これだから都会は嫌いなんだ。
蟻の様に群れてギャーギャーと罵声が飛び交う中で見ないふりをしたり、男と女が交わっていたり空気がとても淀み、人間としての何かが歪んでいる。そんな秋葉原の歩行者天国を渡っている時、俺は少し頭痛がし始めた。すると
「キャァァァァァァァァッッッ!!!!」
頭痛の起こっている脳裏を刺すような甲高い声が耳をすり抜けた。自分からして五時の方向に目を向けると何人かが下に目を向けている。ここから見て見えるのは倒れこんだ女の姿だった。俺は野次馬というわけではないが軽く人混みを掻き分けてその『何かが起こった場所』に向かっていく。
20代前半であろうか。爪はピンクのラメで施され、10cmヒールを履き、髪は痛んだ茶色に染められている。段のついたフリルのミニスカートをはき、そして右手にはキーホルダーが大量につけられた携帯を握りしめられており、アプリコットカラーのエナメルバッグを手下げている。
なぜ、この女は地面に伏しているのか。
なぜ、この歩行者の交通の為だけに設けられた交差点で人が集まる事態となっているのか。
この女は心臓を刃渡り20cmほどの牛刀包丁が柄のところまでずっぽり入っていた。華奢な体を貫くには余るほどの長さだ。ましてや、肋骨などがある中で貫通するには余程の力が必要になるはずだろう。そう現場を検証しているうちに彼女の血は心臓から溢れ、広がっていく。そこを取り巻く自分含めた何人かは圧倒されつつも行動をし始めた。
美女「ちょっと!あなた、意識ある!?聞こえる!?」
恋人女「ちょっ…たっちゃん!どど、どうしよう…!救急車…!」
恋人男「おっ落ち着け!志織!犯人はまだ近くにいるかもしれない…!二次被害が起きる前に逮捕を…警察に連絡して、そこから救急に繋げてもらおう!」
コス女「ちょwやば…w」…カシャ
メガネ男「み、身元がわかるものはああああるかな…!?」
美女「ちょっと!女の子よ!?勝手に荷物あさらないの!」
そんな冷静さを欠いた5人が主に目立つ。俺はそれを傍からただ見ていた。
??「明楽ー!」
女の声に振り向くとそこには幼なじみである田向 天音(たむかい あまね)が息を切らしてきた。
天音「ちょっと明楽、目を離した隙にどこいくのよ…ってどうしたのこの人だかり…キャッ…殺人…!?」
俺「そう、みたいだな。」
天音「そうみたいだなって…ん、警察きたね。…あ!みなさん、その包丁触っちゃダメです!指紋ついちゃうんで!警察の方来ましたからー!」
俺は天音から視線を外した瞬間、瀕死状態の女の顔に視点が行った。俺は動揺した。女の顔には…
女の顔には眼球に四つの糸通しのあるボタンが両目の眼球に縫合されており、グロスがついてまだ鮮やかな唇にも糸で縫合がなされていたのだ。俺は不可解さに気づく。これは本当に『先程までもすでにこの状態になっていた』のか?俺はこの異様さが前面にあふれるこの顔面に目がとどまらず、全身の付属品などを鑑賞していたというのだろうか。俺は自分を疑った。先程まで、そんな状態じゃなかったはずだと強く思った。
そこで俺はふと動きを止めない人混みの中で視線を感じて11時の方向に目を向ける。が、そこには特に目立った人間はいなかった。なんなんだろう、俺もこの状況で冷静さを失ってしまっているのだろうか。
天音「明楽。あとは警察の人がなんとかしてくれる、あまり長居しちゃいけないよ。もう今日は早く帰ろう。」
俺は鈍く頭に響く音を抱えて、天音に右手を引っ張られながら家路についた。