「影人君、少しいいか」
福音教会での影無との戦闘の翌日、影人はレジスタンスのリーダーの智章に話しかけられた。智章と影人以外この場所には誰もおらず、メインエントランスでの指揮官然とした態度というよりは、智樹の父親というような態度を影人は感じていた。だから影人も、
「智樹のお父さん、どうしたんですか?」
と、変な気を使わずにフランクに話すことが出来た。
「最近のあいつの様子はどうだ?同じ高校なんだろう?」
「何も変わりなく元気ですよ…ただ……」
影人は少し顔を曇らせる。先日の智樹のあの様子が気になっていたからだ。
「どうした?」
「あいつ、聖獣になりたがってるかもしれません……」
その言葉に智章も神妙な表情を浮かべる。
「そうか……いや、仕方ないんだろう……福音教会にあいつが出入りしてた時点で何となく察しはついていた……ありがとう影人君。次の任務も頼んだ」
そのまま歩いていく智章の言葉に、ただ、はい、と頷くしかできなかった…
(あいつとも、戦わなくちゃいけないのかな……)
――――――――
同じ頃、智樹は自分の部屋でぼーっと1枚の写真を見ていた。幼い頃家族で撮った写真だ。
「もうこの頃には戻れないのかな……ん?」
ノックする音が聞こえて扉を開けると、そこにはティーセットを持った梨奈がいた。
「智樹様、お茶をお持ちしました…少し、お話しませんか?」
笑顔を浮かべる梨奈に智樹もくすっと微笑みながら迎え入れる。智樹と話をする普段の梨奈はいつも微笑んでいる。智樹にとってはそれが癒しであり、落ち着く時間だ。
「あとは父さんと母さんが普通にいてくれたら……って、お前の前じゃ言えないよな……」
呟いた言葉にハッと思い出して智樹は梨奈から目をそらす。梨奈も影人と同じようにマイシスのテロで両親を失くしていて、智樹の家に引き取られた。そして彼の家族の事情を知って、メイドとして東条に仕えることを決めて今に至っている。
「お気になさらず。ここに来たときからすでに、私の家族はみなさんがたです……」
「わ、悪い……気を使わせた…」
そんな智樹を梨奈はデコピンする。
「っ!梨奈?」
「無礼を失礼します。ですが、ご主人様がメイドの心配することないんですよ?」
「それもそうか……はぁ…」
ため息しながら智樹は天井を見る。その時ふと、フユマサの言葉を思い出す。
『この力を欲するも畏怖するも君次第ですよ』
「世界を変えうる聖獣の力……なぁ梨奈、聖獣……もし、世界を変えられる力を持てたら…また俺たち、四人で楽しめるかな……」
「智樹様は戻りたいのですか?あの頃に……」
じっと見つめる梨奈にこくりと頷く。もとは父親が仕事のことばかり考えていて家族を蔑ろにしはじめたことから始まった。その後、立て続けに母親のガンの発覚にマイシスのテロ…いろいろと“智樹の世界”には不幸が続いた。教会のみんなや学校にいる人たちもそういった不幸をかかえているんだろうが、智樹にはそんなことを考える余裕はなかった。
ただ自分の、不幸になってしまった“智樹の世界”を壊して、再び梨奈を加えた家族で暮らしたい…智樹の思考を、その欲が支配していた。そんな智樹に梨奈は手を添える。
「私はそれでいいと思います…その方法が何であるかはわかりませんが、それが智樹様の願いであるならば、それに付き従うのがメイドたる私の務めですから」
「ありがとう梨奈……」
智樹は安堵の表情を浮かべる。自分の願いは梨奈にとっても有益であり、それを認めてもらったからだ。
―――――――
それからの智樹はより一層聖獣の力を求めるようになり、頻繁に聖獣に救済を願っていた。
そんな折、月が満月になる日のこと、智樹はフユマサに呼ばれて教会の地下にたどり着いた。そもそも教会に地下があったなんてことは智樹は知らなかったが、そんなことは微々たる疑問だった。
「フユマサさん、なんで俺をここに?」
「これを君に見せたくてね」
「っ!?こ、これは…」
フユマサが見せたものは、黒く、右腕には大剣、左腕には鳥の顔のような大きい装備をもち、それをケーブルで繋いだ、ロボットというにはあまりに生物的で生物というにはあまりに機械的なおぞましさのある姿があった。
「これこそ、冥王星《エンドロフ》の聖獣…ハーディアです」
「冥王星の聖獣!?」
「そう…しかも聖獣の中でも絶大な力があります……もし君が聖獣の力を求め、世界を変えたいと思うのなら、彼…いや、彼女に触れるといい」
「彼女?……フユマサさん、聖獣に性別あるんですか?」
フユマサはクスクスと微笑んでハーディアを見る。
「確かめてみてくださいな」
「確かめろったって……」
