【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百十四話  三つ巴⑧ 金剛編その2

 

毎日一度は行く地下の部屋で私は考えていました。

今日まで精いっぱい今の私ができる事をやってきましたが、もうやる事が無いんですよね。このトンネルは脱出の為に用意しましたし、防犯カメラは元は外への出入り口に誰かが近づいたのを分かるようにするためですから。ボイスレコーダーや小型カメラも念のためって感じですし......。

脱出の為にはお金が必要ですが、それも一応自分の給金を溜めてますからどうにかなるでしょう。

 

(どうしたものですか......。)

 

もう準備する事はありません。時を待つ事を始めましょうか。

連れて逃げるのには絶好のタイミングがありますからね。

提督は朝に執務をして午後は好きなように時間を過ごしていますが、大体が艦娘が居ます。提督一人で時間を過ごしている姿は見たことありません。時間に余裕のあるように見えて隙が無いんです。

 

(何時から目的が変わってしまったんですかね?)

 

地図を書き始めたのは直感ですし、建前というかそういうのは提督が滅多に休めないから抜け出せるようにっていうことですが、もう考えてたどり着いた事が事ですのでもう仕方ないんですよね。

逃げ出す。敵前逃亡ともいいますか。もし実行してしまったらどうなるんでしょうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

考えていても仕方がないので、『やる事ないなら提督の傍に居よう!』と決めて今、執務室の前に居ます。

妖精さんには地下の管理を頼みました。管理と言ってもすることが無いんですけどね。精々モニターで監視するくらいでしょうか?

 

(入りますか。時間的には午後ですから、暇してるでしょうし。)

 

私はここに来る途中に時計を見てそう思いました。

午前中なら執務中ですからね。

 

「ヘーイ!提督ぅー!」

 

思いっきり扉を開いて私は執務室に入りました。

 

「あぁ、金剛か。どうした?」

 

提督は相変わらずそう返してくれます。

提督の両脇というか、秘書艦の席と棚のところにそれぞれ霧島と赤城が居ますけどね。

 

「ティータイムしないデスカ?時間的にも丁度いいかなって思いマシテ。」

 

私はそう言って執務室に掛けられている時計を見ました。時計の針は3時を過ぎたあたりです。

 

「そうだな。......奥でお湯でも」

 

そう言いかけた提督を私は止めます。

 

「イエ、今日は甲板でティータイムしまセンカ?今日は風が吹いてマセンし、太陽が暖かいデス。」

 

私はそう提督を促しました。提督は結構冬に日向ぼっこをするのが好きらしいです。というのも、『外でボケーっとしたい......。』って言ってたのを聞いただけですけどね。

 

「いいな。......とはいっても甲板って誰の甲板だ?」

 

提督はそう訊いてきます。

そんなこと言わずと知れてますよ。

 

「勿論、私の艤装デース。今から行きマショー!」

 

私はそう言って提督の腕を掴んだ。ガシッと掴むと痛いでしょうから、普通に掴んで引っ張ります。

 

「霧島と赤城も早くするデース。」

 

勿論この2人を忘れて等居ません。そんな酷い事する私ではありませんからね。片方は私の妹ですし。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

風は冷たいけど、太陽の光でそこまで寒くない甲板の上。私は机を置き、クロスを引き、椅子を用意してました。

これからティータイムです。私と提督、霧島、赤城で紅茶を飲みながらお話しします。何の話をしようかなって、準備しながら考えてます。

 

(仕事とは関係無い事がいいですよねー。ですけど、提督の居た世界の話は振れませんね。どんな人だったのか聞きたいけど、傷口に塩を塗るようなものです。よしておきましょう。)

 

そんな事を考えながら着々と準備を進めています。私は甲板の準備をしていますが、提督たちはティーセットやお茶葉、お湯、お菓子なんかを用意してます。

と言ってももう終わっていて、甲板まで運び終わってるんですけどね。

 

「あー、あったけぇ。」

 

提督が普段発することのない言葉を言ってます。珍しいですね。相当リラックスしてるんでしょうか?

 

「そうですね。暖かいです。」

 

霧島も誘いに行ったときは仕事をしている表情でしたが、今は仕事をしていないフリーな時の霧島のようです。赤城は変わりませんね。ブレないです。いい意味で言えば裏が無いですが、悪い意味なら隙が無いですかね。自然体のようにも見えますが、そうじゃないようにも見えます。

 

「赤城、運ぶの手伝って下サイ。」

 

「......。」

 

私が最後に大きなテーブルを運ぼうと手を貸してと頼んでも返事をしません。赤城は南の方を見ています。

 

「赤城?」

 

「......。」

 

私は気になって回り込んで赤城の顔を見ました。

 

「暖かいっ......幸せっ......。」

 

赤城はボケーっと太陽の光を浴びて温まってました。

 

「あー、赤城?手伝って下サーイ。」

 

「はっ?!......分かりました。」

 

赤城は私の声でこちらに引き返せたのか、慌てて机に手を掛けました。

 

