【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十話  operation"typhoon"⑩

 

カスガダマ島沖には本当に先日倒した様な装甲空母の深海棲艦が居た。だが様子が違う。

最深部に到達した連絡を提督に取り、偵察機の情報を待っている。本当に様子が違うのだ。

奇形もいいところで前回の装甲空母と同じく、大きな艤装に戦艦並みの砲塔、随時入ってくる連絡の中に入ってる魚雷発射管......それに、その装甲空母の周りの深海棲艦もおかしいのだ。何にも似つかないシルエットをしている。一言で済ませてしまうなら『気持ち悪い』に限る。そうとしか表現できない形をしているのだ。

 

「赤城さんから偵察結果です。奇形の装甲空母、未確認深海棲艦2、駆逐艦級2、潜水艦級1。」

 

「ありがとう......本隊並びに第一支隊に通信を繋いでくれ。」

 

私はそう言って緊張なのか、震える足に喝を入れ、通信妖精から受話器を受け取った。

 

「長門だ。これより最深部に鎮座する深海棲艦の艦隊に攻撃を仕掛ける。偵察により相手の編成が分かった。装甲空母1、未確認深海棲艦2、駆逐艦級2、潜水艦級1。」

 

一呼吸おいて続けた。

 

「初撃は第一支隊による"飽和攻撃"を敢行、その後本隊の赤城、加賀両名の第一次攻撃隊の発艦、会敵後本隊は突撃を敢行する。」

 

『第一支隊了解よ。』

 

『『了解。』』

 

「あちらの頭は奇形の装甲空母だっ!前回も撃破出来たっ!なら今回失敗する訳ないっ!必ず成功させ、作戦成功の報告を提督にしてみせろっ!!突っ」

 

そう言いかけた瞬間、通信にノイズが入り始めたのか、通信妖精が慌て始める。

 

「どうしたっ?!」

 

「無線に障害が発生し、ノイズがっ!」

 

「それは分かっているっ!。」

 

無線機に障害が出るのも、ノイズが走るのも普通の事だが何故か通信妖精が慌てている。ただ事ではないのは確かだ。

その刹那、スピーカーから聞いた事のない声が流れ始めた。

 

『......フフッ......フフフッ......。』

 

誰の笑い声だろうか。だがその声色は何処か嫌悪感が出てくる。

 

「なんだっ?」

 

「分かりません。どこからの通信なのか......。」

 

通信妖精も困惑し、先ほどから慌ただしく動いていた他の妖精たちも足を止めている。

 

『フフフッ......フフフフッ......。』

 

ただ笑い声だけしか聞こえないのが数回続くと、通信が切れた様だ。慌てて通信妖精がさっきまで繋げていたところに繋げ直した。

 

「怯むなっ!これより攻撃を開始するっ!!」

 

怯むなと言ったところでどれだけがこちら側に戻ってこれたか分からない。だがやるしかないのだ。ここを制圧することができれば、日本から西との国交は回復する見込みがあったからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はというと、今は執務室にはいない。もっと言えば鎮守府にも居ない。どこに居るのかというと、大本営だ。

今日は新瑞と総督に折り言った話があるため、連絡を取って前回大本営に行った時みたく、車に揺られて大本営に来ていた。

だが俺が緊張するというよりむしろ、呆れていた。

俺の後ろには番犬艦隊全員と番犬補佐艦隊も全員の計12人の艦娘が付いて来ていたからだ。まぁ、仕方ないのだが。

 

「待っていた。」

 

俺が色々と事情を説明し、今までは応接室か新瑞か総督の部屋で話をしていたのだが、今回は会議室でとなった。こちらに配慮してもらったのだ。

 

「すみません。急に......。」

 

「いいさ。さ、座ってくれ。」

 

俺は総督に促されるように席に座るのだが、座る音を立てたのは俺だけだった。

番犬艦隊は俺の横と後ろ、前に立ち、補佐艦隊は距離を置いて立っていたのだ。

 

「......座らないのか?」

 

「いえ、これはしなければならない事ですので。」

 

そうフェルトが言って他の艦娘は微動だにしない。

 

「気にしないで下さい。彼女らの考えあっての行動です。」

 

「いい。では、提督。今回はどういった御用件かな?」

 

総督は柔らかい笑顔でそう言うが、目を見るとどこか別のところを見ている様に見えて仕方がない。

だが、気にせずに用件を言った。

 

「現在、横須賀鎮守府艦隊司令部は大規模作戦を発動中です。北方・西方海域の制圧を目指した作戦が今も進行してます。」

 

「そうなのか?して、現状は?」

 

何も発動理由などを聞かずに現状を訊いてくるあたり、さすがだと思った。

 

「75%が完了。現在最終段階に入ってます。」

 

「それまでの成果は?」

 

