【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百十五話  三つ巴⑨ 提督編その2

 

俺の目の前に赤城、霧島、長門、吹雪が立っている。

金剛の艤装の上でティータイムをした後、夕食を摂り、執務室に呼びつけた。

 

「すまんな。夕食後に呼び出して。」

 

俺はそう言って自分の椅子に座る。それに合わせて赤城たちもソファーに座った。

 

「今日はどうした?」

 

長門は座るなり俺にそう訊いてきた。

訊いてくるのは最もだろう。俺が呼び出すのは大体朝か昼だったからな。

 

「今後の方針を決める。」

 

そう言って俺はホワイトボードを引っ張ってきて、ペンのキャップを抜いて書いた。

 

「赤城に任せていた『特務』の終わりが見えかけているからな。」

 

ホワイトボードには『電撃戦』と書いて俺はペンを置いた。

 

「赤城の『特務』によって俺は資材の大半を消費せずに溜め込むことが出来た。それによって溜めた資材を使い、現在戦線が停滞している西方・北方海域の最深部に攻撃を仕掛ける。」

 

そう言うと長門は驚いた。

 

「待てっ!確かに資材は溜まっているみたいだが、あそこは深海棲艦の雑魚がたむろしている訳じゃないんだぞっ?!」

 

そう訴えてくるのも無理はない。

西方海域最深部は深海棲艦の手練れが多くいる。最後までたどり着くまでに相当数の戦闘を繰り返す事が予想されている上、西方海域ではシステム上の関係から出撃には駆逐艦が参加する事になっている。つまり、長門が懸念しているのはまだそこまで経験のない艦娘も編成に入っているからだ。

 

「そんなことは分かっている。だが、航空戦で新戦術を確立する今、効率良く進むにはこれにない程にいい機会なんだ。」

 

そう言って俺は予定編成表を見せた。

そうするとまたもや長門が訊いてくる。

 

「私が心配しているのは艦娘の少なかった時期を支えていた重巡の艦娘の事を心配しているんだっ!高雄や愛宕、熊野......あいつらは精々正規空母を1回見ただけだ。高雄たちにいきなりこんな正規空母や戦艦だらけの海域に放り込むのを私は懸念しているんだっ!」

 

どうやら違った様だ。

世間的にいわれる『ながもん』ではなく、ちゃんと艦隊の事を考えて言っている様だ。

 

「それは心配いらない。......重巡は対空母、戦艦戦闘には十分耐えれるはずだ。」

 

そう言ってやると霧島は長門に言った。

 

「彼女たちとは嫌という程訓練と演習を共にしてきました。私たちよりも遥かに練度の高い艦娘と相対し、殲滅した事もあります。大丈夫です。」

 

そう霧島が言うと長門は引き下がったが、やはり腑に落ちない様だ。長門はああいったが、一番心配しているのは高雄たちの交代要員として挙げている摩耶と鳥海の心配だろう。彼女らは所謂『現場たたき上げ』だが、本当の意味で戦艦や空母と戦った経験が無いのだ。だが、摩耶も鳥海も姉の2人の後を追いかけているはずだ。心配ないと俺は思ったのだ。

 

「取りあえず続けるぞ。」

 

俺はそう咳ばらいをしてから続けた。

 

「作戦開始日からは遠征任務を停止。主力艦隊と共に『遠征』の名目で本隊と3つの支隊による攻略戦を展開する。見せた予定では支隊の戦力は戦艦、空母、重巡で固め、本隊はこのままでいく。」

 

俺が提示していた編成表は4枚だ。

北方海域攻略本隊は旗艦:長門、陸奥、赤城、加賀、北上、大井。第一支隊は旗艦:金剛、比叡、蒼龍、隼鷹、高雄、愛宕。第二支隊は旗艦:霧島、榛名、飛龍、飛鷹、青葉、衣笠。第三支隊は旗艦:扶桑、山城、瑞鶴、鳳翔、古鷹、加古。交代待機に伊勢、日向、瑞鳳、祥鳳、摩耶、鳥海、鈴谷、熊野、最上となっている。

 

「作戦開始は北方海域からだ。西方海域の未確認深海棲艦撃破を以て作戦終了だ。西方海域攻略本隊及び支隊編成は追って通達する。」

 

