【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百二十九話  operation"typhoon"⑨

 

俺が空き部屋に行った次の日の朝、赤城たちはすっきりした趣で現れた。

もう、今までとは違う。そう言っている様に思えて仕方なかった。

そして今日、再び埠頭の前に集まっている。

 

「これよりカスガダマ島沖に反復攻撃を行う。」

 

俺はそう言って作戦艦隊を見た。やはりどういう事なのか納得していない艦娘が多々いる様で、しかめっ面をしている。

 

「今回の攻撃目標は未確認深海棲艦。作戦艦隊本隊は会敵しているだろうが、奇形の装甲空母だ。」

 

「あれは先の作戦で轟沈させたぞ?」

 

長門がそう言ってくる。

多分長門は頭では分かっているんだろうが、他の分かっていない艦娘に向けてああやってワザと聞いたのだろう。

 

「あれは完全稼働していない奴だ。今作戦で相対するのは完全稼働した奇形の装甲空母。」

 

俺は一呼吸置いた。

 

「『装甲空母姫』と呼称されるその奇形深海棲艦は他の深海棲艦の違い、航空・砲雷撃戦全てが出来る深海棲艦だ。」

 

作戦艦隊の艦娘がつばを飲み込んだ。

 

「他と比べ、タフな艤装に正規空母並みの艦載機搭載量、戦艦並みの砲塔、巡洋艦並みの雷撃力。本隊も味わっただろう。砲撃する装甲空母、雷撃する装甲空母。」

 

俺はそう言って凄んだ。

 

「だがされど装甲空母だっ!艦載機が飛んで来れば落としてしまえ、砲撃されたのなら撃ち返せ、雷撃されたのならこちらも雷撃だ。カスガダマ島沖はまだ補充が来てないだろう。前回同様に最深部までは難なく進むことができる。」

 

そう言って俺はニヤリとした。

 

「ここで再編成を行う。作戦艦隊本隊はそのままだ。支隊は1つ減らし、第一支隊に戦艦を集中させる。第一支隊旗艦:陸奥、扶桑、山城、金剛、比叡、瑞鶴。第二支隊旗艦:霧島、榛名、川内、時雨、蒼龍、飛龍。」

 

作戦艦隊がおどおどしながらその呼ばれた通りに並び直した。

 

「第一支隊は最深部の支援砲撃を行ってもらう。」

 

そう言った俺に陸奥は乗っかってくれた。

 

「その戦艦5と空母1で固めた意図は何?」

 

「空母の艦載機による弾着観測を行いつつ、戦艦5による"飽和攻撃"を行う。」

 

「"飽和"?」

 

「つまり、富嶽の海上絨毯爆撃と同じ状態を作る。」

 

そう言うと陸奥は黙った。他の艦娘も質問は無い様だ。

 

「第二支隊は道中の援護だ。」

 

そう言うと第二支隊に選ばれた艦娘は返事をした。

 

「作戦艦隊は出撃っ!!」

 

「「「「「「了解ッ!」」」」」」

 

作戦艦隊から外された艦娘を残して、再編成された作戦艦隊の艦娘が走り出し、それぞれの艤装に乗り込んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

例外無く、執務室には番犬艦隊と番犬補佐艦隊が集まっていた。勿論、番犬艦隊はドイツ艦勢で番犬補佐艦隊は入れ替わりだ。

今日はというと伊勢、日向、鈴谷、熊野、夕張だ。珍しく5人だった。

 

「あ"ー終わった。」

 

そう言って背伸びをして首を鳴らした。いつもこんな事を言っているが、この世界に来てからずっと執務は小一時間もかからない程度しかない。書類が数枚だけで、たまに増えても2、3枚と言ったところだ。

 

「お疲れ様だ。コーヒー淹れるか?」

 

そう訊いてくるのはフェルト。これももう恒例化してきている。

 

「貰うよ。」

 

そう言って顔を挙げてみると大体、ビスマルクが横に居て正面にレーベとマックスがいる。俺の執務が終わったのを確認した途端にユーが俺の膝の上に来る。

一瞬というか、乗ってくる度に思うのだが、これは何というか犯罪的な雰囲気を漂わせている。何とは言わないが。

 

「淹れたぞ。熱いから少し冷ましてから飲んでくれ。」

 

そう言って俺の前にコーヒーの入ったカップを置いてフェルトはそのまま横に椅子を持ってきて自分のコーヒーも飲み始める。

 

