【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

117 / 209
第百六話  提督の知らない事

『親衛艦隊』この言葉を発したのは何時振りでしょうか。最近では金剛さんも鈴谷さんも落ち着いてきて監視の度合いを緩めたばかりですが、何時また豹変してもおかしくありません。

それは置いておいて、今日も私は提督に秘書艦を任されています。信頼を勝ち取っておいたのがここまで役立つとは思いもしませんでしたが、好都合です。昨日紛れ込ませておいた、新瑞さんへの手紙が混じって送られてきているかもしれません。私は朝食を摂る前に足早に事務棟を訪れていました。

 

「すみません。」

 

私は何食わぬ顔で事務棟に入り、、窓口で対応して下さる事務員さんから書類を今かと待ちました。

 

「今日の執務ですね。連続でお疲れ様です。」

 

「ありがとうございます。」

 

私はそれを受け取ると、いつもの調子を装い、事務棟を出ました。

出てすぐに周りに誰も居ない事を確認すると、抱えながら大本営の封筒をチェックし、異質な空気を纏った封筒を引き抜きました。そこには『赤城さんへ』と小さく裏にかかれているだけの、いつもの書類が入っているものと何ら変わらない封筒でしたが、私は懐にそれを仕舞いました。

 

(読むのはタイミングを見計らって誰も居ない時にしましょう。)

 

そう中を早く見たい衝動を抑えながら私は執務室に急ぎました。

そう言えば、昨日寝るまで考えていましたが新たに行動を起こさなくてはならないと考えていました。資源回収なんかの面で一人ではやはり苦しいと思い、協力者を得る事です。それに私は提督の為にと考えてきましたが、今一番すべきことはこんな戦争を早く終わらせる事。深海棲艦の大本を潰すしかありません。脈絡も何もありませんが、資金がどうとか人間とのパイプがどうとかも戦争が終わらなければどうにもなりませんからね。

 

(どう殲滅するべきか......富嶽は無くなってしまいましたからね......。)

 

私は執務室に戻る間そんな事を考えながら歩いていました。

着実に海域を奪回していくのが正当法でしょうけど、それではいつまで続くか分からないです。かと言って勝手に富嶽を使い始めてもイレギュラーに苦悩するだけです。現状を打破するには他の手を打つしかありません。

 

(深海棲艦と和平を結ぶとか?......いや、それはどうでしょうか。)

 

一瞬脳裏を過った方法ですが、余りに低確率すぎます。それに和平を結ぶにはよく生態の分からない深海棲艦と戦闘以外の物理的接触が必要です。ハイリスクハイリターンです。しかもリスクの方が大きいもの。

 

(ですがどんな手を使ってでもこの戦争を終わらせなければなりませんね。)

 

私は執務室に着いたので考えるのを辞めた。執務中に考えもしたら集中できませんし、提督に迷惑かけてしまうかもしれませんからね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷が裏で何をしているかの調査が終わりました。

何していたのかと思うと、どこにそんな大金を使うのかという金額を溜め込み、自分の艤装を勝手に改造していました。理由までは分かりませんが、何をしているのか......。彼女も私と同様、監視の目をすり抜ける術を持ってますが桁違いです。鈴谷は忽然と姿を消すらしいですからね。まぁ、私は目を盗んで何回かに分けてその場から離れるのがやっとですが......。

それは置いておいて、やっと私が作っていた地図が完成しましたっ!

地上設備から地下設備、工廠や他の棟の構造まで細部に渡ってリサーチした鎮守府地図。何故これを作ったかって?もちろん提督の為ですよー。それに合わせて私は艤装の妖精さんと一緒に外へ出るためのトンネルも掘っていたんですけどね。外でいろんなものを入手してくるという目的があるんです。まぁそれもこれも赤城が羨ましかったと言うのがありますね。

ある時を境に赤城は懐中時計を持ち始めました。肌身離さず、どこへ行くにも持ち歩いてました。何故そんなものを持っているのか分かりませんが、大体予想がつきます。

運動会の時の景品で言ったんでしょうね。何て言ったかは分かりませんが、懐中時計を手に入れたに違いありません。運動会の景品ということはつまり提督から貰ったもの。赤城だけそんなのズルいです。

おぉっと、話がズレました。完成した鎮守府地図の用途は私の直感が必要だと言っていたからです。理由は分かりませんが、とにかく必要なんです。トンネルの用途は全体に休暇を出さないと丸々一日休めない提督の為に少しの用でも外に出れるためのトンネルですね。というのは建前で外の情報収集の為です。トンネルは一応外への入り口がありますが、入り口のところは妖精さんと協力して部屋みたくして、集音機やらを置いたりモニタを置いたりしてます。

