【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百三十三話  operation"typhoon"⑬

 

激しい衝撃に気を失ってしまっていたのか、私がむくりと起き上がると私はベッドの上に居た。

 

「......起きましたか。」

 

そう言ったのは見慣れた顔、赤城だ。

 

「どうなって......私は艦橋にっ......。」

 

私が居たのはどう考えても私の艤装には無い設備。格納庫だ。

そう言うと赤城は説明してくれた。私が気を失っていたであろう辺りから。

未確認深海棲艦の砲撃が直撃。大破したと言う。だが状況が状況だったらしい。被弾したのは第一艦橋の下部。電信測量系の機材が積んであるところだ。

だが、何故私が運び出されたのだろうか。

 

「出火したんですよ。火の手が長門さんのいた上部にまで来そうでしたので、退避させていただきました。」

 

そう言った赤城は続けて報告してくれた。

私の艤装に砲撃が直撃した後、雪風と島風の雷撃が生き残っていた装甲空母と未確認深海棲艦に直撃。装甲空母はどうやら読み違いで大破していたらしく、雷撃が決定打となり轟沈。未確認深海棲艦ももう小口径砲で弱点を狙えば轟沈というところまで痛めつけたという。

 

「そうか......大破したのは......。」

 

「長門さんだけです。担ぎ出されたのもですが......。」

 

「そうか......。」

 

私は胸がズキリと痛くなった。私は夜戦に入る時、耐えて見せると大判叩いていたのにも拘らず、気絶してしまった。それに艤装は耐えたと言っても損傷は激しく、曳航されている状態だという。

 

「曳航か......。提督に言われたな。」

 

「何をですか?」

 

「きっとこれからは大破してでも戦う事になる。誰かを曳航して戻ってくる事になるだろうと......。まさか誰かを曳航する前に、自分が曳航されるとはな......。皆の信頼もこれで堕ちただろうか。」

 

そう言うと赤城は首を横に振った。

 

「それは無いですよ。」

 

「何故だ?」

 

「多分貴女はたまたまだろうと仰るだろうと思いますが、長門さんの後ろは高雄さんだったんです。長門さんに直撃していなければ高雄さんに当たってました。それも当たり所の悪い、一撃で轟沈する場所です。」

 

「......ふっ......たまたまだろう?」

 

「そう仰ると思いましたよ。ですけどね、何がともあれ、その一瞬で味方が轟沈するのとこうやって担ぎ出されるの、どっちが良かったですか?」

 

「そんなの、こっちが良かったに決まってる......。」

 

「そうですよね。」

 

そう言って私は起き上がり、少しフラフラしながら赤城の艦橋に向かった。

赤城の艦橋では慌ただしく妖精が動き回っており、私の横を通る妖精全員が『大丈夫でしたか?』と心配してくれた。

そして艦橋に着いた私は自分の艤装を見た。確かに炎上している。この時赤城が教えてくれたのは、もう燃えているのは外部だけで、内部は問題ないという事と、高雄が私が被弾した瞬間、放水の準備を始めてまだ砲弾が飛んでいるにも関わらず、外で消火の指揮をしてくれていたという事だ。そして今は赤城がその消火を引き継いでいて、もう直ぐ鎮火するという。

 

「......ありがとう。」

 

「いえ。長門さんは私たちのリーダーですからね。」

 

「そうか。」

 

私はそう言われて嬉しくなった。これまで確かに、旗艦をする事は多かった。経験が多いからと言ってキス島に進水したばかりの艦娘を連れて行く事は今でもある。

そういう風にみられていて嬉しかったのだ。

 

「もう鎮守府への報告も済んでいます。貴女の無事もね......。皆が待ってますよ。それに......。」

 

そう言って赤城が指差したのは海上に浮かぶ、見慣れた艤装。第一支隊と合流したのだ。

そして一番前を航行しているのは私とほぼ同じ艤装、陸奥だ。艦橋に目をやると、遠くてよく見えないが私の直感が『陸奥が泣いている』というのだけは分かった。そしてその後ろを航行しているのは扶桑と山城。こっちは見えないが、きっと微笑んでいるんだろうな。

 

「陸奥さんも早く長門さんの顔を見たいんじゃないでしょうか?」

 

「そうだな。」

 

私たちはこうして鎮守府まで帰っていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

早朝、俺や他の艦娘たち、非番の門兵や話を何処から訊いたか知らないが酒保の人たちが埠頭に集まっていた。

日がまた昇る前、俺はビスマルクに叩き起こされて通信室にて赤城から作戦完了の報告を訊いた。装甲空母との激闘の末、損傷艦をいくつも出したと言うのもだ。

それを出迎えるためにこうして来たのだが、何故ここまで集まったのだろうか。早朝と言ってもまだ太陽の光が海の向こう側に少し見えるだけでその姿は確認していない。

 

