仮面ライダー鎧武 The Genesis of Children   作:裏腹

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Episode.06 Malice

「えー本日は、お日柄もよく~……」

「そういうのいいよ」

「も、もう少し、短くってことでどうでしょう」

 

「……こほん。えー、我々チーム鎧武が離れて一年、皆それぞれの道を歩んできたわけでありましてー」

「だから長い」

「だあああああもうかんぱーーーーーい!!!!」

 

 茉優が半ばやけくそに言うと、グラス同士がかち合った。

 新生チーム鎧武の三人が囲むのは、DrupeRsのテーブル。

 その上にはフルーツ盛り合わせやパフェ、フルーツケーキなど、見ているだけで涎が垂れそうな甘味各種が華を咲かせる。

 まるで盆と正月が一緒に来たかのような風景であるが、あながち間違いではない。

 なぜならこの集まり、茉優の提案で開かれた、チーム鎧武再結成の祝賀会だからだ。

 

「ねーねー、この際だからさ、アルティメットシャイニングサバイブラスターキングアームドハイパー超クライマックスエンペラーコンプリートパフェにも挑戦しなーい?」

「む、無理だよ! 食いきれるかそんなの……」

「それなら、一回り小さいエクストリームプトティラコズミックインフィニティ極トライドロンムゲンパフェとか、どうです?」

「と、刀也まで……!」

 

 何やらごちゃごちゃと訳が分からない固有名詞だが、とりあえず両者は特大パフェの事を指している、とだけ。

 一つうん千円もする高額メニューだが、食べきれると無料という、いわゆる食事処のチャレンジメニュー的なものである。

「三人で食い切れる量じゃない」

 そう言って必死に首を振る光汰へ、笑声まじりに「冗談ですよ」と返す刀也。

 

「うーん、おいひい~~~~!」

「もう食べてるし! ……手の早い奴だなぁ、もう」

「俺らも、食べましょうか」

 

 二人もフォークとスプーンを持ち、食べ始めた。

 舌鼓を打つ。

 

「ん~~~~これはいくらでもいけゆ~~~~~」

「つーか口、クリームついてるぞ」

「もー口うるさい! おかんか!」

「なんだよその言い方! 人が言ってやってるのに!」

「余計なお世話だッ! 子供じゃない!」

「うっさいクソガキ!」

「同い年ですよーだ! あっかんべー!」

「未だにブラックコーヒー飲めないくせに」

「は、弱点! そーいうのずるい!」

 

 真昼間というのに、賑やかな店内。

 刀也はそれに懐かしさを覚えながら、甘みと共に郷愁を噛み締める。

 

 遠くからの阪東のサムズアップに、笑顔で答えながら。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 そんな束の間の休息から、一日が経過した。

 新生チーム鎧武としては初の活動となるが、彼らにすればそんなことを気にするだけの余裕を持って取り組んでいる訳でもなく。

 そもそも先日の不時見の一件の延長線上の事……そのような実感を持つ事も、できなくて当たり前か。

 

『ロックシードを狩りは本当に単なる道楽』

『セイリュウインベスなど知らない』

『仲間がいるわけでもない』

 

 不時見から引き出した様々な情報を再確認する三人。

 彼らが来ていたのは、取り壊されるのを待つだけの、廃れた工業地帯。

 並ぶ建物は軒並み骨組みを露出させ、壁という肉を望まぬ形でばらばら、ぼろぼろと溢していた。

 おのずと瓦礫と呼ばれるようになったそれは内外構わず散乱して、訪問者の満足な歩行を妨害する。

 ただただ荒れ果て汚れきった建築物らが生み出す殺風景を見て、「本当に人がいるのか」と疑いながらも、奥へと進む。

 

「ロックシード狩りの次は、ロックシード売りなんて……忙しすぎるよ」

「仕方ないだろ、無視もできない」

 

