【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八話  三つ巴② 赤城編その1

「鈴谷さんが......そんな事を?」

 

「はい。」

 

肝が冷えました。

『近衛艦隊』幹部で説得が出来ずに未だに野放しになっている1人です。そんな鈴谷さんが携帯火器を所持している......つまり、艤装無しでも攻撃ができるということです。ただ、私たち艦娘は人間用の携帯火器の使い方なんかは分かりません。鈴谷さんが人間と同じように使えたら脅威ですが、使えないと考えた方がいいでしょう。

 

「......私は鎮守府で手に入らないもので何かしようという訳ではありませんよ?」

 

「そうですね。私に持ち掛けてきたのも、『資金調達』と『パイプの確保』でしたし。最も、『パイプの確保』は終わっている様ですが。」

 

私はそう言って笑う加賀さんを尻目に、協力者について考えました。

当初の予定通り、加賀さんと相談しながら協力者を選別、話を持ち掛けましょうか。ですが話は加賀さんにしたのと同様、提督の事は何も言いません。これだけは言ってはいけないのです。

 

「取りあえず、協力者を増やしましょう。リストから選び出して、声をかけます。」

 

「はい。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

加賀さんとの相談の結果、私が予定していた通りのメンバーになりました。夕立さんと時雨さん、彼女たちに接触して話を持ちかける事になります。

ですので今は私は資料室に向かっています。多分そこなら夕立さんか時雨さんのどちらかが居る筈ですからね。

私は資料室に入ると、いつもなら物語が置いてあるところに行きますが、今日は戦術指南書のところに行きます。そこに行って人影があれば十中八九夕立さんか時雨さんですからね。

 

「時雨さん。」

 

やはり居ました。どうやら夕立さんは居ない様ですが、予想通り時雨さんは戦術指南書を読んでいました。

 

「僕に何か用かい?」

 

「えぇ。」

 

私がそう答えると、時雨さんは戦術指南書を閉じて立ち上がりました。

 

「物騒だね。」

 

そう時雨さんは言い出しました。

 

「何がですか?」

 

私がそう訊くと時雨さんは私の背後を見ました。

 

「加賀を連れてる。でも今の加賀はまるで『近衛艦隊』の加賀だ。」

 

そう言った時雨さんに加賀さんは何も言いませんでした。見透かされてるのかと一瞬思いましたが、結局話すのなら変わりません。

 

「そうかもしれませんね。......ここでは話しにくいです。人気のないところにでも行きましょう。」

 

私はそう言って人気のないところを探し始めた。と言っても何処に行っても艦娘はいるので結局、私たちの私室に行きました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「それで、話ってなんだい?」

 

私たちの部屋に着いて座った時雨さんはそう切り出してきました。

 

「えぇ、少し『協力』して欲しい事があるんです。」

 

そう私が答えると、突然時雨さんは部屋を見渡しはじめました。何をしているのだろうと、少し黙って見ていると突然立ち上がり、ある場所に立ち止りました。

 

「ネズミが居るみたいだ。」

 

そう言って時雨さんが見ていたのは、押し入れでした。そこには布団しか入っていませんがそこにネズミがいるのでしょうか?

 

「追っ払っていいかい?」

 

「えぇ。」

 

そう言った時雨さんは『失礼するよ。』と言って押し入れを開くと、布団の置いていないところに入り、止まりました。何をしているか分かりませんが、数十秒するとひょっこり戻ってきたので私は話し始めました。

 

「提督への戦中・戦後の待遇の改善と、もしもの時の為の資金の調達を私たちはしています。時雨さんも協力して下さいませんか?」

 

そう私が言うと時雨さんの瞳が私の目をまっすぐと捉えたまま何も言いません。

 

「あの......?」

 

「......ごめんね、少し考え事していたんだ。......赤城の話、かなり端折って言ったみたいだけど、要するに僕に協力を頼んだのは『資金調達』かな?」

 

そう言った時雨さんは笑いました。時雨さんはたった数秒でそれを判断したみたいです。流石です。

 

「その通りですね。」

 

「だと思ったよ。......資金調達の方法は大方、僕たちが回収してこれる資材を余分に持ってきて蓄えるってところかな。必要になった時にどうにかして人間に売りつけてお金にする......合ってる?」

 

「はい。」

 

私がやろうとしていた手口とほぼ正解でした。ですが残念、必要になったら売りつけるのではなく、一定数溜めて売りつけるんです。

 

「......分かった、協力するよ。」

 

そう時雨さんは言ってくれました。

 

「ありがとうございます。」

 

「だけどさ......。」

 

喜んだのも束の間、時雨さんはそう切り出してきました。

 

「待遇の改善って一体何さ。」

 

そう言った時雨さんは自分のポケットから何かを出して私に見せてきました。

それは多分提督の私室にあったものだろう。正式書類だけど私の見たことない書類でした。

 

「これは提督の給与明細だよ。提督は異世界から連れてこられた存在だけど一応働いているからね。」

 

