【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
大本営で発表をした昨日から無期限の休息期に入った。と言うのも、これまで俺たちが請け負っていたほぼすべての任務を大本営の鎮守府が肩代わりするとの事だった。発表前の時点では、北方海域の哨戒くらいした変わらないと言っていたのに、急にそういう連絡が入った。俺としても困ったものだったが、理由を訊くとどうやら大本営の鎮守府が経験が浅い事が問題になっていたらしく、解放したが残党がチラチラといる取り返した海域の残敵掃討などをするとの事だった。日本近海から順を追っていくという事なので練度を上げる事も同時にするらしい。それと、よっぽどのことが無い限り、横須賀鎮守府は作戦行動をしなくてもよいと言うお触れも出た。
普通なら喜ぶべきだろう。休みなのだ。だが俺は喜べなかった。大本営は眼中にないのかもしれないが、横須賀鎮守府の様に数多とある鎮守府や泊地には提督が存在しない。そしていつも出撃と言って向かっている先の調査などもしなくていいのだろうか。俺はそんな事を考えていた。考え始めたのはつい最近だが、多分一番問題なのはここだろうと考えている。
別に俺が勝手に動き出してもいい。だが、面倒なのだ。鎮守府の外での行動になるのは当たり前、そうなると勝手に出来ないのだ。それは大問題だ。
「何難しい事を考えておるのじゃ。」
そう俺が考え事をしている最中に話しかけてきたのは今日の秘書艦である利根だ。
「色々落ち着いたから考え事をしててな。すまん、なんかあったか?」
「いいや、何もないのじゃ。提督の様子がおかしかったから声をかけただけじゃ。」
利根はそう言って伸びをしてぺたんと机に寝てしまった。
「あまり仕事はしておらぬが、疲れたのじゃ......。」
「そうか。」
欠伸をする利根にそう俺は返し、立ち上がった。椅子を戻して、炬燵の電源を入れて身体を炬燵に収める。
それを見ていた利根も立ち上がり、こちらに来た。だが入ろうとしない。
「どうした?入らないのか?」
そう俺が訊くと利根は俺の腕をおもむろに掴み、立ち上がらせた。
「ずっと屋内に居ても仕方ないじゃろう?偶には外にでも行ったらどうじゃ?」
そう言った利根の目は優しい目をしていた。俺はそれを見て言った。
「利根は俺の姉貴かっ!......まぁ確かに滅多に外に出ないが......。」
俺がそう言うのを無視してか、利根は別の方に食いついた。
「吾輩が提督の姉となっ?!」
俺はやってしまったと思い、そちらに視線をずらす。その先には利根の表情がコロコロと変わっている様子があった。俺はそれを見るなり炬燵から這い出て、執務室を出て行った。たぶんこれが最善の判断だろう。
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執務室を出て行っても行く当てもない。私室なら色々あるのだが、生憎執務室からしか私室には入れない。もし私室に入っていたなら俺は俺が逃げ出した状況を掴めていない利根の集中砲火に耐えなければならなかった。それだけは避けたかった。だから廊下に出たのだが、このありさまだ。
「あー、行く宛無いなー。」
そう言いながらブラブラと歩き回る始末。本部棟から出ても特にどうという訳では無いので、俺は本部棟の中で俺が行った事のない部屋を見て回る事にした。と言っても見たことのある部屋というのは、普段使われていると表現される部屋がだいたいそうなので、行った事のない部屋となると、使わない部屋になる。
だがよく考えてみると、この本部棟はいつぞやの空襲で焼け落ちた後、妖精によって立て直されたモノ。今更珍しいものなんてないのは目に見えていた。俺は本部棟を歩き始めて10分で本部棟の中を歩くのを止めた。
次はどこに行こうかと悩む。何もない廊下で立ち止まっても仕方ないので、休憩用の椅子というか空間に行き、そこで座って悩み始めた。外に出てもさっきの序での様に思い出したが、他の建物も全て空襲で焼け落ちている。今立っているものはそれから妖精によって建てられたものだ。見て回ってもつまらない。
それならどうしようかと考え始める。何かお菓子を作るにしても私室に行くには執務室を通らなければならない。本を読むにしても執務室に置いてある。誰かと話をするなら執務室に居れば勝手に来る。結局、執務室に居なければどうしようもないのだ。
「諦めて帰るか。」
そう言って俺は執務室に足を向けた。
