またいつかお会いしましょう!
食事は、大事だ。
栄養摂取をしなければ人は暮らせない。食事をすれば栄養が摂取できるし、体内時計を調節することもできる。この隊では毎週決まった曜日にカレーを食べることで、曜日という概念の存在しない艦隊勤務に月月火水木金金という曜日の概念を与える。土日はない。勘違いしないで欲しいがこれは艦全体の休日がないという意味であって、皆働き通しのブラック艦艇というわけではない……ちょっと話がそれた。
ともかく、そういう風に理論的にも食事は大事なのだ。
しかし食事のすごいところはここからだ。食事とは人間3大欲求の一つである『食欲』を満たすことである。それすなわち、食事は最大の娯楽なのだ。
「……そう言われても、なぁ」
そんな楽しい食事時、この国の最新鋭の護衛艦「はるな」の一角では、幹部自衛官たちが食事お預け状態となっていた。
「ですが、我々の食事は国民の血税によって賄われているのです、それを浪費するわけにはいきません!」
「しかしなぁ一尉……」
理由は簡単、この一尉が艦長に喰ってかかっているからだ。
「しかしもヘチマもありません」
実際、ヘチマは「はるな」に積まれていない。いや違うか。
この一尉――――一尉とはこの国特有の階級で、まあ他国での大尉と考えてもらえれば問題ない――――はいろいろ規則に五月蝿い奴で、直ぐに何でもかんでも報告書にしたがるのだ。艦隊勤務者の性で身内には一応甘い面も見せるのだが……まあいきなり「はるなにも食事を食べてもらおう」なんて言い出したらそりゃこういう反応になるだろう。なんせはるなはまだまだ未知の存在だ。
そして、一尉という階級ゆえに彼の意見を一蹴するわけにもいかない。
本当は横の司令が一言言ってくれればそれで済むのだが、司令は一尉の矛先が艦長に向いていることから、我関せず、といった風である。
「艦長……私たちの食事は計画に則って搭載されています。許可もなしに消費量を増やすわけにはいきません」
「しかし一尉。計画に則って予備分も搭載してある。はるなちゃんは小さいし、そこまでたくさんは食べないと思うが?」
砲雷長が口を挟む、ちなみに砲雷長の方が一尉より階級は上だ。
「砲雷長……では砲雷長はどうやってその消費分を国民に説明なさるおつもりですか?」
「え、っと……それは……」
困ったことに、一尉の主張は正論なのだ。
少し時は遡る。はるなが突然現れ、大騒ぎになった護衛艦「はるな」の艦橋。
「……つまり、君はこの護衛艦「はるな」だということ、なのかな?」
砲雷長は戸惑った様子で言った。
「はい、はるな型のネームシップ、はるなです」
巫女服みたいな格好をした少女……はるなはそう頷く。
「なるほど、分からん」
「はい……はるな自身、戸惑いました」
いや、今のは砲雷長の独り言だぞ? そう思った艦橋要員が何人いたかは知らないが、構わずはるなは話し続ける。
「この前私が目覚めた時は、直ぐに偉い方が会いに来て下さったのですが・・・今回はそれがなくて」
「この前?」
この前と言うと……やはり帝国海軍時代の戦艦「榛名」のことだろうか。帝国海軍の隠し技術ということだろうか?
「はい……」
寂しそうな表情を浮かべるはるな。そりゃそうだ、本人が言うには今日まで艦橋にいても誰にも認識されていなかったわけなのだから。
「ということは、ずっと艦橋にいたのかな?」
「はい……ほとんどの時間は艦橋にいました」
「そっかぁ……本当にごめんね、いきなり驚かせちゃって」
砲雷長がそう言えば、ふるふると首を横に振るはるな。しかし直後に目をこしこしと擦るあたり、やっぱり寂しかったのだろうか?
