【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百一話  提督の苦悩⑪

「任務完了。帰投しました。」

 

そう言って並んでいるのは、俺がリランカ島に派遣していた護衛艦隊だった。

全員疲弊してないとは言い切れないが、鎮守府に数日開けたのは初めてらしくとても懐かしんでいた。数日いなかっただけだろうと始めてなら仕方ない。

 

「お疲れ様......戦勝祝いだ!と言いたいところだが、それは明日にしよう。よく休め、解散っ!!」

 

俺はそう言って解散を指示した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺のところに霧島が来たのは、帰還した時から4時間後だった。俺はてっきりすぐに来ると思っていたが、どうやら寝た後に来た様だ。

 

「司令。ご報告です。」

 

そう言って神妙な顔をして俺の前に立つ霧島は話し出した。リンガ泊地からリランカ島までの道中にあった出来事を。

 

「......ということがありました。」

 

報告は10分に及び、それまで霧島は途切れることなく話し続けた。

俺の方に報告があった高高度迎撃機と、霧にまつわる話を聞いたが、どれも俺が通信で霧島から訊いていたことと何ら変わりはなく、それ以上分かった事は無かったようだ。

 

「これは『イレギュラー』ですね。」

 

そう言った霧島の言葉を俺は否定した。

 

「いや、霧に関してはイレギュラーだが高高度迎撃機に関してはイレギュラーではないと考えるぞ。」

 

そう言って俺は立ち上がった。

 

「霧島たち護衛艦隊が帰還中、鎮守府に接近する編隊が居た。」

 

「何ですって?!」

 

俺がそう切り出すと霧島は過剰に反応した。

 

「その編隊は深海棲艦側のものと断定されたが、飛んでいる高度がおかしかった。高度12000m、これは富嶽が飛ぶ高度だ。」

 

そう言うと霧島は顎に手をやった。

 

「ふむ......富嶽が襲われた高高度迎撃機の編隊ですかね?」

 

「いや違う。大型戦術爆撃機級だ。」

 

そう言うと心底驚いた表情を霧島はして見せた。

 

「それはイレギュラーですね。深海棲艦は単発の艦攻・艦爆しか使いませんし、鎮守府が空襲を受けた時のも艦攻・艦爆でしたからね。」

 

「そうだ。だから俺は深海棲艦には大型戦術爆撃機なんてデカ物は持ってないと考えていた、が......。」

 

「あったということですね。」

 

そう霧島が言うと俺は頷いた。

 

「そこで何故俺が富嶽が襲われた高高度迎撃機がイレギュラーじゃないか考えた理由だが、考えられるのは1つ。『今まで確認できなかった』だ。」

 

そう言うと霧島はすぐに答えた。

 

「......震電改ですね。」

 

それだけ言えれば霧島も理解したのだろう。

震電改は俺がこの世界に呼ばれる前からこの世界にあったもの。だが、用途は艦載機だ。制空戦闘を行う戦闘機。だが、実際は高高度を飛ぶ迎撃機なのだ。これまでそう言う使い方をしてこなかったということだ。

深海棲艦とこちら側では艤装や装備面は同じで均衡が保たれている状態と考えると、深海棲艦の方に震電改にあたる艦載機があってもおかしくないと考えたのだ。

 

「そうだな。だからイレギュラーじゃないと言い......きれ......っ?!不味いっ!!」

 

俺はそう言いかけてパニックになった。

そう考えると富嶽を配備し、戦闘に使っている現状、深海棲艦側も大型戦略爆撃機の編隊でこちら側の艦娘たちを海上絨毯爆撃する可能性がある。というか、必ずその戦術を取ってくる。そして俺がパニックになったのは、『ジェット戦闘機』の存在だ。そして何故、滑走路や陸上機の事をすっ飛ばしたのかというと、既に陸上型深海棲艦は実在しているからだ。

 

「どうしたんですか?」

 

「あぁ。遂に格納庫にジェット戦闘機が配備されたんだ。今までの話を繋げると......。」

 

「まさか深海棲艦もジェットエンジンを搭載したものをっ?!」

 

「そう考えるのが妥当だ......。やってしまったよ。」

 

俺はそう言って頭を抱えた。なんてことをしてしまったのだ。ジェット戦闘機何てあちらに配備されたら面倒な事になる。だが、これまでの経験則からすると、これ以上の用途をしなければいいと言う事にもなる。

 

「と考えると、私たちが陸上型深海棲艦を攻めると......。」

 

「確実に迎撃機の中にジェット戦闘機が混じっている事になる......。」

 