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執務室に帰ると未だに悶えている利根が居たので少し放置し、炬燵の電源を入れて足を入れる。そうすると、やっと戻ってきた利根が『はっ!?』と言って炬燵に入ってきた。
「温かいのじゃ~。」
「そうだろ?」
そう言ってふにゃっとなった利根を見て俺も炬燵で腕を枕にした。
「ってぇ!?違ぁーう!」
突然利根はそう叫んで机をバンと叩いた。
「吾輩が姉とはどういうことじゃ!?」
利根が俺が忘れたかった話を蒸し返してきた。ここで逃げるにしても利根は戻ってきているし、速攻捕まる自信があったので俺は仕方なく話す事にした。
「俺、そうやってよく姉貴に怒られてたんだよ。」
そう言うと『そうか。』とか言ってまたふにゃっとなる利根に俺はツッコミを入れた。
「そうか、じゃない。そんなんでよく納得出来たな。」
「そう言われてものぉ......吾輩は別に嫌な気、せんかったのじゃ。」
利根はそう言いながらみかんに手を伸ばした。
「どういう意味だ?」
「提督の姉でも別に吾輩は違和感を持たぬ。19だからの。そうなると、年子じゃな。」
そう言ってみかんを剥きながら笑う利根に俺は冷静にツッコミを入れた。
「利根の弟は遠慮しておく。」
「なぜじゃ?!」
「姉っぽくない。」
そう俺が言うと利根はみかんを口に放り込みながら答えた。
「そうかもしれぬが......ぐぬぬ......やはり吾輩がちんちくりんだからかの?」
利根はそう言うので思わず俺は視線を逸らしてしまった。
「ぐぬぬぬぬっ!......まぁ良かろう。仕方ないのじゃ。」
えらく諦めの速い利根であった。
俺としては誰が姉の様で誰がいないが妹の様かなんて考えたことも無かった。意識してなかったからだ。それに艦娘としての括りになっていたから猶更だろう。
「それにしても暇じゃのぉ......本当に執務はあれだけなのか?」
「あぁ。アレが普通の量だ。」
「腑に落ちぬ......もっと多いかと思っておった。」
「俺もだ。」
そう不毛な会話のキャッチボールをして沈黙に包まれた。
何か話題を見つけて話せればいいが、俺はそこまで話が上手くない。すぐに止まってしまい、今の沈黙に戻ってしまうだろう。
そんなことを考えていたら、突然執務室の扉が開かれた。
「提督っ!」
入ってきたのは蒼龍だった。袖をブンブンと振り回しながら俺のところに来て座り込み、炬燵に収まったかと思うとキリッとして俺に言った。
「お腹空いたっ!」
多分数秒、俺と利根の思考は止まっただろう。まさか俺のところに来てそんなことを言うとは思いもしなかった。だが、俺はすぐにある事を思い出した。いつぞやの蒼龍が秘書艦の時、朝早くに執務室に来て俺に『腹が減った』と訴えていた事を。
「酒保に買いに行ってこい。」
そう言うと機用に座ったまま袖をブンブンと振り回して言った。
「やだっ!」
そう言った蒼龍を見て利根が俺に言った。
「提督、こやつは吾輩より姉に向いてないと思うぞ?確か、同型艦ではないが飛龍を妹だとか言っておったのぉ。」
「あぁ。俺もそう思った。」
そういうやり取りをしているのにも拘らず、蒼龍の耳には入っていないみたいで袖をブンブン振り回していた。
「どうして腹が減ったのに俺のところに来るんだ?」
「蒼龍よ、みかんならあるぞ?」
俺がそう尋ね、利根はみかんを差し出したが違うらしい。蒼龍は首を横に振って答えた。
「何か作って欲しいんです!」
「はぁ?......と言うか朝食食べたばかりだろう?」
俺はそう時計を見ながら応える。今の時間は9時20分過ぎくらいだ。今日の朝食はいつも通りの時間だったはずだから、朝食を食べて1時間と少し経った頃だ。
「でもぉ......。」
そういう蒼龍に俺は呆れて立ち上がった。
「仕方ないなぁ......何が食べたいんだ?」
そう尋ねる俺に蒼龍は即答した。流石の速さに俺と利根はかなり引いたが、蒼龍は気にしてない様だ。
「フレンチトーストがいいなぁ。」
蒼龍のリクエストを訊いて俺は唸る。理由は明確だった。
「フレンチトーストは時間が掛かるからやめておいた方がいい。」
「どうして?」
「今から作ったら食べれるのは夕食前くらいだ。」
フレンチトーストは簡単なように見えて奥が深い。食パンを溶き卵と牛乳、砂糖が混ざった液に浸けてから焼くものだが、普通は浸けてすぐに上げて焼く。だがこれは正直言ってフレンチトーストとは言い難いものだ。美味しいものを作るなら液に浸けて数時間放置してちゃんと液がパンに浸み込んだものを焼くのがいいのだ。