「たとえ、嘘であってもな」。

 冷たい風が吹くどこか底気味悪い空間の中で、光汰は言葉を響かせる。

 

『改造ロックシードは……改造ロックシードを専門に取り扱う、売人から買った』

 

 不時見が落とした、最重要情報。それは、改造ロックシードの入手経路だった。

 真偽は定かではないが、彼が言うには毎週日曜、日が傾き始めて沈むまでの時間、決まって人の立ち入らない廃墟の工業地――すなわちここで、改造ロックシードが売られているという。

 

「でも、もしこれが本当だったなら、たぶん大きな一歩になりますね」

「ああ……さらなる情報を引き出せることにも、期待してみる」

 

 話して、歩いてを続け、最深部に差し掛かろうとする頃か。

 

「まいどあり」

 

 いかにもな、商人の台詞が聞こえた。

 向ける視線。

 劣化しすぎてもはや役目すら果たせないであろう工場の軒の下で、そのやり取りは行われていた。

 

「コータ、あれ……!」

「……ああ」

 

 茉優が指さした先で、一人の男が別の男から金を受け取り、引き換えにロックシードを渡しているのが見える。

 その周りではインベスを召喚、買ったロックシードの試運転を行う若者たちの姿があった。

 早速と戦わせる者、ぐるりと見回す者、挙動を逐一慎重に確認する者と様々ではあるが、皆の手の中にあるのは一様に、何一つ変わりない、禁断の果実――。

 

「いいもの売ってるじゃないか」

 

 許すわけには、いくまい。

 人々の間を縫って、三人は許されざる商人の前に立った。

「はいはい、うちは現金払いしか」

 そこで詰まった言葉。今にもぎょ、と聞こえてきそうな吃驚の表情。

 多くは必要ない。どうやら向こうも知ってしまっていたようだった。

 最近の目立ちぶりを考えるに、無理もなかろう。

 

「早いねぇ、思ったより」

 

 ボロボロの一斗缶に腰を下ろす商人の男は、暫しの沈黙の果てに黒のキャスケットをくい、と上げる。

 見た感じは中肉中背、いってもせいぜい20代前半、光汰らともそう遠くはない年頃の青年だ。

 オレンジのベストはこじゃれていて、よく似合っている。

 

「タイミング的に……口を割ったのは不時見くん、かな?」

「そうなるな。今度は、こっちの質問に答えてもらう」

 

 知っているくせに。とでも言いたげに、目を逸らし鼻で笑う。

 そんな商人を見る目を細める刀也。

 

「『今すぐこのバカげた行為をやめろ』と言ったら、どうする?」

「……ハハハッ!」

 

 短く失笑した瞬間、商人はロックシードを取り出しこう言った。

 

「言って解るような奴ならさ、最初っからこんなことしないだろう?」

 

 刹那、あちらこちらから注がれていた視線が、一気に、確かに尖ったのがわかった。

 だからこそ、その腰にはとうに戦極ドライバーが巻かれていたわけで。

 

「本当にな……、言う通りだよ」

 

『オレンジ! ロック・オン!』

 

「やれ」

「変身!」

 

『バトル・スタート!』

 

 商人の背後に浮き上がったファスナーが大きく開かれると、そこから飛び出す灰色の禁忌。

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ!』

 

 それを迎え撃つは、橙の輝煌。

 オレンジの鎧が被さる際に生まれた衝撃波が、商人とそのインベスを遠ざける。

 

『花道・オン・ステージ!』

 

 ごろごろ転げる一斗缶が見守る中、装甲はまたも絢爛に咲き誇った。

 

「茉優、刀也!」

「わかってる!」

 

 鎧武の声掛けで、背中を守り合うように集まる茉優と刀也。

 光汰が変身して戦端を開くというこの行為が、何を意味するのか――彼女らとてわからないわけではない。

 四方八方より次々と鳴る解錠音の中で、刀也は数を数えた。

 