俺はそう言って頭を掻いた。

 

「考えていても仕方ない。このことは他言無用で頼む。」

 

「了解しました。ですが、陸上型深海棲艦を攻める際には......。」

 

「分かっている。作戦に参加する艦娘のみに公開する。」

 

「はい。」

 

そう言って返事をすると霧島は出て行った。ちなみに作戦が終わったので執務室には番犬艦隊事ドイツ艦勢と朝潮はいない。それに秘書艦も今日は無いので来てなかった。こんな話、他の艦娘が居る前では出来ないからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

大本営に作戦成功を伝える書類を書きあげると俺はイレギュラーに関する報告をするかしまいか悩んだ。報告書に書き込んで一緒に送ってしまえば楽だが、そうしてしまってはどうも腑に落ちない。どう反応し、どう対応を取るかが気になるのだ。もしイレギュラーを報告するとなると内容は全てこちら側的に不利になる事ばかりだ。最新兵器を出せばあちらはコチラが用意する数の何倍も投入してくる。そんなんで現在の戦線を維持できるのか。結論を言えば『この戦乱は深海棲艦側の勝利に終わってしまう』ということだった。

だがそれは憶測に過ぎない。この先、どう艦娘を使った作戦を展開するかによって戦局は動く。殲滅できるか、蹂躙されるかどちらかだ。

 

(こんな話、直接伝えた方がいいに決まってる。)

 

俺はそう思い、報告書に紛れ込ませるのを止めて手紙に変えた。宛ては新瑞と総督だ。海軍のトップと大本営のトップならばいいだろう。そこからどうこの話を扱っていくか決めていける。

俺はペンを取り、書き始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は書類を書き終わり、秘書艦が居ないので自分で事務棟に出しに行った。特段変な事は無く淡々と進んだ。

時刻を見ると夕食にいい時間。俺がいつも早く行ってテレビを点けている時間だったので少し小走りで食堂に向かった。

食堂にはもうちらほらとテレビを見に来た艦娘たちが居て、俺が来るのを待っていた様だ。俺に無言のまなざしで訴えて来るのでリモコンでテレビの電源を点けて適当なチャンネルに変えておいた。

ボケーっと見ていると案外時間は過ぎるもので、もう夕食にいい時間になった。俺は間宮に適当に頼むと定位置に腰を下ろして頬杖をついた。その時、今かとばかりに俺の両脇に座ってきた艦娘が居た。ビスマルクとフェルトだ。どうやら自分たちにはこういう利点があってーとかいう売り込みと一緒に何かしないかという誘いだった。

普通に誘ってくれればいいものの、ずいずい来るので俺が引き気味になっていると俺の正面の席に金剛が座った。いつもならまだテレビの前に居る時間だと言うのに切り上げてきた様だ。

 

「ヘーイ提督ぅー。ご一緒しても?」

 

「いいぞ。」

 

俺は金剛を見るなりそう返事をしてビスマルクとフェルトに『やめろ』と言いながら遠ざけようとしていた。そんな様子を金剛はじーっと見つめて5分、遂に口を開いたのだ。

 

「何時から提督にそんなずいずい行くようになったのデスカ?」

 

そう言った金剛はニコッとしていた。

 

「あら、『番犬艦隊』として提督の警護をしていた時からよ。」

 

「私は別に......。」

 

そうそれぞれ真反対な回答をした2人に金剛は特段興味なさそうに『ふーん』と言ってまたビスマルクやフェルトの観察を始めた。

 

「私は魚雷発射管を積んでるから雷撃戦もできるわよ!」

 

「アトミラール。明日晴れていたら散歩に行かないか?雨だったらアトミラールのおすすめの本でも教えてくれ。」

 

そう俺の両脇で言っているのに対して俺は肩を狭めて応えていた。

 

「雷撃戦ができるのは知っているが、ドイツ艦勢の艤装はまだ身に纏うことしかできないじゃないか。それにフェルトの方は行ってもいいけど散歩って......。」

 

「艦として浮かばせることができればの話よ!」

 

「散歩だって寒空だが冬の空は空気が澄み通っていていいじゃないか。」

 

そう言ってくる2人に金剛がボソッと言った。

 

「提督の為に働けない様な艦娘は、提督の近くに居ちゃ駄目デース......。」

 

そう言ったのだ。それは2人にも聞こえていた様で急にビスマルクとフェルトは金剛の方を向いた。

 

