【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
第百三十四話 発表
俺は珍しい事ではないが、緊張している。
数日前まで展開されていた大規模作戦。作戦名『アルフォンシーノの魔法』、『タイフーン』によって制海権を取り戻した海域が倍になった。これで日本近海、南西諸島海域、北方海域、西方海域を取り戻し、残すところは中部海域と南方海域のみとなった。
そこで何故俺が緊張しているのかというと、大本営からの命令でこれまでの成果を国民に知らせると言うのだ。別に新聞やニュースでも使えばいいだとうと思っていたのだが、一応艦娘のイメージアップや軍への支援、協力を助長を促すための政策、戦略みたいなものだと言うのだ。俺もそれだったらと、参加に積極的な文を送り返したばっかりにこんなことになっているのだ。
「新瑞さん。」
「なんだ?」
「私はこんな事になっていると聞いていません。」
そう、今俺が居るところは大本営正面玄関。そこに設置された舞台の袖。
舞台の前にはテレビカメラが規則正しく並んでいる。そしてその間には新聞記者などが入り込んでいた。
「これはイメージアップ戦略だと言っただろう。2/3を奪回した今、これで国民たちの心を少しでも落ち着かせなければならない。横須賀鎮守府が空襲された記憶もまだ新しいからな。」
「そうですけど......。新聞やニュースだとか手はありますよ?」
「これが一番威力があるんだ。」
「火力ですね......。」
「あぁ。」
俺はもう新瑞に何を言っても無意味だともう心の中では気付いていたが、最期の悪あがきをした。だが無理だった。
「因みにだな、提督。」
「何ですか?」
「これから始めるのは全て生中継だ。」
俺は頭が痛くなった。全て生中継という事は、カメラの数を数えるだけで数十台。多分、地方局からも来ているのだろう。
「私が先に出て話をする。その後に呼ぶ。」
「分かりました。」
俺はそう言ったものの、こういった事にはめっぽう弱い。そして自信が無いのだ。多分、慌てて噛む。そして何を言おうとしていたのかド忘れするだろう。そんな事になれば最悪な結果が見える。
『これより、大本営発表を行います。』
アナウンスが入り、新瑞が舞台に出て行った。
「私は大本営海軍部長官、新瑞である。我々からの発表というのは、今までいつだったか深海棲艦が現れてからというモノ、良い報告を国民に伝えた事は一度もない。」
新瑞が並べられたマイクに向かってそう言っている。
「今回も凶報や訃報ではないだろうか、そう思った国民は大多数を占めているだろう。この場で知らせたものは確かに、有能な指揮官や英雄達の殉職、制海権の喪失などばかりであった。」
そう言った瞬間、新瑞は壇を叩いた。ドンとなり、一瞬、テレビ局クルーが肩を震わせた。
「だが今回は凶報でも訃報でもない。待ちに望んだ、吉報、朗報である事をここに言っておく。」
新瑞はそれを言い切ると、俺の顔を見た。舞台に来いという合図だろう。
「その吉報、朗報はこの者に報告してもらう。皆も知っているであろう、横須賀鎮守府艦隊司令部司令官だ。」
そう言った新瑞は俺と入れ替わった。
「数日前まで我々、横須賀鎮守府艦隊司令部は深海棲艦への大規模海域奪還作戦を展開していました。その報告をいたします。」
一呼吸置いて俺は続けた。
「海域奪還作戦によって我々は北方海域、西方海域を深海棲艦から奪い返しました。」
その瞬間、テレビ局クルーは騒ぎ出し、携帯電話を取り出したり、メモを開いて書留を始めたりし始めた。それに俺は構わず続けた。
「それによってこれまでのドイツとしか連絡が取れなかった状態から、ドイツとは貿易が始まり、アメリカや欧州、アフリカなどと連絡が取れる可能性が出てきました。それと、北方海域を奪還した際、作戦に参加していた空母艦載機がアラスカ上空を偵察。街がある事を確認しました。アメリカは生きています。」
俺はそう言いきり、新瑞と交代した。
「どの国とも連絡が途絶えた孤立無援の戦いはもう終わった。先ほどの報告に付け足すと、我々が深海棲艦に奪われた海の約2/3を奪還している。あと少しだ。あと少しするとこの長い戦争が終わる。......以上だ。」
そう言い切った新瑞は一歩後ろに下がった。それを見計らった様にアナウンスが入る。
『これを持ちまして、大本営発表を終了します。』
アナウンスが切れた瞬間、俺と新瑞は歩き出し、舞台から降りた。
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俺が大本営の車で横須賀鎮守府に送って貰い、門を潜ろうとした時、俺は溜息の出る光景を見た。
テレビ局のスタッフ、クルー、新聞記者等が居るのだ。
