【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百二十六話  operation"typhoon"⑥

 

一度来たことがあるのと、深海棲艦の補充がまだだったために、私たちは前回撤退した地点まで難なく辿り着く事が出来た。

 

「こちら長門。最深部前まで到達した。指示を仰ぎたい。」

 

私は通信妖精から受話器を受け取って鎮守府と交信している。

 

『お待ちください。』

 

何時もの鎮守府側の通信妖精がそう言うと、地下の通信室に提督が居たのだろう。前回よりも早く出た。

 

『提督だ。話は訊いている。』

 

「あぁ。道中、本隊に中破した艦娘は出ていない。全員損傷軽微だ。」

 

『そうか。ならば前進せよ。』

 

「了解だ。」

 

私は通信妖精に本隊と第一支隊に繋げるように頼んだ。

 

「本隊旗艦の長門だ。これより西方海域最深部に攻撃を仕掛ける。心してかかれ。」

 

『『『『『了解。』』』』』

 

「全艦両舷前進強速。その後、空母は先制攻撃だ。」

 

『『了解。』』

 

何時もの様に堂々とした態度で返事を返す赤城と加賀。

 

「第一次攻撃隊の反転を確認すると同時に私、高雄、島風、雪風は最大戦速で突撃する。」

 

『『『了解。』』』

 

指示をそれぞれに出した。支隊は支隊でちゃんとそこの旗艦が指示を出すので私は其処には触れなかった。

速度を上げる艦隊。私は艦橋から海を眺めていた。そうすると水平線の向こうに影が浮かび上がり、それが何だと感じる。

深海棲艦の艦隊だ。

 

「第一次攻撃隊はもうあっちの艦隊の上空か......。対空見張りを厳とせよ!」

 

私は艦内の妖精への指示も出す。

この作戦、一回撤退する前に訊いたが、ここの最深部は装甲空母なる艦種の深海棲艦がいるとの事だった。という事はあっちも空母機動部隊。こちらに爆雷撃機が来襲する事は目に見えている。

 

『敵機来襲っ!』

 

言わんこっちゃない。準備を整えていた対空戦闘兵装付きの妖精たちや弾薬補給の妖精たちからの連絡は一時的に途絶えた。交戦を始めたという事だ。

 

『第一次攻撃隊が敵艦隊の軽空母と駆逐艦をそれぞれ撃沈しました。』

 

赤城から報告が入る。それを私は待っていた。

 

「全艦隊へ。砲雷撃戦闘用意っ!」

 

通信妖精がそれを訊いて慌ただしく指示をそれぞれの艦娘に飛ばしている。

その通信妖精が一息ついたのを見て、私は全艦隊に繋げてもらった。

 

「単縦陣で突撃を敢行する。全艦我に続け。」

 

返事を聞くまでも無く私は通信妖精に受話器を返した。

 

「我々の征く道に貴様等なんぞ要らないっ!」

 

私の中にあったのはたった一つだ。この海域を取り返し、生きて帰る事。ただそれだけだ。

だが、頭の片隅に残っていたのは昨日の夜、伝え伝えで聞いた提督の事だった。勿論、赤城たちの12人だけの話だ。

赤城曰く、全て提督に知られてしまったとの事だった。私は話を聞いただけで直接何をしている訳でもないが、協力している。叢雲や赤城から聞かされた話は嘘偽りない事だろう。その話を信じているからこそ、赤城たちと同じ志を持って動くと決めたのだ。

だが、それが提督にバレてしまっている。しかもその話をしている最中、呼び出されている事を知らなかった金剛と鈴谷が提督の危険を察知して赤城と提督が居た執務室に飛び込んだという。これが意味する事は赤城はその時、提督に害を及ぼす存在だと認識されたからに他ならない。という事は、赤城と同じことをしている私たちも提督の害となったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の周りには作戦が始まったという事で、番犬艦隊が控えていた。

何時もと変わらぬ様子に俺は安心し、執務をこなしていく。だが一つ気になる事があったのだ。番犬補佐艦隊に金剛が居るのだ。

どういう決め方をしているか知らないが、このタイミングで金剛が俺の近くに居てもらうのは俺の精神衛生上良くない。なので、金剛が収まっている炬燵に入る気も失せていた。いつもならなりふり構わず入って誰かしらと話をしていたが、今日は出来そうにない。

 

「アトミラール、炬燵には入らないのか?」

 

何時もなら終わると同時に炬燵に入っていた俺を見てフェルトが訊いてきた。

 