それを私は受け取りました。そこに書かれていた数字を見て一瞬息が詰まりました。

桁がおかしいのです。私、正規空母が人間から貰っている給与は大体月に30万程。基準は海軍軍人らしいですけど、よくシステムは分かりません。ですけど、提督の給与はその桁の2こも3こも違います。

 

「提督はこれだけのお金を貰っているんだ。......普段の様子を見てるとありえないことだけどね。それに鎮守府に大本営から地上設置する兵器が届いた事もあったね。あれ、提督が申請してるんだよ。」

 

そう言って時雨さんは少し息を整えました。

 

「あんな数、一基地の司令官が軍の司令部に願書を出してもそうそう出てこないよ。つまり、提督が頼んだことは多少無茶でも大本営は叶えてきたと考えていいんじゃないかな?運動会や文化祭(仮)も事前に大本営に許可を取っているはずだし。」

 

私は時雨さんを侮っていました。ここまでの情報を掴んでいる事に。私は知る由もなかったことばかりでした。

 

「だから戦中での待遇を改善する項目が見当たらないんだ。それに戦後もだけど、戦中でこれだと戦後も心配しなくていいと思うよ。」

 

そう言ってくる時雨さんに少し心が折れそうになりましたが、私が改善しようと思ったのはそこじゃありません。

提督の背負っている物を少しでも軽く、そして一刻も早く戦争から解放して提督のいらっしゃった世界に少しでも近付けてあげたいんです。

 

「私はそう言ったところを改善するとは言ってませんよ?別のところです。」

 

私はここでしまったと思いました。『別のところです。』なんて言ってしまえば......。

 

「じゃあどこを改善するんだい?」

 

時雨さんは私の想像通りの返しをしてくれました。

私はこの瞬間、脳裏に焼き付いた提督の声とアノ声が聞こえてきました。

 

『帰れないか......。』

 

『今更帰りたいなんて言えない......。』

 

『奪った。』

 

『ウバッタ......。』

 

『返して。』

 

『カエシテ......。』

 

ガクガクと震え始める足を戒めて私は必死に堪えました。そんな姿を見て加賀さんは心配そうにしています。

 

「どうしたの?」

 

そう訊いてきた加賀さんの困った顔を見て私は言う覚悟をしました。あの時、私が見た物を。

ただ気がかりなのは、加賀さんです。加賀さんはそれを訊いて耐える事が出来るのか、それが唯一の心配事です。

 

「いえ......ならば説明しましょう。その前に、今から私が言うことは誰にも言ってはいけません。」

 

そう私がやっと震えの止まった足を擦りながら言うと時雨さんが訊いてきた。

 

「何故駄目なんだい?見たところ夕立にもこの話を持ち掛けるんだろう?」

 

案の定の質問だった。

 

「どうしてもです。」

 

そう言って私は話すことが怖かったですが口を開きました。

 

「私が何故この様な事を始めたのか......。きっかけは言わずとも分かりますよね、提督です。」

 

静かに加賀さんと時雨さんは聞いています。

 

「私はお二人に『提督への戦中・戦後の待遇の改善と、もしもの時の為の資金の調達』という様な説明をして協力を頼んでいますが、違います。」

 

 

 

 

「全ては提督の、これからの為の準備です。」

 

 

 

 

そう言うとお二人はぽかんとしました。

 

「いや、それは分かってるって。」

 

そう時雨さんが言ったので私は言い変えました。

 

「すみません。なら私がこれを始めた経緯を説明します。......お正月の朝、提督がお雑煮を食べながら涙を流していたのを見ましたか?」

 

そう訊くと加賀さんも時雨さんも頷きました。どうやら見ていた様ですね。

 

「提督は『何でもない。』とおっしゃってましたが、私はどうしても気になったのでその後執務室に行ったんです。そしたら普段開いているはずのない提督の私室の扉が開いていました。」

 

そう言うと加賀さんは少し驚いてました。

 

「ずるいわ、私も見てみたいです。」

 

そう言った加賀さんに『話を訊こうよ。』と抑える時雨さん。

 

「私は不思議に思って入ってみたんです。提督の私室は綺麗にされていましたが、靴が脱ぎ捨てられていて、布団がこんもりしていました。」

 

そう言うと時雨さんは不思議そうな表情をしました。

 

「それはおかしいな。提督は靴を揃えて脱ぐはずだけど......。」

 

私は内心そうなのかと思いつつ続けます。

 

「普通に入っていったので提督も気付くと思っていましたが、気付いて起き上がりもしませんでした。そして声をかけようかと思った時、

 

 

 

 

『帰れないか......。』 『今更帰りたいなんて言えない......。』

 

 

 

 

そう仰っていたんです。その声は普段からは考えられないような弱々しい声で、その姿はとても小さかったんです。」

 

そう言うと時雨さんはフラッと身体を揺らしていました。

 

「その時私は悟りました。『90人近い艦娘と門兵さん、事務棟の方々、酒保の方々を引っ張ってきた提督がこんなにも弱々しいのか。』『いつも私たちの知らないところではこんな風になっているのか。』と。その時、提督が持っていらした本の事を思い出したんです。提督が持っていらした本は提督曰く参考書というもので、私たちでは到底理解できない高度な事を学んでいました。そして噂で聞いた『提督が学校に通っていたが、こちらの世界に来てしまった。』と。それらを結び付けた先に見えたのは......。」

