【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第九十三話  提督の苦悩③

第六駆逐隊とのお茶会を開いた翌日は、朝からどの時間が空いてるかなど執務室前がかなり混雑したので、プリンツの提案でくじになった。1日につき一組という決まりが出来た。

俺はそんな騒ぎが落ち着いた時、再び球磨からの具申があった『防衛火器の充実化』を見直していた(※経緯の描写は後日)。

現在、鎮守府の防衛火器は要塞砲が8基16門とCIWSが60基だけだ。レーダーは使わず、交代制で滑走路から哨戒機が飛んでいる。これではまだ薄いんじゃないかという事だった。

それと、警備部の武下から以前鎮守府が襲われた際に救出艦隊に乗艦していった門兵はそんな人数が要らなかったということだった。なので鎮守府に残る門兵が次から多くなるそうだった。

 

「うーむ。」

 

俺は防衛火器の一覧を見ながら唸っていたが、覗き込んでいたプリンツが指摘してきた。

 

「提督ぅ?......徹甲弾ばっかですねー。」

 

俺はそう言われて気付き、それぞれの兵装の使用弾薬欄を見た。

徹甲弾、徹甲弾、徹甲弾......どこまで行っても徹甲弾。CIWSは一応榴弾も交じっている様だが、それは半分の数だ。

徹甲弾は相手の装甲板を貫通させるための弾薬で、基本的には対艦などに使うが、徹甲弾は『貫通させる』ただそれだけだ。榴弾は着弾した周辺で爆風を起こし、吹き飛ばす。主に対人に使う。

つまり、鎮守府への奇襲で使われた防衛火器から撃たれた弾は敵を貫通させるか、内部に入る前に爆発していたのだ。

 

「......弾薬の無駄遣いか。」

 

俺がそう言うと、反対側で覗き込んでいたフェルトが言った。

 

「対空戦闘では主に対空弾薬ベルト(複数の弾種によって構成された弾倉)なんかが使われている。徹甲弾と榴弾だけで対空迎撃するなんて聞いた事がない。」

 

「やはりそう思うか?」

 

俺はそう言って見ていた書類を机に投げた。

 

「だからあんなに被害が出たんだな。」

 

「被害?何かあったのか?」

 

そう訊いてきたフェルトに俺は答えた。

 

「フェルトたちが移籍してくる前にここは一度、深海棲艦に奇襲を受けて全壊しているんだ。」

 

「それは聞いている。焼け野原になったのだろう?」

 

「あぁ。」

 

そう言って俺は首を捻った。

 

「CIWSに使う弾薬と、これから航空機に支給する弾薬ベルトを統一しようと思う。」

 

そう言って俺は新しい紙を引っ張り出して、書き出した。

俺は紙に、『徹甲焼夷弾→破砕焼夷弾→破砕曳光焼夷榴弾』と書いた。それを見たフェルト笑った。

 

「はははっ!それは完璧に落としにかかってるな!」

 

「当たり前だ。少ない弾薬で多くの敵を......だ。」

 

「しかしこれは燃料タンク狙いか?」

 

「そうだ。どこに当てても炎上はするだろう?」

 

「そうだな。......だが、保管する弾薬庫に着弾すればたちまち炎上するぞ?」

 

「弾薬は何であろうと炎上する。爆発するか跳弾しまくるか大火災かだ。問題ない。」

 

そう言って俺は急遽、こちらで書く書類を増やした。

 

「これを工廠に。至急だ。」

 

「了解だ。」

 

書き終えた紙をフェルトは受け取り、執務室を出て行った。

そうするとプリンツが首を傾げて居たのでどうしたのかと聞いた。

 

「どうした?」

 

「いや、なんで銃座や高角砲がないんだろうと思いまして。見てる限り対空兵装はCIWSっていう自動迎撃機関砲しかないみたいですし......。対空兵装と言ったら銃座と高角砲かなって。」

 

