【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百二十八話  operation"typhoon"⑧

「報告、西方海域最深部にて深海棲艦の艦隊を撃破。」

 

金剛と話をした翌日の朝、作戦艦隊が帰還した。

全員やり切ったという表情をしている物が多く、俺から『作戦終了』の号令が出るのを待ち望んでいる事だろう。

 

「お疲れ、損傷艦は入渠せよ。」

 

俺はそう指示を出した。そうすると長門が話しかけてきた。

 

「カスガダマ島はリランカ島の様に使うのか?それなら陸軍に掛け合って早く部隊を送った方が......。」

 

そう言いかけた長門に、周りは喜々として頷いている。どうやら護衛任務は嫌いじゃないらしい。だが、残念だ。

 

「それはしない。」

 

そう言って俺は凄んで続けた。

 

「2日後、カスガダマ島沖に反復出撃を行う。」

 

「「「「えっ?」」」」

 

長門たちは声を揃えてそう言った。

 

「何故だ?もうあの意味の分からない深海棲艦は撃破した。この目で轟沈を確認したんだぞ?」

 

そう長門が訴えてくるが俺は無視した。

 

「あぁ。だが再度出撃だ。」

 

「護衛任務で無いのなら訳が分からないぞ?」

 

「護衛任務ではない。今回と同じ作戦艦隊でカスガダマ島沖に出てもらう。」

 

そう言うと長門は下唇を噛んだ。

 

「どういう事なのだ?!」

 

そう俺に掴みかかる勢いで迫ってくる長門に睨みを聞かせた俺は、長門だけに聞こえる程度の声で言った。

 

「長門たちが撃破してきたのは本隊じゃない。本隊がまだ居る筈なんだ。」

 

そう言って俺は離れた。これで長門も意味が判っただろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夜も深まり、そろそろ消灯時間になるだろうという時間。俺は金剛と共に艦娘寮の空き部屋に居た。

 

「ここで隠れてて下さいネー。」

 

「あぁ。」

 

数日前に決めていた事だ。

金剛に頼んで会議に乱入し、全員を止める。金剛と同じことを考えて動いているのなら、止める事が出来る筈だ。そう考えての行動だ。

 

「もうすぐ来ると思いマス。タイミングはこっちから出しますネー。」

 

俺が隠れるのは空き部屋の押し入れ。4人用の和室で、話を聞くと金剛曰く『艦娘寮にはあちこちに空き部屋がありマス。多分焼け落ちた後に妖精さんが増やしたんでしょうネ。』という事だ。押し入れに俺は入り、引き戸を締めて小さい隙間を覗いた。

そこにはさっき居た所に金剛が座っており、待っている様子。そうすると部屋の扉が開く音がして、艦娘が続々と入ってきていた。

だが皆、無言で入ってくる。作戦艦隊だった艦娘は多分疲れだろう。他は雰囲気にやられてしまっているのかもしれない。

そして最後に霧島が入ってきた。

 

「あれ、お姉様?先にいらしてたんですか?」

 

「ハイ。少し寄り道して、こっちに来マシタ。」

 

白々しい嘘を吐いて、金剛は霧島を横に座らせた。ちなみに、俺の覗いているところからは金剛の顔が良く見える。

 

「では、出撃前のアレの詳細説明を。」

 

そう言って赤城が話し出した。

 

「あの時に伝え聞いたと思いますが、提督はかなりの事を知っています。」

 

「あぁ、それは知ってる。だが、どこまで知っているというのだ?」

 

長門の姿は見えないが、多分腕を組んでいるだろう。

金剛が見えるのでついでの様に霧島や吹雪も見えるのだが、頷いている。

 

「『気付くべき』ところ以外です。」

 

「なにっ?!では資材が隠してあるのもまでか?!」

 

「それだけではありません。鈴谷さんの携帯火器やパソコンもです。」

 

「マジっ?!......どうやって調べたんだろう?」

 

「私たちが資材を使って建造や近代化改修を行おうとしているのもまで知ってました。」

 

「それって、つい最近話した内容じゃないですかっ!?」

 

長門や鈴谷、霧島も次々と驚いていく。他の艦娘もさぞ驚いている事だろう。

 

「一体どうなっているのか分かりませんが、もう隠せてません......。それと早急に決めなければいけない事があります。」

 

そう深刻そうな声色で赤城は話し続けてた。

 

「私たちは提督に『害』と見られているというのは先日、聞いたと思います。」

 

そう赤城が言った瞬間、場の空気が凍り付いた。

 

「それって本当なの?」

 

見えないが、叢雲がそう言った。

 

「えぇ。提督本人が私に仰いました。そこで、針路を決めなければなりません。」

 