「あぁ。今日はそんな気分じゃないんだ。」

 

「そうか。」

 

フェルトは何も知らない。だから唯俺がそんな気分じゃないという言葉を信じて書類を脇に執務室を出て行った。

 

「提督。貴方、変よ?」

 

そういきなり言って来たのは、フェルトがさっきいた場所の反対側に立っていたビスマルクだった。

 

「どこがだ?」

 

そう俺は目を細めながら言うと、ビスマルクは指を顎に当てて考え始めた。

 

「そうねぇ......雰囲気、かしら?」

 

「雰囲気ね......。」

 

ビスマルクは雰囲気だと言った。確かに変かもしれない。まず炬燵に直行しない時点でおかしいのは明白だったからだ。

 

「何かあったの?」

 

そう心配そうに聞いてくるビスマルクに俺に有無も言わさず膝に乗ってきたゆーを支えながら答えた。

 

「あったというか、今もあるんだ。」

 

「どういう事かしら?」

 

「詳しい事は言えないが、そういう事だ。お蔭で胃が痛いし頭も痛い。」

 

そう言って『はぁ。』と溜息を吐いて見せた。

その一方で俺の膝の上で眠りかけていたゆーは起き、ビスマルクの表情が険しくなった。

 

「胃が痛い、頭が痛いって風邪かしら?」

 

「そうじゃないんだ。」

 

俺はこれを言った瞬間、とてつもない大きな地雷を踏みぬいた気がした。実際には聞こえないが、空耳で爆音が耳を劈いた。

 

「......そうじゃないなら、心労ね。様子を見る限り、何かの心配ではなさそうね......あと考えられるのは......。」

 

「ビスマルク姉さん......。アトミラールが怯えている......だから......何か『危険』、かもしれない......。」

 

そうゆーが言った瞬間、机の前にいたレーベやマックス、プリンツが俺の真横と背中と前に艤装を身に纏った状態で立った。

 

「ユー......怯えてるって......。それは無い、だろう?」

 

そう俺の膝の上にまだ居るユーの頭を撫でた。

その姿を見ていた番犬補佐艦隊の中で何かに1人だけ何かと葛藤している艦娘が居た。金剛だ。

他の番犬補佐艦隊は立ち上がり、艤装を身に纏って執務室の入り口と、外に向かって走り出したのにも関わらず金剛だけは艤装も出さずに居た。

 

「どうしたの、金剛。」

 

そう訊くビスマルクに金剛は答えた。

 

「何でもないデス。持ち場に行きマスネ。」

 

そう言って艤装を身に纏った金剛は執務室の外に出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

単縦陣で突撃を敢行した私たちは、相手艦隊に目を奪われていた。

中に一隻だけ、おかしな構造の深海棲艦が居るのだ。飛行甲板があるのは当たり前だろう。提督からその話は聞いていた。だが、おかしいのだ。

何故、大型艦の、しかも戦艦クラスの砲を装備しているのだろうか。

その光景は突撃した誰もが目を疑い、戸惑った筈だ。勿論、私もだ。

 

「怯むなっ!旗艦がおかしいというのは訊いていただろう?!」

 

私は怯んでいる妖精たちに喝を入れ、そのおかしな深海棲艦を睨んだ。その刹那、装甲空母を見張っていた見張り妖精から叫び声が聞こえてきた。

 

「魚雷接近っ!」

 

「何だとっ!?あっちの艦攻隊は戻ったはずではなかったのか!!」

 

そう私が確かめるように訊くと、見張り妖精が飛んでもない事を口にした。

 

「あの装甲空母から射出された魚雷ですっ!」

 

「なんだとっ?!」

 

気付けば僚艦も回避運動を始めている。こちらも私の指示を出す前から既に回避運動をしていた。

 

「こんな深海棲艦、見たことないぞ......。一刻も早く沈めねば......。」

 

私はそう呟き、装甲空母を睨んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警戒の解けた番犬艦隊と番犬補佐艦隊は再び、執務室に戻ってきていつも通り過ごしていた。

勿論、俺もだが。そんな時、炬燵に入っていた金剛が急に立ち上がり、俺の前に来た。

 

「提督、お話良いデスカ?」

 

「......あぁ。」

 

俺は少し考えた後、返事をした。

 

「じゃあ、私室にデモ......。」

 

「分かった。......フェルト、頼めるか?」

 

「了解だ。」

 

俺はフェルトに私室の前に立ってもらって、私室に金剛を連れて入った。

椅子に座るように言って、金剛の正面に座った。

 

