【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
「提督っ!」
私は執務が落ち着いたところで提督に声を掛けました。
「ん?なんだ?」
背伸びしながら応えて下さる提督に私は進言します。
進言すると言っても嘘を吐くんですけどね。始めて真正面から嘘を吐きます。これまでは間接的に色々として提督から大目玉食らったことがしばしばありましたが、この嘘はいつもみたいな嘘でなく、本気の嘘。言ってて意味が判りませんが、必要な嘘なんです。
目の前の提督の為に......。
「執務も終わり、私も手持無沙汰になってしまったので『特務』に出てもいいでしょうか?」
言ってしまいました。
『特務』。艦載機の適切な運用法や、効率の良い迎撃方法や攻撃方法などを模索する任務です。提督は私に対して『特務』と称して普段しない任務を私に任せます。これは信用から私に頼んでいるらしいのですが、今回はすみませんっ!信用を裏切るような真似を......。
「いいぞ。編成は任せる。赤城の好きなようにするといい。」
そういつも仰ってくれます。
ですので私はいつもの出撃編成表を1枚取ると、ボールペンで名前を書き込んでいきます。旗艦に私、随伴に加賀さん、時雨さん、夕立さん。夕立さんに関しては時雨さんからの連絡で協力を取り付けたとの事なので編成に加えました。
「ん......おい赤城。」
提督は出撃編成表をご覧になるとすぐに私にそう声をお掛けしまた。
「はっ、はい。何でしょうか?」
私はいつものように出て行けるとばかり思っていたので後ろを向いていた姿勢から、元に戻しました。
「随伴艦はこれでいいのか?」
そう提督は私に尋ねてきたのです。
「はい......今回は護衛が少数の場合を想定してでの『特務』です。今までの問題点を引き出します。」
「そうか、分かった。」
何とかその場を繋ぎ合わせる嘘を言えました。我ながら良く思いついたと思います。こんな理由、ポンポン言えたらいいんですけど......。
「では行ってまいります。」
私はそう言って執務室を後にしました。
ーーーーー
ーーー
ー
海上に出た私たちは資源の採る事が出来るポイントを転々とし、資源を回収して回りました。
普通は駆逐艦や軽巡洋艦が運びますが、今回は私たちの艤装を利用しました。空母の艤装、格納庫には空きスペースがいくつかあるんです。そこに資源を入れたドラム缶を積み上げます。スペースの面積的には時雨さんや夕立さんが運ぶよりも遥かに効率がいいはずです。
私たちはそうやって弾薬以外の資材を集め、途中で高速建造材や開発資材を拾ったりしながら燃料ギリギリまで回って帰還しました。
私たちの『特務』は一応、提督への報告はするのですが、何時でもいいということになっています。ですので、埠頭に着いてから私は加賀さんと時雨さん、夕立さんと一緒に私の艤装の格納庫に並べてある資材を見に行きました。
(こんな量......凄いですね。)
私たちの眼下に広がったのは壁が見えないドラム缶の山です。それぞれに何が入っているのか分かるようにラベルが貼ってありますが、多すぎて数える事が出来ません。
「赤城さん、資材はどうしますか?」
そう私の耳元で言ったのは格納庫妖精さんです。資材の搬入を頼んでいた妖精さんです。
「艤装から下ろして、埠頭の目の前の林にある小屋まで移動させます。ですが、私が良いと言うまで始めないで下さいね。」
私はあまりの資材の多さに小屋に入りきるか不安になりましたので、小谷の大きさを確認しに行きました。
小屋は私と加賀さんの私室ほどの大きさで、平屋、一部屋。とてもじゃありませんが、あの資材を置くスペースがありません。
どうしましょう......。
「ここが小屋なんですね......。」
ついて来ていた加賀さんがそう言いながら見渡しています。
「アレを仕舞うには狭いわ。」
そう言って加賀さんは小屋にあった椅子に腰を掛けました。
「......確か工廠に隣接する格納庫。富嶽とかが入っていたところは?」
「もう取り壊されてます。」
大量に資材を手に入れたのに、保管場所がなくなってしまいました。
私は考えを巡らせます。吹雪さんが持っているファイルみたいに詳細には覚えてませんが、まだ鎮守府には手つかずの施設があったはずです。
「......警備棟、警備棟はどうかしら?」
加賀さんはそう言って立ち上がりました。
「警備棟?あそこは門兵さんが......。」
「いえ、地下牢です。一度入ったことがありましたよね?」
「はい。」
加賀さんは説明してくれました。
加賀さん曰く地下牢は鎮守府が鎮守府として機能する前からあるらしく、今使っている地下牢は一部に過ぎないということです。
そして使われてない地下牢があるといいます。