「ざっと一二、ですかね。一人あたり四体がノルマってとこですか」

「この売人してこの客かよ……どうも」

「だけど、相手はみんな買いたてほやほやの初級だから、やってやれないことはないはず!」

「かもしれない。でも無理はするなよ、ヤバくなったらすぐ逃げろ」

 

 こくん、と頷き、小さな約束事は交わされる。

 

「それじゃあ――」

 

 そうして、

 

 

「チーム鎧武、いくぞーーーーーーーーーーッ!!!!」

 

 

 彼らは駆け出した。各々の敵へと、一目散に。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 睥睨するインベスの群れを一閃し、猛々しく敵勢の中心に躍り出る光汰。

 一斉に猛攻を仕掛ける幾体ものインベスに怯むことなく、一体ずつ的確に処理し、単身でありながらも優位を確保する。

 

「くっそなんだこいつ、強え!」

「まるで歯が立たない……!」

「どけ!」

 

 薙ぎ払い、突き飛ばし、斬り上げ、目指すのは相手方の頭。足元で転がった初級インベスを蹴っ飛ばし、進む。

 駆け抜けた先で爪を伸ばした怪物に、大橙丸を振り下ろした。

 たちまちガギン、と鳴り響く、鉄臭い音。

 

「なんでこんな事をしたんだ……! そんなに金が大事かよ!?」

 

 大きく開いた頭、又、その内で大量に生え揃った鋭利な牙――初級インベスの凶暴態と競り合いながら、光汰は商人に問いかける。

 

「説教か? 沢山だよ!」

「っぐ!」

 

 しかして、彼が返すのは言葉ではなく、悪意の先端。

 押し弾かれた濃紺の腕。光汰が競り負けた。

 

「金なんてどうでもいい、だけどね!」

「っ!」

 

 そのままかけられた追い討ちだが、光汰とて黙って従うはずもない。身軽く回避し、その場を、状況をつなぐ。

 

「力に溺れる愚か者共を、まだ見ていたい気持ちはあるのでねぇ!!」

「何を……!?」

 

 立ち回る足を止めると、その力比べは今一度発生する。今度は風が生まれた。

 

「正しさすら忘れて禁断の力に手を染め、ただただ己の強さを証明するためだけに無意味な破壊を繰り返す……、そんな滑稽極まる道化共を見て嗤っていたいと言ってるんだよ!」

「そんな、そんなくだらないことのために……!」

 

 震える手。怒りか。

 荒ぶる息。昂りか。

 

「お前は!!」

 

 大人の都合一つで、徒に失われてきた命を知っている。

 そんな彼を怒らせるには、あまりに的確過ぎるおしゃべりだった。

「でぇえやあぁッ!!」光汰が怒号と共に目いっぱいに湧かせた力は、全て二本の剣先に乗り、

 

「グ、グギャァァァ!」

 

 インベスを爪牙(そうが)もろとも掻っ裂いた。

 激しい白雷がその場で爆ぜ散る。

 強大な一撃を堪えきれないインベスは体液と呼気をあたり一杯にぶち撒けるも――。

 

「だあああああああああ!!」

「グッ、グギィィィィィッ!!」

 

 攻めの手など緩めてはやらない。

 痛みで喚き散らされるのも構わずに、斬って斬って斬りまくる。

 頭部の牙が続々地面に落ち、後ずさる主の確かな痕跡を残していく。

 無双セイバーと大橙丸を以て、空すらも裂いてしまいそうな高速の連撃を叩き込んだ。

 

「く……!」

「お前は逃がさない」

「ギ、ガッ!」

 

 削がれた牙の数もわからなくなってくる頃か。身を守るものが剥がれ、むき出しになったまさしくの柔肌に蹴りが入る。それを肯って、インベスは大きく吹っ飛んだ。

 その様からひと時たりとも目を離さないで、カッティングブレードに手をかける光汰。即座にそれを一回倒して見せた。

 