 

「そうか......。」

 

時雨さんはここまで言って理解できたのかもしれません。あの時悟った私のようになっています。

 

「そして『帰りたい』という意味ですが、きっと家族や親せき、友人と引き離されて知らない世界で軍隊を指揮し敵を殺せと半ば強要のような形で鎮守府で指揮を執っていた提督の本音なのではないかと考えました。」

 

私はこの最後の言葉はどうしても言いたくありません。ですけど、これを言わなければ私をこの様な提督を困らせてしまう様な行動までさせるものになりません。

 

 

 

 

 

 

「そして、私は思ったのです。≪この提督の姿を見ては許されない、この様に提督を苦しめているのは紛れもなく私たち、艦娘なのだ。≫と。そして私たちが求めた提督の存在は求めてはいけない存在で、≪私たちはこれまで私たちの為に尽力してきた提督の将来をこの手で握りつぶしてしまったのか。≫そう考えたのです。」

 

 

 

 

 

そう言い切った瞬間、加賀さんが脂汗を額から流しながらガクガクと震え始めていました。そして時雨さんも加賀さんほどではありませんが、さっきから『あっ......あっ......。』としか言ってません。

この状況、私はあの光景を見て逃げ出して布団に潜った時の私と同じ状況なのでしょうか。私はそんな2人をどうする事も出来ませんでした。

聞こえているか分からない2人に続けて言いました。

 

「だから私は決めたのです。この戦争を一刻も早く終わらせ、帰る家のない提督の為に手を尽くし、最期まで提督の為に動き、傍に居続けると。」

 

そう言い切ると時雨さんは焦点の合ってない目で私を見つめて言いました。

 

「そんなの......。出来ないっ!?僕たちがあれだけ焦がれた提督が僕たちのせいで苦しんでいるだってっ?!僕たちが求めたから、僕たちが......提督から将来を奪った?!冗談だろう?......赤城っ!!?冗談だろうっっ!!!???」

 

そう言って私の肩を掴んで揺らしている時雨さんに私は溢れそうになる涙を堪えて言いました。

 

「冗談ではありませんっ!......提督が着任する時、私たちは置かれている状況全てを話し、その上で私たちの指揮を頼みました。......提督はその場で帰る選択を棄て、私たちの指揮をして下さるとおっしゃったのです。」

 

時雨さんはそう言うと私の肩から手を放しました。

 

「それなら提督は自ら自分の未来と捨てたとも言えるんじゃないかっ!?」

 

そう言って時雨さんは今度は目を腫らして私に怒鳴りました。

 

「いいえ......。」

 

もうここまで来てしまったら白状してしまおうと私は決め、それを言ってしまいました。

 

「その時、私たちは頼んだと言うより説得した、懐柔した、同情してもらったと言った方が正しい方法で提督に着任して頂いたんです。」

 

そう言うと時雨さんは座りなおし、私の目を見ました。

 

「私たちは嘗て人間たちに救世主と崇められ、その後に籠に囚われて戦争をさせられていると言ったんです。......汚いやり方で、提督の同情を誘ったのです。」

 

そう私は言って目を閉じました。

 

「結果論ですが、その時私は何も知らなかったんです。皆が楽しみにしている事を思い、私も指揮をして下さる提督を欲した、だから提督をどうしても鎮守府に迎えたかった。ですが、それはしてはいけなかった事なのです。」

 

目を開くとフラフラとしている加賀さんと目を真っ赤にしている時雨さんが居ました。

 

「だから、決めたのです。奪ってしまった物を私が返すことのできる精いっぱいのものを返すのです。この身が朽ち果てるその時まで......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

フラフラしている加賀さんを正気に戻して、時雨さんの目の腫れが引いてから話を再開しました。

 

「ですからもう一度頼みます。どうか、手を貸してくださいっ!」

 

私はそう言って頭を下げました。いえ、土下座ですね。

 

「どうかっ!」

 

そう私が言うと顔を上げて下さいと加賀さんから言われました。

 

「私も......提督の将来を奪った一人です。私もやります。」

 

そう言って下さいました。

 

「僕も......同罪かな。やるよ。」

 

時雨さんもそう言って下さいました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

時雨さんは夕立さんにも声を掛けると言って下さいました。どうやら資料室に来た時点で分かっていた様で、『僕か夕立が居る事を狙ってきたんだろう?』と言ってました。

これで資金調達は問題なくなりました。秘密裏に資源を集めて売りさばき、資金にするのです。

それと、新瑞さんと一度話をしなくてはなりませんね。もう一度、大本営に送りましょうか。幸い、当分の間私と霧島さんが秘書艦なのでタイミングを見計らってやりましょう。

 




今回のシリーズからは3視点+αで行こうと思います。それぞれ赤城編、鈴谷編、金剛編とやりつつ、提督編も出そうと考えています。
それと、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、近々第二章に入ります。どのタイミングで入るかはお楽しみに。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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