「またか......。」
そう呟くと、付いて来ていた護衛艦隊が溜息を吐いた。ちなみにどこに居たかというと、舞台とカメラの間だ。勿論、艤装を身に纏って。
「またデスカ。」
「懲りないねぇ。」
そう言うのは金剛と鈴谷だ。そして、更に長門、陸奥、赤城、加賀が護衛として来ていた。まぁ、赤城と加賀が来た理由などひとつしかない。あの時、俺や新瑞が話している間中ずっと空を彩雲と烈風が飛んでいた。もう俺も諦めが付いているから気にならなかったが、テレビ局の方は気が気でなかったみたいだ。
「今度のはどうするんだ?」
「そうだな......多分取材内容は今日の発表に関する事だろうし、同じことを言う羽目になりそうだから......。」
俺がそう言って面倒くさそうにしていると、赤城が俺には話しかけてきた。
「ですが新瑞さんの仰ってた通り、アレの対応をするのはこちらに利益がありますよ?」
「そうだろうね。やるか。赤城と加賀は到着後、すぐに埠頭へ行き艦載機を発艦。それと金剛と鈴谷は頼めるか?」
俺がそう言って金剛と鈴谷を見るとニコッと笑った。どうやら受けてくれるようだ。
「じゃあ金剛と鈴谷はついて来てくれ。人数を増やしても構わない。」
「了解デース。」
「わかった~。」
気の抜けるようなやり取りをして俺は長門と陸奥を見た。何かあるだろうかと思って見てみたが、分からない。何も言わないのだ。
「長門と陸奥は何かあるか?」
俺は見ても分からなかったのだろうと思い、声を掛けると長門が話し始めた。
「私も同行する。それと門兵を数人、呼ぶことは出来るか?」
「非番の人に頼めば大丈夫だ。」
「そうか。」
それだけだった様だ。何故、門兵を呼ぶのか分からなかったがそのまま陸奥も話す様だったのでそちらに耳を傾けた。
「私は特にないわね。だけど、私も同行するわ。」
「結局全員来るんだな......。分かった。」
こうして車内で色々と話しているのを運転手が聞いていない訳が無いわけで、降りて礼を言う時に震えていたのは俺には何故だか分からなかった。
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俺と護衛含んだメンツで取材陣の対応を始めて終わったのは、最初から約2時間経った頃だった。それぞれ時間を指定し、別室に呼び込んで受ける。だが車内での俺の想像通り、今日の事についてだった。それと多かったのはアメリカの安否やなんかだった。全滅するまで日本と共に戦っていた第七艦隊の事もあるんだろう。全滅した第七艦隊に関しての報告はどうするのかと尋ねられたが、回答に困ったのは言うまでも無い。他には偵察機が見たアメリカの街はどうだったかとか、西方海域が解放された事によって南西諸島はどんな様子に変わったかだとかあったが俺もいちいち覚えていない。約2時間話しっぱなしでのどが痛いのだ。
「お疲れ様でした。」
執務室で俺をそう労ってくれたのは赤城だ。今日の秘書艦はというと、指定はしていない。今日の大本営行きのお蔭で秘書艦としての仕事が出来ない事が分かっていたからだ。
だが何故赤城が俺にお茶を淹れて立っているのかは謎である。
「あぁ。赤城もありがとう。」
「いえ。」
そう言って手に持っていた湯呑を机に置くと俺は背伸びをした。
「まだ午前中だと言うのに疲れた......。やはりああいうのは慣れないな。」
俺がそう言うと赤城は『やはり』と言った事に興味を示した。
「『やはり』って、経験があるのですか?」
「ある。だけどもうあんな経験は二度と御免だ。」
そう言ったのを俺は不味ったと直感的に思った。もうこんな事を言ったら赤城が訊き返してくるのは目に見えているのだ。
「あんなとは?」
言わんこっちゃない。
だが別に言っても良かった。聞かれて話す事は赤城に話してあることと関連があるからだ。前、赤城たちが資源を溜め込み俺の為に動いていた時に話した事だ。
「前に『部活動』について話した事があっただろう?」
「はい。提督が嫌な思いをしていたという......。」
「あぁそれだ。」
『部活動』という単語を出しただけで身構える赤城に少し笑えたが、別にあの時の様な話をする訳では無い。
「俺は部活動で幹部になっていたって言っただろう?」
「そうですね。」
「幹部になるって事はそれ相応の能力や実績があったんだ。俺は眠っていたのが開花しただけだけど。」
そう言って俺は少しでも暗い雰囲気を取っ払ってやろうと話す。
「幹部になる前、俺は部活動の顧問。つまり最高責任者に俺は指名されて特別な役割を与えられたんだ。」
そう言いかけた時、俺はある事を思い出した。赤城は部活動が何か分かっているのだろうか。というか、俺が何の部活動をしていたのか知っているのだろうか。俺の記憶が正しければ知らない筈なのだ。
