智樹が福音教会に入ったのは数年前のこと、父親と喧嘩をし、家出した時のことだ。理由は些細な事、自分に構ってもらえないことへの、幼いながらの反抗だった。
彼の父親は東条智章。国会議員を経て、数年前に国防省の事務次官になっている。智樹の母は智章の秘書で、両親二人して家を開けることは多かった。
「父さんと母さんのばかやろう……」
歩き疲れたのか、ふらふらと歩きながら辿りついたのは一軒の西洋風の建物…福音教会の教会だった。そこで彼は目にした。
眩く光るステンドグラス、そこに映る星の守り神を……
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「QuelI->{EXiV[zep]->{ethes}}」
この日も福音教会の礼拝堂の前では、聖獣による救いを求める者たちが祈りを捧げている。無論智樹もその1人である。しかし最近の智樹は少し違っていた。福音教会に礼拝の規則はない。祈るべきだと感じた時に祈る、そういったものなのであるが、智樹は毎日のように祈っていた。
「そういやあいつ、最近毎日礼拝してないか?」
「そうだね…何かあったんじゃないかな?」
その様子を他の信者たちが不思議そうに見ながらヒソヒソと話し合う。礼拝を終え扉へと歩いていく智樹の目は、怒りのような悲しみのような、そんな目だった。
「そういえば智樹と最近ニュースにでてる東条事務次官って似てない?」
「あ、うん、似てるよね…親子、なのかな…」
そんな話が聞こえた方を智樹はじっと睨む。怖くなったのか話していた人はどこかへと去っていく。そしてため息をつき下を向きながらまた歩いていく。すると目の前に見知った少女が彼を待つように立っていた。ムジナだ
「智樹、礼拝によくくる…なにかあった?」
「ムジナか…今はほっといてくれ…いろいろあってむしゃくしゃしてるんだ」
「いろいろ……家族のこと?」
一発で当てられてしまい、歩みを止めてムジナを凝視してしまう。
「……なんでわかったんだ?」
「観察していればわかる。過去にもお前は家族のトラブルでそのような顔をした。さらに学校とかのトラブルでそこまでの顔をしたことがないことも含めてムジナは判断した」
「そんなに人のことを観察して…それ以外に趣味ないのか?」
あきれるような笑いをする智樹だがすぐに、
「以前言ったから省略する」
キッパリと、言うムジナに言い返され、その呆れは自分に返ってきた。
「はぁ…聞いた俺が馬鹿だった…だとしたらなんだよムジナ……」
「家族とはいっしょにいて楽しいものではないの?」
「え?」
キョトンとして智樹はムジナを見る。その目はとても純粋な疑問の目だった。
「ムジナや教会に住んでいる仲間は家族がいなかったり、家族にいい思い出はない。だがお前は本当の家族といっしょ。それなのにたのしくない?なぜ?」
「あ…」
福音教会は孤児院としても機能しており、五年前のテロや、その他の理由で親と離れ離れになった子供たちのよりどころにもなっている。ムジナもその一人なのだろう…それを思い出すと智樹はどこか気まずそうになる。
「あぁっと、ムジナ、何も本物の家族がいるから幸せってことでもないんだぜ?些細なことで喧嘩したりとか…」
「それは贅沢な悩み」
その言葉は的を得て、深く、智樹の心に突き刺さった。少し動揺する智樹を他所にムジナは言い立てる。
「ムジナたちの中には本当の両親がいないのもいる。なのに本当の家族を嫌うのは贅沢。それにお前は教会の中では仲良くしている。それと同じようにすればいい」
「できたら苦労しないっての……本当の家族だから余計に」
自分の頭をくしゃくしゃとしながら話す智樹を、ムジナはなぜ?と言うような視線で見上げる。それが余計に智樹の次の言葉を塞いだ。
「ムジナさん、その辺に」
「フユマサ…」
戸惑う智樹の元にフユマサが近寄ってくる。
「智樹さん、もし時間があるならゆっくりお話しましょう」
やんわりとした笑顔でフユマサは言う。彼の笑顔は智樹に初めて福音教会に来た時のことを常に思い出させる。
『私たちはあなたの味方です…辛い時はいつでもここにきていいんですよ?』
ほがらかなその男性は智樹にとって厳格な智章とは違う理想の父の姿であった。
「はい、なら…」
―――――――――
「はは、また喧嘩したのですね。智樹さん」
「すぐにカッとなった俺のほうも悪いと思ってます…けど、なんかそれは負けな気がして…」
椅子に座り、対面しながら二人は話す。一口お茶を飲むとそれで酔ったかのように饒舌になり語り出す智樹の話をフユマサはクスクスと笑いながら聞く。話も進んだ折、ふと智樹はフユマサに聞いてみた。
「そういえば、なんで聖獣を信仰する教会を立てたんですか?五年前までまったくわからなかったのに」
彼は疑問に思っていた。五年前初めて多くの人間に姿を見せ、しかも破滅をもたらした神をなぜ信仰の対象としようとしたのか…少し間を空けてフユマサは外の曇り空を見つめ口を開く。
「福音教会はもともと孤児院から始まりました。ここにいる子供たちには強制していませんでしたが、私はかつて聖獣とは別の神を信じ、子供たちの幸福を願っていました…
しかしあの日、信じていた神は来ず、現れたのは聖獣たちでした…」
俯いて自身の手の陰を見つめる。智樹はその時のフユマサに少し得体の知れない狂気を感じていた。
「現代の兵器を受けても倒れず、魔術にも似た力で人々を蹂躙するその恐ろしさ…そしてその中にあった神々しさ……」
そしてフユマサは天を仰ぐ
