【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第九十四話  提督の苦悩④

 

フィリピンの群島に沿って航行する28隻の大艦隊は針路をタウイタウイに向けています。

そろそろ回頭する頃ですが、今の序列では少々問題がありますので、全艦隊に指示を出す事にしました。

 

「旗艦 霧島より全艦隊へ。全艦、第三警戒航行序列へ展開っ!!揚陸艦は中列にっ!!」

 

号令でそれぞれが配置に移動し、陣形が整いました。

この陣形は主に対空警戒時に使う陣形ですが、輪形陣なので重要船舶を囲むことができるんです。上空には爆撃部隊と機動部隊から出されている震電改が飛んでいますが、高度10000m以上を飛んでいるらしいので、目視では確認できません。

その瞬間、無線に連絡が入りました。

 

『第九爆撃中隊が敵艦載機の奇襲を受けてますっ!既に7機が大破炎上中っ!』

 

その知らせは自分の耳を疑うものでした。そんな高高度を飛ばないはずなのに、迎撃をされてしまいました。すぐに私は通信妖精に機動部隊へ連絡させました。

 

「飛龍さんの震電改を装備した航空隊は速やかに発艦っ!迎撃に向かって下さい!!」

 

『飛龍、了解!』

 

私は慌てて外へ飛び出し、空を見上げました。

先ほどまでは透き通る青空に白い雲ばかりだった空に、黒煙が上がり何かが降ってきます。妖精から手渡された双眼鏡で見てみると、それは左の翼が無い富嶽でした。燃料に引火しているのか、炎を上げて落下し、海面に激突しました。降ってきたのはその富嶽だけではありません。点々と黒煙を上げて落ちてくる富嶽が見えたのです。

私は艦橋に戻り、通信妖精に言いました。

 

「至急、鎮守府に繋いでくださいっ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は伊勢たちとお茶を飲んでいる最中、妖精が執務室に勢いよく入ってきた。

 

「提督っ!至急通信室にっ!」

 

その様子はただ事が起こっている様には思えなかった。

俺はカップを置いて既にコーヒーを飲み終わっていたフェルトを連れて飛び出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が走って通信室に入ると、通信妖精が俺に受話器を手渡してきた。

 

「提督だっ!」

 

『提督っ?!イレギュラーですっ!!』

 

そう叫んだ霧島は起きた出来事を説明し始めた。10000m以上を飛んでいた富嶽に深海棲艦側の迎撃機が襲来したということを訊き、俺はやはりかと感じた。これは想定内であったが、まさか本当に起きるとは考えていなかった。なので出撃した機動部隊の艦載機には震電改と他の戦闘機はバランスを取っていた。

 

「迎撃は?!」

 

『既に震電改が飛んでますっ!』

 

そう言った霧島に俺は息を整えた言った。

 

「......被害は。」

 

『現在、富嶽が13機墜落しました。今も増加中です。』

 

「迎撃機の数は?」

 

『12機です......。』

 

俺は机を叩いた。

 

「少ないっ!もっと出せないのかっ!!」

 

『加賀さんの9機を出します。』

 

「それでいい......。艦影は?」

 

『ないです。索敵圏外からだと思われます。』

 

「現在位置は?」

 

『フィリピン沖です。』

 

俺は俺と霧島の会話を訊いていたフェルトから紙を受け取った。そこにはフィリピンからタウイタウイまでの距離が書かれていた。

 

「3/4速で航行。それでも遅いと思ったのなら全速で構わない、早急にタウイタウイに迎え。」

 

『了解しました。』

 

俺はそう言って受話器を通信妖精に渡すと、大本営に提出する報告書を書くために執務室に戻った。

報告書を書き終え、通信室に戻ったのは一度呼ばれてから3時間経った後だったが、その時には深海棲艦の高高度迎撃機は撤退していて、こちらの富嶽が205機撃墜された後だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は半ば休暇みたいになっていた長門を呼び出していた。

何故かというと、護衛艦隊の爆撃機を狙った高高度迎撃機について聞きたい事があったからだ。

 

「説明した通り、先ほど出撃した爆撃中隊の約2/3が撃墜された。撃墜したのは深海棲艦のイレギュラー、高高度迎撃機。どう思う?」

 

そう訊くと長門はうーんと考え始め、ある事を訊いてきた。

 

「提督の言う高高度迎撃機の総数は分かるか?」

 

「そうだな......約60機と聞いている。」

 

高高度迎撃機が撤退した後、帰還した震電改からの情報であるがそれくらいの迎撃機が居たと言うのだ。迎え撃った震電改はセオリー通りの行動を取るが、撃墜は難しかったと。だからこんなにも撃墜されたのだというのも報告で聞いていた。

 

「イレギュラーだと思ってもいいと思う。これは我々が高高度を飛行する爆撃機を持たないと実証できない事象だからな。」

 

そう長門は言った。

 

「やっぱり?」

 

「あぁ。」

 