「提督の為にって......貴女たちがリランカ島に出ている間、私たちは『番犬艦隊』として提督の近くに常にいたわ!何かあった時、提督の為に直ぐに動けるようにってっ!」

 

「そうだ。私だってアトミラールの補佐をしていたんだ。傍から離れない様に徹していた。」

 

そう言ったビスマルクとフェルトに金剛は答えた。

 

「提督の横に常に立ち、提督が執務室から出るときは常に全員が艤装を身に纏った状態で前後左右を歩き、提督にどう思われるのも顧みずに近くに居なきゃ『番犬艦隊』とは言えないデス。聞きましたヨ?執務室に行くとグラーフ・ツェッペリンは秘書艦席に座り、他はソファーでティータイムしてましたってネ。」

 

そう言って金剛はビスマルクを睨んだ。

 

「私たちが出て行って帰ってくるまで朝潮は何してましたカ?」

 

そう訊くとビスマルクは頭上にクエスチョンマークを浮かべながら指を折りながら答えた。

 

「執務室では提督の横に常に立ち、提督が執務室を出て行く時は必ず艤装を身に纏って付いて行っていたわ。それに提督がお手洗いに立った時は個室の前に立ち、お風呂の時は脱衣所の前に立ってたわ......。」

 

そう言うと金剛はどこから引っ張ってきたのか朝潮を膝の上に座らせて頭を撫ではじめた。

 

「『番犬艦隊』の任務を正しく遂行出来たのは朝潮だけデス。ここに移籍してきた時に訊きませんでしたカ?『番犬艦隊』について。」

 

「聞いてはいたぞ。アトミラールが胸を撃たれた事件の時、一週間『番犬艦隊』がアトミラールの身辺警護をしていたと。」

 

「そうデース。その時に『番犬艦隊』だった艦娘は聞きましたカ?」

 

「比叡、時雨、夕立、朝潮だったか?」

 

そうフェルトが言うと金剛は膝に乗せている朝潮の頭から手を離さずに言った。

 

「『番犬艦隊』としての任務を知りながらそれに従わずに、提督が執務をしている執務室でティータイムをしていたという訳デスカ?」

 

そう言った金剛はふんと鼻を鳴らして言った。

 

「赤城の人選は失敗デシタ。」

 

そう言って朝潮を膝から下ろして立ち去ろうとする金剛をビスマルクが止めた。止めた理由は明白だ。『番犬艦隊』に指名され、任務を遂行した筈なのになぜこのような事を言われなくてはいけないのか、ということだろう。

 

「ちょっと待ちなさいっ!貴女ねぇ、前任者がそういう行動をしていたのは知っていたけど何も今回もそんな行動しなくたって良いじゃない!私たちは提督の護衛をしっかりやり抜いたわっ!」

 

そう言うと金剛はツカツカと戻ってきてビスマルクの目の前に立った。

 

「護衛をティータイムしながらするなんて聞いた事ないデース。その護衛法はどこで習ったノデスカ?私にも是非ご教授下サイ。『SSの戦艦』殿。」

 

俺はこれまで黙って聞いてきたのは、俺には伝えられなかった艦娘同士の話だからだが金剛の言った『SSの戦艦』とはどういう意味なのか。そう考えているとビスマルクの顔はみるみる真っ赤になり怒りはじめた。

 

「なっ!?訂正しなさいっ!!」

 

「おおっと。それはごめんなさいネ、『SSの艦娘』。」

 

「貴女ねぇ!!?」

 

やっと俺の中で意味が判った。どうしてビスマルクが『SSの戦艦』や『SSの艦娘』で怒ったのか。それは『SS』はナチスの武装親衛隊の呼び方だ。ナチスの親衛隊は残虐な市民の殺害などをした集団だというネームバリューがある。たぶんそれに金剛は掛けたのだろう。

何故金剛がビスマルクたちが『番犬艦隊』としての任務をそこまで徹底してやらなかったのかを責めているのか分からないが、今の状況は見ていられるものではない。ビスマルク、果てやドイツ艦にとってこの呼び名はビスマルクの怒り方から見て侮辱以外の何物でもない様子だった。

 

「職務怠慢のいいところデス。与えられた任務も出来ないのデスカ?Sえっ」

 

そう言いかけた瞬間俺は割って入った。

 

「やめろ金剛。」

 

「デスガっ。」

 

そう食い下がってきた金剛に言った。

 

「禁句だ。その言葉は。」

 

俺は多分この時、金剛の目をいつもなら見ない目で見ていたのだろう。

いじめをして楽しんでいる人を見下した様な目、そんな感じだったはずだ。金剛は『ひぅっ......』とか言って俯いてしまった。

 