「昨日の事なんデスガ......。」

 

そう切り出した金剛の言葉に俺は少し驚いた。

 

「赤城から詳細を訊きマシタ。」

 

「そうか。」

 

金剛は眉毛をハの字にして俺の顔を見た。

 

「私たちのしている事、知っているんですヨネ?」

 

「あぁ。」

 

金剛は俺の顔色を伺いながら続けた。

 

「提督が私たちを『害』とみなすってノモ......。」

 

「言った。」

 

次第に金剛の目は赤くなり、涙が溜まっていく。

 

「提督の為にしてきたってノニ......ウウウッ......。」

 

金剛の頬を涙が伝っていった。

多分、昨日の追い返した後に集まらずに連絡が回ったのだろう。その際に訊いた事を確かめに来たという事みたいだ。

だが、これでハッキリした。金剛たちの目的だ。今金剛は『提督の為にしてきたってノニ』と言った。

 

「知っていた。」

 

「えっ?」

 

「知っていた......と言うのには語弊がある。厳密に言えば、何故金剛たちはあんな事をしていたか、目的が分かった。」

 

そう言うと、金剛は袖で涙を拭いてこっちを見た。

 

「本当デスカ?」

 

「あぁ、推理だけどな。」

 

そう言って俺は金剛に昨日、金剛と鈴谷、赤城を追い返した後に考え着いた答えを言った。

 

「俺の為......俺が感じている寂しさとか責任とか、どうにかしようとしているんだろ?」

 

そう言うと金剛は顔を伏せてしまった。これは答えか?そう思い、続けた。

 

「金剛たちの動いている艦娘がこれまで俺に対して言って来た言葉を、思い出しながら考えた。......もうそれ以外答えがない。」

 

「......(ボソボソ)」

 

「ん?」

 

金剛はそうボソボソと何か言うと、顔を上げた。

 

「その通りデス。私たちは提督が感じている『寂しさ』や『責任』をどうにかしようと動いてイマス。」

 

「そうか。」

 

俺は予想通りだったことが嬉しかった。だが、金剛はまだ続けた。

 

「デスガ、まだあるんデス。」

 

「何だと?!」

 

金剛はそう言って立ち上がり、俺の横に来て俺の目を見た。

 

「決定的に、私たちが動く理由になった元が......。提督はそれに気付いてマセン。」

 

そう言って座っている俺の目線に金剛が合わせて屈むと、俺の右手を取った。

 

「この手は、本当は勉強する為にペンを握っていた手デスヨネ?」

 

俺が何のことだか理解出来てないにも関わらず金剛は続けた。

 

「資材の数の管理や、出撃編成表を書くためじゃない筈デス。」

 

俺は何も言えなかった。

 

「この時間は提督は学校に通って、勉強をして、友達と話していたんじゃないデスカ?」

 

「っ?!」

 

金剛は急に何かを言いだした。

 

「夜は家に、家族の元に帰っていたじゃないんデスカ?」

 

「......。」

 

金剛の俺の右手を取った力が強くなる。

 

「提督には将来があったんじゃないんデスカ?」

 

「......。」

 

金剛の言っている通りだ。今は時間にして午前11時過ぎ。この時間は、もう何か月も前の話になるが、学校で授業を受けている時間だ。

夕方になれば家に帰っていた。そして、俺は将来、夢を目指していた。

 

「皆、『気付いてない』んデス。この事に。」

 

金剛は俺の私室を見渡して、本棚を見つけると俺の手を放して本棚に向かった。金剛はそこからある本を引き抜いた。

参考書だ。

 

「コレ、本ですけど物語じゃないデスヨネ?」

 

「そうだな。」

 

そう俺に確認を取った金剛はその本を元の位置に戻すと、椅子に座った。

 

「少なくとも私は......。」

 

そうどもった金剛は続けた。

 

「少なくとも私は、提督をこの世界に呼び出した時点で『提督の将来を奪ってしまった』と考えてマス。」

 

「は?」

 

金剛はそう言った。涙も少し乾いた少し乾燥している目だろう、それを俺に向けて。

金剛の言った事が多分、艦娘をここまで動かす元になった事だろう。俺の将来を奪ったって、さっぱり分からない。

 

「私たちの欲望のままに提督を求めて、呼び出しマシタ。その時点で提督のいた世界では提督の積み上げてきたモノや沢山あったはずなんデス。それは皆分かっているはずなんデス。でも見ない......。」