「ありがと......。うん、美味い。」

 

「そうか。」

 

そう言って少し飲んだ後、俺は思い出したかのように横でシュガー3本入りのコーヒーをドヤ顔で飲んでいるビスマルクに声を掛けた。

 

「ビスマルク。」

 

「ん、なに?」

 

「リランカ島での貿易で今度大量にモノが入っているそうなんだが、何分ドイツ語が読めない。」

 

「そうなの?」

 

ビスマルクはコトリとカップを置くと腕を組んで言った。

 

「あぁ。外国語は英語しか習った事無い上に、苦手だ。日常会話でさえ無理なレベル。」

 

「そう......それで私に何を?」

 

「鎮守府に入ってくるモノに日本語訳を書いた付箋を貼っておいてくれないか?」

 

「えぇ、任せなさい!」

 

俺がそう頼むとビスマルクは胸をドンと叩いた。凄く自信あり気に返事しているが、なんかありそうだ。俺はチラッとフェルトの方を向いた。

 

「あー、それならレーベとマックスの方がいい。」

 

「どうしてだ?」

 

フェルトは何かを察したかのようにそう言うと俺を引き寄せた。

コーヒーの匂いと女の子特有の匂いが鼻を擽るのを我慢しながら耳を傾けた。

 

「ビスマルクは日本語を話すのは堪能だが、字は無理だ。日本語を書けと言うと平仮名しか書けない上に間違いだらけだ。止めておけ。」

 

「そうなのか?」

 

そう言うとフェルトは俺を離した。

 

「ビスマルク。」

 

「なに?」

 

フフンと言いたげな雰囲気を出しているビスマルクに一言言った。

 

「やっぱさっきのなし。」

 

「何でっ?!」

 

フェルトはその後に『私もそこまで得意じゃないが、レーベとマックスなら読み書き共にできる。そっちに頼んでみてくれ。』と付け足したのでその通りにした。

だが、ふと目に入った時計がまだ10時を指している。ここから昼までつまらないから何かしようと考えた時、丁度いいのがあった。

 

「そう言えばビスマルク。」

 

「何よ......。」

 

さっきのを断ったからか、少し不機嫌になっているビスマルクに俺は紙とペンを差し出した。

 

「自分の名前を書いてみてくれ。」

 

「はぁ?......いいけど...........はい。」

 

そう言って紙を俺から受け取ったビスマルクはサラサラと書いて俺に見せてきた。そこにはどう見ても筆記体で『Bismarck』と書かれていた。しかも凄く綺麗だ。

英語が嫌いな俺が何故筆記体が読めたかというと、学校の英語の教科担任がプリントを刷る度に筆記体で出してきていたからだ。

 

「違う。日本語でだ。」

 

「え、嫌よ。」

 

俺が日本語でと言うとすっぱり嫌と言われた。

 

「さっき頼んだ仕事、やっぱビスマルクにやって貰おうかと思ったんだが......。」

 

「何よ、そうならそうと早く言いなさいっ!」

 

そう言って紙にまたペンを走らせ始めたビスマルクの表情はさっきとは大違いだった。眉の間にしわが寄り、少し唇を噛み、『あれー?』と言いながら書いて数分後。俺に見せてきた。

 

「どうよ!」

 

と言ってドヤ顔で見せてくるのはいいが、『ビ』が『べ』になっているし、『ス』も『ヌ』になっている。『マ』も『ヌ』になり、『ル』は辛うじて書けているが、『ク』は『ケ』になっていた。繋げて読むと『ベヌヌルケ』。しかもそれが筆記体の下に書かれているので、破壊力が倍増されている。

 

「ひっ、平仮名はっ?」

 

「むぅ......分かったわよ......。」

 

そう言って俺は笑いたいのを抑えながらビスマルクに言った。ちなみに俺の膝の上に居るユーと後ろのフェルトは俺同様に笑いを抑えるのに必死みたいだ。

 

「これでいいかしら?」

 

そう言ってビスマルクが見せてきた。今後は『び』は『で』になっていて、『す』は『よ』に見えなくもない。『ま』はまぁ、読める。『る』は『ろ』と判別が出来ない。『く』は書けていた。繋げて読むと『ですまるく』または『でよまるく』、『ですまろく』、『でよまろく』。

どうやらフェルトの言っていた事は本当だったらしい。

 

