【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十二話  operation"typhoon"⑫

 

後退に成功し、夜を待った私たちは月明りを頼りにあの艦隊を探した。

 

「観測と見張りから連絡は?」

 

「ありません。」

 

艦隊が前進微速で交戦していた当たりの海域を航行しつつ深海棲艦を探しているが、一向に見つからない。日が落ちてから今までの航行時間と戻ってきた距離からだともう遭遇してもいい頃だというのに全く見つからない。

これまでで夜戦に入ってきた時も今日のと同じ手法を使って夜戦に挑んでいたが、必ず計算通りに会敵していた。なのになぜ、遭遇しないのだろうか。

その刹那、眩い光が私の艤装の前を航行していた島風の艤装に照射された。

 

「島風さんから入電っ!艦隊発見っ!!」

 

通信妖精の声で艦橋内が一気に騒がしくなる。

 

「続いて、相手の陣形は単縦陣。反航戦ですっ!」

 

私はこれを読んでいた。あらかじめ、陣形を変えていたのだ。複縦陣。反航戦の際、損傷した味方艦を相対する面と反対側に配置し、すれ違う。被害の大体は前列に喰らう。

これを取るにあたって島風と雪風にはちゃんと聞いておいた。夜戦においてのダメージは大きい。それ故、損傷したままで突入すると最悪轟沈の可能性もあると。だが、彼女たちはそれは無いと答えた。私は共に初期から戦ってきた雪風と、こうして古参の攻略にまで投入される程まで頑張った島風を信じている。

どれ程の損傷であろうと、生きて帰ると彼女たちは言っていたのだ。そのために赤城と加賀の甲板では消火用ホースが今、用意されている。万一直撃を喰らって炎上してもすぐに消火作業ができるようにと。

 

「よしっ!夜戦だっ!一撃で葬り去るっ!!」

 

私はそう宣言し、通信妖精に島風と雪風に繋げてもらった。

 

「島風、雪風。準備は?」

 

『早く撃ちたーい!』

 

『準備、出来ていますっ!』

 

「そうか......。頼みは島風と雪風の魚雷掃射だ。装甲空母に当ててくれ。」

 

私はそう言って受話器を返し、主砲に徹甲弾の装填を指示した。もう目の前まで来ているのだ。

 

「もう交差するっ!全主砲、斉射っ!ってぇーー!!」

 

私の艤装の41cm連装砲、4基8門が一斉に火を噴いた。そしてその弾丸は相手艦隊に向かい、柱を上げる。

 

「命中っ!」

 

観測員の報告が入り、続報に期待をする。

 

「......艤装が炎上中っ!」

 

その瞬間、艦内は湧き上がった。報告でそう聞いたものの見える者には見えるのだろう。無論、私にも見えている。赤い炎を上げている装甲空母が見えるのだ。

 

「未確認深海棲艦が発砲っ!砲撃、来ますっ!」

 

さらに入った報告は私の耳には入っていなかった。何故ならその光はコチラに向かってきていたのだから。

そして数秒もしないうちに耳を劈く炸裂音と衝撃に身体が打ち付けられた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺がビスマルクの勉強しろと言っていた日の午後。

昼食はいつも通りだったが、どういう訳か食べ終わって執務室に戻ると激しい眠気に襲われていた。

気を確かに持たないと今すぐ睡魔によって意識が刈り取られてしまう様なそういった状態に陥っていた。

多分、この時の俺は傍から見たら、授業中にウトウトしている生徒にしか見えないだろう。何故なら机に向かっているからだ。

 

「どうした、アトミラール。」

 

そんな俺を心配してか、フェルトが声を掛けてくれた。

 

「眠いっ......。今にも寝てしまいそうだ......。」

 

眠気と格闘している俺は何とかそう返事を返すとフェルトが用意してくれていたコーヒーを一気飲みした。

だが、意味は無い。コーヒーのカフェインで眠気が吹き飛ぶとか言った人、それは個人差もあるがコーヒーをよく飲む人はもう効果が無いと考えて良い。その良い例が俺だ。

事あるごとに眠気に襲われたらコーヒーを飲んで早3年。もう身体が慣れていた。この世界に来る直前の眠気解消法はミントのタブレットを口に含んで噛み砕いた状態で、冷えた炭酸水を飲むことだ。あまりの刺激と冷たさで眠気が吹き飛ぶ。だが生憎、ミントのタブレットも炭酸水も無い。

