これが人気コンテンツの力・・・。
訓練風景は正しいことが分からないので(非公開ですしね)もし不自然なところがあったら教えてくださるとありがたいです。
この国最新鋭の護衛艦「はるな」。第一護衛隊群の直轄艦を務めるこの艦は言うなればかつての聯合艦隊旗艦である。故に仕事も多く、あちこちの基地や部隊を走り回っている。
そもそもこのヘリを三機搭載できる優秀な格納庫を持つ艦艇が5000t級で他に存在しないのだ。他国に対しての存在感も大きい。「はるな」はこの国の対潜・シーレーン防衛偏重戦略の象徴だ。
建材建造中の45DDHが進水・就役すればこのはるな型ヘリ搭載護衛艦も二隻となるのだが……それまではこの「はるな」のみがこの隊の顔である。
『教練対空戦闘! 教練対空戦闘!』
だからこそ、練度を極限まで高め、各艦艇の模範となる必要がある。
カーン、カーン、カーン……緊急事態を知らせる鐘が鳴り響く。訓練は実戦のように。居住区にいる者も、他の所にいる者も、とにかく今の作業を中止して走る。
「教練対空戦闘用意! 配置急げ!」
「もたもたするな!」
ヘルメットと救命胴衣を被り、各々の持ち場へと艦内を駆ける乗組員。現在の戦争は航空機なしには成立せず、故に航空母艦を持たないこの国の海上部隊にとって航空攻撃は何よりもの脅威である。
いかに航空攻撃に俊敏に、そして確実に対応出来るか。それが護衛艦、護衛隊、いやこの国の将来を護る。
「第四分隊、総員配置よし!」
連絡を担当する者が電話に向かって叫ぶ。その声は0と1に分解されて艦内の回線を駆け巡り、そして艦橋の受話器にて再構成。報告が次々と艦橋に飛び込み、そして……。
「……第二分隊配置よし」
艦橋の一人がそう言いながら受話器を置く。これで最後である。
「第二分隊配置よし……艦長、総員配置完了しました」
「時間は」
と艦長。副長は腕時計を見やり、ちょっと不味そうな顔をした。
「X分Y秒です」
「真昼に鳴らしてこれか」
第一護衛隊群司令が顔を歪める。「はるな」はこの隊最大の護衛艦であるが、それでも基準排水量は5000t、乗員は400以下だ。もっと早く出来るだろう。
「まあいい……艦長、始めろ」
「はっ」
状況を達する。赤軍航空機四、領海に侵入。
訓練シナリオは青軍と赤軍(これ誰も言わないけど絶対ソビエト)が戦争状態にあり、この国は青軍を支援しているという立場。支援したせいで赤軍から逆恨みを買い、攻撃されてしまったというものだ。自衛のためだから戦闘してもおk。
……そこ、空は何してるんだとか太平洋側から敵機が来るかとか言わない。
「短SAM用意!」
「はるな」の対空兵装は短SAM、二基の127mm速射単装砲、そして高性能20mm機銃。充実した対空兵装である。
「短SAM発射時機近づく」
「一番から四番、発射!」
「続いて五番から八番、発射用意」
「一機撃墜!」
こんな調子で進んでゆく教練。お高い短SAMを飛ばすことはないので、敵機が接近し……言っちゃ悪いが敵誘導弾が命中してからが教練の本番だ。もちろん、どこにいつ被弾するかも決まっている。それは各部署の長ぐらいしか知らないが。
ふと、艦長は自分の脇を見た。必要な機器が詰め込まれている艦橋内は手狭だが、身長100ほどの少女が立つスペースぐらいはある。既に艦のマスコットとして認定されてしまったはるにゃは今日も艦橋で皆の働きを見守っている。
いや、それだけならなんの問題もないのだ。いつものことだし、彼女と交流する機会は別に山ほどある。こういった教練中に話しかける必要はない。
だが……。
「(ダメだ……気になる)」
はるにゃを認識してから初めての教練。はるにゃは昨日よりもそわそわしており、訓練の推移を聞く猫耳も楽しげだ。それ自体は微笑ましいことだと艦長も思う。しかし、しかしだ。
「(彼女の持っている『アレ』はなんだ?)」
その小さな両腕に抱かれているのは何枚ものステッカー。紙と糊やハサミ、あとマーカーペンがあれば簡単に作れそうなもので、彼女の小さな胸からはみ出しそうなぐらいの大きさ。
しかし問題はその内容。
『小破』
『中破』
『大破』
つまり……どういうことだろうか。
いや、何が書いてあるのかは分かる。あれはどれも損傷具合を示す言葉だ。周りに気付かれないように観察すれば、はるにゃはそれらのステッカーをトランプの札のように一生懸命シャッフルしている。他にも『大火災』やら『浸水』やら、とにかく艦の被害状況を示す言葉が書かれているステッカーたち。
なんとなく使い道は分かった。はるにゃは可愛くてもこの護衛艦「はるな」の化身である。だが……なんというか突っ込まずにはいられない。
艦長は意識を前方に戻した。状況はどんどん推移してゆく。敵機さらに撃墜。二機離脱、誘導弾六発接近。右舷より突っ込んでくる。