「もう直ぐ帰ってくる頃だ。」

 

そうフェルトは俺に双眼鏡を渡してきたので、それで帰ってくるであろう方向に向けた。

水面が少し光り、空を反射しているがその先にもやもやと人工物が見えてきた。

あれは多分、ウチの艦隊だろう。

 

「帰ってきた。」

 

そう言った瞬間、周りが騒がしくなり俺に『本当に撃破したんですか?』という様な趣旨の事を訴えるのが聞こえてくる最中、もやもやとした姿がはっきりと見えてきた。

皆は心が躍り、初の大規模作戦成功に喜々としていた。眠気も吹き飛ぶような勢いだ。

それに面白い光景も見れている。

 

「心配だ......。」

 

「どうした?」

 

「島風ちゃんが怪我してないか......。」

 

来ている非番の門兵は駆逐艦の艦娘。今回は島風や雪風の心配をしているのが多い。

 

「大丈夫だろ。昼頃、またかけっこをせがみに来るだろうさ。」

 

「だといいが。」

 

とやり取りをしている一方で、酒保の人たちも何だかざわざわしている。

 

「高雄さんが心配ねぇ。」

 

「よく酒保に来てましたものね。」

 

「料理の腕を上げるとか言って食材を買って行ってはレシピを訊いてきたりとか......。」

 

そんな事してたのか。高雄。

その他にもあちこちの門兵や酒保の人たちは出撃している艦娘の心配をしていた。偶に配置に関することとかも話題に入っているから後で該当する艦娘は呼び出しだ。

それより、そんなのを聞いていると、埠頭に作戦艦隊が接岸し、艦娘たちが降りてきた。

 

「報告。西方海域にて装甲空母を撃破、ただいま帰還した。」

 

そう言った長門の艤装を俺は見上げた。

あちこちに被弾痕があり、艦橋下部には直撃弾で炎上した後がある。それに他の本隊の艤装にも必ず何かしらの損傷が見受けられた。

その中で一番酷かったのは高雄。後部主砲群は吹き飛び、カタパルトとカタパルトデッキ共に跡形もなくなっていた。どう考えたってこれは大破だ。多分、長門も大破だろう。

 

「あぁ。」

 

そう俺が言うと18人に目配せをした。

 

「お疲れ様。これにて作戦終了だ。皆、損傷が激しい順に入渠させろ。」

 

そう言って笑いかけたが、後ろから声がした。

 

「提督っ!早速、私をレベリングにっ!」

 

この声は大井だ。そう言った大井はズカズカと前に来て俺にもう一度同じ事を言った。

 

「私をレベリングにっ!」

 

「アホか。」

 

そう言って俺は一蹴して長門を見た。

 

「当分砲撃はしたくないな。」

 

「私もいいです......。」

 

「雪風はまだ大丈夫ですっ!」

 

「入渠、早く終わらせよー!」

 

「私ももう当分深海棲艦は見たくないです。」

 

「私も。」

 

長門に続いて本隊の艦娘は全員そう答えた。

 

「という訳で、面倒を見てくれる艦娘は全員お疲れだ。また明日辺りに頼んで来い。」

 

そう言ってぶーぶー文句を言う大井を無視して俺は全体に指示を出した。

 

「ほら、解散だっ!しばらく休むぞっ!」

 

この後、編成やら配置を知っていた門兵と酒保の人は呼び出しをして俺と武下でキツく叱った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

作戦艦隊を出迎えた後、今日の秘書艦を俺は待っていた。

 

「遅いな。もう朝食いかなくちゃいけないんだが......。」

 

そう独り言を言っていると、執務室のドアが思いっきり開かれた。

そしてそこに居たのは、陸奥だった。

 

「遅れてごめんなさい。」

 

そう言って肩で息をしている陸奥を落ち着かせて言い訳を聞いた。

 

「如何して遅れた。」

 

「長門と話していたのよ。どうして無理をしたのかって。」

 

「無理?」

 

「えぇ。自分が大きいのを分かっていて艦隊を退避させるわけでもなく、盾になってたのよ。」

 

「そうか......。」

 

そう言った陸奥の言葉に俺はどうしてそんなことを長門がしたかがすぐに分かった。

 

「理由は教えてくれなかったけどね。」

 

「そうか。」

 

俺はそう言って陸奥に食堂に行こうと言って歩き出した。

何故、長門がそれをしたか。それは艦隊を二分することをシステム外行動だと分かっていたからだろう。あからさまな艦隊の二分は今後、何らかの影響を出す。それを見据えての無理だったんだろう。

埠頭で解散号令をして武下と門兵や酒保の人と話をする前に高雄から訊いていたのだ。

 

『一撃程度食らっても耐えられる。私はビック7だからな!』

 

そう言ったそうだ。多分、そういう意味だろう。

 