疑念を抱きつつも、智樹はハーディアの頭に触れる。すると何か人の頭に触れた感触がある。そのまもなく……
「第一段階クリア」
「なぁ!?」
突然聞こえたムジナの声に智樹はすかさず手を離す。すると、ハーディアからでてくるように実体のない、ホログラムのようなムジナが現れた。これには智樹は呆れの苦笑いがでてしまう。
「む、ムジナ、何やってんだよここで……」
「ここでもなにも、ムジナはハーディアの意識」
しかし告げられたのは衝撃の内容だった。
「は?いや、それはどういう……」
「ここから先は戦いの中でムジナのタイミングで喋る。智樹、本当にムジナの力が欲しい?その力で世界を壊すとしても?」
智樹はまっすぐにムジナを見て頷く。
「なら契約は成立。これからムジナは智樹の影。もう一人の智樹になる」
ムジナは再びハーディアの中に消え、それを見届けると、フユマサは拍手をして称える。
「おめでとう智樹君…これで君も聖獣の仲間いりだ…そんな智樹君に、ひとつ頼みがある……」
――――――――
その夜、クロスディアが都内に影無が出現するとの報告を受け、レジスタンスの基地内は混乱していた。
「なんか久々に夜にマイシスでましたね…しかもお月見によさそうな満月の時に……」
「ほんとですよ……まったく…」
影人とエリが愚痴をこぼし合いながらモニターを見る。
「けど、空飛びながら月見るの、面白そう…」
呟いた発言を聞いたその場にいたものが一斉に影人をジーっと見る。
「え?あれ?俺、なにか変なこと…言いました?」
その視線に困惑する影人、対してレジスタンスの面々は笑う。
「それでは影人さん、お月見ついでにいいですか?」
その瞬間影人の血の気が引き……
―――――――――
「あんなこと言うんじゃなかったぁあああああ!!」
カタパルトでガイアディアになり、ニルヴェスタの中で絶叫する。しかし無慈悲にもカタパルトは開き、出撃の合図が鳴る。
「あぁもう!大神影人、ガイアディアでます!!」
そのまま発進すると、目の前には空気が澄んでいて、雲一つない青空が広がり、眼下には静かな街が広がる。
「綺麗……なんて言ってる場合じゃないか……」
感嘆しながらも、影無の出現位置を探してそこへ向かう。しかしその途中…
「よぉ、影人」
ビルの屋上に見慣れた人間がいた。智樹だ……
「智樹!?なんでお前ここに!?」
ガイアディアは動きを止めて智樹を見る。智樹はガイアディアを見るなりにっこりと笑った。
「お前、なんで避難してないんだよ!」
「月見だ月見。ほら、綺麗な月だしな」
「いや、だからって……っ!?」
ニルヴェスタの中で影無の出現を告げるアラームが鳴り、空から多数の影無が現れる。
「智樹、いいから避難しろ!今度は絶対に!」
智樹を庇うようにガイアディアは位置取りするが……
「その必要はねぇよ、影人」
突き放すように影人に智樹が言う。そして月に向かい手すりのスレスレまで歩く。
「俺だってお前に言われなくても、危険ならすぐ隠れる…けど、俺だってもう聖獣なんだ……」
「っ!?」
影人は言葉を失った。ありえたかもしれないが、考えたくもなかった事実が目の前で起きている。影人には智樹の足元に伸びる影さえ恐怖に感じた
「影人、お前が下がってろ……こいつらは俺がやる……チェンジ」
《チェンジ ハーディア》
間もなく智樹を影が包んで弾ける…影人はその姿に怖さを覚えた。
その姿はレジスタンスも確認していた。エリも、智章もその姿を確認していた。
「あの姿……ハーディア!?どうして少年が!?」
「智樹……あの馬鹿……なんで……」
ハーディアの姿は月の明かりに照らされ、その漆黒の姿を顕にする。そのまま翼を広げて月を背にする。
「そうか、この感じか……すごく力が湧く!」
そのまま左腕をかざし、嘴を開く。するとそこに重力が収縮され球体となってそれを放つ。影無はそれに吸い込まれてすべて粉砕した。
「影無をあんなあっさり……」
そのまま手を下ろしてハーディアはガイアディアを見る。
「影人、確かにこれはやばい力だな……この力なら世界をどうにでもできそうだ……」
「お前……聖獣でどうするつもりだ」
ガイアディアの問いにハーディアは笑いながら、月を見る。
「さぁな……ただ、俺は取り戻したいんだ、平穏を……家族の安寧を…そのためだったら誰だって潰す…マイシスだろうと……」
そのままガイアディアに向かい剣を振り下ろす。とっさの出来事に反応できず、ガイアディアはダメージを受け落ちる。
「お前らレジスタンスだろうとな……」
ムジナ「その願いは危険でありもっとも人らしい。ムジナは人間が好き。そしてそれよりも、暗い闇が好き。次回『光と影』新たな神話の扉を開け」
次回、ガイアディアVSハーディア勃発!