護衛艦はるにゃ、です!【完結】   作:帝都造営

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重たいかもです。


そうかん、です!

「……」

 

 この国の首都、一億の国民を護るこの隊で最も重要視される地方隊。それらの運用を任されているのが彼、地方総監であった。

 

 彼は帝国海軍時代に戦艦に乗っていたそうで――――元帝国軍の軍人が入り込んでいると故・マッカーサー元帥が聞けば怒り心頭待ったなしだろうが――――周囲からの信望も厚い。

 

「……」

 

 彼は自分に割り当てられた部屋にて誰かを待っているようで、先程から座っては立ってを繰り返している。どうも落ち着かないようだ。彼が眺める調度品の中には現役艦艇の写真やまだ数は少ないが歴代総監の写真……個人の趣味だろうか、帝国海軍時代の艦船模型も見える。

 

 

「……遅いな」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「遅くなりました!」

 

 駆け込んでくる一尉。はるにゃもその後から大急ぎで走ってくる。

 

「何をやってたんだ」

 

 正直、頼んだパフェがはるにゃには大きすぎた。自分のしょうもない失態と急いで走ってきたせいで顔を真っ赤にしている一尉。

 

「も、申し訳ありません……」

 

「いいから呼吸を落ち着けろ、総監は既にお見えになってるぞ……そんな汗だらだらじゃマズイ」

 

 艦長がそう言えばハンカチを取り出して汗を拭う一尉、対してはるにゃは、汗の一つもかいていない。例え猫耳が生えてて可愛くても最新鋭の護衛艦。ここは譲れません……え、最新鋭DDH違い?

 

「はるな、ゆっくりしてしまいました……ごめんなさい、艦長さん」

 

 

「ともかく急ごう、総監が待っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総監、「はるな」艦長が来ました」

 

 地方総監ともなれば、それに与えられる執務室の扉は重い。それは物理的な問題ではないのだ。艦長と一尉は、総監の補佐を行う者が扉を叩き、来客が来たことを告げる様子を緊張の面持ちで見ていた。

 

「通せ」

 

 扉越しに返ってくる入室許可。扉が開かれ、限りあるものしか踏むことの許されない絨毯が目に入る。

 

 その奥にはどっしりと座った将官服の男。尉官のトップである一尉であるが所詮は尉官。海将になんて滅多にお目にかかれるものじゃない。

 

 扉が閉まり、総監の執務机の前に並ぶと同時に敬礼。形式通りに所属艦艇を添えて名乗り、次の言葉を待つ。ふとはるにゃがどういった挨拶をするのか気になったが、もちろん総監から意識を逸らすようなことはしない。してはならない。

 

 総監は立ち上がった。「楽にしてくれ」の一言がないために敬礼を崩さず、そのまま次の挙動に目を凝らす艦長たち。

 

 総監はそして、軍帽を取った。

 

「榛名さん、再びお会いできて光栄です」

 

 

 はるにゃへの、挨拶だった。脱帽し、頭を下げる総監。教科書通りの姿勢ではあったが、ただならぬ様子である。

 

 そしてはるにゃ――――いや、榛名、だろうか――――は戸惑いもせずに笑みを浮かべた。

 

「はい――――お久しぶりです、大尉」

 

 大尉。もちろんそんな階級はこの隊に存在しない。諸外国でいう大尉はこの国では一尉の事だ。恐らく総監の帝国海軍での最終階級なのだろう。

 彼はそのままの動かぬ表情で軍帽をかぶり直し、置き去りとなっていた自衛官二人の方へと向き直った。

 

「驚かして済まないな、まだ混乱しているかもしれないが、私の説明を聞けば多少は落ち着くはずだ」

 

 

 こっちへきたまえ。そう言いながら総監は応接セットの方へと歩き出した。

 

 ――――なるほど、そういうことか。一尉は心の中で呟いた。彼がはるにゃの言っていた「担当の人」ということなのだろう。

 

 

 

 

 

 

「まず……諸君は彼女(はるな)を認識している。そうだな?」

 

「はい」

 

 応接セット、総監の隣にはるな、そして対岸には艦長と一尉。戦場の匂いを知っているのであろう総監とはるなの組み合わせには、あまりに違和感があった。

 

「君たちが思っているとおり、彼女()は艦艇の化身であり、魂に等しい存在である」

 

 理論は分かっていないが、こうして認識できる人間がいるのだ。否定はできまい。そう続けられた総監の言葉。はるなは黙ったままであった。

 

「……」

 

「そして、どういった人間に見えるのか、何故認識できる者と出来ない者がいるのか、それは全くと言っていいほど解明されていない……かくいう私にも、認識できなかった艦艇はいる」

 

 君たちの艦で認識できる者は何人ほど? 総監はそう問うた。

 

「乗員全員かと思います」

 

「……ほお、こりゃ驚いたな……榛名さん、それは本当ですか」

 

「はい、皆さん良くしてくれています」

 

「そうですか……それは良かった」

 

 総監の表情が初めて動いた。少し落ち着いたような、僅かに陰りがあるような、そんな表情が見える。

 しかしそれも総監がこちらへ向き直る時には消え去ってしまう。

 

「さて……ここからが本題だ、艦の化身――――かつての我々は、それを便宜的に艦娘と呼んでいたが――――彼女らには、いくつかの特徴がある……これを見てくれ」

 

 そう言いながら総監はポケットより写真を取り出した。埠頭に立つ帝国海軍軍人。中央にポツリと写っている。

 

「私の写真だ、普通なら(・・・・)私一人の写真だ」

 

「……」

 

 艦長も一尉も、黙ったままだ。

 

「……誰が(・・)見える?」

 

 艦長が答えた。

 

「はるny……榛名さんが総監の左隣に」

 