自分で食べるならまだしも、人に食べさせるなら美味しいのを作ってやりたいと思っているので俺は却下したのだ。
「えぇー!......じゃあ、えぇと......うーん......。」
蒼龍は考え出した。どうやら俺にフレンチトーストを焼いてもらう気満々で来たらしい。却下された時の事を考えてなかったみたいだ。
「今、何があるの?」
そう訊かれて俺は有無も言わずに私室の扉を開いて、冷蔵庫を覗いた。
中には醤油などの調味料、卵、牛乳、ネギ、ベーコン、ソーセージ、バター......色々と入っている。昨日、酒保で買い足していた事を思い出した。普段俺が使うものは大体入っている。これなら色々と作れる。それに今朝、足りなくて炊いて余らせたご飯が茶碗一杯半あった。
「蒼龍。どれくらい空いてる?」
「うーんと、それなり?」
「なんだよ、それなりって......。」
俺はそれなりと答えた蒼龍なら食べれるかと思い、余らせていたご飯やら色々と出した。
ご飯、バター、牛乳、チーズ、ネギ、ベーコン、塩、コショウ、あらびきコショウを並べて手を洗い、鍋を出した。
「何でご飯と牛乳?」
そう首を傾げる蒼龍を尻目に俺は調理を始めた。
蒼龍には悪いがこれ以外のメニューは思いつかなかったのだ。卵かけご飯でも出してやればよかったが、一回冷えたご飯で卵かけご飯をやるのは美味しくない。色々ある中で、少し腹に溜まるものをと考えて思いついたのがこれだけだったのだ。
「今更だが、蒼龍は牛乳大丈夫か?」
「えっ?大丈夫だけど?」
「そうか。」
俺は確認を取ってネギをみじん切りに切る。そしてベーコンも同様にみじん切りにして、鍋を温める。
鍋が温まったらバターの塊を放り込んで、溶け切るまで熱する。
「何作るの?」
そう訊いてくる蒼龍に答えた。
「リゾットだ。」
「リゾットとはなんじゃ?」
利根も疑問に思ったらしく、訊いてきた。
「リゾットは米を使ったイタリア料理だ。日本で言う雑炊みたいなものだな。」
そう答えつつも俺は手元を休めない。温まって溶けたバターにみじん切りにしたベーコンとネギを投入して、ネギの色が変わるまで火にかける。
ネギの色が変わるのを確認したら、計った牛乳を投入した。
「ほいっと。......少し放置。」
そう言ってまな板と包丁を洗って、干して少ししたら鍋の加減を見る。
「同時進行......。」
「何とっ......。」
後ろでそんな事を言ってるが俺は気にしない。
鍋の牛乳が沸騰を始めてきたら弱火にしてご飯を投入して混ぜる。そしてまた数分間放置。
「んで、利根は食べるのか?」
「くれるのか?くれるのなら有難く頂こう。」
「そうか。」
俺は確認を取って皿を2枚出しておいた。そして使わない調理器具を洗い、干して鍋を睨む。
タイミングを逃すと少し焦げるのだ。焦げると美味しくないのでそれの監視だ。
「日本の雑炊みたいなものって言ってたけど、似ても似つかないね。」
「そうじゃな。牛乳では作らんだろうに。」
そう後ろで会話を繰り広げる蒼龍と利根に内心で『当たり前だ』とツッコミを入れてから鍋のなかを混ぜ、牛乳がトロトロとしてきたのでチーズを入れて再び混ぜる。
チーズが溶け切ったのを確認すると塩とコショウを振ってから小さいスプーンで味を見る。気に喰わなかったらまた塩コショウをして、満足いく味になったらそれを皿に分けた。そして最後にあらびきコショウを振って蒼龍と利根に椅子に座るように言う。
「出来たから椅子に座れ。」
「「はーい。」」
俺の指示にすぐに従い、座ったんのを確認するとそれぞれの前に出した。何もないと食べれないのでフォークも出し、俺は片づけを始める。
「食っていいぞー。」
それを訊いた蒼龍と利根はフォークを手に取り、リゾットを食べ始めた。
鍋やら箸を洗いながらだったが、後ろで何か言いあいながら食べているので不味くはなかっただろう。牛乳を大量に使うリゾットは牛乳のクセや独特の匂いが熱することによって増長するので嫌な人もいるのだ。後ろの会話を訊いている限りどちらも問題ないみたいだ。
鍋を洗い終わり、調理器具を拭いて元の場所に戻し終わると丁度食べ終わった様だった。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまであった。」
そう言って手を合わせているところを見たのでいいタイミングだったみたいだ。
「お粗末様だ。皿を持ってきてくれ、洗うから。」
