、忘れるところでした! と三者三様の反応を示す各員。いやひえい、仮にもお姉様なんだろうに・・・誕生日ぐらい覚えておけと言いたいが、こちらも言われるまではすっかり忘れていた。文句は言えないか。
「しかし、祝いますかね? 我々はやりませんよ」
誕生日といえばお祝いだ。もちろん砲雷長は祝おうと言っているのだろうが……そういった発想は全くなかった。
「そりゃ野郎同士で祝いあったって嬉しくないだろうが」
「む、それはそうですね……」
男所帯の組織だ。それに考えてもみよう。「はるな」の乗員は400弱。いちいち祝ってたら毎日が誕生日である。
「去年の誕生日ははるにゃちゃん一人だっただろうし、折角だからサプライズをしてやりたいと思ってな、どうだろうか」
なるほど、だから陸でしか話せないことだったのだ。護衛艦「はるな」の艦娘であるはるにゃは当然艦の全てを把握しているわけで、この話を「はるな」艦内ですればそれはサプライズではなくなってしまう……というわけだ。
とはいえ
船務長「いいね、やろうやろう」
砲雷長「よし、決まりだな……はるにゃちゃんには内緒だぞ?」
一尉「でもどうしたら喜びますかね」
ひえい「私、お姉さまの好みを聞いてきます!」
三人「話聞いてた?!」
続く?
もし書き上がったら2月1日に予約投稿しときます。