 

「......。」

 

金剛は握りこぶしを抑えながら言った。

 

「家族、友人、将来......全てと言っていいものを私たちの為に奪ってしまったんデス。」

 

俺はそう言い切った金剛を見た。

縮こまった金剛の目は怯え、うしろめたさ、そんなものを感じる。だが、金剛はこの世界に来た時点で帰る事を選択出来たという事は知っているのだろうか。

 

「金剛は、ここに呼び出された時点で帰る事が出来たって知っているか?」

 

「ハイ。」

 

そう。俺は自分の意志で残った。自分の意志で艦娘たちの指揮を受けたのだ。

 

「金剛は間違っている。」

 

「どういうことデスカ?」

 

金剛は縮こまったのを治した。

 

「金剛は俺の家族や友人、将来を奪ったと考えているんだよな?」

 

「ハイ。」

 

「違うな。......俺は金剛に奪われたんじゃない、自分で捨てたと同義だ。」

 

「えっ?」

 

頭の上が『?』となっている金剛に構わず続けた。

 

「だから金剛がそんな事で悩まなくてもいい。」

 

困惑する金剛を無視して俺は言った。

 

「俺の『意思』でここに残って指揮をするって決めたんだ。」

 

「そう......デスカ......。」

 

「でも......。」

 

俺はそう言って乾きかけた金剛の涙を拭った。

 

「ここまで悩ませて、色々な事をやったしまったんだな......。」

 

「グスッ......。」

 

俺はここで全部やめろなんて言えなかった。多分今日までずっと準備というか、動き続けてきたんだろう。地図を書き、トンネルを掘った。赤城たちと結託して手探りで色々な事を決めて進めた。これを全部否定してしまうのは直感的にダメだと思った。

だから自分で決めたが、どうしようもない事を言った。

 

「ならこうしよう。」

 

そう言って俺は金剛の頭に手を乗せた。そして頭を撫でた。

 

「ありがとうな、金剛。俺の為にここまでしてくれて......。」

 

「......イエっ。」

 

「確かに俺は色々な物を自分の意志で手放した。だけどやっぱり寂しいものは寂しいんだ。」

 

そう言って俺は金剛の頭を撫でていた手を止める。

 

「ここに来た時からもう俺と金剛、艦娘たちは友人であり、家族だ。寂しくなんかない......。」

 

そう言うと金剛は顔を上げた。

 

「そうなんデスカ?」

 

「あぁ、勿論。楽しいぞ?金剛や皆と飯食って、仕事して、騒いで、遊んで......。」

 

「私もデス。」

 

「家族や友人はもう会えないけど、今の俺にはずっと近くに居てくれる金剛たちがいる。」

 

「ハイ......。」

 

「それだけで十分だ。さっ、戻るか。あんまり長いとフェルトが心配する。」

 

そう言って金剛の手を引いて立たせた。

 

「そうデスネっ......。」

 

もう金剛に涙は無かった。いつもの金剛に戻っている。

これで金剛は何かをしなくなるだろう。トンネルともおさらば、地図は......使えるから譲ってもらうか......。

俺は無理に話を逸らした。

 

「そう言えばフェルトってどこか雷っぽくないか?」

 

「そうデスカ?」

 

「あぁ。フェルトが『もっと私を頼ってもいいんだぞ?』とか言ってたらもう大きい雷確定だ。」

 

そう俺が言うと金剛は笑った。やっぱりこっちの方がいいな。そう俺は思った。

開いた扉の向こうにはフェルトやビスマルクたちが居る。

 

「遅かったな。心配したぞ、アトミラール。」

 

「すまなかったな。」

 

俺はそう言って椅子に座った。

 

「何かあったのなら私を頼ってくれてもいいんだぞ?」

 

そうフェルトが言った瞬間、俺と金剛が笑ったのは言うまでも無い。

 

「はははっ!!!やっぱフェルトは大きい雷だなっ!!」

 

「そうデスネっ!!!」

 

「そうなのか?どこがだ?」

 

「本人分かってないデース!」

 

「はははっ!!」

 

こういった雰囲気がこの鎮守府に戻って来る日も近いなと俺は思った。

 





金剛が話を持ちかけました。結果、金剛が話して提督がそれを丸く収めたって感じですね。でも金剛だけですからねー。まだ11人いるんですよ......。
ですが、こっからシリアスなところを削っていきます。

本当にフェルトは雷です。もうほんと......。凄い似てる。セリフ的にも......。

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