「ほらお前ら、はるなに謝れ」
砲雷長は艦橋要員たちにそう指図。彼は「はるな」――――つまり乗組員を守り、そして乗組員が守らねばならない洋上の家――――に敵意を向けてしまったのだ。当然のことだろう。
「えっ、あ……はるなさん、すみませんでした」
そのような調子で皆がはるなに謝罪し、ひとまずは一件落着。
で、問題は、これからどうするか、である。
「……艦艇に魂が宿り、それが具現化したというのは自分も納得です、しかし納得と理解は違います。我々はこれを説明できないし、それは
一尉は珍しいタイプの人間だ。今のこの国は現在永遠とも言える好景気の真っ只中、子供一人分の食料なんて、国民が、いや補給担当の人間だって気付くはずがない。
それでも黒は黒、白は白。そうはっきりさせたいのだろう。彼は。
「確かに証明はできない。一尉の言い分は正しい」
そして、艦長の立場、というか幹部自衛官の立場として「まあいいじゃない」とは言えなかった。一応規律はある。上官自ら銀蝿(?)を見逃すわけにもいかないのだ。
「では艦長、どうするおつもりですか? 確かに昨日までは彼女のことなんて知りませんでしたけど、知ってしまった以上放っておくのも……」
別の幹部がそう言う、困ったことにそっちの意見も正しいのだ。
「……ん、ちょっと待て」
と、そこで砲雷長が待ったをかけた。
「どうしました?」
「そもそもはるなは食事を食べるのか?」
「……」
完全に忘れていた。その通りだ。はるなは少女の形をしていても護衛艦に宿る魂。食事は……重油に対潜ミサイル、五インチ砲弾などなのだろうか? まさかヘリも食べちゃったりして。
……あんまり想像はしたくないものである。
「……」
「……はるなちゃんって、何か食べるの?」
「はい、昨日は牛のステーキでしたね」
さっきも言ったとおり海の食事は数少ない娯楽、幹部ともなれば食事は豪華になる。国民にはナイショ(簡単に知れる事実だけど)だ。
「……もしかして、昨晩も食事の時ここにいたの?」
「はい」
「……」
昨晩も皆で食事を食べていた。はるなはそこにいた・・・何も食べずに。
「……」
なんだろう、なんかすごい寂しい絵が浮かんできた。ちょっと沈んだ部屋の空気を察したはるなが、笑顔を作って言う。
「で、でもはるなは護衛艦ですから、この艦が空っぽにならない限り大丈夫で……」
ぐうぅぅぅぅ……
「……だ、大丈夫です」
大丈夫では、なさそうだ。はるなはバツが悪そうにお腹を抑えながら、顔を赤らめた。
一尉が立ち上がった。
「分かりました、はるなさんは自分の食事を半分食べてください。それなら、何の問題もないですよね?」
一尉はどうしても説明できない食料の浪費が許せないようで、遂に自分の身を切り始めた。食事を減らすなんてとんでもない。艦長が止めようとしたその時。
「いい加減にしないか、一尉」
鶴の一声が飛んだ。
「「司令……!」」
先ほどまで沈黙を保っていた第一護衛隊群司令、その人である。
「一尉、食事は皆で楽しく取るものだ。そこでは理屈よりも感情が優先される……私は君のワガママで食事の場をつまらなくさせられるぐらいなら、無理を通してでも食事の量を増やす」
「……」
場は完全に制圧された。司令はひとつ、息を吐く。
「ひとまず、私が二人分食べたことにしておこう。それなら誰も文句は言うまい……待たせて済まないな、配膳を再開してくれ」
司令はそのまま配膳を行う士官室係に命じた。
「さて、遅くなってしまったが、食事にしよう」
「ところで、はるなの呼び方どうします?」
「呼び方?」
「あぁ、確かにごちゃごちゃになりますもんね」
「じゃあ『はるにゃちゃん』にしましょうか」
「採用」
「はるny……はるな抜きで決めないで下さい!」
「でもはるにゃちゃん、今また『はるにゃ』って言いかけたよね?」
艦艇の食事を担当するのは主計科である。士官室係の海士は食事後の食器を片付けるついでに、主計科へ今回の経緯を話していた。
「そうか、そりゃあうまく運んだな」
「ええ、最後は司令がいいところ持ってちゃいましたけどね」
それを聞いて、主計科はがははと笑う。
「さすがうちの司令だ、仕掛けるタイミングが上手い」
すると、食器の片付けをしていた別の主計科が顔を出した。
「でも良かったですね、これで
その通りだと応じ、笑い合う主計科の二人。
「?」
士官室係はその笑い声に取り残されていた。
海士から司令まで、艦乗組員全ての胃袋を支配する主計科とは恐ろしいものである。
はるな「一尉……先程ははるなのために食事を分けてくれると言って下さって……はるな、感激です!」
一尉「へ? いや、まぁ……国民の規範として誰であろうと困ってる者を見捨てるわけにはいきませんよ」
砲雷長(よく言うよ)
司令(はるな……隣に座って欲しかったなぁ……艦艇なら艦長の次に偉いはずだし隣は無理でももっと近くに座るよう次は言おう)