【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
北方海域前衛艦隊を撃破した報告が入ったのは、作戦発動から次の日だった。
どうやら哨戒艦隊は支援なしに撃破出来た様で、支隊がそのまま遠征を続行。余剰戦力を後に回すとの事だった。今日中に水上打撃部隊と会敵、交戦に入るとの報告を聞いたばかりだ。
「作戦は順調の様だな。」
前回もそうだったが、フェルトが秘書艦をしている。
「そうみたいだ。......戦術転換、もとい元に戻しただけではあるが、システムの裏を掻いた作戦が通用するようでありがたい。」
俺が椅子にもたれながら言うと、フェルトは腕を組んで唸った。
「うーん......。以前から訊こうと思っていたのだが、以前の戦術はどのようなものだったのだ?」
「編成上限を無視した大艦隊にここから大型戦略爆撃機を何百機と飛ばして攻略してた。」
「それは......凄いな。」
フェルトは俺が終わらせた書類を纏めると、俺の顔を見た。
どうやらまだ何かあるらしい。
「作戦発動前に何かあったと言うのを訊いたんだが......。問題でもあったのか?」
フェルトは濁して言ったのか、それとも聞いたままの事を俺に訊いてきたのか分からない。
だが、あの事を訊いているのは事実だった。
「あったと言うか、あるの方が正しい。」
「これからあるという事か?」
「そうだ。」
俺はそう言って立ち上がった。
「だがこんな人数のいるところで話す内容ではない......だが、何れ全員が関連してくることだ。」
「全員がか?」
「あぁ。」
俺は固まった腰を伸ばすかのように背伸びをして、髪を掻き上げる。
そして頬杖を突いた。
「教えては貰えまいか?出撃直前まで長門が普通じゃなかったんだ。」
フェルトは不安そうにそう言う。だが、この件を俺の口から話していいのか定かではない。その上、俺でさえもあやふやな部分が多いのだ。
「......ああ言ったものの俺も理解できてない部分が多い。残念だが話す事は出来ない。」
「そうか......残念だ。」
フェルトはそう言って手に取っていた書類に目を落とすと、提出してくると言って執務室を出て行った。
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今日の番犬補佐艦隊は実にマイペースな集団ばかりだ。球磨と多摩、それと第七駆逐隊だ。
球磨たちはいつも遠征任務で鎮守府に居ないのだが、戦闘停止命令と作戦行動中は暇になる。その時間をこうやって使う様だ。俺も、普段話さない艦娘と話すことが出来て結構嬉しかったりもする。
と、言いたいが反面、面倒だ。
「クマぁ~。」
「たまぁ~。」
軽巡2人組は昨日利根たちが置いて行った炬燵で寝ている。そして第七駆逐隊は別の事をしていた。
「うひゃー!生ご主人様だよぉ!!」
「うっさい漣っ!静かにしなさいっ!」
「とか言っちゃってぇ。『生提督だっ!突撃ぃー!』ってしたい癖にぃ。行ってきなさいよ。ほらほらっ!」
「ムキー!」
と元気溌剌なんだろうが、どう見てもからかっているだけの漣にそれに乗せられている曙の図。
「......(ミカン剥いてる)」
「......(朧と同じ)」
炬燵でくつろぎながらミカンを頬張っている朧と潮の図。
「うむ。カオスだ。」
その一言で表現できる図だった。
「おろ?執務は終わったんですか、ご主人様?」
「終わった。」
そう言って俺も炬燵に入る。案外大きいので俺が入ってもゆとりがあった。
「あぁ。」
俺はそう言ってぐでーっとなる。炬燵は人をダメにするとか言った奴、今すぐ俺のところ来い。というか、炬燵作った奴来い。本当にダメになる。
「お疲れですか?」
「疲れてはないけど、炬燵に入ると無性にこうしたくなる。」
「分かりますぅ~。」
そう言った漣は曙の猛攻を気にせずにぐでーっとなった。
そのまま寝てしまった事は反省する気は無い。
寝ているとフェルトに起こされたのだが、顔を上げてみると炬燵に入っていた全員が寝ていた。
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水上打撃部隊もそう殲滅は難しくなかった。