「使われてない地下牢......ここの地下にありますよ。たぶんですが......。」
そう言って加賀さんは小屋の中をウロチョロし始めました。そして何かを見つけ、開くとそこには大きな階段がありました。たぶんここが地下牢の入り口なんでしょう。
「地下牢は私たちがこの鎮守府を使い始める2年前くらい前までは海軍の人たちが管理していたので、そこまで汚れていないはずです。」
そう言って加賀さんは階段を下り始めました。私はそれを慌てて追いかけていきます。
中は薄暗く、少しじめっとしています。少し進むと加賀さんは立ち止り壁を触り始めました。そうするとパチッと言う音と共に電気が着き始め、廊下を明るく照らしていきます。
「おぉ......。」
「やりました。」
加賀さんは自信気にそう胸を張っています。
「ですけど加賀さん?」
「はい。」
「どうしてここの事を知っていたんですか?」
私が単純に思ったことです。こんな施設の存在は吹雪さんの持っていたファイルにもありませんでした。しかももしこの施設を知る事が出来るのだとしたら、秘書艦として提督の執務を手伝う他ありません。
「ここは『近衛艦隊』の会議場所でした。最も、今は開かれてませんけどね。」
そう言って加賀さんは地下牢の一つの牢の中を指差しました。そこにはすのこの上に茣蓙が敷かれ、その上に机が置かれていました。
「そうなんですか......。かつてのメンバーがココに来ることは?」
「ありませんね。私物を置いて行くことは禁止されてましたからね。それにこんなじめっとしたところに好んで来る様な娘はいませんよ。」
そう言って加賀さんは戻り始めました。
階段を上がり、小屋から出ると私と加賀さんは私の艤装に戻り、妖精さんに伝えました。
「埠頭のすぐそばの林の中に小屋があります。そのなかにある階段を下って行ったところにお願いします。」
「分かりましたっ!」
妖精さんはそう言って作業を始めました。妖精さんが作業を始めると、ドラム缶は次々と運び出されていきます。
今説明しておきますが、鎮守府には妖精さんが通る専用の道があります。そこは私たち艦娘や人間には見えないところにあるとのことです。場所は教えてくれませんでした。
底を使って運ぶことで、不審に思われる事無く運び込むことができます。
「それにしても凄いね。」
時雨さんは妖精さんが運んでいく姿を見てそう言いました。
「あんな大きなドラム缶を運び出すなんて......。」
どうやら感心していた様です。多分この場に居る全員が同じことを思っているに違いありません。
ーーーーー
ーーー
ー
私は資材の運び出すのを見届けると報告の為に執務室を目指していました。その最中、艦娘の中でも珍しい色の髪を靡かせている鈴谷さんを見ました。
進水当初は鎮守府のあちこちで見かけると評判だった鈴谷さんも今では誰もどこに居るのか分からない様になってしまいました。提督の秘書艦として就いている特典として提督とお食事を共にする際はよくというか毎回見かけますが、それ以外で見たことがありませんでした。
私は好奇心で鈴谷さんの背中を追い始めました。
鎮守府を迷うことなく歩き、私が始めてくる区画に入りました。ここは鎮守府として機能する以前に使われていたところです。今では物置や捨てるに捨てれない機密文書が山積みになっているという風の噂の区画です。
そこで鈴谷さんはある部屋に入りました。そこには『第三会議室』と書かれたプレートが掲げられています。きっと会議室として使われていた部屋なんだろうと思ったのと同時に、何故こんなところに鈴谷さんは来たのかという疑問が芽生えました。
普通に秘書艦としてでもここの区画は使わないというのに、普通の艦娘がここに一体何の用なのだろうか。私は直接訊こうかと思いましたが、何かが引っかかり私のその行動を阻害しました。心の奥底で『駄目』と言われているような気がしてならないのです。
私はここまで来たルートを覚えながら執務室を目指しました。
ーーーーー
ーーー
ー
夕食の時間。私と霧島、提督で食堂に入りました。提督はテレビを点けなければならないということなので、食堂が動き始める時間に合わせて入ります。大体いつも5時くらいです。この時間になると、テレビを見に来る艦娘たちでテレビの前はあっという間に埋まってしまいます。駆逐艦から戦艦まで、鎮守府に居る艦娘の大体半分はこの時間に来ています。
「はぁ~。夕方のこの時間帯ってニュースが結構面白かったりするんだ。」
そう言って提督は『最近、コーヒーやめてるから』とか言って緑茶を飲んでます。唐突に言い出したのでよく分かりません。