「ビスマルク、すまない。」

 

「何が?」

 

腕を組んで喧嘩腰になっていたビスマルクに俺は謝った。別に何に対してとは言わなかったが、俺はそうしたのだ。

 

「金剛が言った言葉だ。気にするな。」

 

「えぇ。」

 

ビスマルクは怒りを収めてくれた様でそのままさっき座っていた椅子に座った。フェルトは凄い形相で金剛を睨んでいたので取りあえずフェルトの目の間で手をパタパタさせてみると、こっちに戻ってきた。

 

「む?何だ、アトミラール。」

 

「フェルトも気にするな、いいな?」

 

「分かっているさ。」

 

そう言ってスッと席を座り直すと肘を付いた。

 

「しっかしフェルト。」

 

「何だ?」

 

俺はニカッと笑ってフェルトに言った。

 

「フェルトの睨んでいた表情、すっごい怖かった。」

 

「アトミラールっ!」

 

俺がそう言うとフェルトは頬を紅くして怒ったので笑って誤魔化して俺も席に座った。

 

「普通にしてたらいいんだから、あんな顔で誰かを睨むなよ?」

 

そう言って俺はリモコンをポケットに突っ込むと、ずっと立ちっぱなしで俯いたままの金剛のフォローをしてやろうと金剛に話しかけた。

 

「金剛?」

 

「......。」

 

俺が話しかけても返事をしてくれないので俺は食堂の普段使われない入り口の方に金剛を引っ張っていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

誰も使わないということもあり、少しカビ臭いが俺は金剛に話しかけた。

 

「どうしてあんなことを言ったんだ?」

 

そう訊くと金剛は長い袖を顔の方にやって、フリフリした。何をしているのかと少し観察するとどうやら涙を拭っているのか、鼻を鳴らしていた。

 

「グスッ......。」

 

「どうしたんだよ......。」

 

俺はそう言って頭を掻いた。こういった場面は何回か経験しているが、その時は大体金剛みたいに静かに泣かずワーワーと喚きながら泣いていたので少し面を喰らった。

 

「......(ゴシゴシ)」

 

「何も言わないのなら分からないぞ?」

 

そう言って言葉を掛けるが何も言わない。

どうしたのだろうかと困っていると金剛は小さい声で話し出した。

 

「だってぇ......ビスたちが『番犬艦隊』として提督の近くに居た時の事を聞いたら、悲しくなっテ......。私だって提督の傍にずっと居たいノニ......。」

 

「......それで酷く当たっちゃったのか?」

 

そう俺が訊くと金剛は頷いた。というか金剛はビスマルクの事をそんな風に呼んでいたんだな。

 

(唯の嫉妬か?)

 

俺は内心首を傾げつつ、頭に手をポンと置いた。

 

「だけどな、アレは言っちゃいけないぞ。」

 

「はい......。」

 

そう言って俯いたままの金剛にどうしてやろうかとオロオロしてしまった。

泣き出す場面には遭遇した事はあるものの、どう対応すればいいのか分からないのだ。取りあえず頭に手を乗せたままだったので撫でておく。

 

「金剛が泣くなんて金剛らしくないぞ。」

 

そう言って俺は手を離した。そうすると金剛は顔を上げて俺の顔を見た。目じりと鼻を紅くしていたが、泣いてない様だ。

 

「分かってマース。」

 

そう言って金剛は笑った。

 

「提督に撫でられたぁ~。」

 

「おい、片言どこ行った。」

 

俺は一変してふにゃっとした表情でアホ毛をピョコピョコされている金剛に冷静な突っ込みを入れてしまった。

 

「んふふ~。」

 

まぁ、こんな表情をしているのなら大丈夫だろう。俺はそう思い、食堂に戻った。

結局金剛はあの後、ビスマルクとフェルトに謝っているのを見た。が、ビスマルクとフェルトの詰め寄りに金剛が加勢したのは言うまでもない。

視界に榛名が入ったので目線で助けを求めたが苦笑いを返されたので、どうやら助けてもらえないらしい。

 




昨日は彼方此方行き来して大変でした(汗)
ホントに年始は忙しいです(白目)

さて、何だか纏まってしまいましたが一応『提督の苦悩』は終わりです。色々謎を残したままですが......。まぁ布石ということで勘弁して下さい。というか布石です。

案の定の最後でしたが、金剛の言った『SSの戦艦』やらはまぁそのままの意味ですので。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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