【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

105 / 209
第九十六話  提督の苦悩⑥

リランカ島へ向かう道中、私たちは妙な霧に入っていました。

視認できるのは私の前を航行する鳥海の艦尾だけです。それも目を凝らさないと見えないくらいです。

 

「霧島より索敵中の艦娘へ。現状報告をお願いします。」

 

私はそう呼びかけました。

この事態に突入してから序列の密度を高め、列の先頭を航行する水雷戦隊は艦同士の間隔を広げて索敵をして貰っています。この状態では機動部隊の赤城さんは索敵機を飛ばせないということだったので、そうするしかなかったんです。

 

「霧島より第二護衛艦隊、応答して下さい。」

 

私は通信妖精から受け取った受話器でそう呼びかけていますが、誰も返事をしません。

 

「神通さんに繋げて下さい。」

 

そう通信妖精に頼み、私はもう一度言いました。

 

「霧島より神通、応答して下さいっ!!」

 

『ザザザザザザッ......』

 

ノイズが混じっていますが、一応繋がっている様です。私はもう一度同じことを言いましたが、結局ノイズが聞こえるだけでした。

次に私たちの水上打撃部隊の先を航行する第一護衛艦隊に繋げてもらいました。

 

「霧島より第一護衛艦隊、応答して下さい。」

 

そうすると返事があった。だがノイズが混じっていてよく聞き分けられない。

 

『ザザザザッもがっザザザザザッ......ザザッせザザザザザザッ。ザザッてきちザザザザザッ......。至急、ザザザザザザザザッ。』

 

聞き分けられたのは応答した本人の『最上』という事と『至急』。理解に苦しむのは『せ』と『てきち』です。『せ』は『戦闘』や『先行』などと捉えられます。『てきち』は『索敵中』か、私が一番この状況に置いて恐れている『敵地』という言葉です。

リランカ島は私たちがつい最近奪還した領域ですけど、私たちが目を離した隙にもう深海棲艦が再占領したかと懸念が脳裏を過りました。

 

「通信妖精さん。鳥海さんに繋げて下さい。」

 

私はこれ以上最上と思われる相手の連絡を訊いても仕方ないと思い、私の艤装の眼の前を航行している鳥海さんに繋げてもらいました。

 

「霧島より鳥海さん。応答を。」

 

『はいザザザッノイズが激しいですが、何とか聞こえますねザザザッ。』

 

確かにノイズが多いが、聞こえました。

 

「序列の先頭の状況を訊いてませんか?」

 

そう訊くと、鳥海さんはすぐに答えてくれました。

 

『ザザッ第二護衛艦隊から通信が途絶している事しかザザザザザッですけど7分前に序列で私たちの第一護衛艦隊に一番近かった神通さんからザザザザッというのを訊きました。』

 

「もう一度お願いします。神通さんから何を訊いたんですか?」

 

ノイズで肝心なところが聞こえなかったので訊き返しました。

 

『ザザザザザッ神通さんがザザザザッ艦を発見したと。』

 

また聞こえませんでしたが、断片が分かりました。『艦』そこから連想される単語は『深海棲艦』。ひょっとしたら先頭の第二護衛艦隊は接敵しているのかもしれないです。

私は緊急で全艦隊に連絡を入れた。

 

「旗艦:霧島より全艦隊へ。戦闘用意っ!繰り返します、戦闘用意っ!」

 

私の号令で艤装の中を慌ただしく妖精さんたちが駆け回りだしました。私の後ろを航行する金剛お姉様の方を慌ただしくなったようです。

 

「何かが変です......。」

 

私はそう呟いて、メガネを上げました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は配備されたF-15J改二とF-2改の運用試験をしようとしている。

滑走路から事前に富嶽を5機飛ばし、数十分後にF-15J改二とF-2改でそれぞれ編成した迎撃部隊を飛ばし、どれ程の性能なのかということだ。

それを始めるにあたって、白衣の妖精からそれぞれの特徴を詳しく聞いていた。何でも結構弄り回したらしく、説明しておかなければならないところが多々あるとの事だった。

 

「それでは、提督。私が先ほどお渡しした資料をご覧ください。」

 

そう言われて俺は手元にある資料を開いた。

 

「工廠でそれぞれにこれまでは搭載できたミサイルですが、物がないと言いました。それは覚えてますか?」

 

「あぁ。」

 

「元になるサンプルが無いんですよね。」

 

そう言ってやれやれと言わんばかりに首を横に振っていた。

 

「サンプルが搬入された時、サンプルにはミサイルは付属してなかったんですよ。」

 

「そうだったのか。」

 

「それとですね、丁度内容的には逸れませんが、工廠で機関砲の事を言いましたよね?」

 

「そうだな。」

 

そう俺が答えると妖精はある本を俺に見せてきた。

 

「これはサンプルのコクピットに置いてあったカタログです。ここを見て下さい。」

 

そう言われて俺はそのカタログで指が刺されている先を見た。そこには『固定武装:M61』と書かれていた。

 

「このM61、通称『バルカン』はどちらのサンプルからも下ろされていたんです。つまり装備を殆ど剥ぎ取られた状態のものが運び込まれたんです。」

 

「は?」

 

俺は耳を疑った。搬入された『置き土産』には一切の武装が無かったと言うのだ。

 

「このイラストを見る限り、バルカンはガトリング砲の様ですが私たちにはこれは作れません。銃器設計ができないんです。」

 

