「兄…ちゃ…」
木の後ろから、今にも命が絶えそうな声が聞こえる。
――――ローム…!
俺は、頭上の棘を酸で溶かすと、ロームが居る木の裏へと回った。
そこには、木の棘に串刺しにされているロームが…。
「ローム!」
急いで棘を溶かそうとする。 が、棘とロームの身体が触れているため、ロームもろとも溶かしてしまう可能性が高い。
「くそっ、どうすれば…」
「うぅん…」
ロームの顔は真っ青で、ぐったりとしている。
「…ソ…イズ…兄ちゃ…」
「…ん? …何だ…?」
「痛いよ…早く…た、す…けて…」
ロームが、何かを訴えるようにこちらを見ている。
――――ッ!
「…分かった…」
俺は、ロームの頭に手を置いた。 そして、ありったけの酸を、その掌から出す。
溢れ出した酸は、ロームの頭、身体、その全てを溶かしていく。
「…じゃあな、ローム」
また、会えたら会おう。
やがて、酸がロームの全身を溶かしきった時、ようやく立ち上がった。
「あー…殺しちゃったんだー」
いつの間にか、俺の背後に立っていたルンがぼそりと呟いた。
…くっ…。
「お前ェ…!」
振り返り、腰を落とし、拳を引く。
「あァァァァア!!」
一回…一回でもいい…。 アイツをぶっ飛ばす。
拳に力を込め、もう一度雄叫びを上げる。
俺の想いに応えるかのように、拳が黒く染まり出し、その身を固くする。
そして、無意識のうちに、地面を何度も蹴り、一瞬のうちにルンの背後へと回った。
「――――!?」
「うぅらァァァァア!」
拳に酸を纏わせ、ありったけの力を込めて、ルンの後頭部を殴りつけた。
「うぐ…ッ!」
殴られたルンは、何故か酸で溶けないが、それでも吹っ飛び、木の棘にぶつかって大ダメージが――――
「く…っ、
――――入らなかった。
ルンはギリギリの所で空中を蹴り、ダメージを免れる。
「な…」
そんな…武装色も、六式も一瞬使えたのに…。
「くそ…まだだ! もう一回」
腕に力を込めて、拳を構える。 …しかし、一向に拳は黒く染まらない。
「終わりなの、君は!」
いつの間にか、ルンが目の前まで来ていた。
「まず経験が違う。 僕はこの世界に来てもう20年近く経つんだよ? 君は勝てないさ」
俺の周りを回りながら、言い続けるルン。
「僕は武装色が使えるし、見聞色も使える。 六式だって使えるんだ。 諦めて降参しなよ。 ま、それでも立ち向かってきたからには殺すんだけどねー」
く…イラつく。
でも、あいつが言ってることは本当の事だ。 実際、ルンには敵わない。
…でも嫌だぞ、こんな所で終わりなんて。 せっかくこの世界に来たのに…もう終わりなんてさ…。
と、その時だった。
「――――おォォォ」
しゃがれた声。 妙な威圧感がある、でもちょっと優しげな声。 これは聞いたことがあるぞ。 …この声は…。
と、上から誰か
「…え?」
その人は、俺の前に着地すると、その背中の『正義』の文字をたなびかせた。
「まだ幼い子供に…何をしとるんじゃ…」
やっぱり、この声は!
「君は…ガープ!」
モンキー=D=ガープ。 海軍本部中将にして、ルフィの祖父。
…というか、何で本部の中将とかいう割と偉い人がこんなとこに? ここってまさか、めっちゃ凄い島だったり…………
いや、ないな。
「あちゃー、会いたくない人に会っちゃったなぁー。 じゃ、ここは退散ということで――――」
ガープを見て、逃げようと背中を見せるルン。
しかしガープは、ルンの肩を掴み、逃走を阻止する。
「逃がしはせんぞ。 “森林のルン”よ…。 今日こそお主を、いや、お主達“
真剣に言うガープだが、正直吹きそうになった。
“森林のルン”て。 なんだそれネーミングセンスやばくね? 黒衣海賊団とかもさ…。 船長厨二なの? まぁ、ゴリゴリの厨二の俺が言うのもなんだけどさ…。
「もー、そんな真剣にならないでよー。 船長ならまだしもさぁ、僕副船長だよー?」
いやいや、関係ないだろ。 つーかむしろ副船長ならアタリの方な気がするが…。
「お主、自分の懸賞金を分かっていてそう言っておるのか?」
「ん? 8700万ベリーだけど?」
な…そんな大物だったのか? こいつ。
「そうじゃ。 そしてお主らの船長“腐敗者 オードゥン”、懸賞金9000万ベリー。 どちらも逃がさん。 さぁ、お主らの船長はどこにおる!」
凄い剣幕で怒鳴るガープ。
こいつらの懸賞金…頭一つ飛び抜けてないか…? あ、いや、でもここの海が何の海か分からないな。 もし
「はぁー。 そんなバカ正直に聞いたって、答える訳ないじゃん。 君がただの海兵だったら、このまま倒すとこだけど、まぁあのガープ中将だからね、ここは素直に尻尾巻いて逃げますよ~」
ルンはそう言うと、素早い動きで近くの木に触り、同化した。 当然ガープの手からルンは消え、木に顔が浮かび上がる。
「む…」
悔しそうに顔を歪めるガープ。
え? 別にあの木は他の木と隣接してないから、あそこから逃げられないんじゃないの?