「その時私は確信しました…信じていた神は我々を救わない。聖獣こそ、我々に祝福をもたらす存在だと……だから私は改宗し、福音教会を立ち上げました…ついてきてくれた同士たちと共に……」
「そう、だったんですね…けど、その聖獣が俺たちを殺すとは考えなかったんですか?」
「聖獣に殺されるのなら私は本望です。その時は、この世界が間違ってることが証明され次に生まれ変わる世界で祝福されるということですから」
唖然とした。いつものフユマサと同じであるのに、その中に今までに見たことのない、形容し難い何かがそこにあったのを直感で感じ取った。しかしそれでも智樹は彼を否定することはできなかった…自分もその神による祝福を信じ、彼を理想の父と崇めるのだから……
「そんな…」
圧倒され、自然と手が震えた。しかしフユマサはいつもの笑顔を浮かべ、
「信じるも信じないも君しだいです。君が聖獣を信仰しなくなったとしても、福音教会の子供たちや私たちは、君のもう一つの家族であり、味方ですから」
もうこの人には一生敵わない、やはり理想の父親だ…
智樹がそう思ったその時…平穏を破る警報が鳴り響く…マイシスだ。
「っ!?フユマサさん、この警報って!」
慌てて避難の準備を始める智樹。しかしフユマサは対して動じていない。
「智樹君、せっかくです…私が見たものがどんなものだったか、君も直で観てみましょう…マイシスが来るということは、聖獣も……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
説得する智樹のもとへアキラがやってくる。
「智樹センパイ、ヒナンカンリョウしてます!センパイも……ってお父さん!?」
「君は先に避難してください。僕たちは見なければいけない…聖獣がいかなるものかを」
やってきたアキラも気にせず、彼女に避難を促してフユマサは立ち上がる
「ついてきてください智樹君。これはいずれ君にとって重要なことになります」
その時の彼の真剣な雰囲気に押され智樹は後を付いていく。
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教会の2階の外がよく見える部屋に着いて窓を開けしばらく、緊急事態だというのに空は晴れ晴れとしていて日が差していた。
すると、目の前に空間の裂け目が現れそこからガイアディアが飛んでくる。智樹はガイアディアを見つめる。確かに普通の人間より大きい全長、そして白い鎧と光を受けて輝く姿は確かに神々しさを際立たせている。ガイアディアは辺りを見渡し、窓の近くにいた智樹たちに気づく。
「な、なんでそこにいるんだよ智樹とフユマサさん!!」
智樹はその声に驚愕する。聖獣になったのは知っていたが目の前にいるそれが、中学のころからの親友なのだから。
「あれが聖獣…ってか、その声影人か!?」
「なるほど…これがガイアディアか…」
智樹とフユマサが二者二葉の反応をする最中、影無エルファーデ型が十数体その姿を現す。
「くっ……あぁもう、早く避難してくださいよ!」
その聖獣はすぐに影無たちのほうを向き、強風が起るほどの勢いで飛び立つ。智樹は手で目を伏せるが風が収まったあとに見た光景に智樹は目を見開く。
一筋の光にも見える純白のガイアディアが、それまで彼の中でおぞましいものであった影無をいとも容易くなぎ倒し、影無の攻撃をもものともしていない。
(なんだよ、あれが聖獣だっていうのかよ…影無をあんな簡単に…)
そしてバッサバッサと倒していき、最後の一体も何なく撃破し、再び智樹たちのほうをみる。
「はぁ……結局逃げなかったのかよ智樹」
「あぁ…にしても、聖獣ってとんでもない力だな…それをお前は……」
影人は聖獣から人の姿に戻る。
「けどいいことばかりでもないぞ?そう簡単に聖獣の力欲しいなんて思わない方がいいな…じゃあ智樹…フユマサさんもこういうことやめてくださいね?」
そして影人は再び空間の裂け目から消えていく。
「はは、善処はします……さて、これが聖獣の力です。これを欲するも、畏怖するも…どうするかは君次第…」
そのままフユマサは部屋を出る。しかし
「待ってくださいフユマサさん」
智樹が呼び止めたことで足を止め彼の方を向く。
「どうしましたか?」
「あの聖獣の力があれば…世界も変えられるんですよね…」
じっとさっきまで影無とガイアディアが戦ってた所を見つめながら智樹は言う。それを気にせずにフユマサは微笑む。
「どうなるかは聖獣になった人間の心次第です…心次第で彼らは破壊をもたらす神にも、救いをもたらす神にもなる…願えば君のもとにもくるかも知れませんよ。清き月の導きの元に…」
そう言い残しフユマサは部屋をでる。
「清き月の導きの元に…か……」
復唱しながら智樹は空を見上げる。風も強くなり、雲がでてきて暗くなりつつある空を……
―――――――
夜、フユマサは再び教会の地下に来ていた。それに続いてムジナも入ってくる。
「フユマサ、次の満月にはきっと目覚めることができる」
「そうですか…ということはやはり彼に……」
二人の目の前には暗く、禍々しい冥王の姿があった…
(さて、君はどう使う……この力で破滅をもたらすか、それとも…)
智樹「そういや満月になると気分が高揚したりすることないか?昔から狼男が満月になると変身するように、普通の人間でもこういうことあると思うんだ…お前もそう思うだろ?
次回 SDガンダムバインド聖獣神話『月下冥王』
月の下に闇はその姿を見せる」
さて、次回いよいよ福音教会に眠る冥王が姿を現します…次の更新いつになるかわかりませんがお楽しみに!