そう言って俺は自分の椅子に戻った。

 

「ここまでは俺が考えたが、何かあるか?」

 

そう言うと誰も手を挙げない。どうやらこれで大まかなのは良いらしい。

 

「とまぁ、こんな話をした後で悪いが......入って来い。」

 

俺の声に合わせて赤城たちは扉の方を見た。そして開かれた扉の先には2人の艦娘が居た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「霧島。独断で俺が決めたことだ。......了承を得ずに済まない。」

 

そう言って俺は続けた。

 

「『親衛艦隊』にて鈴谷の監視をしている熊野と『近衛艦隊』の叢雲だ。俺がこの『言葉』を言った意味、分かるだろう?」

 

そう言うと俺の両脇に熊野と叢雲が来た。

 

「現在、鎮守府内で不穏な動きがあるのに気付いたものはどれくらいいる?」

 

そう訊くと長門も吹雪は勿論、赤城は手を挙げなかった。霧島は調査をしている人間だから知っていて当たり前だ。

 

「率直に問う。」

 

俺はそう言って赤城の顔を見た。

もうこれは作戦を開始するにあたって支障をきたすと考え、出した苦肉の策だ。

霧島も俺のその様子にかなり驚いている。

 

「赤城。」

 

俺が直視する赤城の表情に曇りは無い。だが、どこか緊張している様だった。

 

「何をしているんだ。」

 

そう言った意味を分かったのは俺と霧島だけのはずだが、赤城は緊張している。普通ならそんな反応は取らないはずだ。

 

「......どういう意味ですか?」

 

赤城は表情を変えずに俺にそう返してきた。

その一方で状況が掴めていない長門と吹雪は色々な思考を脳内に巡らせているのだろう。表情がコロコロと変わっている。

 

「そのままの意味だ。赤城は何をしているのか。」

 

一瞬だが赤城が唇を噛んだ。

 

「言う気になってからで構わない。......本当は熊野と叢雲の話を聞こうと思ってな。」

 

そう俺は言うと熊野に話すように促した。

 

「では、提督から頼まれている事を言いましょう。」

 

そう言って熊野は腕を組んだ。

 

「現在私は提督の命により正式に鈴谷の監視役となりました。理由なら霧島さんならお分かりなるのではなくて?」

 

「......はい。」

 

まだ状況のつかめていない2人を置いて行きそうな勢いで進んでいく。

 

「理由は『鈴谷の動向を調査せよ。』という命により『鈴谷』への監視を強化しました。そして......。」

 

熊野はそう言って長門と吹雪の顔を見た。

 

「長門さん、吹雪さんにはこのことを古参として知っておいていただきたいので、こうして呼ばれたのですわ。」

 

熊野は組んだ腕を解いた。

 

「そもそも提督がこのような事を頼んだのは、以前からあった『近衛艦隊』の神出鬼没の理由と、『提督への執着』に関する事。要するに長門さんや吹雪さんも知っての通り、『近衛艦隊』の監視ですわ。」

 

熊野は歩き出し、ソファーの方に行った。

 

「それが最近、提督は別の命を私にしていましたの。『鈴谷の行動の調査』と『青葉さんの援助』、それに......。」

 

そう言って熊野は赤城の顔を見た。

 

「『赤城さんの行動の調査』でした。霧島さんは表立っての調査をしておられた様ですが、私は裏でやってましたの。その成果の報告ですわ。」

 

熊野がそう言って座っている赤城の前に仁王立ちをした。そんな熊野を見て吹雪は立ち上がった。

 

「待ってくださいっ!今の話のそのままなら『親衛艦隊』の頭である赤城さんは調査の対象になる事は無い筈ではっ?!赤城さんが『近衛艦隊』の2人と同等なのは違いますよっ!」

 

そう言って熊野に吹雪は訴えていたが、甲斐無しに熊野は続けた。

 

「まずは鈴谷から。......鈴谷は鎮守府の使われていない地下牢に独自に収集した資材を溜め込んでいます。近いうちに鎮守府外に搬出されるそうですわ。......それに、外部の人間と何かを取引し、パソコンと携帯火器を隠しています。用途は不明ですわ。」

 

俺も始めて聞かされたが、そこまでして何をするのか。

 