皆が息を飲んだ。

 

「ひとつは『提督に全てお話して、私たちが丸ごと『近衛艦隊』に移る』事。もうひとつは『提督に『害』と見られていると言われても突き進む』事。」

 

そう言った瞬間、加賀が多分机を叩いたんだろう。『ダンッ』と聞こえた。

 

「ふたつめです!ここまで準備を整えてきたんです!......提督に恨まれようが、返さなくてはいけませんっ!」

 

「そうだっ!ここまで来てしまっているんだっ!引き下がるわけにはっ!」

 

そう訴える加賀と長門に赤城は言った。

 

「ですがそうなるとこの場にいる全員が『解体』される覚悟が無いといけません。」

 

「それは分かってるっ!だが提督だっ!提督はそんな事しないだろう!」

 

そう言った長門にもう落ち着いて話せなくなったのだろう、赤城も長門と同じ調子で言い始めた。

 

「提督は辛い過去を持ってる事が分かったんですっ!私たちのこの行動はその提督の辛い過去と酷似しているとおっしゃってましたっ!それにその話をしている時の提督はいつもの提督じゃなかったんですっ!」

 

「じゃあどんな顔をしてたンデスカ?」

 

怪しまれないように金剛が発言した。

 

「目に光のない、そんな目をしてました。」

 

「まるで提督の危険を察知した時の金剛や鈴谷の様ね。」

 

そう叢雲が比喩をした。俺そんな目してたのか。

 

「......では挙手で決めましょう。ひとつめにが良いと思う方......。ふたつめが良いと思う方......。」

 

挙手が始まり、皆が手を挙げて行く。吹雪とイムヤはひとつめに手を挙げた様だ。長門や加賀のその他はふたつめに手を挙げたみたいだ。だが、そのどちらにも金剛は手を挙げなかった。これは多分合図だろう。

 

「......金剛さん、貴女はどっちですか?」

 

目を瞑っている金剛は目を開いて一瞬こっちを見ると赤城に答えた。

 

「まだ選択肢は残ってマース。」

 

「まだ何かあるんですか?」

 

そう赤城が言った瞬間、金剛は俺の方を再び見た。このタイミングだろう。俺は押し入れをバッと開けて立ち上がった。

 

「提督に正直に話して、一緒に考える事デース。」

 

俺はそう言って驚いて口が開いたままの赤城の横に行った。

 

「もうお終いだ。赤城。」

 

「何故っ、提督がっ......。」

 

「私が先に来て提督に隠れてもらったんデス。」

 

金剛がそう手をひらひらさせながら言った。

 

「全て分かったんだよ。赤城たちがここまでして動いたのも......。『奪ってしまった』って考えてるんだろう?」

 

そう言って金剛に言ったのと同じ言葉を言った。

 

「自分で捨てたんだよ。家族も友人も将来も......。」

 

「ですがっ!?私たちは提督着任の時に同情を誘う様なっ......。」

 

「あの時赤城たちには同情してなかった。というか捨てたっていうのも語弊があるな。結果的にそういう形になってしまったという事だ。」

 

目の前で起きている事が理解できてない金剛と赤城以外の艦娘は次第にこちらに戻りつつあった。

 

「どういう事っ?!」

 

「俺が言いたいのは、赤城たちは俺の着任に負い目を感じて欲しくないって事だ。」

 

そう言って俺はその場に座った。

 

「だが、ここまで準備をしてきたんだろう?鈴谷なんか危ない橋、渡りまくりだ。」

 

「......うん。」

 

「準備してきたのを全て捨てろだなんてとてもじゃないが言えない。きっと何もかも手探りでやってきたんだろう?」

 

そう言って赤城と鈴谷の顔を見た。

 

「資材を溜め込んで隠し、外と連絡を取り、あれやこれやと色々な策を捻りだした......違うか?」

 

そう言って赤城を見た。

 

「そう......です。ですがそれは前にも仰ってました!」

 

「あぁ。......だが何故俺がここにいるのか......それは、赤城たちが動く明確な目的が分かったからだ。」

 

「『奪ってしまった』ですか?」

 

「あぁ。俺から何もかもを奪ったって考えてるんだろう?だがさっき言ったが、俺は自分で捨てたのと同じだ。赤城たちが奪ったわけじゃない。」

 

そう言って立っていた赤城他数名を座らせ、それぞれの顔を見た。

 

「だからさ『近衛に入る』とか、『何も言わずに恨まれようが進める』とか言うな。金剛が言っただろう?『俺と話して一緒に考えよう』。」

 

そう言うと全員が俯いてしまった。

 

「えっ?どうした??」

 

