【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第九十七話  提督の苦悩⑦

艦隊は丸一日も霧の中に居ましたが、おかしいんです。

既に到着していてもいい時間だというのにも関わらず、到着しません。

終わりの見えないこの霧の正体は何でしょうか。きっと皆同じ恐怖を感じていると思います。

 

「霧島より全艦隊へ。現状を報告して下さい。」

 

私もこの通信はもう両手では数えきれない程聞いています。

 

『鳥海、異常ありません。』

 

『金剛、異常なしデース。』

 

こうやって返答は帰ってきますが、相変わらず序列末端からの連絡がありません。

唯一の救いは後衛までは取次を繰り返して何とか報告が届くことです。

 

『金剛より霧島、序列最後尾の熊野から序列中央まで異常なしの報告デース。』

 

こうやって毎回お姉様が通信を後ろに回して下さっているお蔭で何とかやっていけてます。

その刹那、妖精さんからの報告が飛んできました。

 

「艦前方の霧が晴れますっ!」

 

私は艦橋から身を乗り出してそれを見ました。

貼れた霧の先には海がもちろんあり、そして私たちの見た最後の陸地が視界を覆ったのです。

 

「ここはリンガ泊地っ!?」

 

私の目にはそう見えました。そして私は何かを思い出したかのように艦橋から飛び刺し、後ろを見ました。

其処には同型艦の金剛お姉様の艤装から最後尾の熊野さんの艤装が見えます。

 

「ですけどっ!?」

 

私はまた慌ただしく、前を見ました。前を航行していたのは鳥海さんの艤装だけ。

それらよりも序列の先に居る筈の第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部が消えていたんです。

 

「霧島より機動部隊へっ!至急、索敵機を発艦して下さいっ!!!」

 

 

『えっ?それはどういう......。』

 

「急いでくださいっ!!」

 

『りっ、了解ッ!全周囲15°おきに飛ばします。』

 

私は通信妖精さんから受話器を受け取るとそう叫びました。

一国の猶予もありません。丸一日のうちに何があったと言うのでしょう。

 

「私の判断ミスですねっ......。」

 

そう、私は霧に入る前に霧に入るかどうかの決定を下していたことを後悔しました。

『ショートカット』だと言って突入したんです。ですがその時はこんなことになるなんて想像もしていませんでした。

 

「どこへ行ったの.......?」

 

私はマイクを返すとそう呟きました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昨日俺が大本営に出していた書類の返答が届いた。

結果は『M61ならばあるが、何れのミサイルも在庫はない』との事。どうして残ってないのかは分からないが、取りあえずM61がある事が確認できたのですぐにでも新瑞に請求書を書き、送ってもらうことにした。だが、どうして武装解除をした機体を置き土産として置いて行ったのかが謎だった。あるのならばつけておけばいいものをわざわざ外して置いて行ったのだろうか。

俺は悩んだ。

だがM61は請求できる。それさえあればどうにかなるかもしれない。そう考えたのだ。

 

「ガトリング砲はあったのか。大本営もケチなんだな。」

 

そう秘書艦のフェルトは横から覗きながらつぶやいた。別に悪意のある意味ではないだろう。だが、俺もそれは思ったしきっと白衣の妖精もこの連絡を訊けば同じことを思う筈だ。

 

「そうだな。早速取り寄せれないか書類を送ろう。」

 

俺はそう言って最後に書き終えた執務の書類を置くと、引き出しから紙を出して書き始めた。

 

「そう言えばMG151があるそうだな。」

 

「言ってたな。」

 

俺は紙に用途を書きつつフェルトの話すことを適当に相打ちを打った。

 

「その......だな。」

 

フェルトが珍しく歯切れの悪い様子だった。

 

「ん?」

 

俺は書くのをいったん中断して顔を上げた。そうするとフェルトはモジモジしながら言った。

 

「私の艦載機に換装させては貰えないか?」

 

そう言ってきたのだ。別に恥ずかしがることはないだろうと思ったのだが、どうやら頼むこと自体恥ずかしい様だ。

 

「換装するって......メッサーシュミットもフォッケウルフも十分上等な艦載機じゃないか。」

 

そう言うとフェルトは首を横に振った。

 

「メッサーシュミットはT型となっているが、元はE-4型。この機体の武装は20mmモーターカノン1門と7.92mm機関銃2丁。機関銃はいいのだが、20mmモーターカノンに使われているエリコンFF-20機関砲は貧弱なんだ。だから強力なMG151に変えたい。フォッケウルフは元は分からないが、A-5型だとするとこれもMGFF機関砲というのなので性能の良いMG151に変えたい。どうか頼めないか?」

 

そう言ってきたフェルトに俺は単純な質問を返してしまった。

 

「なぁフェルト。」

 

「なんだ?」

 

「モーターカノンって何だ?」

 

そう言うとフェルトはおろか、部屋に居たビスマルクたちもズッコケた。ちなみに朝潮も俺と同じで何か分かっていない様子。

 

「プロペラ軸の中心に銃口がある機関砲だ。機体軸に銃身があるために高い命中率を誇る。」

 