「次は金剛さん。......地下のトンネルに鎮守府内の詳細な地図と私服がありました。それと鎮守府外に出た模様です。こちらは目的不明ですわ。」

 

そう言って今度は熊野は赤城の顔を見た。

 

「赤城さん。......加賀、時雨、夕立と結託して『特務』と並行して鈴谷とは違う地下牢に資源回収。鈴谷と同じで外部の人間と何かの取引をする模様ですわ。」

 

熊野はそう言って俺の方を見た。

 

「この3名は共通した目的があるように思えますが、それが具体的に何かということが分かりませんでした。」

 

そう言って俺の横に熊野は戻ってきた。

その一方、霧島は驚き、長門と吹雪は目を白黒していた。そして赤城はというと、表情を変えないが先ほどよりも更に緊張した様子だ。

 

「次。叢雲。」

 

俺はそう言って叢雲を前に立たせた。

 

「私は司令の『お願い』で武下さんと共に別角度からの調査をしたわ。」

 

そう言って叢雲はA4サイズの封筒をソファーが囲んでいる机の上に置いた。

それには数枚の紙と写真が入っており、それを手に取って出してみた霧島は顔を青くした。

 

「調査内容は『事務棟に入り、内外でやりとりしている書類を見る。』だったわ。そしてその結果がそれよ。」

 

「これはっ......、これは何なんですかっ?!」

 

霧島はそう言って紙を机にぶちまけた。

 

「赤城さんっ!!!」

 

霧島はそう言って赤城の顔を見た。赤城は顔色一つ変えずにただ黙ったいるだけで、何も言わない。

そしてその紙や写真は長門や吹雪も見まわしていた。どちらも顔を青くしている。

 

「......まだ、言えません。」

 

そう言って赤城は立ち上がった。

 

「まだ言うべき時ではないんです。」

 

そう言って赤城は俺の目の前に来た。

 

「提督。」

 

「......。」

 

俺は黙っていると赤城は話し出した。

 

「私たちは『その時』が来るまで『これ』を止めるつもりはありません。ただ、何のためにしているかは今言うべきことではないのです。」

 

そう言って赤城はその場に居た艦娘の顔を見ながら言った。

 

「私たちは気付きました。今度は皆さんが気付く時です。」

 

そう言って赤城は吹雪が見ていた写真と紙を取って見せた。

 

「皆さんが気付いた時、私や金剛さん、鈴谷さんと同じ行動をする筈です。......提督が考えて下さった作戦が完遂した暁には、私のしている事が大々的になります。それまでに気付いて下さい。」

 

そう言って赤城は紙と写真を吹雪に帰して、執務室に置いてあるファイルを抜き取った。そのファイルは艦載機の管理に関する書類のファイルだ。

 

「もし気付かなかったのなら思い出してください。少なからず私たち艦娘にある『提督への執着』を。」

 

俺はそんな赤城を目で追っていた。他の皆も同じだろう。

 

「私は理性で『提督への執着』で起きる殺意を抑える事が出来ますが、気付かなかった貴女たちを私は本能の赴くままに殺してしまっても構わないと思ってます。」

 

「えっ......それってどういう意味ですか?」

 

吹雪は言葉は理解できているのだろうが、赤城の言葉の意味を理解できてない様だ。そう赤城に訊いたのだ。

 

「『その時』までに気付かなかったのなら、貴女たちは私にとって提督の害となります。......長門さん。貴女もですよ。」

 

「なに......っ?!」

 

抽象的な言葉ばかりで何を言いたいのか分からないが、赤城は多分遠まわしにヒントをくれたんだろう。『その時』、『提督への執着』、『自分たち自身が提督の害』......。俺が赤城のヒントから得られた言葉だった。

『その時』とは何時の事だろうと考えていると、赤城が『提督が考えて下さった作戦が完遂した暁』と言っていたのを思い出した。つまり、近ければさっき俺が説明した北方・西方海域攻略作戦が完遂された時が『その時』なのだろう。

『提督への執着』。艦娘なら誰しもが持っている共通意識だ。これまでに色々な艦娘から断片的に情報を訊いてきたが、最終的にその情報のどれもが『提督への執着』という言葉そのものに収束している。それが働くと赤城は言っていた。

