ちょっと長めのお話です。続きます。
この話から続く何話かは連載としてやるなら必ず書くつもりであった話です。はるにゃ成分が薄くなって少しシリアスな雰囲気が漂います……ですが私は書きます。お付き合いいただけると幸いです。
ヘリ搭載護衛艦「はるな」はこの国が誇る最新鋭の護衛艦だ。
とはいえ、最新鋭の装備はそれだけでは戦えない。いくら自動追尾の誘導弾を備えていても、それを活かすには優秀な乗員が必要だ。
『教練対空戦闘、教練対空戦闘』
カーン、カーン、カーン……
「三曹、アラームなりました!」
「んぅ……まじか!」
「急ぎましょう!」
もちろん乗員たちはその為に昼夜問わず訓練を続ける。この海上部隊の顔である第一護衛隊群直轄艦ともなれば要求される練度に上限など存在せず、今日も乗組員の眠りを妨げる抜き打ち教練が始まる。
「……総員配置完了です」
「時間は?」
「K分L秒です」
「ん」
副長の報告に満足げに頷く艦長。ここ最近の集中訓練のおかげだ。
練度は十分に上がってきている。
次に必要なのは、十分な補給と休息だ。
「あ~やっと明日帰れるのかぁ」
「ほんとほんと、待ちわびたよ」
海士たちが何かの荷物を運びながらそんな会話をする。護衛艦にだって家はある。各艦はそれぞれの母港を割り当てられ、大型艦なら専用バースも用意されている。当然「はるな」はこの隊最大の護衛艦であるわけで、首都防衛を担う海軍の街が彼女の家だ。
久々に家に帰る「はるな」は何を思うのだろうか……乗員たちにとっての母港は特別だ、なんせ今回の入港は一時的に陸に上がれるただの上陸とは訳が違う。正真正銘、母港に帰ってゆっくり休める本当の休日である。陸で寝れる。
まあ、全員に外泊が認められるわけではないし、緊急出港に備えねばならないなど制約も多いが……それでも最高である。
そんな訳で海士から佐官までもれなく楽しみにしている母港への帰り道。いよいよ三浦半島が見えてきた。
「一尉さ~ん」
母港への帰還を心待ちにしている幹部の一人である一尉に声がかけられる、階級にさん付けするのはこの艦においてははるにゃだけだ。向こうからとてとて走ってくる。それに合わせて猫耳も揺れる。
「ああ、はるにゃさん。どうしたんですか?」
ちなみに、はるにゃのことをさん付けで呼ぶのは一尉だけである。
「はい、艦長さんが一尉さんを呼んできてくれって」
「随分人使いが……いや艦使いか? ……ともかく荒い艦長だな、はるにゃさんに仕事を押し付けるなんて」
一尉はそう言いながら手元の資料を一纏めにする。伝達の手段はともかく、艦長に呼ばれたら直ちに出頭しなくてはならない。
「でもはるなは楽しいです!」
そう言うはるにゃは今にも飛び跳ねんばかりだ。役に立てて嬉しいのだろう。きっと。
「……まあいいや、艦長室に行ってきます」
「はい、はるなもご一緒します!」
「総監から便りが届いた」
「そうかん……総監?!」
総監と言えば地方総監である。この国を防衛するためにいくつかに分けられている海域、そこにそれぞれに配置されている護衛艦隊や地上の航空集団を指揮する責任者が地方総監。任命には内閣からの承認も必要な超重役。
「ああ、その地方総監からの便りだ」
艦長はそう言いながら恐らく通信内容が記載されているのであろう折りたたまれた紙を広げようとする。ここから先はきっと軍機に関わる話に違いない。
ここまで一尉について来てしまったはるにゃはそおっと部屋を出ようとする。
……まあ、ここが「はるな」艦内である以上、はるにゃに隠し事は出来ないのであるが、自分のことを気にせず話をして欲しいという彼女なりの配慮だろう。
しかし艦長はそんなはるにゃに待ったをかける。