 

(何故情報規制やらをしているか分かりませんが、私たちは何時までも籠の中の戦闘兵器じゃありません。)

 

トンネルの奥は情報収集用の部屋兼外へ出るための入り口なんですよね。

かなり掘り下げてから掘ったトンネルなのでそうそう崩れる心配もないですし、鎮守府側の入り口も分かりにくいところにあります。これを使い始めるにはまだまだ準備が足りませんね。テレビと電気、せめてトイレを設置しなくては......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は怖い顔をして入ってきた霧島に少しビビりながらも執務を続けていた。

俺の勝手な思い違いかもしれないが、鎮守府内部が変化している様に思える。『近衛艦隊』、『親衛艦隊』なんて言葉を発する事もなくなったし、赤城の様子も少し変だ。昨日からだけど......。

そして今日、霧島が怖い顔をしている。誰かと喧嘩でもしたのか、そんな考えが頭を過るが仕事に私情を持ち込むのだろうか。

 

「司令。」

 

俺がそんなことを考えていると、いきなり霧島に話しかけられた。

 

「なっ、何だ?」

 

俺は少し驚いてそう返すと霧島が俺の近くに来て書類を渡すそぶりを見せながら俺に小声で言った。

 

「赤城さんを追い出してください。聞かれたくない話をしたいので。」

 

そう言われて俺は有無も言わずにそうすることにした。霧島がこんなことをするのは初めてだ。こんなことをしなければならない程の話があるということだろう。

 

「赤城、『特務』だ。」

 

「了解しました。」

 

最近の赤城の特務は『艦載機の一番攻撃に使える戦術を考案する事』だ。これは艦載機の種類やなんかが増え、それに深海棲艦に対して俺たちは戦術や練度を武器にしていくつもりだ。経験豊富な赤城に戦術考案を頼むことで指揮する艦娘が直接考えた方がいいと思ったからだ。俺でも教える事が出来なくはないが、俺が教えれるのは戦闘のテクニック。それも実戦で使えるか定かではない事と、それぞれのテンプレの戦い方だけだった。

赤城は見ていたファイルを閉じて紙に書き始めた。

 

「編成は旗艦:赤城、扶桑、山城、五十鈴、雪風、島風で行きます。」

 

「分かった。招集し次第、出撃。」

 

「了解。」

 

赤城は俺に紙を見せて行くと執務室を出て行った。赤城が出した編成は、俺が赤城に『特務』を任せると絶対に連れて行く艦娘たちだ。話はしてあるらしく、それぞれの艦との連携も想定しているらしい。

赤城を見送った後、霧島が俺の前に立った。

 

「ここの人払いをする程の事でもあったのか?」

 

そう訊くと霧島は写真を数枚出してきた。そこには隠し撮りだろうが、赤城と金剛が映っている。

 

「何だこれは。」

 

そう俺が問うと霧島は怖い顔のまま言った。

 

「青葉さんに頼んで調査して貰っているんです。それがこの結果です。」

 

そう言って霧島は写真の中から赤城の映る写真を俺に見せてきた。

 

「赤城さんが何かを始めました。急にです。」

 

そう切り出した霧島はつらつらと説明を始めた。

 

「昨日、赤城さんは吹雪型の私室を訪れて鎮守府の見取り図を借りて行ったそうなんです。いきなりどうしたのか不安になった吹雪さんが私のところに見取り図なんか何に使うのか聞きに来たので発覚しました。そこですぐに青葉さんに頼んで調査を開始、今朝までやって貰ったんです。」

 

そう言って霧島はどうやら時間列で写真を並べ始めた。

 

「昨日、鎮守府の見取り図を受け取った赤城さんは私室に戻り相部屋の加賀さんが居ない事を確認して見取り図を見始めました。その後、見取り図を仕舞い、寮から出て埠頭の横にある林に入ったんです。行先は小屋。小屋に入るとすぐに出て、執務室に向かいました。この時、執務室には司令はいませんでした。司令の居ない執務室に入った赤城さんは机から便箋と封筒を持つと私室に戻って行ったんです。」

 

霧島が言っている意味がほとんど理解出来なかった。何故、吹雪に見取り図を借りただけでこんなに疑われて内偵されているのか。だが、まだ続きがあるようだ。

 

「赤城さんは私室で何かを便箋に書くと封筒に入れて封をして提督が大本営に提出する書類にその封筒を混じらせたんです。」

 

そう言って霧島は俺に最後の写真を見せた。それは赤城が袖に封筒を入れている写真だ。袖に居れた封筒は大本営の封筒。だがいつも何が入っているか書いてある封筒なのに、何も書かれていない封筒を赤城が袖に入れたのだ。