赤城・加賀による先制航空戦にて制空権を確保。その後、北上・大井の先制雷撃によって水上打撃部隊は半数を喪失。残りを私と陸奥の弾着観測射撃で確実に沈めた。
久々の実戦、それもこれまでのような安全な戦いではない本来私たちが繰り広げてきた命の駆け引きは懐かしく思えた。
「敵艦隊撃破。損害を報告せよ。」
無線に向かって私はそう言う。
『陸奥。損傷は軽微。作戦行動に支障はないわ。』
『北上。全部夾叉で良かったよ。』
『大井。損害無し。』
『赤城。艦載機収容完了、補給中です。損害無しです。』
『加賀。艦載機収容後、補給。損傷無し。』
全員無傷とはいかなかったようだが、痛手は負ってない様だ。
「作戦続行。進軍を開始する。次はいよいよ棲地だ......。」
私は沈みゆく深海棲艦を見た。
炎上し、胴体が真っ二つになっているものもある。
「作戦行動中の全艦隊へ。我々はこれより北方海域最深部にある深海棲艦の根城を強襲する。第一支隊は支援準備にかかれ!」
自分の身体を奮い立たせるつもりでそう声を挙げた。
返ってくる艦娘の返事は元気だ。士気も上々。撤退中の第二支隊、第三支隊からは激励が飛んできているが全部に応えている暇はない。
「我々に歯向かうモノは全て打ち砕くっ!!」
更に自分に言い聞かせ、視線の先に見えてくるであろう泊地の方を睨みつけた。
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全館放送で出撃していた作戦艦隊が最深部に到達した事が伝えられました。
確かにさっきから埠頭の方が騒がしいので作戦が順調に進んでいるのは分かっていました。ですが一方で私たちの方は全く進んでません。
昨日以来、進展が無いんです。あそこまで分かりましたが、この先が分からないんです。
私たちは何を知らなければならないのか......。司令官の事だって言うのは分かっているんです。ですけど、司令官の何を知らないといけないのか......直接話してみるというのも手だと思ったんですが、提督がどの時間暇しているのか分からないんですよね。初期艦が訊いて呆れます。
「叢雲ちゃん。」
私は取りあえず、叢雲ちゃんに声を掛けて司令官と話す場を設ける事を提案します。
「何?」
「あの話なんだけどさ、司令官と一度話す場を設けた方がいいと思うんだけどどうかな?」
叢雲ちゃんにそう言うと、考え込んでしまいました。ですが、すぐに答えは帰ってきます。
「いいんじゃない?だけど、司令官の事だって言うのは司令官に言わないで、あの話じゃなくて世間話をするかのように。そこから探りを入れるわよ。」
「分かった。」
これから執務室に行きます。時間的にも多分大丈夫です。さっき言いましたがどの時間暇しているか分からないってのはそうなんですけど、大体暇してる時間は分かるんですよね。
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艦娘が12人も居るところに更に吹雪と叢雲が来た。13人も居て狭いと少し感じていた執務室も2人増えたことで本当に狭く感じてしまう。
昼食を摂って休憩していた時に訪れたので話がしたいってのは分かった。メンツを見ても話があるのは一目瞭然だってのもあるが。
「司令官。少しお話しませんか?」
吹雪がそう言ってくる。いつもなら嬉しそうに言うのだが、表情が硬い。やはりそうだ。あの話を持ってきたのかもしれない。
「分かった。だがちょっと待っててくれ。」
そう言って俺は立ち上がり、フェルトに声を掛けた。
「フェルト、私室前に立っててくれ。中には俺と吹雪、叢雲が入るから。」
「うむ。だがどうして私たちを入れないのだ?」
「重要案件だからな。」
そう言って俺は私室を開けて吹雪と叢雲を招き入れた。
そして椅子に腰かけ、吹雪と叢雲も近くの椅子に座った。
「こうして来たという事は、何かあったのだろう?」
そう訊くと叢雲は首を横に振った。
「いいえ。ただ司令官と話がしたかっただけ。......考えすぎちゃっておかしくなりそうなのよ。」
そう言って眉を八の字にした叢雲が言った。
「そうなんですよね......。だから気分転換に司令官とお話しできたらなぁーって。」
吹雪もどうやら叢雲と同じようだ。もしかしたら昨日から考えていたのか?そう思った。何故なら吹雪と叢雲は共に鎮守府で待機だ。することはない。だからあの事を考えてしまっていたのかもしれない。