「フフフッ......ングッ......ビスマルクっ?」

 

「なっ、何よ?」

 

「やっぱ無しだっ......。」

 

俺は腹を抑えながらそう言っている。ちなみに見に来たレーベとマックスは苦笑いしていた。

そして、前にも似たような事があって爆笑していたプリンツがファイルの整理を終えてこっちに戻ってきた。

 

「どうしたんですかー?えー......なになにっ......ブフッ!!」

 

吹きだしたプリンツは机に手を掛けてカタカタと揺れながら顔を俯かせて手で口を覆い、プルプルと震えだした。

 

「ちょっと、どうしたのよ!」

 

そうこの場で唯一状況を掴めていないビスマルクは俺の肩を揺らしながらそう言うが、まだ机にその紙が置かれている。それを見た瞬間、俺はもう我慢できないだろうと思っていたから顔を上げれなかった。なので、首を横に振り『何でもない』と言っている様に見せる。

 

「訳分からないわ。全く......ほら、プリンツもそこで震えてないでちゃんと立ちなさい。」

 

そう言ってビスマルクがプリンツの肩を掴んだ瞬間、もうプリンツは我慢の限界だった様だ。

 

「あはははっ!!やっぱりビスマルク姉さまは最っ高っ!!」

 

「まっ、まぁね!もっと褒めてもいいのよ?」

 

盛大に噛みあってない会話を俺とユー、フェルトは笑いが収まるのをただ我慢し、レーベとマックスは苦笑いを続けたまま聞いていた。そんな時、こっちの騒ぎが気になったのか伊勢と鈴谷がこっちに来た。

 

「どうしたの?」

 

「なんか面白そうじゃーん。」

 

そう言って来た2人に笑いを堪えながら俺は身振り手振りで来ちゃ駄目だと伝えるが、伝わるはずもなく、机に置かれた紙を鈴谷が拾って見た。

その刹那、鈴谷もさっきとプリンツと同じ体勢で笑いを堪え始めた。

 

「クククッ......オナカイタイッ!」

 

そう訴える鈴谷の手から伊勢が紙を取って見た。そうすると伊勢は少し笑うと、俺を呼んだ。

 

「提督っ!」

 

「......(笑いを堪えているので話せない)」

 

俺が向いたのを確認すると、紙を折って筆記体とカタカナの『ベヌヌルケ』が書かれている方を見せた。そして伊勢はドヤ顔をしてこう言ったのだ。

 

「どうよ!」

 

俺はこの一撃で笑いが決壊しそうになり、どうやら後ろでようやく落ち着き始めていたのだろうか、顔を上げていたフェルトがまた顔を伏せてしまった。

その一方、伊勢は折ったところを開いてこちらに見せてきて言った。

 

「これでいいかしら?」

 

そうドヤ顔で言うのだ。もう俺も我慢ならなくなり、笑いが決壊する。

 

「ははははははっ!!!似てないけど、それはっ!!!」

 

そうすると連鎖的にユーとフェルトも笑いだしてしまった。

 

「あははははっ!!」

 

「ふふふふっ。」

 

そうすると鈴谷が机を掴んでいた手が離れ、そのまま床に鈴谷が転がってしまった。

 

「アハハハハッ!!オナカガヨジレルゥッ!!」

 

そう叫んでいるが。もうこれはプリンツのアレより酷かった。バタバタと暴れ、笑い転げる。笑い転げているのを見たのは初めてだ。

そんな俺たちを見てビスマルクは言った。

 

「もうっ!みんなどうしたの?!」

 

そう憤怒するビスマルクを笑いが落ち着いた俺は呼んだ。

 

「なによっ!」

 

「一緒に酒保行くか?」

 

俺はそう言うと急に笑いが止まり、視線が俺に集まってくる。

 

「何で?」

 

「ドリルを買に行こう。たぶん売ってるから。」

 

「え?酒保の家電屋にドリルは売ってなかったわよ?」

 

そう言ったビスマルクにまた俺たちは笑い出した。

ちなみに俺が言っていたドリルは小学生がやるような平仮名とかを練習するドリルの事だ。

というか、ビスマルクは何の用途があって酒保でドリルを探したんだ。よっぽどこっちの方が俺は気になった。

 





今回はノーコメントで行きます。
多分書いてた時間帯が悪いんですね(白目) そういう時間帯だと変なノリが出てしまいます。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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