 

「昼寝......か?もう執務も終わっている事だし、急用も入るとは思えない。私室で寝て来るか?」

 

「いいのか?」

 

「あぁ。机で寝られても仕方ないだろうし、アトミラールも机で寝たら身体が痛くなるだろう?」

 

俺はフェルトのその言葉に甘えて、立ち上がり、私室の扉を開いた。

そして吸い込まれるようにベッドに向かい、その道中に上着を脱ぎ、ベッドに収まった。

その刹那、これまで耐えてきた睡魔に一気に襲われ、俺は眠気に陥落した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何時間経っただろうか。俺はぼーっとする頭にエンジンをかけ、目を開く。

寝ている位置から壁掛け時計が見える。時刻は4時。3時間近く寝ていた様だった。そして俺はむくりと起き上がろうと腕に力を入れた瞬間、片腕に重みを感じ、そのまま起き上がれずに再びベッドに吸い込まれた。

 

「何だっ?」

 

俺は重みを感じている腕の方に目をやると、そこには俺の腕にしがみついて寝ているフェルトが居た。普段しているケープもとり、手袋も取った状態だ。

 

「......。」

 

俺は絶句した。何故ここでフェルトが寝ているのか。

確かフェルトはあの時、唯俺に昼寝をしに行くことを進めていただけだった。いつの間に入り込んで、寝ていたのだろう。だが、あり得る事は番犬艦隊の任務としてすぐ傍に居なくてはいけないからだとか言って傍に居たはいいものの寝てしまったという事だ。

そんな事を考えているが、今、非常に不味い状態だ。俺が頼んだわけでもなく腕にしがみつき寝ているフェルトを俺はどうにかしてしがみつきから解放してもらわねばならない。

だが無理に引き剥がせないのも俺だった。

 

「一体どうすれば......。」

 

ここまで俺が解放云々で悩んでいるのには理由があった。

俺の中で艦娘も普通の女の子同等で、たまにチョップをかます艦娘も居るが大体は部下であり、友人であり、家族の様に扱ってきた。

それで、俺の中でのフェルトは友人。一緒にビスマルクをからかったり、話をしたりするそんな関係だ。そんな友人であるつもりでいる俺だが俺の中で確固として決めていた事があった。それは、勝手に異性の身体に触れない、という事だった。

友人だとかさっきは言ったが、それでもフェルトは女の子だ。俺の認識がそう捉えている。だから多分、こうなっているんだろう。

回りくどく説明したがどういうことかと手短に説明すると、俺はフェルトが起きるまで俺は立ち上がる事が出来ない。

そんな事を俺が考えていると露知らず、もぞもぞと動いているフェルトは動くことによって俺の腕を掴んている位置がズレていく。

 

「......起きろ、フェルト。」

 

俺は声を掛けて起きる事を促すが、全く起きる気配が無い。

 

「起きろ。」

 

そう言っても全くフェルトは目を開かない。身体を捩らせたりはしている。

 

「起きてくれ、フェル......ト。」

 

俺が声を掛け続けていると俺はある方向に目線が吸い込まれた。そこは扉だ。執務室と私室を繋ぐ扉。だが扉は開いていて、そこには多分今の姿を見られて一番不味いのがいた。

そいつは扉を閉めてズカズカとこっちに来ると、しがみついていたフェルトの腕から解放してくれて溜息を吐いて困った顔をした。

 

「はぁ......全く。ツェッペリンも大概のモノね。」

 

そう。多分フェルトが一番この姿を見られてからかってくるであろう相手、ビスマルクだった。

 

「ありがとう。それと、どういうことだ?」

 

「えぇ。提督が昼寝をすると言ってフラフラと私室に入っていったあと、彼女が『護衛も必要だろう?私が傍で見てくる。』と言って私室に入っていったの。私たちも行こうかと聞いたんだけどいらないの一点張りで、私たちは結局私室前の扉に立つことにしたわ。そしてさっき、提督の声がしたから起きたのだろうと思って入ってきたらコレよ。」