「分かった。何でも訊いてやろう。」
俺はそう言って冷蔵庫に向かった。
「2人は何を飲む?と言ってもお茶と牛乳くらいしかないが。」
叢雲はお茶で吹雪は牛乳だという事で氷の有無を訊いて出した。
「はい。」
「ありがとうございます。」
「ありがとう。」
俺は机にコップを置くと、再び聞いた。
「何でも聞くぞ?」
そう言うと叢雲が訊いてきた。
「よく考えたら私たち、司令官が昔何をやっていたとか聞いた事ないわ。......何をしていたのかしら?」
「あぁ......学校に行ってたよ。」
俺は普通に答える。これは長門や鳳翔に話した事のある事だ。
「学校ってあれ?子どもが学ぶ場所でしょ?......そうなんだ。」
叢雲はそう言ってふーんと鼻を鳴らした。
「学校で提督は何かやっていたんですか?」
「そうだな......。皆と同じ事は勉強だな。他では部活動をやったり、先生の手伝い、友達と話したり位か。」
俺はそう言って腕を組みながら応える。
「学校ってどんなでした?」
吹雪は興味津々で訊いてくる。
「ど田舎にあった学校だ。皆仲が良くて元気、礼儀正しい生徒ばかりの学校だった。」
ここで話が途切れてしまった。
「あっ......提督ってご家族は?」
吹雪はそう訊いてきた。
「親父と母さん、姉貴がいる。」
「へぇ~。お元気なんですか?」
そう訊かれ俺はどうだろうかと想像をする。
「元気だろうな。ここ5ヵ月以上逢ってないから知らないが。」
俺がそう言うと叢雲は微かに反応した。
「ねぇ司令官。友達いたの?」
「何だその言い方。......勿論居たさ。喋って、冗談言いあって、遊んだりしてた奴ら。」
「その友達は元気?」
「さぁな。家族と一緒でここ5ヵ月以上合ってない。」
俺がそう答えると叢雲は眉をひそめた。何かを考え始めた様だ。その一方で吹雪は訊いてくる。
「ある妖精さんに訊いた話なんですけど、提督が航空戦に精通してるって本当ですか?」
なんじゃそりゃと口に出さないで思ったが、訊いたつては大体想像できる。
「精通はしてるかさておき、ある程度は話す事はできるぞ?」
「へぇ~。司令官って軍の学校に通ってたんですね!」
「んな訳あるか。普通の学校だ。俺がそういうのが話せるのは、戦闘機とかに興味があったからだよ。」
吹雪はガーンみたいな擬音が着きそうな表情をした。
「でも、妖精さんたちは感心してましたよ?......そう言えば空母の皆さんも司令官に感心してましたよ?」
「何をだ?」
「艦載機の特性を熟知しているだとか。」
「あぁあれね......それは戦闘機に興味があったが故の副産物だ。」
そう俺が言うと吹雪は牛乳を飲んだ。
「でも流星を戦闘機運用しようだなんて誰も言いませんよ。」
どこからそれを訊いたんだろうと思ったが、言い訳をしておいた。
「それは流星の翼内に20mm機関砲があるから戦闘機として使う事もできるって言っただけだ。そもそもあれは艦攻として設計されたモノであって、戦闘機として使うモノじゃないからな。」
「そうだったんですかぁ。」
吹雪ははぇーとでも言いそうな表情をしている。その一方で叢雲は難しい顔をしたままだった。
少し間を空くと、叢雲は考えるのを辞めたのだろうか、お茶を一気飲みすると立ち上がった。
「ありがと、楽しかったわ。すこしやる事で来たからお邪魔するわ。」
そう言って叢雲は私室から出て行ってしまった。それを見送ったが、残された吹雪に永遠と色々と聞かれたのは言うまでも無い。
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(知らなければならない事......。見えてきたわ。)
私は執務室の帰りにそう考えながら歩みを進めていた。
今日、司令官と話して分かったことは『司令官の家族は司令官の居た世界に残ったまま』という事。考えれば至極普通の事だが、別の視点から見ると変わって見えるかもしれない。私はそう思った。
今回のシリーズの番犬補佐艦隊はなるべく登場のない艦娘たちを出そうと考えてます。
今日は球磨と多摩、第七駆逐隊でした。
あと話が進展していきます。
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