これは俺は考えもしなかった。俺が考えたいたのは軍の骨とう品の中から使えるものを引っ張り出す事ばかり考えていたが、銃座や高角砲なら大本営に書類を提出しなくても勝手に作れるのだ。

 

「でかした!プリンツ!!」

 

俺はそう言うとすぐに書類を取り出し、工廠宛てに書き留めた。

内容は20mm機関銃座の開発と設置。12.7cm高角砲の開発と配置だ。それくらいだったら工廠ならばすぐにできるだろう。

 

「......よし、書き終えた。出してきてくれないか?」

 

「はいっ!」

 

今度はプリンツが書類を出しに執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

書類の内容はすぐに実行されたらしく、昼前にはフェルトが持って行った弾薬ベルトの開発が終わり、すぐに銃座と高角砲の開発が終わったとの報告が入っていた。

そして俺は上機嫌で昼を済ませると執務室でくつろいでいた。本当にやる書類が無い。

俺はある事を思い立ち、酒保に行くことにした。

酒保では全壊する前と変わらない様子だった。今日はどうやら訪れる艦娘が少ない様で、結構閑散としていた。俺は通る店を見る事無く、食料品売り場に直行するとホットケーキミックスと板チョコ、牛乳、片栗粉をカゴに放り込んだ。レジでは何だがいつもと違うものを買っている俺に少し驚いたレジ打ちに挨拶して、すぐに執務室に戻った。

 

「ただいま。」

 

そう言って俺は袋を置いた。

 

「ただいまって、レーベとマックスは付いて行っていたわよ?」

 

そう言うと俺の後からレーベとマックスが部屋に入ってきた。

 

「番犬艦隊は離れないっていったじゃないか。」

 

そう言って来たレーベにそうだったなとだけ答えると、俺はすぐに私室に入った。

私室に入るや否や台所に入り、調理を始める。買った材料はほんの一部で他に使う材料は私室にあるので買わなかった。

板チョコを砕いたあと、ホットケーキミックスに温めたバターと牛乳を決まった量だけ入れて混ぜ、そのあとに砕いた板チョコを放り込んでまた混ぜる。それが出来た後、片栗粉と砂糖、卵黄を混ぜた。

2つの生地が出来上がると、オーブンの板を出し、その上にクッキングシートを敷く。そこに丸めた片栗粉の生地を丸めて置き、板チョコの生地はひとまとめにした後潰して切り込みを入れ、離しておいた。そしてその板をオーブンに戻してタイマーを入れる。

 

「ふぅ......。久々にやったな。」

 

そう言って俺がボウルやら洗い物をした後、後ろを見ると朝潮以外全員がポカーンとしていた。

 

「なに......やってるの?」

 

「何って見てわからなかったか?スコーンとボーロだが?」

 

そう言うとビスマルクが膝を付いた。

 

「提督の方が女子力が高いっ......。お菓子作りなんてやった事ないわ......。というかご飯すら作れない......。」

 

「おい、そのorzポーズやめろ。」

 

そう言って俺はビスマルクを立たせた。

 

「アトミラール......。アトミラールは料理ができるのか?」

 

そう訊いてきたフェルトに執務室からひょこっと頭を出した朝潮が言った。

 

「司令官は家事全般出来ますよ?この司令官の私室は司令官が掃除してますし、洗濯物も司令官が洗って畳んでます。ご飯は私は食べたことが無いですが、先日出撃した北上さん曰く『提督の作るご飯は間宮さんとは違う美味しさがあるねぇ』だそうです。」

 

そう言って朝潮は頭をひっこめた。

その瞬間、俺の私室に叫び声が木霊した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何故わざわざ簡単な焼き菓子を作ったかというと、今日はプリンツが提案したお茶会くじで当たった艦娘の為だ。というと毎回焼くことになるのだが、今日は特別だ。

鎮守府初期から居る古参の日向と初期艦の吹雪と鎮守府最初期の艦娘が1桁だったころから居る白雪の為だ。ちなみに伊勢と叢雲も居る。

 