「北方海域の制圧。アルフォンシーノ方面最深部を根城にしていた深海棲艦の中枢を撃破。西方海域では海域最深部のカスガダマ島沖へ反復攻撃してます。時機に制圧の報告が入るでしょう。」

 

そう言った瞬間、新瑞がガタッと音を立てた。

 

「なにっ?!アルフォンシーノ方面だとっ?!」

 

そう言った新瑞に総督は訊いた。

 

「やはりそうか?」

 

「えぇ!」

 

そう2人は主語述語がかなり抜けた会話をすると俺に言った。

 

「提督よ。今日のここに来た目的はもう果たされた。」

 

「何故です?」

 

「アルフォンシーノ方面はアメリカのアラスカに近い群島。という事は、そこを経由してアメリカと連絡が取れるという事だ。提督の今日の目的はアメリカへの使節要請、若しくは使節受け入れ態勢を整える事を伝える事。違うかい?」

 

「違わないです。」

 

「なら早速政府に伝えよう。それと......。」

 

総督は組んでいた手を開いて言った。

 

「カスガダマ島......否、ドイツを経由してユーラシア大陸の各国へ連絡を取る。」

 

俺は何も言えなかった。そう言った総督の雰囲気に圧倒されて声が出なかったのだ。

 

「......これまで全く連絡の取れなかった各国と連絡を取り合い、深海棲艦による攻勢が終息しつつあることを伝えねばならない。」

 

そう言った総督からさっきの雰囲気は消えていた。

 

「まぁそれもこれもまだ残っている海域がある。それを取り返してからだな。」

 

「そうですね。」

 

そう言って総督は手元の紙にメモを取ると、ペンを仕舞って俺の両脇に控えていたビスマルクとフェルトを見て言った。

 

「しかし、彼女らは厳格としているな。ぴしりと立ち、微動だにしない......。厳格な艦娘だ。」

 

そう言われてもビスマルクとフェルトは動かなかった。

そう言えば言い忘れていたが、今日は公務というか鎮守府から外に出ると言うのと、偉い人に会うと言う理由で帽子を被ってきているドイツ艦勢。

今見て思い出したが、フェルトは帽子を取ればそうでもないんだが、帽子を被る時、深く被り且つ彼女自身目つきが悪いところがあるので印象は最悪なのだ。総督はそれを気にしていないのだろうか?

 

「だが怖いな......。」

 

「どうしてです?」

 

総督は笑いながら言うので俺は訊き返してみた。まぁ、何故怖いかなんて理由は一つしかない。

 

「私たちは艦娘に信用されていないのかね?」

 

俺の周りを囲んでいるドイツ艦勢は艤装を身に纏っている。しかもビスマルクに至っては砲口が総督の方を向いているのだ。

俺はここに来る道中、ビスマルクに言ってはいたのだが、そこが砲の通常位置らしく、艤装で言う正装みたいなものだと言われた。

 

「いえ、彼女たちの正装みたいなものらしいです。」

 

「そうか......。」

 

そう言うと総督は立ち上がった。

どうやらこれで終わりの様だ。俺ももう話す事は無いから、好都合だった。

 

「ではこれで終わりだ。気を付けて帰ってくれ。」

 

「ありがとうございます。失礼します。」

 

俺たちはそう言って会議室から出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「はぁー緊張したー。」

 

車に乗り込み、第一声を上げたのはプリンツだった。

 

「何が?」

 

「だって、大本営ですよ?海軍部の一番偉い人に大本営で一番偉い人ですよ?緊張しますって。」

 

そうビスマルクに言うプリンツは顔を赤くしながら言った。相当緊張していたんだろう。確かプリンツの立ち位置は俺の背後だ。

 

「ビスマルク姉さまは緊張しなかったんですか?」

 

「そうねぇ......あまりしなかったわ。あの場所に居た人のほとんどは知った顔だったし、総督の顔は有名じゃない。どんな人柄かは知らなかったけどね。」

 

「はえー、そうなんですか~。」

 

こういう時はちゃんと大人なビスマルクだが、横でまたフェルトが笑っている。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、今朝アトミラールに大本営に行くと聞かされた後の準備の時にビスマルクがだな......。」

 

そうフェルトが言いかけた瞬間、ビスマルクがフェルトの口を塞いだ。

 

「なっ、なに言ってるのよ!」

 

「ムグムグ。」

 

この構図は何度も見た。

大体こういう時はビスマルクが何かをしていたのをフェルトが見ていたという事だろう。まぁ大体予想ができるので俺は止めもしなかった。

 

「ツェッペリン姉さまは何を言いかけたんでしょう?」

 

そう首を傾げるプリンツに俺は適当に答えて、窓の外を眺めているレーベとマックスに声を掛けた。

 

「どうした?」

 

そう訊くと窓から視線をこちらに戻して話し出した。

 

「外はあまり見たことが無いからね。どうしても気になっちゃうんだよね。」

 

「そう言う事。」

 