 危ないところだった艦長。はるにゃはあくまで艦内での愛称、総監が「榛名さん」と呼んでいるのに「はるにゃ」なんて呼び方をしたら機嫌を損ねるかも知れない。

 ところが――――はるなの方がむしろ機嫌を損ねたようだった。何故だろうか。

 

 一尉ははるなの事が心配になったが、もう一つ気になることがあった。写真のことで、だ。

 

 総監の視線が一尉の方へ向けられる。

 

「……君は?」

 

 一尉は一瞬口に出すことをためらった。しかし、そういうことなのだと、理解はできないが納得はしていた。

 

「5名は、見えます……」

 

 総監の隣には榛名、そして反対側に榛名と同じ装束の艦娘。その横に連なる形で数名の艦娘が立っていた。艦長には、見えないらしい。

 

「えっ?」

 

 艦長が信じられないといった顔で一尉を見る。総監はそれに構わず続ける。

 

「実際には、一尉が言うよりも多い十名ほどが写っている……このように、艦娘が見える見えないには大きな個人差があるのだ、私にはそういう『適性』があった」

 

 

 だからこそ、風変わりな任務を賜ることになった。

 

 艦娘は艦の化身である。ということは、艦の状況がつぶさに彼女らに反映されるということ。これを利用しない手はない、として設立されたのが、書類に存在しない非公開組織であったというわけだ。現役士官の中から艦娘が「見える」士官を選び出し、艦娘の担当として付ける。水兵と違って士官ならしょっちゅう配置替えになるため、必要なとき都合よく必要な艦艇に配置できる。

 

「私が選び出され、艦娘の管理役として配属されたのは、戦争が始まる直前だった。榛名さんと知り合ったのはその頃だ」

 

 そう言いながら総監は榛名の方を見る……何かがおかしいと一尉は感じた。総監は確かにはるなの方を見ているのであるが、それにしてはやけに視線が高い。彼の視線ははるにゃの猫耳の上を真っ直ぐ通り過ぎているのだ。

 

「……どうしたのかね?」

 

 総監も一尉の視線に気付いたようで、何があったのかと聞いてくる。どう説明したものかと迷ったが、仕方なく正直にその違和感を話してみる。

 それを聞いた総監は僅かに意外そうな表情を浮かべた。

 

「艦娘の見え方には個人差があると思うが、……君たちにはどんな風に見えているんだい?」

 

「身長が100ぐらいの女の子です」

「あと猫耳」

 

「猫……耳?」

 

 流石の総監も榛名に説明を求めるような視線を送る。はるなはやや顔を赤らめつつも、自分がはるにゃと呼ばれている理由を説明した。

 

「……なるほど、変わったこともあったものだな」

 

 総監はそうひとりごちる。それから説明してくれた。艦娘は概念的な存在であり、人の捉え方によって外見すら違って見えるのだと。存在している以上増えたり減ったりはしないそうだが、大人びて見えたり幼く見えたりの違いはあるらしい。

 

 もちろん、見る側だけでなく見られる側の心持ちも関係している。

 

 ……つまり、はるなが「はるにゃ」に少しでも抵抗を覚えている以上。しっぽは生えないということだ。いや、いま議論すべきじゃないな。失礼。一尉は自分の思考の中で誰にでもなく謝った。

 

 

「話がそれたな……どこまで話したかな?」

 

「配属された……というところまでです」

 

「そうだったな、それで一尉、私は先程艦娘の特性を利用する、といったが、君は何のために利用されていたと思う?」

 

「……」

 

 一尉は答えなかった。一応出した答えに自信がなかったのもあるが、なぜ艦長でなく自分に聞いてきたのかが分からなかったからだ。

 

「何、簡単な話だ……艦の損傷はそのまま彼女らに反映される……つまり、大まかではあるが素早く被害状況が確認できるというわけだ……それを応急処置、今で言うダメージコントロールの為に利用することを考えた」

 

「……」

 

「実際、それは有効だった。彼女らの『怪我』は忠実に反映され、足の損傷具合から舵やスクリューの応急修理が可能かを判定できるほどには的確だった」

 

 

 もちろん、損傷具合が分かるだけで全てが解決するわけではない。例えば、ミッドウェーの時に加賀の頭がまるごと吹き飛んだ。これにより空母「加賀」の艦橋が被弾、要員が全滅した事実は分かったが、指揮系統が全滅したせいで「加賀」は艦としての能力を喪失しており、この情報を生かすことは出来なかった。

 

 

「……標的艦となった艦娘を徹底的に観察することでどういった『怪我』がどこの『損傷』を反映したものかは大分解明されていたが、所詮はその程度、ということだ」

 

 艦娘がその艦艇に干渉することはないし、ましてや戦局を変える力などない。

 

 

「それに加えて、艦娘自体が強がりを張っていたり、もしくは『怪我』に気付いていなかったりもする……戦艦「金剛」の沈没がいい例だな」

 

「魚雷一本で沈んだあれですか」

 

 そう返せば、ああ、よく知ってるなと総監は笑った。いやに暗い笑みだった。

 

「あの時は金剛も、「金剛」艦長も、担当の士官も、誰も沈むなんて思っていなかったよ」

 

 

 我々は結局、傷ついて倒れてゆく艦娘を観察することに終始した。結論から言えば、そういう風に艦娘を利用していたのだ。そして失敗した。

 

 総監はそう締めくくった。

 

 

 締めくくったかに、思われた。

 

 

「……違います」

 

 

 立ち上がったのは、はるにゃだった。身長100ほどの背丈の、可愛い「はるな」の艦娘。

 

 

 しかし一尉と艦長は、そこに儚くも力強く立つ……黒髪の女性の姿を幻視した。

 

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