そう言った長門は少し神妙な顔つきで考えている様だったが、その瞬間、長門の顔が青ざめた。

 

「不味いっ......非常に不味いぞっ!?」

 

そう言って長門は俺の肩を掴んだ。

 

「深海棲艦側に高高度を飛べる迎撃機が存在すると言うのなら、それ以外の種類の航空機が飛べる事になるぞっ!!」

 

俺は一瞬思考が停止してしまった。

長門の言う意味が理解できなかったのだ。だがすぐに理解が出来た。

 

「......深海棲艦側にも大型爆撃機が存在する可能性がある、そう言いたいのか?」

 

「あぁ。」

 

「なんてことだ......。」

 

俺は頭を抱えてしまった。

だが、唯一気休めになる事があった。それは東南アジア、南アジアの各地に泊地が点在している事だ。そこにはそれぞれに艦隊司令部が設置されており艦娘が常駐している。その周辺海域は既にこちら物と考えていいからだ。つまり、本土まで飛来できる距離を飛ばす事は到底不可能だということ。

そしてすぐにやらなければいけない事は、その迎撃機を飛ばした元を排除し、深海棲艦によって占領されている島を片っ端から奪還しなければならない。そして、この護衛艦隊が通った航路はドイツとの交易に使うであろう航路なので安全を確保しなければならなかった。

 

「これも大本営に連絡だな。」

 

「そうだな。早急に手を打たねば、取り返した海をまた取られてしまう。」

 

俺は再び執務室に走り戻り、長門は資料室に行くと言って別れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局俺は再び大本営に提出する書類を新たに書き、すぐに通信室に向かっていた。それは、富嶽を帰還させるためだ。これ以上の損失は良くないと判断したからだった。

だが、残す富嶽もある。今護衛艦隊と共に飛んでいる富嶽の中には偵察型と輸送型も交じっている。偵察型はどの偵察機よりも鮮明な情報を手に入れられる為だ。輸送型にはリランカ島に設置するための大型砲を積んでいたからだ。

俺は通信室に入り、赤城に連絡を取ってすぐに富嶽の爆撃型を引き返させた。護衛は付けることになるが、震電改の航続距離を考えると単独での帰還の方が長くはなるが、迎撃機の飛んでくる範囲外まで送り届けるらしいので任せる事にした。

 

「本当にいいのですか?」

 

そう通信妖精は聞いてきた。

 

「何がだ?」

 

「爆撃機を引き返させて。......海上絨毯爆撃の威力は妖精全員が知ってます。あれほどの爆撃をこれから進む道で使えないとなると、護衛艦隊は何回も艦隊戦をしなければならなくなります。」

 

「そうだな。」

 

俺は頷いた。

 

「最悪、轟沈だって考えられるんですよ?」

 

俺はそう言われて唇を噛みしめた。轟沈だけは絶対いやだったからだ。経験せずに戦争を終えたい、そう考えていた俺にとって轟沈は何よりも嫌な事だった。

 

「大丈夫だ......出撃させたのは古参と手練れ。彼女たちは戦場をよく知っている。上手くやって笑って帰ってきてくれるさ......。」

 

俺はそう言って通信室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺からの報告書を受け取った大本営はすぐに行動を起こした。

重要施設の疎開と各地に防空壕の建設を通達したのだ。

その行動はメディアに漏れ、大きな騒ぎを呼んだ。深海棲艦に空襲される。話を肥大化した情報が国民に知れ渡り、恐怖させた。

各地で現在の戦況を国民に開示する事を要求するデモが発生するなど、国内は荒れ始めていた。

一方で、横須賀鎮守府周辺は落ち着きを払っている。何故ならコチラは勝手に防空壕を建設。鎮守府周辺の住民の為に深く、大きく、居住性の良い防空壕が点々と出来上がっていたからだ。何より、住民たちは横須賀鎮守府の近くに居る限り大丈夫だと思っているらしい。何を根拠にそんな事を言っているのか分からないが、そういう事を俺は度々耳にするようになった。

 

「提督。以前から開発が進んでいた噴進動力機構が完成。新型陸上機が開発できました。」

 

そう妖精が俺に言って来たのだ。

 

「噴進動力機構......ジェットエンジンか。」

 

俺がそう言うと妖精は頷いた。

 

「F-15J改二とでも言いましょう。配備を進めてもいいですか?」

 

「あぁ。最優先だ。」

 

俺はそう言って妖精を見送った。これで高高度から侵入してくる爆撃機は迎撃できることになった。だが、どう索敵するかが問題だった。

大本営曰く『高高度から領空内に進入してくる機影はこちらで察知できる』とのことなので、侵入があればこちらにすぐに連絡が来るとの事だった。地上に被害を出す前に迎撃できるということだ。

俺は椅子の背もたれにもたれて天井を見上げた。これで好転する事、護衛艦隊が誰も欠けずに戻ってくる事を切に願った。

 





今回のは後書きにはいうことはないです。ただただすべてが上手くいく訳じゃないって事ですね。

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