そう言って白衣の妖精は溜息を吐いた。

 

「ですので、サンプルと一緒に運び込まれたミサイルやらの中に紛れいていた『M2ブローニング』を無理やり乗せようとしましたが無理でしたので、私たちの手元にあった『MG151』を改造し取り付けました。」

 

そう言って俺に『MG151』の簡単な説明の書かれた紙を俺に渡してきた。

 

「これは昔、ドイツ第三帝国から輸入した機関砲です。日本では『マウザー砲』と呼ばれていました。優秀な機関砲ですので、搭載させていただきました。ちなみにガンポットのも同じものです。」

 

そう言って俺に次のページを見るように言ってきた。

 

「そこには本来ならばあるはずのM61だった場合と今の状態との比較です。本来ならば機関砲の装弾数は940発です。ですけど、今は装弾数が倍の1880発です。これはバルカンによって取られていたスペースを全て弾薬を収納させるスペースに活用しました。」

 

「そうか。」

 

「それとガンポットはそれ以上に装弾できます。」

 

俺は進んでいく話を聞いて簡潔にまとめた。

作り出されたジェット戦闘機は性能面で従来のものとは五分五分だということ。機関砲は多砲身でなくなり、機体は軽くなり、ミサイルが積めない。俺では理解できない話もあったので割愛するが『初速が違うので従来の機体に装備されている機能がいくつか使えない』ということだった。どうやら自動照準器が使えないらしい。

俺にとっては機関砲の照準は自分でつけるものだろうと考えていたので、あまり変には思わなかったが、どうやらあるのに使えないのは勿体ないらしい。

俺は白衣の妖精からの説明を訊き終えると、運用試験の開始を指示した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

寒空ですけど日が暖かい今日、私は出撃がないので防寒具を着て空を見てました。冬空は空気が透き通っていてとても綺麗ですので、最近はよく空を見上げに外に来てます。

そんな時、これまでに訊いた事のない音が聞こえてきました。

 

「何でしょうか?」

 

私は一緒に外を見ていた雷さんに訊きました。

 

「分からないわね。見に行きましょ!鳳翔さん!」

 

私はその場から立ち上がり、その音の聞こえる方角に行きました。

そこに着くと、見たこともない飛行機が次々と滑走路から飛び立っていくのが見れました。甲高い音で何かを吐き出しながら物凄い勢いで飛び立つソレは私の見慣れた零戦と同じ色合いに塗装された全くの別物です。

そして私の遠い記憶にあったその音の正体に気付きました。

 

「ジェット機......でしょうか?」

 

そう言ったのを訊いていたのか雷さんが私にそれは何かと尋ねてきました。

 

「ジェット機はですね......プロペラの付いたレシプロ機の後に開発された新しい飛行機です。レシプロ機よりも速く飛び、少ない数で敵を倒す......とてもすごいんですよ。」

 

そう言うと雷さんは目を輝かせてそのジェット機が飛び立つさまを眺めていました。

このジェット機が鎮守府の滑走路から飛び立っているとすればこのジェット機は外から持ち込まれたものではないと言うのは確実です。と考えると答えは一つ。提督が作らせたとしか考えられませんでした。

そうでなければどう作ると言うんでしょう。工廠の妖精さんが勝手に作るとは思えません。

そんな事を考えていると雷さんがぼそっと言いました。

 

「陸上機といい富嶽といい......この鎮守府は『イレギュラー』が多いわね。」

 

そう言ったのです。『イレギュラー』これはよく古参組が口ずさむ言葉です。主に提督の絡みの話になると出てくる単語ですが、どうやらその『イレギュラー』というものは私たちが提督をこの世界に呼び出してから始まった事だと言うのです。ちなみに提督が射殺未遂された事件もその『イレギュラー』によるものだと聞きました。

ということは、それに近い何かが私の知らないところで起きているということです。

 

「そろそろ戻りましょうか。身体も冷えてしまいまいたし。」

 

「そうね。」

 

私は滑走路に背を向けて艦娘の寮に向かいました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の運用試験、率直に言えば何とも言えない結果になった。

搭乗する妖精の練度不足もあり、編隊による急降下、一撃離脱を上手く出来ずに離脱する羽目になったのと、装弾数が1880発もあるという安心感から当てれなかった。そして、あまりの速度に機関砲を撃つタイミングを逃していたのだ。三度に渡って急降下と急上昇をしていたが、3機編隊によって撃墜判定が出たのは2機だけ。これでは使えないと俺の直感が訴えていた。

白衣の妖精も俺と同じ考えらしく、最終的には実戦投入は延期になった。そして俺は大本営にM61の在庫を取り寄せる事になった。きっとどこかにあるはずなのだ。

大本営に提出する書類にその書類を紛れ込ませ、更にF-15とF-2を調べた後、それらに搭載できるサイドワインダー、スパロー、アムラームのいずれかが無いか確認する事になった。

俺はF-15とF-2を鎮守府に置いて行った新瑞の意図が分からないまま、それらの開発を指示してしまっていた。

 




今回は結構ヘビーな内容でした。まぁ、前回の投稿の反響で上がった考察やらで扇動されたところもあるんですけどねww
取りあえず、ジェット戦闘機の実用化は難しいようです。そして大本営は何故武装解除をした戦闘機をこちらに置いて行ったのか......。真意が気になるところです。

ご意見ご感想お待ちしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。