「ありがとう......ございます。」

 

そう赤城は横で言った。

 

「ずっと『奪ってしまった』と考えていたんです。どう返すか、どうしていこうかと......。ですが、それは勝手に私たちが思っていただけだったんですね?」

 

「あぁ。」

 

「本当に良かったですか?......この世界に来て。戦争をさせられて、責任を背負って、いつ死ぬか分からないこの世界に......。」

 

「良かったかは......どうだろうな。まだ分からない。だけど、良し悪しを決めるのは未来だ。戦争を終わらせ、その先、この世界で過ごしていく方法にあると思う。」

 

そう言って俺は手を叩いた。

 

「湿気た雰囲気出すなって......そら、考えるぞ。どうしていこうか。」

 

そう言っても尚、崩れない雰囲気に俺は嫌気がさした。場違いにもあるが、少し冗談を言おう。

 

「まずはだなー、『奪った』云々はもう無しだ!」

 

そうは言っても顔を上げてくれない。ちなみに金剛は顔を上げている。

 

「だがあるじゃないか、出来る事。」

 

「どんなんデスカー?」

 

金剛が乗ってくれた。ありがたい。

 

「それはだな、これからは戦闘も大事になってくるだろうが、もっと楽しむんだ。また運動会とか文化祭(仮)みたいな事を開いて、思い出作って、皆で笑ってさ。」

 

これでも顔を上げてくれないのか。ならば。

 

「それにだな、俺は家族とか友人とか皆いなくなって寂しいって思うが......。」

 

そう言った瞬間、全員の肩が跳ねた。

 

「だが、俺はここに来てもう金剛や赤城、鈴谷、長門、霧島、加賀、熊野、時雨、夕立、吹雪、叢雲、イムヤ......艦娘たちは俺の友人で家族だ。」

 

「えっ?」

 

俺がそう言うと、鈴谷は顔を上げた。

 

「一緒にご飯食って、仕事して、遊んで......楽しいぞ?寂しくなんかないんだ。」

 

そうするとひとりまたひとりと顔が上がっていく。

 

「だからそれだけで十分だ。」

 

そう言って全員が顔が上がったのを確認すると、俺はニヤッと笑った。

 

「また執務室に遊びに来い。用が無くてもいいさ。それにやけに悩んでいたらしい戦後の事はもう戦後でいい。面倒だ。」

 

そう言って俺は立ち上がった。

 

「また明日な。おやすみ。」

 

俺はそう言って空き部屋を出た。振り向かない。出る前に見た皆の顔はこれまでの曇っていた顔、焦燥感に駆られた顔をしてなかったからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という事で、解散デス。」

 

その金剛さんの号令で皆が目に溜まった涙を拭き始めました。

そんななか、私は気になる事があったので金剛さんに訊いてみました。

 

「どうして金剛さんは提督を?」

 

「あぁ、それはネー、ボロボロの隠蔽に情報ダダ漏れでしかも提督が気付くのは時間の問題だと言うのは赤城から訊いた時点で分かったんデース。それに私たちは一方的な意見を押し付けて、提督に何も聞いてなかったンデスヨ。だから訊いてみたんデス。そうしたらさっきみたいに返されマシタ。」

 

そう言った金剛さんは何かすっきりした表情をしてました。

 

「そうなんですね......。奪った訳では無かったんですね。」

 

「提督がそう言ってたデース。考えるだけ野暮ってもんデスヨ。それにまた何かあったこうやって皆で集まって提督と話し合って全部解決していけばいいんデス。」

 

「そう......ですね。」

 

金剛さんが言った言葉は皆聞いていた様です。納得したのか、皆涙を拭いた後には笑顔がありました。

 

「ですけど提督は言わなかったデスガ、『寂しい』とは絶対心のどこかで思ってる筈デース。その時は私たちが提督の近くに居ればいいんデス。」

 

そう言った金剛さんはニカッと笑って見せました。

 

「デハ、霧島ぁー!帰りますヨー!」

 

「はーい。」

 

「じゃあ、皆サン。have a good nightっ!」

 

そう言って金剛さんは空き部屋から出て行ってしまいました。

 

「ん?」

 

そうすると吹雪さんが何か頭を傾げました。

 

「どうしたんですか、吹雪さん?」

 

「金剛さんが英語言ったの始めて聞きました。」

 

「「「「「「「「確かにっ!!」」」」」」」」

 




オチがかなりアレですが、一応長かったシリアス展開もこれで終息です。お疲れ様でした。これからもちょくちょく挟むと思います。むしろ多いかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。
と言っててもまだ作戦終わってないんで、サブタイは変わりませんがwww

ご意見ご感想お待ちしてます。

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