「いきますよー。」

 

そう言って赤城は『せーの』と掛け声を上げる。私はそれに合わせて持ち上げ、良い位置に机を下した。

 

「あっ、すまん。俺がやるべきだった。」

 

提督も赤城と同じように旅立っていましたが、机の置く音で戻ってきたみたいです。

 

「大丈夫デスヨ。......今から淹れるんで待ってて下サイ。」

 

私はそう言って慣れた手つきで淹れた。

そう言えばここに並んでいるカップ、一つだけ見覚えがありますね。以前、扶桑の甲板でティータイムした時に提督が持ってきたカップですね。山城とペアの......。片割れが居ないので別に気になりませんが、知っているのでやっぱり気になりますね。

 

「ハーイっ!淹れ終ったヨー。」

 

私はそう言って机にカップを置いて行った。

言い忘れてたけど、甲板でお茶を飲むのは皆がやっている事で、それぞれカップや湯呑なんかを持っています。赤城も普段は緑茶や煎茶ばかりだそうですけど、今日はティーカップを持ってきてました。赤城が紅茶を飲んでいる姿も珍しいですね。

 

「はぁ~。紅茶もいいですねぇ。」

 

赤城はそう言って海を眺めながら言ってます。提督や霧島もそんな感じですね。まぁ皆甲板でティータイムするときはこうなるんですけどね。ちなみに夏は自分たちが甲板に焼き肉にされてしまうのでやりませんよ。これは秋冬春にしかやりません。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「そう言えばサ、赤城。『特務』とやらは順調デスカ?」

 

話題を出し尽し、ネタ切れになりかけた頃、私は訊いてみました。最近の出撃はもっぱらそればかりなうえ、内容を知らされてないんですよね。赤城だけが知っていて、呼ばれた艦娘も知る事になるということですが、その事を話す事は固く禁止されているそうです。ですけどやっぱり気になりますね。

 

「あー、それはですね......っと。提督、話も大丈夫ですか?」

 

赤城は話しそうになりながらも途中で気付き、提督に許可を求めました。

 

「うーん......霧島も『特務』の事は知ってるし、金剛に知られて不味い事でもないしな。寧ろ、金剛もそれを経験することになるし丁度いい、話してもいいぞ。」

 

提督はそう言ってティーカップを持ち、口に近づけました。

 

「だそうですので話しちゃいますね。......順調に進んでます。もう少しすれば終わると思いますので、戦争は再開されるでしょうね。」

 

赤城はそう言いました。

 

「となると、奪還作戦をデスカ?」

 

私がそう提督に訊くと、答えてくれました。どうせそのうち話す事になるだろうからということらしいです。

 

「そうなるな。......現状、最前線である西方・北方海域を奪還。南方・中部海域の攻略を行う。......まぁセオリーだな。」

 

提督はそういって肘をつきました。

 

「西方・北方共に本拠地のみですからね。こちらが総力戦を仕掛ければ奪還は簡単ではないにしろ、出来ない事は無い筈です。」

 

霧島も続けました。どうやら霧島もある程度の事は知っているみたいですね。流石金剛型で一番古参なだけあります。

 

「そうデスカ。西方・北方海域の奪還は近日デスネ。」

 

「あぁ。」

 

提督はお茶菓子に手を伸ばして口に運びました。

 

「霧島、赤城。」

 

「「はい。」」

 

提督は突然、強張って2人の名前を呼びました。

 

「夕食後、執務室に長門と吹雪を招集。」

 

そう言った提督は何時もの雰囲気に戻りました。

今のは何だったんでしょうか。これまでに提督の表情はいくつも見たことがありましたが、今のは初めて見ました。ですけどこれまでで今の表情に近いのを見たことがあります。それはリランカ島に護衛艦隊を派遣した時です。

 

「今日の夕飯なんだろな~。」

 

提督はそんなことを言ってますが、今の時刻3時過ぎです。まだまだ時間あるんですけどね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は夕食には少し遅れると比叡に言って執務室に来てます。

何時もなら皆で揃って提督の席に突撃して一緒に食べてますから好タイミングですね。

 

「んしょ、んしょ......ハァ......。」

 

私は執務室に入って提督たちが居ない事を確認すると、家具の隙間やらを見て回りました。何故そんな事をしているのかというと、ボイスレコーダーを仕掛けるためです。

ボイスレコーダーの初仕事が本当に盗聴になるとは思いもしませんでしたが、あって損はないと思いました。

目的は夕食後に開かれる会議です。古参組が集められるということは、今後の作戦行動について話すんでしょうね。上手く録音できていればある程度会話の内容を書き出して、今後の動きに備えます。地下のトンネルと部屋もそれ次第でいけませんからね。それに出撃があったら私のせいで遅れてしまうかもしれませんし。

 

「ココならっ!......ふぅ......オッケーネー。」

 