有無も言わさずに俺は皿を洗い始めて、すぐに干すと手を拭いてから私室の換気扇を点けて執務室に戻った。
その時、同時に蒼龍と利根も執務室に戻るように言って追い出した。何も言わなかったら延々と居座る様な勢いだったからだ。
執務室で俺が炬燵に入ると、利根と蒼龍も入ってきて蒼龍が俺に言った。
「提督。」
「ん?」
「オムレツの時も思ったんですけど、どうして提督は料理が出来るんですか?テレビとか見てるとイマドキの若い人は料理はからっきしだって......。」
「あぁ。俺は両親から一通りの家事を叩きこまれてるからな。というかこれは前も言ったぞ?」
「そうでしたっけ?」
俺はみかんに手を伸ばしながら蒼龍の疑問に応える。
「男の子なのに?」
「あぁ。男が料理しててもなんら不思議じゃないだろう?」
「そうでしょうか?」
俺はみかんを剥いて口に放り込みながら応える。
そんな姿を見て利根が言った。
「オムレツの時は半信半疑じゃったが、今回のでハッキリしたな。」
「そうか。」
俺は適当に流してみかんをつまんでいく。その刹那、執務室の扉が開かれた。
「ティータイムですよー!」
「お茶にしましょう!」
「司令っ!執務が終わった頃だろうと思いましてお茶の......。」
そう言って入ってきたのは金剛型四姉妹だった。
「ヘーイ!提督ぅー!ティータイ......スンスン......熱した牛乳の匂いがするデース。」
最後に入ってきた金剛がそう言った。
「それはだな、さっき提督がっ......ムグムグ......。」
俺は慌てて利根の口を塞いで苦笑いをする。
「ティータイムの誘いか?俺は別に構わんが?!」
「ムグムグッ!!」
利根の口を押えながら俺は押し切ろうとするが、ダメだった。相手は金剛だったからだ。
「何か作ったデスカ?」
「ムグムグムグムグッッ!!」
利根の口を必死に抑えるので精いっぱいだった俺は蒼龍を警戒していなかった。
「あぁそれはですねー、提督にリゾットを作って貰ったんですよー。」
にっこり笑う蒼龍はとんでもない爆弾を落としていった。
それを訊いた金剛たちはズカズカと俺の前に来て言う。
「「「「私にも!!」」」」
そう言って来た金剛たちに詰め寄られ、利根の口を離してしまい、俺は壁際まで追い詰められた。
「あー、そのだな......。」
「私も食べてみたいですっ!」
「司令っ!私もっ!」
「私も気になりますっ!」
俺は苦渋の言い訳をした。
「もう冷蔵庫の中身を使い果たしたんだ。また今度な?」
そう言うと遠くから金剛の声がした。方向的に私室の方だ。見てみると扉が開いていて金剛がひょっこり顔を出している。
「冷蔵庫の中、まだいっぱい入ってマスヨ?」
俺の退路が絶たれた。もう作るしかないのか、そう思った矢先、俺はある事を思い出した。
艦娘とて女の子だ。それも人間がそう言ったとは言え、艦娘の年齢的に気にするものがある。それはカロリーだ。俺はよく考えてないが、多分カロリーとか考えているだろう。
それを武器にする。
「といってもリゾットはなぁ......。」
「どうしてですか?」
食いつきやすいだろうと思った比叡は案の定、食いついてきた。
「カロリーが高いんだ。間食するには重い。」
「がーん!」
遠いところで蒼龍がそう言っているのが聞こえた。そして目の前の比叡たちもじりじりと後ろに下がっている。
「さぁ、どうする?さぁ!」
じりじりと俺は前に進んでいった。そうすると金剛が答える。
いつもなら笑っているが、今はしゅんとした表情だ。
「諦めマース。また別の機会に......と、いう事でティータイムに行きまショー!」
そう言われ俺は比叡に捕まり、序での様に利根と蒼龍も連れて行かれた。
ティータイムはやっぱり甲板上で、いつものように始まる。太陽は温かいが、吹く風は冷たい。温度差があるところに紅茶を飲むことで更に温度差が開く。
俺と蒼龍、利根、金剛たちは昼になるまでそこでティータイムをした。
話す事等無いように思えて結構ある。絶えず会話は続き、楽しいティータイムになった。
前回のは諸事情により更新できませんでした。すみません。
という事で今回も平和な内容でしたね。蒼龍がいると安定すると自分は思ってます。金剛たちもいますが、落ち着いているのでほのぼのとさせました。
それと、作中のリゾットのレシピですが、かなり短縮させたのを書かせていただきました。あてにしないで下さい。
活動報告を投稿させていただきました。是非、ご覧ください。
ご意見ご感想お待ちしてます。