「失礼する。」

 

そう言って時間になると日向が全員を連れて執務室に入ってきた。

 

「来たか。フェルト。」

 

「分かっている。皆は何を飲むのだ?」

 

そうフェルトは全員が座った後に聞いた。

それぞれは思い思いの注文をしてそれを聞いたフェルトは奥に行ってしまった。ちなみに今回は番犬艦隊は執務室ではあるが別のところでティータイムをしてもらうことになっている。

フェルトは淹れ終えたのか、お盆にカップを乗せて机に置いて行った。そして最後に俺が焼いた焼き菓子を置いて引っ込んでいった。

 

「じゃあいただきますか。」

 

そう言って俺はコーヒーを啜った。他の来ている日向たちもそれに合わせてお茶を飲み、話を始めた。

 

「司令官。いつもはお茶会をしてるんですか?」

 

「してないぞ?訪れる艦娘のタイミングが悪かったのか、そう言うのを許してくれない秘書艦のときばかりだったからな。」

 

「そうなんですねー。」

 

そう言ってコクコクとお茶を飲む吹雪だった。

 

「提督ぅ。今回の作戦に私たちを出さなかったのはどうして?」

 

そう訊いてきた伊勢に俺は答えた。

 

「あの護衛艦隊は高速艦のみで編成された艦隊だ。艦隊線に入れば最大戦速で護衛を残して大型艦は突撃するんだ。そんな艦隊に伊勢は付いていけるのか?」

 

そう言うと苦虫を喰った様な表情を伊勢がした。

 

「無理だぁー!私たちってば低速艦だもん。」

 

「そうだな。だから次の作戦では活躍してくれよ?」

 

「無論、そのつもり!!」

 

そう言って伊勢は掴んだスコーンを食べてのどに詰まらせていた。

 

「ゴホゴッホッ......!」

 

「詰まらせてまぁ......ほれ飲め。」

 

咳き込む伊勢に日向が背中を叩いてお茶を飲ませている。これじゃあどっちが姉か分からないな。

その一方で違うところでティータイムをしているドイツ艦勢は盛り上がっていた。

 

「美味しいわね!」

 

「そうだな。」

 

「ボーロも口の中で溶けて美味しい!!」

 

「美味しいね!」

 

「美味しい......。」

 

「ふー、ふー。」

 

「美味しいです!」

 

そしてビスマルクが言った。

 

「悔しいわっ!!提督がこれを作っただなんて!」

 

「どっかの餓えた狼かっ!!」

 

俺はそう言って後ろを見て突っ込んだ。

そしてそれを訊いたこっちのソファーに居る伊勢たちは目を輝かせた。

 

「これが......。」

 

「北上の言っていた......。」

 

「提督の料理......。」

 

そう言って喉を鳴らした。

 

「怖いっ!!凄い怖いっ!!」

 

俺はそんな5人を見て引いていた。

何故ここまで豹変するのか。分かっていたが、ここまでなのかと思った。というか『提督への執着』はこれには関係ないだろうと俺は思った。そんな事を考えている俺を露知らず、目の前の伊勢たちはこれでもかというくらい食べていた。

ちなみに執務室の前を偶然通りかかった艦娘たちはのぞき見していたらしい。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今、艦内の温度は高い様で、服が肌に張り付いて気持ち悪いです。

 

「ひえぇぇ。」

 

私はパタパタと持ってきた団扇を仰いでいた。

 

「お姉様ぁー。」

 

まだまだ次の泊地は遠いです。早く鎮守府に帰りたい......。

 




今回もお茶会の話になってしまいましたね......。すみません。何誤ってんだろう......。たぶんこのまま行くと、殆どの話がお茶会に終わってしまいそうですね。

オチは今回は比叡にしました。

そう言えば本作は通算UAが19位になってました。皆さんが見て下さってるおかげですね。ありがとうございます!!

ご意見ご感想お待ちしてます。

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