「はるにゃちゃんにも聞いていて欲しいことなんだ」
「え……はるなに、ですか?」
「ああそうだ、だから彼をはるにゃちゃんに呼んできてもらった」
なるほど、人使いが荒いのではなくそういう事情があったのか。首を傾げるはるにゃを眺めつつ一尉は納得……しかし、一体何の話があるというのだろう。
艦長は紙を開いた。形式的な呼出状。それ自体は何の変哲もなく、呼び出しの理由も相変わらず曖昧だ。ちなみに一尉の名前は載っていなかったので、艦長の判断で自分が選ばれたのだろう……。
しかし普通なのはそこまでだった。最後に付け加えられた一句で呼出状の持つ意味が大きく変わる。
【冬空を塞いで高し榛名山】
かの正岡子規にも師事していた村上鬼城の句である。もちろん何の脈絡もない登場だが……だからこそ意味があるというもの。
「一言で言えば呼出状だ……」
それも、はるにゃへの。艦長はそう言い切った。
「?!」
驚くのは当然だ。つい最近まで一尉たち「はるな」乗員だってはるにゃの存在自体に気づいていなかったのだ。どうして突然。
「ほら、はるにゃが現れた、いや我々がはるにゃを認知した時に一度はるにゃのことを不審者扱いしただろ?」
「そうでしたね……そう言えば」
「その時には当然地上の方にも通報しているわけで、上にも何があったのか説明を求められたのだよ……落雷事故の直後だったこともあってか、かなり詳細な説明を求められた」
はるにゃのことをそのまま書いてしまっては私が病院送りになってしまうので、適当に書いて送ったのだが……と口ごもる艦長。
「なるほど……それでも声がかかった、と」
納得は出来る。上がはるにゃのことを知る機会はあったということだ。
しかし理解はできない。どうして通報と誤魔化された報告書だけではるにゃがいると確信できたのだろうか。
帝国海軍時代、はるにゃたち……つまり、艦艇の化身とも言うべき存在たちは、非公開の存在に管理され、何らかの目的を目指して運用されていたという。
それが何かは分からないが、今回のそれはつまりそういう事なのではないだろうか?
はるにゃを引き渡せ。とでも言われるのだろうか。
「もちろん私が無能なフリをしてこの句を握りつぶすことは可能だ……」
そうすれば、気付かれることなくこれまで通りの護衛艦生活が続く。
「しかしそれは間違っている。それは一尉もわかるな」
一億の民が住むこの国、護るためにはチームワークが肝心だ。
だが……はるにゃはそれでいいのだろうか?
当初ははるにゃの存在を否定気味だった一尉も、そんなことを疑問に思ってしまうぐらいにははるにゃに感情移入してしまっていた。
まあしかし、選択肢などは存在しないのだ。今日まで楽しかったのだからそれでいいじゃないか。
「……当然です、我々は国を護るためにここにいるのですから」
一尉は隠そうと努めていたが、不本意の色が隠せるはずもない。
既にお別れムードが漂い始めた艦長室。当のはるにゃはぴょこんと猫耳を動かし、不安げに一尉と艦長を交互に見る。
それから、おずおずと切り出した。
「あの……地方総監さんのお名前……教えてもらってもいいですか?」
「構わないが……」
そういいつつ地方総監の名を出す艦長。それを聞いたはるにゃは、途端に肩の力を抜いた。
「その方なら、きっと大丈夫です」
「?」
ヘリ搭載護衛艦「はるな」、母港へ入港す。
司令「あのさ……私の出番がない間に随分暗雲立ち込めてるんだけど……大丈夫?」
はるな「はい、はるなは大丈夫です」
砲雷長「ちなみに次回は何するの? 総監とバトル?」
はるな「いえ……(次回投稿予約分を見つつ)おいしそうです……」
船務長「?」
総監は次々回登場予定。