『自分たち自身が提督の害』これは多分『提督への執着』からの流れで来ることなのだろう。『自分たち自身』というのは何者なのか。考えられるのは『艦娘』だ。そして『提督の害』これがどういう意味かさっぱり分からなかった。言葉通りならば、今こうして目の前に居る艦娘たちが俺にとっての害となるという意味だ。それはつまり『提督への執着』が働くことを意味していた。

結局のところ、曖昧且つ情報が少なすぎる。検討し辛いのだ。だが、自分で気付くべきだと赤城は言った。これまでのヒントの大本はその気付くべきことなのだろう。

何に気付くべきなのか......。

 

「熊野さん、叢雲さん。」

 

「「......はい。」」

 

「引き続き調査をする分、構いませんが邪魔だけはしないで下さい。多分、金剛さんや鈴谷さんも私と同じですから。」

 

そう言って赤城は秘書艦席に座った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

消灯時間を過ぎ、本部棟と艦娘寮の電気が落ち、真っ暗になって1時間程経った頃、俺の私室に長門と叢雲が来ていた。他の熊野や吹雪は来ない様だ。

 

「叢雲。これが事務棟で見た俺の執務以外で出た書類なのか?」

 

「そうよ。と言ってもコピーだけどね。」

 

俺と長門、霧島、叢雲はその紙を囲んで見ていた。

見ていた書類は便箋に書かれた手紙だ。書いた人物は赤城。内容は俺の待遇改善要求と戦後に関して。

 

「待遇改善?」

 

俺はそう言って首を傾げた。別に今のままでも十分だと思っているからだ。それに戦後とか俺にとっては先も遠い様で遠くない事。戦中である今でさえ待遇が良いのだ。どこに疑問を持つべきなのか分からない。

 

「何故赤城は待遇改善を......。」

 

長門も霧島も首を傾げていた。赤城のヒントとこのコピーとを関連付けるのが難しいのだ。内容にかすりもしてない。

 

「戻ってから何か分かったのは?」

 

そう俺が訊いても誰も手を挙げなかった。

もう考えていても埒が明かない。

 

「考えていても埒が明かない。赤城の言う『その時』までに分かればいいんだ。取りあえず今日は帰れ。」

 

そう言って全員を立たせて執務室の外まで見送ろうと廊下に出た時、叢雲が俺の背中をつついた。

 

「ん?」

 

俺がそう言って振り返ると叢雲の手には小さい黒い箱があった。赤いランプが点滅していて、ボタンが付いている。

 

「これ何だと思う?」

 

そう叢雲が訊いてきたので俺はそれを手に取り、見てみた。月明りで辛うじてシルエットや手触りで形は分かるが、どうして叢雲がそんなものを持っていたのか。

 

「叢雲のか?」

 

「いいえ。さっきソファーの下にこの赤いランプが見えたから。」

 

どうやらソファーの下にあったものらしい。

 

「そうか。ありがとな。」

 

俺はそう言って叢雲を見送った。

そして叢雲の見つけたこの箱は何なのか。もうちょっと明るいところで見ると分かるかもしれないと思い、私室に戻ってから卓上照明をつけて見てみた。

 

「これはっ......!?」

 

それはボイスレコーダーだった。小型で軽量のものだ。

そして俺は酒保の家電屋を思い出していた。酒保にはボイスレコーダーは置いてあるがここまで小型のものは無い。

 

「金剛かっ......。」

 

持ち主をすぐに俺は悟った。俺は買った記憶が無いし、ここには門兵が来ない。そして夕食後の熊野の報告。全てを加味するとそれをする人物は1人しかいなかったのだ。

 





本来ならば今日投稿するはずだった分です(汗)
申し訳ありませんでした。Twitterの方では予定投稿時間の10分後くらいに告知していましたが、こちらには何も言ってませんね。まぁ偶にあるのでそれは置いておいて、話が急展開しました。
濃いです。本当に。それにバレてしまいましたね。でも目的は分からないまま......。
今後の展開が楽しみでもあります。

それと三つ巴の意味に関しては当初は『赤城、金剛、鈴谷』という風に想像していた方も多いと思いますが、それからは『赤城、金剛と鈴谷、提督』が出てきました。
ここで、本当の三つ巴の意味が判りましたね。『赤城と金剛と鈴谷、提督、他の艦娘』ですね。多分......。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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