「今ここで止める!」

 

『オレンジスカッシュ!!』

 

 ドライバーより木霊する声は、インベスと、そのマスターの“悪人としての”死の宣告に、他ならなくて。

「マズい!」口に出そうがもう遅い。

 無双セイバーと大橙丸、物打ちをかち合わせた二振りが、眩く光った。

 煌々とした輝きが薄汚いインベスの体液を蒸発させると、「よーい」も「どん」も無しに、光汰は走り出す。

 

「う、おおおおおおおおおッ!」

 

 甚大な光熱を纏った得物を眼前にぶつけるため、一歩、また一歩と薄汚れた足場を蹴って往く。

 バイザーが捉える敵は、屠りに屠られ、構えるどころかまるで動けやしない。その向こうで「勝った」と、確信の小声が漏れた。

 

 肉迫。

 

 とどめは、両手の剣をX印に振り下ろす。

 そんなビジョンが視えていた。

 

 ――ほんの点一秒前までの、話だが。

 

「――へ?」

 

 鈍くも疾いその衝撃は、光汰の胸で出し抜けに走った。

 次に見えたのは、なんだったろう?

 とどめを浴びせる前に、遠ざかるインベス。

 なぜ。どうして。何が。

 脳内が混乱する。絶え絶えの思考力のせいだ。

 相手が避けたのか? 違う。

 相手が逃げたのか? それも違う。

 ただただ肉体を包む、気持ち悪くて覚えのない浮遊感。脳みそだけが直に飛んでいるようだった。

 

「あ」

 

 小さく発音し、やっと気づく。

「相手が」じゃなくて、「自分が」なんだと。

 

『今、自分が吹き飛んでいるんだ』と。

 

 たちまち背中から生まれた痛みで、思わず呻く。

 極めて短い低空の旅を終えた鎧武が転げ、地を這ったのだ。

 

「な、なんだ……!?」

 

 がば、と飛び起き探すのは邪魔立て、もとい自分にカウンターをくらわせた相手。

 だがそれも早々にわかった。

 物言う訳でも、特別咆える訳でもなかった、が。

 

「!」

 

 目前で、今にも自分を切り捨てんと刀を振りかざしているのだから――わからないはずなど、ないのだ。

 

「ッ!」

 

 光汰は乱入してきたインベスの攻撃を間一髪で避け、早急に間合いを取り直す。

 

「こいつ……!」

 

 刃の掠めた部分に残った傷を一瞥、再び構えを取った。

 視線の向こうの相手をしかと確認して初めて起こる、愕き。

 

「…………」

 

 インベスにしてはやけに大人しい個体でこそあるが、見てくれは何ら変哲のない、青系統のインベスだ。

 甲冑や羽織等、所々に和の意匠が見られ、加えて地面にまで届きそうな長い触覚から推察するに、モチーフはおそらくカミキリムシと武者だろう。

 だが、彼が着目した点は、そこではない。

 

「武装、しているのか……!?」

 

 この『カミキリインベス』が、その外見に対して、あまりにお誂え向きな日本刀をその手に納めているということ。

 それが問題なのだ。

 武器を手に戦うインベスなど、聞いたことがない。だからこそ――。

 

「まさか俺が出ることになろうとは、な……小僧、なかなかやるではないか」

 

 声がした後ろへ素直に振り返ると、和服姿の男が立っていた。

 えらくドスの利いた声音に、日本人離れした屈強な長身は、未成年の男子を威圧するには十分すぎるものだ。

「遅かったじゃないか、伽賀嶺先生」光汰を挟んで向かいにいる商人が、男の名を呼ぶ。

 

「よもや、お前が手こずるなどとは思ってもいなかったのでな」

「まったく……提供する物はしてるんだから、お願いしますよ」

 

 光汰は両者の会話に割って入り、早々に主導権を握った。

 