艦長職は全体を見守ることが仕事であり、下さねばならない選択肢が現れた時に初めて仕事ができる職である。
故に自分の仕事に集中してはるにゃの事を忘れることもできないし、全体を見守っていればはるにゃも自然と視界に入ってくる。
マズイ。何度も言ってる通り自分は
「敵誘導弾本艦に命中! 応急班、応急配置につけ!」
それを聞いたはるにゃが、右の横腹に……ぺたりとステッカーを貼り付けた。
『小火災』『大浸水』
「(……)」
それからトドメに、はるにゃは『小破』と書かれたそれを髪飾りのように頭に乗っけた。左の猫耳が隠れる。
そしてはるにゃは、満足げに笑みを浮かべるのだった。
「(もうダメだ!)」
「はぁ……」
基本的に夕食後の仕事はそれぞれの自室で行われる。艦長にももちろん一人部屋が与えられている訳で、人事関係の報告書など他人に見られるのはよろしくない仕事をこの時間に片付ける。
正直、教練中にはるにゃの挙動を気にしていたのは、バレていると思う。
困ったことだ。艦橋内には海士もいる。彼らの気晴らしにこのことを言われてみろ、口に戸は立てられず、たちまち変な噂が広まってしまう。
「あの……今よろしいでしょうか?」
はるにゃの声だ。
「ん? あぁ、構わないよ」
そう言いながら扉の方を振り返ろうとすると、既にそこにはるにゃが立っていた。扉も開けずに……ニンジャか。
「どうした?」
夕食の時は何時も通りだったはるにゃだが、今は様子が違う。両手は背中に隠され、猫耳も縮こまっていた。
「……艦長、ごめんなさい!」
「どうした、出し抜けに」
謝られるようなことをはるにゃがした覚えはないし、自分が何か悪いことをしたと彼女に思わせるような言動をした覚えもない。
するとはるにゃは、背中に隠していた手を前に……そこには教練の際の謎のステッカーたちが握られていた。
「ああ……それか」
「はるな……演習中にどうしたらいいか分からなくて、でも何とか皆さんのお役に立ちたくて……で、でも」
まあ、はるにゃのことを自分が気にしていたのははるにゃ自身も当然気づいているだろう。
「はるにゃちゃんが気にすることじゃない。職務中に関係ないことに気を取られた自分の責任だ」
「ですが……」
言い淀むはるにゃの小さな頭に艦長は手を乗せた。一瞬びくっとしたはるにゃだったが、直ぐに撫でられていることに気づき、気持ちよさそうに目を細める。艦長はそのまま、黒髪と猫耳をまとめてわしゃわしゃ。
「はるにゃちゃんも教練対空戦闘をしてたんだろ? そのステッカーは自作かい?」
「はい……はるなにできることは被害状況を知らせることぐらいですので」
被害状況を知らせることだけ・・・か、はるにゃはこの艦で起きていることをきっと全て把握している。この艦が本当に被弾すれば彼女はそれをダイレクトに感じるのだろう。
「……ありがとうな」
「え?」
「はるにゃは役に立ちたくてやったんだろう? それは褒められる事であって間違っても悪いことじゃない」
「でもはるなは艦長さんにご迷惑を……」
「それは結果だ。はるなはそれをちゃんと謝りに来てくれた。それだけで十分だよ」
自分が馬鹿にされることは、自分がはるなに気を取られてしまったからだ。はるなは絶対に悪くない。
「はい……」
「それにしても……『小火災』と『大浸水』は随分的確だったな。どうして分かったんだ?」
艦長はまだしょんぼりしているはるにゃが元気を取り戻してくれるように聞いてみる。
「はい……教練の予定表を見ました」
なるほど、教練の予定は一部しか知らない情報だが、はるにゃならば全てお見通しということだ。
「なるほどな……でもそれじゃあカンニングになってしまうから、今度は見守っていてくれるだけでいいよ」
損傷箇所の確認作業などは現場の仕事だ。仮にどこが損傷すると決まっていても、それを確認させ、それをしかるべき場所に報告させるという一連の流れが大事なのだ。
するとはるにゃは、どういう訳か目を丸めた。
「! ……見ていても、よろしいのですか?」
あぁなるほど、自分が今回ので怒って、艦橋出入り禁止を喰らうのだと考えてでもいたのか。
それなら彼女の態度にも納得がいく。
「いいに決まってる……はるにゃちゃんが見てくれれば、皆もっと頑張れるよ」
そう言えばぱぁっと晴れるはるにゃ。
「はい! はるにゃ、もっと頑張りますね!」
……もう
そう言えば、結局艦長がはるにゃに気を取られていたという事実は噂にすらならなかった。
単に皆が気づいていないだけかもしれないが、艦長自身は「はるにゃが口を利いてくれた」のだろうと考えている。
~対空戦闘と聞いて~
一尉「たかが二門の砲で何が出来る!」
はるな「主砲、CIC指示の目標、うちぃかた始め!」
艦長「年代的に連載すら始まってないんだけどなぁ……」