「早く行かないとテレビに沸いている駆逐艦の艦娘たちがしびれを切らしてくる。」

 

「そうね。」

 

俺と陸奥は小走りで食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

書類をしていると、陸奥から入渠時間に関する書類が回ってきた。

現在、長門と高雄が入渠中で、長門が6時間で高雄が3時間。やはりかなりの攻撃を受けていた様だ。

 

「バケツは使う?」

 

「あぁ。何のために溜めてきたか分からないからな。それに、そっちの方が後が閊えなくていい。」

 

「了解。指示を出しておくわ。」

 

俺は何食わぬ顔でこうやって執務をしているが、よく考えたら陸奥って始めての秘書艦じゃなかったか、と思った。

 

「そう言えば陸奥。」

 

「何かしら。」

 

「今日が初めての秘書艦か?」

 

「えぇ。」

 

やはりそうだった。

 

「初めてにしては手際がいいな。」

 

「何故かしらね。」

 

そう言って陸奥は答えると書類を出してくると言って執務室を出て行ってしまった。

 

「あぁ......。終わったのか......。」

 

俺は独りになった事で、やっと作戦が終了した事を実感した。

作戦中は常に番犬艦隊が周りを囲んでいたからだ。今日はそれがない。だが一方で寂しくもあった。執務室がこんなに広いとは思わなかった。

昨日までは12人近くこの部屋に居たから寧ろ狭いだろうと思っていたのにも拘らず、今は独りだ。

そう思いながら俺は視線をずらす。執務室に炬燵があるのだ。

 

(いつから炬燵があるんだ?)

 

俺はそう思いながら炬燵の電源を入れて、炬燵に収まる。

じわじわと温かくなり、俺は机に顎を突いた。

 

「ひぇー。」

 

と一言発して、目を閉じる。

ここまで平和だと思った事は無い。やっぱり番犬艦隊が居る時は作戦発動中で、自分がこの目で見る艦娘たちが戦場に赴いている。とてもじゃないが、心が休まる事も無かった。それに、作戦中で心も休まらないという時でも作戦中じゃなくても鎮守府では赤城たちを始めとする数人の艦娘によって水面下で緊張とはまた違う類のモノが蔓延していた。

だが、それも今はない。解決された。

清々しい気持ちで、俺は炬燵に収まっていたのだ。

と突然、執務室の扉が開かれ、艦娘が入ってきた。

 

「お邪魔しますね。」

 

「ちぃーっす。」

 

入ってきたのは赤城と鈴谷だった。

 

「どうした?」

 

と聞くと2人は口を揃えて言った。

 

「「秘書艦が書類を持って歩いていたのを見たから。」」

 

と答えた。つまり遊びに来たみたいだ。

 

「そうか。」

 

そう言うが、俺の体勢は威厳なんてものはありはしない。

炬燵でだらけているだけなのだ。

それを見た鈴谷は履いているローファーを脱ぎ捨て、炬燵に収まってきた。それを見た赤城も靴を脱いで炬燵に収まる。

 

「温かいねぇ。」

 

「温かいです。」

 

そう言った2人も俺みたく、だらけはじめた。

炬燵は人を駄目にすると言った人、多分どんな生き物でも駄目になります。

 

「帰りました。って、貴方たち何してるの?」

 

書類を出しに行っていた陸奥が帰ってきて早々、俺たちにそう言ってくる。

困った顔をしているので俺は言った。

 

「陸奥も入れ。もう今日の分は無いんだ。」

 

「いいの?」

 

「勿論。」

 

そういう事で陸奥も炬燵に収まったわけだが、その後も続々と艦娘が執務室を訪れ、結局炬燵に12人くらいが収まる事になった。

他の艦娘は炬燵待ちでソファーに座ったりする事になるのだが、そんな姿を見かねて俺が出ようとすると押し戻された。

何故戻すのかと聞くと、皆口を揃えてこう言うのだ。

 

「提督が出て行ったら意味ないじゃん。」

 

どうやら俺と話に来たと言う。炬燵に収まった状態で俺と話がしたいという事だった。

どうしてそうしたいのかというと、どうやら番犬補佐艦隊が任務中、俺とそうやって話をしていた事を艦娘同士で話していて、『私も』という事らしい。

昼前になって一度追い返した後、山の様に積みあがったみかんの皮を袋に詰める羽目になったのを俺と陸奥は溜息を吐いてやった。というか、無尽蔵にみかんが出て来るなと思っていたらどうやら誰かが酒保で箱買いしたのを廊下に置いている様だった。

それを見た俺と陸奥は開いた口が塞がらないのはこういう事だと学んだのであった。

 





これにてoperation"typhoon"は終了ですね。
ここでお知らせです!
次回より、第二章に突入っ!!

とお知らせしておいて、炬燵とみかんの組み合わせは最強ですよね。出れなくなります。

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