「アンタが、こいつのマスターか」

「いかにも。伽賀嶺(かがみね) 李愁(りしゅう)――しがない刀工だ」

「刀鍛冶……だから、インベスにもそれを持たせてるってわけか」

「そういうことだな」

 

『刀鍛冶がマスターだった』などという予想だにしない真相ではあったもの、存外早く謎は解けた。

 それでも、光汰の胸中が晴れることはない。

 寧ろ余計に暗澹としてしまったかもしれない。

 

「こんないい大人まで、改造おもちゃで殺人ごっこかよ……ッ」

 

 元来、子供の火遊びを止めるべき大人ですら油を注ぐ有様だ。

 失望を湛えて項垂れるのも無理はなかろう。

 

「人殺しとは、挨拶だな」

 

 きっぱり否定なぞして見せてはみたが。

 

「――用心棒とでも、言ってもらおう」

 

 やっぱりその目は、

 

「……つッ!!」

 

 人殺しそのものだ。

 火の粉が奔る。

 背後よりゆらり振るわれた剣に、自らの得物を咄嗟にぶつけた光汰。

 感じるのは、一瞬にして引き攣る空気と、尋常ならざる衝撃。

 

「反応して見せたか。さすがはアーマードライダー、そうでなくては」

「ぐ、ぐ……!」

 

 鎧武とカミキリインベスが激しい鍔迫り合いを演じる。

 しかし、どうだろう。目を凝らしてみれば、光汰が少しずつ、ゆっくりと押し込まれているのがわかる。

 決して気のせいなんかではない。本人が一番わかっていることだ。

 

「だが」

 

 ぶつける度に手中が痺れるこの剣の重さも。

 

「いつまで」

 

 目を離せばすぐに斬られてしまうであろうこの剣の速さも。

 

「その姿勢で」

 

 今この剣を受け止める彼自身が。

 

「持つかな」

 

 一番に理解している。

 大きく開いた血の眼。

 全身から頻く頻く汗が噴き出して。怯える心が筋肉を震わせる。

 強く食い縛った歯に、紅血の味が滲んでた。

 

『強すぎる』

 

 剣と剣で押し合う中に、うすら寒さと共に過る異質な焦燥、思考。

 

「(確信がある訳じゃない……、それでもコイツは――!!)」

 

 独白の切り上げを合図に、光汰が仕掛ける。

 右のキックで崩れかけの均衡を自ら破壊しにいった。

 

「おおおおおおおおッ!!」

 

 すかさず退いたカミキリインベスを追いかけ、豪快に両手で斬りかかる。

 

「……!」

 

 ガギン。

 直後に廃倉庫内で響く安っぽい音は、赤子の手を捻るが如き動作で光汰をあっさりといなした。

 

「くっ、まだだ!」

 

 負けじと繰り出す縦一閃。

 されど広がる光景は、まるでリピート再生される映像のようなもので。

 

「なんで……武器の数だってこっちが多いのに!?」

「得物の数で強さが決まるのなら、一刀流などとうに廃れているぞ」

「くそっ!!」

 

 斬っても、斬っても、斬っても斬っても斬っても、肉体はおろか、その水色の外骨格にすら刃が届かない。全てが侘しく無を斬るのだ。

 力任せに振れば避けられ、速く振れば受けられ、だからと大技を狙ってみれば隙で返される。

 そうやって追いつめられて苛立ちを募らせる敵を尻目に、涼しげに、卓越した立ち回りを披露するカミキリインベス。奴の動きに一切の無駄はない。

 達人とすら呼べるこの怪物の主の目に、乱雑で未熟が過ぎる少年の太刀筋は、果たしてどんな風に写っているのだろう。

 

「がッ――――!!」

 

 きっと、子供の遊戯にしか見えていないのかもしれない。

 それは刹那の事だった。我武者羅に振り回される腕と腕の隙間に、真っ新な切っ先が入り込む。それはそのまま奥にあった胸の装甲をザクリと削ぎ取り、一気に鎧武を跪かせた。

 