 

「そして赤城さんは内容の書かれていない大本営からの封筒を袖に入れました。」

 

そう言って霧島は赤城の写真を纏めて言った。

 

「何をし始めたんでしょうね?赤城さんは。提督は赤城さんから何か聞いてないですか?」

 

「いいや、何も。」

 

俺も今初めて知ったことだから分からないが、多分それは霧島も分かっていただろう。確認の意味も含めて聞いていたんだろう。

霧島は赤城の写真を脇に置くと、今度は金剛の写真を広げた。こっちはうって変わって暗い写真が多いが、何故だろうか。

 

「こっちの金剛のは?」

 

「はい。金剛お姉様が何をしているのか発覚したのでその後報告に......お姉様は鎮守府の細部の見取り図を作っていました。私たちが知っている道や、知っているけど使われていない道、知らない道、知っているけど使ってない部屋、知らない建物、知らない部屋......。本部棟だけかと思いましたが、鎮守府にある施設ありとあらゆるところものを作っていたんです。

 

そう言って霧島は広げなかった写真を俺に渡してきた。

その写真に写っていたのは地図を映した物らしいが、そこにある道や部屋は鎮守府の外に伸びているのだ。

 

「予想ですが、お姉様は鎮守府の地下にトンネルを掘ってます。」

 

そう言った霧島の言葉に吹き出しそうになるのを抑えつつ、用途を訊いた。

 

「よっ、用途は?」

 

「分かりません。ですが、鎮守府の外に出ている道の先にある大きな空間。これは部屋を意味しているのだと思いますが、何に使うか分かりません。」

 

そう言った霧島に俺は訊いてみた。

 

「なら金剛が最近買った物から分からないか?」

 

そう訊くと霧島は顎に手をあてて考えだした。答えはすぐに出た様で、指を折りながら順に言っていった。

 

「紅茶の茶葉、つまめるお菓子、写真立て、お洋服......。」

 

そう答えるのはいかにもって感じのものばっかだった。

 

「なら電子機器というか機械だけで絞って思い出してくれないか?」

 

そう言うと霧島は結構時間が掛かった様子だが答えた。

 

「マイクとケーブル、CDレコーダー、CD、ヘッドホン......くらいですかね?」

 

そう言った霧島に率直な意見を言った。

 

「何か録音するんじゃないのか?」

 

俺がそう言うと霧島は首を横に振った。

 

「私もそう思いましたが、違いました。CDレコーダーみたいなのは元からありますし、ヘッドホンも......CDなんて未使用の録音用のでした。それに酒保で買ったその日は部屋にありましたが、次の日にはなくなってましたし......。」

 

そう言った霧島の言葉を整理してどこにやったかを考えるのは容易い事だった。

 

「多分トンネルの奥の空間だろうな。」

 

「私もそう思います......。」

 

そう言って何かを思い出したかのように霧島はある事を言った。

 

「そう言えばお姉様がこの前私服を持って出て行こうとしていたを見かけたことがありました。多分、トンネルの奥の空間でしょうね。」

 

そう言って霧島はポンポンと色々な事を思い出しては俺に言っていった。軍手を干してるのを見たと比叡から訊いただとか、鎮守府の倉庫からスコップを持ち出しているのを誰かが見ていただとか......。全部出すとキリがないくらいに色々な目撃証言があったのだ。そして最後に行き着く先は全て『トンネル』だった。

 

「霧島。」

 

「はい。」

 

「金剛の金の動きに注意しろ。」

 

「了解しました。」

 

俺はそう霧島に言うと広げていた写真を霧島に纏めて渡した。

 

「調査続行だ。」

 

そう言うと霧島はまだありそうな顔をしていた。

 

「ん?まだなんかあるのか?」

 

そう訊くと霧島はあの名前を口にした。

 

「それと次いでに鈴谷さんの事ですが、未だに何をしているのか把握できてません。」

 

「そうか......。」

 

序の様に鈴谷の報告もされたが、無いようなら報告しなくてもいいだろうにと思いながら外を眺めた。

こんな時にアレを言いたくなるな。

 

「空はあんなに蒼いのに......。」

 

「扶桑さんの口癖映ったんですか?」

 

俺は窓から外を眺めてそう呟いた。

 




いやぁ......ここの話ってシリーズにした方がいいのかと思っちゃいますね。話が結構アレですので......。

遂に金剛の行動も明らかになりましたが、他の2人に比べてまた違った動きですね。それと霧島が青葉に内偵を頼んでいるのがなんというか......。

ご意見ご感想お待ちしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。