それよりもテレビの前の群衆に混じっている珍しい髪色、鈴谷さんが目に入りました。鈴谷さんは中列、椅子に座りながら見ています。熊野さんと話しながら見ている様ですが、『第三会議室』に入っていった時の鈴谷さんの様子は見えませんでした。とても楽しそうにしています。
「あっ、提督。お疲れ様ですっ!」
後発組というか、わざわざテレビの前を陣取らなくてもいいと言って後から来た榛名さんと比叡さんは食堂を見渡しました。
「金剛お姉様はいらっしゃいますか?」
困った顔をしている榛名さんに提督はテレビの前の群衆を指差しました。
「あそこの前列だ。......全く。」
そう言って提督はこめかみを抑えます。これも毎日3度は行われることです。
そうです、この後霧島さんが立ち上がって、金剛さんを列から引き出すんですよね。ほら、霧島さんが立ち上がりました。そしてテレビの方に行き、列に分け入って入ると、いつもの悲鳴が聞こえてきます。
「ひえっ!霧島ぁー!離すデースっ!!」
「いいえっ!毎回毎回やらせないで下さいよっ!!」
「まぁ、見たいものは見れたのでいいんですケド。」
そう言ってこちらに戻ってくるんですよね。もう結構な数を見ました。今のを見ていて思い出しましたが、一度だけ提督が金剛さんを引き出しに行った時があったんですよね。その時の金剛さんの言い訳が......『てっ、提督ぅ?!わっ、私は金剛型駆逐艦 一番艦の金剛デースっ!......はぇっ?そんな図体デカいって酷過ぎデースっ!!』というのだったんですけど、こっちで訊いていて結構微笑ましいものでした。流石に言い訳を聞いていた霧島さんと榛名さんはぽかんと、比叡さんは『そうですよっ!私たちは駆逐艦ですよっ、司令っ!』って仰ってもう何が何だか.......。
そんな事を思い出していると、提督の席は何時もの陣形になりました。提督の両脇に私と霧島さん、正面に金剛さんと比叡さん、榛名さん。それで私と霧島さんと比叡さんと榛名さんの空いている方の席は取り合いになります。これのファイトもなかなか面白いものです。
「提督ぅ。相変わらず戦闘停止デスカ?」
金剛さんは肘をついてそう言いました。
「まぁな。艦隊の要である航空戦に置いての戦術構想を練ってる最中だ。......だが赤城たちは時より戦術構想の為に残党掃討戦をしているぞ?」
そう提督が説明されると金剛さんは口をツーンと吊り上げました。
「確かに航空戦は艦隊の要デスケド......。」
金剛さんはそう提督に訴えました。
「だろう?基盤と応用が出来上がるまでの辛抱だ。それからは新戦術を用いた機動部隊で海域奪回を狙う。」
「そうですカー。.......水上打撃部隊......。」
どうやら金剛さんは不貞腐れてしまった様です。
私はそんな光景を眺めながら緑茶を飲んでました。寒いこの季節には丁度いいですね。
ーーーーー
ーーー
ー
早朝。いつも目を覚ます時間よりも遥かに早い時間に起きてしまった私は、本を読むために部屋の電気をつける訳にはいきませんでした。そこで私は昨日の昼に見た『第三会議室』に行ってみる事にします。艦娘寮からそこまでは10分くらいです。寝起きの散歩には丁度いいでしょう。
棟内でも冷え込み、私の口からは白い息が吐きだされています。階段を上がり、廊下を進み、『第三会議室』の前まで来ました。今の時刻は午前4時半ごろ。まだ暗いです。
私は意を決して扉を開きました。
(うわぁ......段ボールだらけですね......。)
『第三会議室』の中は見事に段ボールだらけでした。多分この段ボールの殆どに捨てる手段のない機密文書があるんでしょうけど、今の海軍にとっては機密文書では無く唯の紙切れにすぎませんけどね。ここに置いてある書類は全てここが鎮守府として機能する前のものですからね。ですけど一応機密文書ですので、こういうあつかいなんでしょう。
私は段ボールを眺めながらそこそこ広い部屋を歩き、入り口に戻ってきました。
巡り歩いてもあるのは段ボール、段ボール、段ボール......段ボールだらけでした。一体鈴谷さんはここに何の用があったのでしょうか。暇だからと言ってここにある不必要な機密文書でも見ているのでしょうか。
私は段ボールくらいしか見当たらないこの部屋を出て行きました。この段ボール部屋を巡るだけで30分くらいかかりましたからね。いい時間ですし、執務室の暖房でもつけておきましょうか。
私は『第三会議室』から出ました。
いやぁ......今回はヒヤヒヤものでした。はい......。
多分『遂にかっ!?』思った方がいらっしゃったかもしれませんが、残念です。まだまだですよ(ゲス顔)
これはかなり引っ張ると思いますよ。なにせ4人も視点があるわけですからね。これまでの本編では時折挟んでいた視点移動ですが、今回は本格的ですからね。
そして鈴谷が入り浸っている部屋は『第三会議室』という名前でした。
ご意見ご感想お待ちしてます。