私は結局ソファーの下に置くことにしました。

多分会議を行うのはソファーのあたりだと言うのは霧島が偶に話していた内容から察することが出来ましたからね。ここなら大きい音ではっきりと録音できるはずです。

ソファーの下に置く前に録音を開始しておいて、私はこの場を退散します。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂に行ってみると比叡が場所取りをしておいてくれたみたいでした。

榛名と比叡の間に一つ席が空いていて、そこの椅子には『金剛』と書かれた札が貼ってありました。ですがその周りの空気は少し淀んでいます。

 

「むうぅぅ......予約って......。」

 

「これは反則ですっ!」

 

「ないわー。」

 

それを見て死んだ目になりかけている艦娘たちでした。

提督の近くでは食べたいですが、さすがの私でもこれはルール違反なのは分かりますよ。私は持っていたトレーを置いて比叡の頭に手を置きました。

 

「あっ!金剛お姉様っ!席、とっておきました!!」

 

そう比叡は私に明るい笑顔を見せてくれます。

とても元気のいい私の妹です。

 

「んー、ありがとデース。デモ、これは反則デス。遅れるとは言いマシタが、これじゃあいじわるデスヨ?」

 

私はそう言って比叡の頭を撫でてあげる。これをやると比叡は喜びますからね。

 

「いじわるですか......すみません。」

 

比叡は分かってくれた様で良かったです。その札を私は剥がして、そこにいる島風に声を掛けました。

 

「島風。」

 

「何ですか?」

 

私は島風を呼びつけて島風の持っていたトレーを持ちました。

 

「えっ?」

 

島風は何だか分かっていない様ですが、私は気にも留めずに続けます。

島風のトレーを比叡と榛名の間の席に置いて、椅子を引きました。

 

「島風、ずっと待っていたんデショ?トレーの料理が冷めてマス。きっと誰よりも先にここが空いてるのに気付いてたんデスヨね?」

 

オロオロする島風の背中を押して私は座らせました。

 

「比叡はきっと私の事を思ってしてくれていたんデショウ。デモ、悪気はなかったはずデス。許してあげてネ?」

 

そう言って私は島風の頭を撫でて別の席を探しに行きました。

後ろでは島風が混乱して何かを言ってるのが聞こえてきます。偶には島風にこういう事もあっていいと思うんですよね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は空いてる席を探して手ごろなところに座りました。

 

「んぉ、金剛さんじゃん。」

 

「隣、失礼するネ。」

 

「どぞどぞ~。」

 

鈴谷の横です。ここが探してて一番最初に目に入った席です。

鈴谷の空いてる席の反対側には熊野が居ます。熊野は確か古参組で相当強いとか聞きました。ですけど最近は出撃しているイメージはありませんね。

 

「あら金剛さん。」

 

「こんばんワ―、デスネ。」

 

私はそう言って箸を取って食べ始めます。その様子を横から見ていた鈴谷が私に声を掛けてきました。

 

「珍しいねぇ。姉妹たちと一緒じゃないって。」

 

「そんな時もありマスヨ。あの娘たちが先に来ていたンデス。」

 

そう言って私はご飯を食べすすめますが、鈴谷が続けてきました。

 

「それよりさー、『例の件』。」

 

「ンー?」

 

鈴谷が言った『例の件』。これが意味する言葉は今、私が動いている奴の事ですね。きっと鈴谷が訊きたいのはトンネルがどうなったかですかね?

 

「終わってるヨー。あとは鈴谷次第ネ。」

 

「鈴谷も一応終わってるけど、ちょっと不測の事態でね。終わってるのに終わってないからさぁ。」

 

そう言って鈴谷は手を合わせて謝ってきました。

 

「ごめんっ!もうちょっと待ってっ!」

 

「勿論、着実にお願いシマース。」

 

そう私と鈴谷は曖昧な単語で会話をしているのを熊野は疑問に思ったみたいですね。

 

「お2人して何の話ですの?」

 

「「ピクニックデス(だよ)」」

 

見事なユニゾンですね。狙った訳では無いんですが、まぁこの誤魔化し方は前々から決めていましたので良かったです。

 

「あら楽しそう。ピクニックの時はぜひ私もご一緒しても良くって?」

 

熊野はそう笑顔で行ってきますが、本当の意味を知っての事ではないんでしょう。私は鈴谷の目を見てすぐに答えました。

 

「勿論デース。多いに越した事はないデース!」

 

そう言って私も笑って言います。これでバレないでしょう。

 

「楽しみにしてますわ......と言うか楽しみですわ......。」

 

熊野は妙に楽しみにし始めてしまったので私と鈴谷は顔を見合わせて苦笑いするしか出来ませんでした。

 





ここに来て更に衝撃の事実ですね。
金剛と鈴谷は手を組んでいた。まぁ、それぞれでって感じですけど......。独立してやってますけども......。無理やり感がにじみ出てますけども(汗)
まぁそりゃ近衛艦隊首領と幹部ですからね。それにどこかの回想か地の文で金剛が近衛艦隊で集まっている時に話したってのがありますからね。知っていて当然です。

これまでは3視点+提督でしたが、2視点に変わる可能性がありますね。
ご了承ください。

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