 

そう言って悪い笑みをするビスマルクはフェルトの肩を掴んで揺らし始めた。

 

「起きなさいっ!ツェッペリンっ!!」

 

ガクガクと揺らされ、フェルトもこっちの世界に戻ってきたか。

 

「あっ、あぁ......ビスマルクか。どうした?」

 

「どうしたじゃないわよ。提督、もう起きてるわよ?」

 

「なにっ?!」

 

そう言って立っている俺にフェルトは『Guten Morgen、アトミラール。』と呑気に言って来たが、もう俺はこの後の展開が予想で来ていた。

 

「ふふっ、まぁいいわ。」

 

「む、何だ?......っと、起こしてくれたのはビスマルクだったな。ありがとう。」

 

そう言ったフェルトを無視したビスマルクは俺の横に来て、急に腕にしがみついてきた。

 

「なっ、何をしているんだ。ビスマルクっ!」

 

あからさまに慌てているのか、そう言ったフェルトを尻目にビスマルクはニヤニヤしながら言った。

 

「貴女、自分で『護衛も必要だろう?私が傍で見てくる。』とか言っていたくせに寝てるんじゃないわよ。色々脱ぎ捨てて提督の腕に絡みついて。」

 

「なっ!?」

 

ビスマルクにそう言われたフェルトは急に慌てだした。

 

「私は寝ていた訳では無いぞっ?!......護衛、そう!護衛でそうしていたんだっ!」

 

「苦しい言い訳よ。貴女によくいじられる私だけど、しばらくはこれで対抗させてもらうわ。それに提督も貴女が離れてくれないと言って困っていたしね。」

 

「うぐっ......そうなのか、アトミラール?」

 

棄てられた子犬みたいな顔で見てくるフェルトに少し視線を逸らしながら俺は答えた。

 

「まぁ......そうかもしれない。」

 

「そうか......悪かった。」

 

そう言って明らかに暗くなったフェルトを尻目にビスマルクが俺に訊いてきた。

 

「そういえば、どうして無理に引き剥がさなかったの?腕だけなら別に......。」

 

俺は訊かれるだろうなとは思っていたが、やはり聞かれたので答える事にした。

 

「そういう信念なんだよ。」

 

「ふーん。引き剥がさないってのが?」

 

「違う。不用意に異性に接触しないって事だ。ビスマルクだって気のない異性にべたべたされたり、突然部屋に来られたりしたら嫌だろう?」

 

「まぁ、そうだけど......。」

 

俺がそう言っているとドンドンビスマルクの目の温度が変わっていった。

 

「多分当たり前になっているだろうが、俺は艦娘寮には本当に何かないと入らないし、艦娘には話はするが触れはしない。」

 

「言われてみれば......確かに来ないわね。用事があると大体が伝言というか、誰か艦娘が提督の要件を言ってくものね。」

 

「前、金剛と俺がフェルトをからかったときの事覚えてるか?」

 

「勿論。」

 

「ああいう風に大きい買い物とかして重いものを運ぶときに手伝う事はする。」

 

そう言って俺は私室の隅で今にも体操座りしそうなフェルトをちらっとみてビスマルクに視線を戻した。

 

「という訳だ。つまり、嫌がりそうな事はしない。そういう信念だ。」

 

「でもからかいはするわね。」

 

色々並べて説明したのに一刀両断されてしまった。

まぁ、別に矛盾しているところがあるのは分かっているから別にいいと俺は思っている。

 

「取りあえず執務室に戻るか。......フェルト、戻らないのか?」

 

俺がそういうとフェルトは立ち上がり、ケープを羽織って手袋をすると執務室に戻ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

別にさっきのでご機嫌が斜めになったわけではない様で、普通にしているフェルトを見てまぁいいかと俺は思った。

触れるのを嫌がっている訳では無く、触れないようにしているのだ。別にその意図は十分伝わっただろうから。

 

「お昼寝ですか?」

 

執務室に戻ってきて最初に話しかけてきたのは大井だった。

 

「あぁ。眠くてな。」

 