そう言ったレーベとマックスはまた視線を窓の外に戻した。

視線の先にはきっと何でもない街並みが映っているんだろうが、彼女らにとってそれはとても新鮮なんだろう。

 

「外、歩いてみたいか?」

 

そう訊いてみると、外を眺めたまま2人は頷いた。

 

「やろうと思えばいくらでもできそうだけどな......いかんせんやる勇気が出ない。」

 

「と言うと?」

 

話に食いついたのは以外にもマックスだった。

 

「面倒だからな。」

 

「ふーん。」

 

俺がそう言うと再びマックスは窓の外に目線を戻した。

少し期待させてしまったのかもしれないと心の中で少し反省をして、俺も外に目をやる。

過行く街並みはやはりどこも同じとしか言えなかった。俺がこの人生で見てきた街並みと全く変わらない。どこにでもあるような街並み。

やはり俺たちの見る世界とは違うんだなと改めて痛感した瞬間だった。

俺もそうやって外を眺めていると、ユーが俺に話しかけてきた。

 

「どうして......ユーたちは外に出れないの?」

 

ユーの疑問は素朴で、とてもまっすぐだった。だが俺はどう答えてやるのが正解なのか分からない。

 

「日本やここに住む人たちの為に戦っているユーたちはいわば歩く機密だからな。だからもし攫われたり、脅迫されたり、尋問されようモノなら大問題だ。」

 

そう適当に言い訳を言った。少し後ろめたさがあるが仕方がない。

本当のところ、俺も本当に外に出てはいけない理由なんて知らない。だが、俺に限っては休暇で外出申請をし、護衛の下なら出れるが気遣って俺も鎮守府の外に出る事は出来る。だが、こうやって外に出れない艦娘を気遣って外に出ないようにしている。出たのは一回だけ。食堂のテレビを買ったりした時だけだ。

 

「そう......何ですか......。でもアトミラール......さっき出ようと思えば出れるって......。」

 

聞かれていた様だ。どうしようと頭を捻らせるが、丁度いい答えがあった。

今乗っている車は大本営の要人用だ。当然、運転しているのは大本営の人間。この人に聞かれたら不味いとでも言っておけばいい。そう思った。

 

「あぁ......。ちょっと寄ってくれ。」

 

「はい......。」

 

俺はユーに寄って貰い、小さい声で答えた。

 

「鎮守府の人間じゃない人に聞かれたらいけないから、鎮守府で教えるよ。」

 

「分かった......。」

 

どうやら納得してくれた様だ。俺は再び、視線を窓の外に戻した。

流れゆく景色はいいものだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

男はアラスカからの報告書を積み上げていた。

あの日、日本の骨董品の目撃から今日までの報告書だ。今日までに見たという証言はあったかと自分の目で確かめている。

部下には『私も見ましたが、無いですよ。』と言われたが、どうしても自分の目で見たい。そう思ってわざわざ持ってきてもらったのだ。だがやはりない。

男の部下たちの中では『幻想じゃないか。』とか言われ始めている様だが、男はそうは思ってなかった。きっと生きている、そう信じているのだ。

 

「これも無い......こっちも無い......。」

 

もう殆どの報告書を読んでいた。男が読んでいない報告書はもう手にあるモノだけ。

男は意を決し、報告書を開いて読んだ。その刹那、男に衝撃が走った。

アラスカからの報告書だが、内容が今までは『異常なし』の一点張りだったものが、突然おかしな文に変わっていたのだ。

 

『アルフォンシーノに停泊していた深海棲艦の艦隊が消えた。そしてアラスカ沿岸部に大量の深海棲艦の艤装の残骸と思われる漂着物が散乱している。』

 

という文に目が惹かれた。

艦隊が消えたというのと深海棲艦の残骸が大量に流れ着いた。それを意味するのはアラスカ一帯に居た深海棲艦がどこかに攻撃され、悉く轟沈したという事だ。

男は立ち上がり、受話器を取った。

 

「国防総省に連絡を......。長官に繋いでくれ。」

 

男は紙に走り書きをして国防総省長官が出るのを待った。

 

『はい......どうされました?』

 

「至急軍を動かす。準備してくれ。」

 

『またテロ予告ですか?」

 

「違う。軍をある場所に派遣する。」

 

そう男が言った瞬間、電話口の長官の口調が一変した。

 

『陸ですか?』

 

「違う。海軍だ。」

 

『......了解です。ですがもう動く船と言ったら漁船くらいしか......。』

 

「それでいい。アラスカ、アルフォンシーノ群島に偵察だ。」

 

男はそう言って受話器を置いた。

 

「残骸が意味しているのは......あの日の骨董品は幻想ではないという事だっ!日本は生きているっ!!」

 

 





急に提督が動き出しましたね。
何をするかはお察しの通りです。これも提督の中で進行中の作戦が成功する見込みがあるからでしょう。

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