そう思っていると、今度は別の木にルンの顔が浮かび上がる。
え? え? …何で?
「じゃあねー」
微笑みながら遠ざかっていくルン。
そして、この森林のどこかに姿を消した――――。
△▼△▼△
「それで、お主達は大丈夫か?」
今俺は、ガープを前にして椅子に座っている。 ここはガープの船…海軍本部中将の船だ。
他にもこの島の僅かな生き残りが、この部屋に居る。
それにしても…あの海賊達は、物凄い勢いで島を襲っていったんだな。 あんな短時間で生き残りがこれしか居ないなんて…。
――――皆…。 今はいない、孤児院の人達を思い浮かべる。 そう、結局、孤児院に生き残りは俺とローム以外居なかった。 そのロームもルンに殺された…。 また俺は孤独になってしまった訳だ。
ガープが、生き残りの一人一人に話を聞いている。
あれだけ優しい人が、海軍に他に居るのかな。 居たら、少し心が痛む。 俺はこれから海賊になろうとしてるんだしな。
やがて、ガープが俺のもとへやってきた。
「お主は…確か、あの森に居たの」
「うん。 俺、一応能力者だから、対抗出来ると思ったんだけど…無理だった…。 ロームも死なせちゃったし…」
若干、子供らしさを残しつつ喋る。 まぁ、能力者って言ってる時点でただの子供じゃないけど。
「…能…力者?」
ガープの目が見開いた。
それもそうか、幼い子供が悪魔の実食ってるんだもんな。
ん…? というかそれってルフィと似てね?
「そうか…だからあの場所に居ったんじゃのう…。 それと、その“ローム”というのは…」
と、ガープが懐から何かの箱を取り出した。
「あの森に落ちてたんじゃが…ひょっとすると…そのロームという者のものかもしれん」
その箱は、若干溶けかかっている。 多分、酸から奇跡的に溶けるのを免れたんだろう。
俺は、その箱を受け取り、開ける。
中には一枚の紙と、一本の美しい黄緑色の羽根だった。
一部が溶けている紙を取ると、早速読み始めた。
△▼△▼△
――ズ兄ちゃんへ
兄ちゃん、誕―日おめでと――。 この前、珍――鳥を見つけたから、その羽根をプ―――トするよ! 喜んでくれたら嬉しいな!
△▼△▼△
「ローム…」
そういや、明後日は俺の誕生日だったな。 すっかり忘れてた。
「ありがとう…」
そう言うと、箱の中にあった黄緑色の羽根を取り出し、容易く取れないように髪に絡めた。
「ありがとう、おじさん。 これ、ロームが俺に用意してくれたものみたい」
「そうか…ならあげよう」
ガープは優しい眼差しで俺を見て、言う。
ん~、何だか、さっきからガープが考えてたような奴じゃないんだよな~。 妙に優しい、つーか…。
「それより、お主は、親御さんとかは居るのか?」
「…え? いや、居ないよ。 孤児院の皆も死んじゃったし、これからどうしようかな…」
…見えてきたぞ。 これは多分…。
「そうか…身寄りが無いのなら、住む場所にあてがある。 少し荒っぽい奴が多いが、それでも良いかの?」
やっぱり、か…。 神様がこうなるように仕組んだんだな…。
…でも…。
俺はロームの手紙を見る。
なんつー方法を取ってくれたんだよ…。
「…? どうかしたかの?」
「…あ、いや、何でもない。 …うん、良いよ。 独りで過ごす方が嫌だもん。 俺そこ行きたい」
手紙をポケットにしまい、そう答える。
ガープはその答えに満足したようで、「分かった」と言って部屋から出た。
と、すぐに部屋の外から話し声が聞こえた。
ドアに近付いて盗み聞きしてみる。
「ガープ中将! これからどうしますか? まずは生き残った人達を一旦本部へ…」
「いや、いい。 予定通りドーン島へと向かっておくれ。 海軍候補の子が居たもんでの」
え…もしかしてそういうこと? ガープが妙に優しかった理由って。
「はっ! 分かりました!」
海兵が、ガープの指示へと聞いてどこかへ走り去る足音。 その後、ガープもまた、ドス、ドスと重い足音を残し、どこかへと去った。
はぁ…ガープに目を付けられちゃったよ…。 これからどうしよう…。
その場に座り込み、頭を抱えると、丁度船が動き出した。
少し揺れる船内。
そしてガープの船は、ドーン島を目指し進み出した――――。
う~ん、ガープのキャラ崩壊が少しあるかな…。 原作のキャラを扱うのが難しくて、何だか変な感じになってしまいました。
ソイズの感情も何だか不安定になってるし…失敗したな…。