俺がそう答えるとニコッと笑って俺に詰め寄ってきた。

 

「うわっ、何だよ......。」

 

「アレ、どういう事ですか?」

 

そう訊いてきた大井が指差しているのは炬燵でぼーっとしている北上だった。

 

「人に指差したら駄目だろう。ましてや大井の好きな北上だってのに。」

 

「そうですけど......って、質問に答えて下さい!私の気付かぬ間に何してくれていやがりますのっ!」

 

「あー、アレね。」

 

そう言った大井の何に気付いた俺は説明を始めた。

 

「大規模作戦に作戦艦隊が帰還中に北上に出撃して貰ってた。」

 

「それは分かってますよっ!私が聞きたいのは何故改二になってるかですっ!」

 

そう言った大井はぼーっとしている北上の横に並んだ。ちなみに大井はまだ改で深緑のセーラー服を着ているが、北上はへそ丸出しのベージュというかクリームな色をしているセーラー服だ。

 

「何故ってそりゃ、北上の練度が50に到達したからな。」

 

「私、まだ25ですよ?!」

 

「知ってる。」

 

俺に何を抗議したいのか分からないが、取りあえず何かが気に喰わないってのは伝わっている。

 

「んー。大井はあれか?」

 

「やっと気付きましたか?」

 

「北上を勝手に改二にした事を怒ってるのか?」

 

そう言うと大井はおろか、起きていて聞いていた古鷹や五月雨、ドイツ艦勢までも『は?』と言いたげな表情で俺を見ていた。

 

「なにっ?!違うのか?!」

 

そう言うと大井がそっぽ向いてこういった。

 

「私も早く改二になりたいです......。だから私を使って下さい。」

 

言い方がアレだが、まぁ大体伝わった。おもちゃをねだる子どもみたいなものだろう。俺も子どもだが。

 

「分かった。だがいいのか?」

 

「何がです?」

 

俺はそう言って首を傾げている大井に言った。

 

「北上はああ見えていろんな海域を渡り歩いている。轟沈寸前まで損傷して帰ってきた事もあった。俺にこうやって急かしに来たという事はそう言う事だが、いいのか?」

 

俺は渋るだろうと思っていたが、真反対の反応をしてきた。

 

「そんなのドンと来いですよ。寧ろ、重雷装巡洋艦が何が箱入り娘ですか。提督は気付いてないかもしれませんが、私、大体の出撃先って演習かキス島なんですよ?」

 

そう言った大井は悔しそうな表情をしていた。

 

「聞きましたよ。私の進水の為にカツカツな資材を切り詰めてたって......。それって私が重雷装巡洋艦に改装されるのを知っていて、戦力として前線に投入することが目的だったんじゃないですか?」

 

大井は顔を伏せてそう言ったが、ぼーっとしていた北上が突然口を開いた。

 

「それは違うよ、大井っち。」

 

「えっ?」

 

「私が寂しくない様に、同じ艦種になる大井っちを出来るだけ早く鎮守府に進水させようとしてたんでしょ?ねー、提督~。それに多分大井っちが箱入りなのは時期が悪かっただけじゃない?」

 

そう言った北上の言葉を聞いていた大井は俺の顔を見た。

 

「そうなんですか?」

 

「そう言う事になる。他の艦娘の育成や、海域の攻略で忙しかったからな。今の大規模作戦が終われば重巡の育成と並行して大井はこの先出撃しっぱなしかもしれないな。」

 

そう言うと大井は『ふーん。』と言った。多分、納得したのだろう。だが俺にはまだ続きがあった。

 

「と言っても出撃先はキス島だけどな。」

 

「やっぱりっ!!!」

 

それを訊いていた北上や古鷹は笑い出し、他の艦娘たちが苦笑いしていたのは当然だろう。

笑っていた艦娘はキス島のレベリングをしていた。他の艦娘はそれを知っていたからだ。





西方海域の続きが気になるところですが、まぁ......察して下さいね。散々フラグ立てておいて......。

後の鎮守府での話ですが、結構提督の性格も出てきましたね。相変わらず端で体操座りをしようとするフェルトですけど。
それと大井が久々の登場ですね。つんけんした態度をしないのは、察してやってください(白目)

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