「成る程......。」

 

俺はそう言ってふーんとなったあと、取りあえず白衣の妖精と相談だと考えた。

 

「分かった。相談しておくよ。」

 

「ありがとう!これで換装できれば私の艦載機は艦隊に爆雷撃機を近寄らせない鉾となれるだろう!」

 

そう言ってフェルトは喜んでいた。

結果を最初に言っておくと、モーターカノン自体白衣の妖精も見るのは初めてらしく、組み込めるか分からないとの事だった。実験で1機の貸与を求めてきたので取りあえずフェルトに確認を取って許可を下しておいた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧島から連絡があったとのことなので俺は急いで地下司令部の通信室に来ていた。

 

「どうした?」

 

俺がそう訊くと霧島は一言だけ言った。

 

『作戦失敗です。』

 

「何故だ?」

 

俺は訊き返した。何も原因が告げられないまま作戦失敗を決められては俺もよくわからないからだ。

 

『リランカ島に向かう途中、霧に入ったところ、丸一日航行しても出れずにやっと出れたと思ったらリンガ泊地の前でした。それに......。』

 

霧島はどもった。

 

「それになんだ?」

 

『第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部がロストしました......。いつの間にか序列から離脱。連絡も付かない状態です。』

 

俺は衝撃を受けた。艦隊の約半数がロストしたというのだ。意味が判らない。

 

「戦闘は?」

 

『ありませんでした。ですが......霧を抜ける前にロストした艦の艦娘の無線を傍受してました。』

 

そう言った霧島は呟いていった。

 

『最上、至急のみが聞き取れました『せ』と『てきち』という言葉も聞こえましたが詳細は不明です。』

 

「そうか。捜索は?」

 

『今機動部隊の索敵機が飛んでますが、まだ連絡が無い様です。』

 

俺は頭を抱えた。

この状況、どうして起きたのか意味が判らなかった。霧島は艦隊を分断する事なんてしないはずだ。ならどうして艦隊が消えたのか......。何が起きたと言うのか。

俺は霧島に追ってまた連絡するとだけ言って通信妖精に第二護衛艦隊の旗艦である神通に繋げるように言った。

 

『ザザザザザザザッ......。』

 

ノイズが耳元で鳴り響く。

 

「なんだ......これ。」

 

俺はそう言って耳から受話器を離さずに聞いていると、段々声が聞こえてきて鮮明になった。

 

『こちら第二護衛艦隊っ!こちら第二護衛艦隊っ!』

 

「提督だ。神通、どうした。」

 

俺は落ち着きを払って神通に訊いた。

 

『艦隊が霧に入った途端、無線が使えなくなって今やっと霧を出て回復したところです!それよりも、第二護衛艦隊の鳥海さんと水上打撃部隊、機動部隊、揚陸艦がロストしたみたいですっ!』

 

そう言ったのだ。

 

「今どこに居るんだ?!」

 

『リランカ島です。閑散としていて、沿岸部には爆撃の痕がまだ残ってます。』

 

どうやら神通たちはリランカ島に到着していた様だ。

 

「先ほど霧島と連絡を取ったところ、霧島たちはリンガ泊地に戻ってしまっていた様だ。」

 

『えぇ?!同じ方角を目指して航行してましたよ?』

 

そう言った神通は嘘を言っている様には聞こえなかった。

 

「だが現実、リンガにいるんだ。そこに留まることは出来るか?」

 

『はい。ですが、霧がまだあります。』

 

そう言った神通の言葉にこれからどうするかを考え出した。今すぐに霧島たちを霧に入らせて、リランカ島に付くことを願うか、逆に神通たちを引き返させてまたリンガ泊地からリランカ島を目指してもらうか。一番安全なのは霧が消えるのを待っていくことだ。

俺は考えた結果、答えを出して神通に伝える。

 

「第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部はその場に残り周辺の安全確保だ。霧島たちが到着するのを待て。」

 

『了解しました。』

 

俺は受話器から耳を離すと通信妖精に霧島に繋げるように言った。

 

『霧島です。』

 

「提督だ。先ほど神通たちと連絡が付いた。どうやらリランカ島に到着していた様だ。これより霧島以下の艦隊は霧が晴れるのを待ち、晴れ次第リランカ島に迎え。」

 

『了解しました。』

 

俺は受話器を通信妖精に渡すと、溜息を吐いて頭を掻いた。

今回起きた自体はどう考えてもイレギュラーの一つと捉えていいものだ。同じ方向を向いていた艦隊がそれぞれ逆方面に着いた。聞いてみればちんぷんかんぷんで意味の分からない話だが、これまで色々な事を起こしてきた鎮守府である横須賀鎮守府ではそれはちんぷんかんぷんでもなんでもない。信じなければいけないものなのだ。

 

「ありがとう。また何かあったら呼んでくれ。」

 

俺はそう言って通信妖精に礼を言って通信室を出て行った。

 




霧の正体が分からないままですね。
これは後へ持ち越しです。
それと、フェルトの言っていた件ですが、自分で調べた結果ですのでもしかしたら違うかもしれません。

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