「うぐ……!」

「剣筋は悪くない……だが、速さも、力も、技も足りていない」

「ぐ、ッ!!!!」

 

 追いかけて虚ろを斬る音に、雷鳴を聞いた。

 落ちる兜割りの一撃を既のところで受け止める。が。

 

「そんな……そんな!」

「諦めろ」

 

 そんなものが何になるのか。

 刃こぼれした無双セイバー・ナギナタが、そう叫んで、泣いた気がした。

 

「お前では、俺には勝てん」

「――は」

 

 宙へと切り払われた無双セイバーが最後に見たのは――、敵の必殺の突きでコンテナの山へとぶっ飛ばされる、主人の姿だった。

 束の間、一気に巻き上がった土煙と崩落するコンテナの塊の所為で見えなくはなったが。

 

 変身強制解除の音が、寂しく響いた。

 

 無造作に寝転んだ無数の四角形の下から、オレンジの光が儚くこぼれる。

 

「ふむ」

 

 それを見た伽賀嶺がキウイ型のロックシードの掛け金を閉ざすと、カミキリインベスはおもむろに納刀、得物を主人へ放り投げる形で返却し、己の背後に表出したクラックの向こうへと帰って行った。

 

「インベスの骨を練り込んだ刀……骨喰参式改(ほねばみさんしきあらため)。傑作と呼ぶに相応しい」

 

 受け取った刀を甘く抜く。鈍い輝きを放つ根元だけが、鞘から妖しく覗く。

 

「助かりましたよ、先生」

「あとは煮るなり焼くなり好きにすることだ」

 

 商人の拍手の賞賛を完全に無視し、伽賀嶺は言う。

 

「さあてと」

 

 ボロ雑巾のような風貌のインベスは、ボロ雑巾のようにしてくれた相手への復讐で、頭が一杯のようで。

 コンテナの中から光汰を引きずり出そうと、躍起になっていた。

 あれでもない、これでもない、そんなセリフが聞こえてきそうな勢いで次々コンテナを背後へ放り投げる初級インベス凶暴態。

 延々その作業を繰り返す内、口辺から血を流すボロボロの少年は、無事に見つかった。

 

「悪い芽は摘み取らなくちゃね」

 

 気の次は、意識を絶ってやろう。

 そんな意志を込めて、腕を上げた。

 

 

「――キュータロー!」

 

 

 そこまでは、よかったと思う。

 

「キュエーーーー!!」

 

 ひとつ誤算を挙げるとするなら、少年の二人の友人を、侮ったことだろう。

 

「なに!!?」

 

 駆け付けざまに茉優が呼ぶと、蝙蝠は天井を突き破り、突如飛来した。

 そして今にも腕を振り下ろさんとしていた凶暴態を、飛び蹴りで突き放す。

 

「ギエ!!」

「キュエーーーーーー!!」

 

 立て続けに振動する空気は、こんな短い悲鳴すら掻き消した。

 

「超音波、だと……!?!?」

 

 キンキンと唸る耳朶を苦悶と共に塞ぐ商人。それは伽賀嶺も同じこと。

 外から様子を窺っていた光汰のもう一人の友人は、その隙を見逃さなかった。

 

「グルオオオオオオオ!!」

 

 刀也が「今だ」と呟きながらパインロックシードを解錠するやいなや、出現したクラック。からさらに出現したアルマジロインベスが、土を踏み均しながら疾走。

 通りざまに光汰を拾い上げ、一気に駆け抜けた。

 

「回収完了! ここから離れます!」

「りょーかい!!」

 

 待てに聞く耳貸さず、二人と二体は鮮やかに戦場から逃走した。

 

「……見事な手際だ」

「あいつら……!」

 

 二人の男は何も出来ぬまま、ただただそれを見ていた。

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