俺は途中で話を切り上げて赤城に訊いてみた。
「と、話す前に訊いてもいいか?」
「えぇ。」
「赤城って部活動の事知ってるか?」
そう聞くとさも当然の様に答えてきた。
「知ってますよ。その部活動に所属している人間は全員同じような趣味や興味、特技とかを持った人が集まって何かをすると言う事だけですが。」
「そうだ。例えば野球なら野球部。サッカーならサッカー部と分けられるな。」
そう言って俺はここで言ってしまってもいいかと頭の中で葛藤が始まった。
別に恥ずかしくはない。だが俺がどういうイメージが赤城の中にあるのかが問題だ。赤城の反応次第で俺は布団の中に速攻収まる自信があった。
「提督は何だったんですか?女性が多かったと仰ってたので......うーん.......。」
赤城は自分から当てに出てきた。これはいいタイミングだ。俺の気持ちの整理が付く時間を稼いでほしい。
「テニスですか?」
「違う。」
「そんなっ?!」
初っ端から外してきた。有難い。
「では、バレーとかは?」
「違う。」
「提督って身長高いですよね?」
「そうだが、男子でバレーするにしたら小さい。」
赤城は俺の回答を訊いて考え始めた。
「テニスでバレーでないなら......バトミントンとかはどうでしょう?川内型の娘たちとやっているのを見たことがありますし。」
「不正解だ。」
赤城は思いつくのを手あたり次第言っていくが、一向に答えが出ない。それもそのはずだ。
何故なら普段の俺からそのようなイメージが浮かび上がる事が無い。浮かび上がる奴が居ればそいつは変態か頭のネジの本数がかなり飛んでいる。
「では......ボディビル......。」
「アホかっ!?あんな筋肉ダルマに見えるか?!」
俺はそう突っ込んだが、何故ボディビルなのだろうか?そもそも女子が多いと言ってあるのにボディビルだなんて......。それは置いておいて、結局出てこなかった。
「もう分かりませんよ。正解は?」
そう訊いてきた赤城は目を輝かせている。何故そこまで輝かせるか分からないが、俺はその赤城に若干引きながらも答えた。これまでの不正解の連続で俺の心に決心がついたのだ。
「......ガッショウ......。」
多分、これまでにない小さな声で言ったんだろう。赤城は聞こえていなかった様だ。
「えっ?」
「合唱だ......。」
そう言うと赤城が止まった。
「......ん?赤城?」
俺がそう呼びかけても全く反応しない。それ程までに衝撃的だったのか。
「合唱......ですか?あの、大晦日の夜に皆で見ていたあの......アレですよね?アレで途中で大人数でやっていた......。」
「それだ。」
そう答えると赤城は目をさっきよりも更に輝かせて聞いてきた。
「それでその合唱部で幹部をしていたという事は、提督は歌が上手いんですか?」
それを訊いてくると思った。俺はそう内心思い、答えた。
「ほどほどにな。」
「それで、今日の大本営でのアレと何が関係が?」
赤城はどうやら覚えていたらしい。その話をしていたのはこの話に入ってから20分も前の話だ。
「大勢の前で話しただろう?」
「そうですね。というか、提督。よくやってるじゃないですか。」
「そうだがなぁ......。」
俺は意を決して言った。
「俺は大きい大会で懐刀としてソロをしたんだよ。」
そう言うとてっきり驚くと思っていたが、赤城はそうではないらしい。ソロが分からない様だ。
「ソロって何ですか?」
「ソロっていうのは、合唱の最中に1人で歌う事を言うんだ。つまり大勢で歌っている最中、俺以外が歌うのを辞めて俺だけが1人で歌ったという事だ。」
俺が説明した事でやっと理解できたようだ。『あぁー!』と言い出し、案の定の事を言って来た。
「大会でソロをするという事はつまり賞を取るために高得点を狙ったという事ですね。高得点を取るなら上手な人がやる、という事は提督は上手なんですか?!」
そうありきたりなリアクションをした後、俺に赤城はこう言った。
「歌って下さいっ!!」
そう言って目を輝かす赤城を俺は一刀両断する。
「嫌だ。」
「えぇー。いいじゃないですか。」
「嫌だ。」
俺はぶーぶー文句を言う赤城を無視して炬燵に首まで入った。
結局、誰かが執務室に遊びに来るまでせがまれたが、誰かが来た瞬間にやめてくれたのはありがたい。多分、言いふらすのは俺が良いと思わないと分かっていたんだろう。
今回から第二章に突入します。それと第二章から変更点が増えました。改行を入れたことですね。それ以外は変わりません。
第二章に入ってもノリは殆ど変らないので多分「本当に第二章?」と思った方もいらっしゃると思いますが、入りました。
ご意見ご感想お待ちしてます。