【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十話  会談①

 

 アドレーの指示の元、日本に送る使節団が東京港に入港した。

大本営の鎮守府から北方海域より護衛しつつ、訪れた使節団は日本に着いて目を丸くしていた。

 沿岸部から東京湾には漁船が沢山停泊しており、丁度漁から帰ってきた漁船が横を通過していったのだ。

沿岸部からは完璧に退いているアメリカからしてみると、異常だろう。特に、横須賀辺りはとても栄えている。

 

「今日の来日は横須賀鎮守府の見学と、外務省と会談が目的でよろしいですか?」

 

 使節団の長である、フレンツ・アルバリアンはそう訪ねてきた日本の通訳に答えた。

 

「はい。大統領より承った任務です。序でに移動中、新しい日本を見て行こうと思ってます。」

 

「分かりました。」

 

 通訳はフレンツに笑いかけると、まずは外務省と話をすると言ってタイムテーブル通りに動き始めた。

 フレンツは移動中、窓の外をずっと眺めていた。日本国から日本皇国へと変わった新たな日本はどのようになったのか、それだけを見ていた。だが、フレンツからしてみると今の日本は日本国の時の日本と変わらない。というより、戦時中である雰囲気すら感じさせない様子に心底驚いていた。深海棲艦の出現でアメリカの国内情勢は大きく乱れ、崩れた。今も尚、それはあると言うのに、日本にはそれを感じさせない。まるで、深海棲艦を外の世界の夢物語だと思っているのではないかと錯覚させる様な様子に見えた。

 

「戦争中ではないのか、この日本は。」

 

 流れる平和な世界の様子を見続けたフレンツは外務省との会談を終え、ホテルで夜を明かし、車に乗り込んでいた。

 今日の予定は海を駆け回り、深海棲艦と戦っている日本皇国の矛を見に行くのだ。

 

「横須賀鎮守府というのはどういうものなんですか?」

 

「艦隊司令部の置かれた軍の重要拠点にして、国防、深海棲艦への一本槍です。提督のお蔭で私たち国民は豊かな生活を送れています。」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。それに提督は、観艦式に積極的に参加されたりだとか鎮守府を制限付で公開をしたりとイベントが多々ありました。」

 

「本当に軍事施設なんですか?」

 

「はい。」

 

 フレンツは疑問に思った。そんなオープンな軍事施設など訊いた事も無い。しかも国防の要だと言われている重要拠点だと言われていたのに。

 

「ただ、これから横須賀鎮守府に行くにあたって注意があります。」

 

 フレンツに突然神妙な様子で話し出した通訳。

 

「注意ですか?」

 

「はい。横須賀鎮守府に入るには制限があります。」

 

 そう言った通訳はフレンツと通訳を乗せている要人専用車の背後を走る自動車に目をやった。

 

「彼らの武装解除が必要となります。」

 

「どういう理由で......。」

 

「横須賀鎮守府は軍事施設でありながら、敷地内は日本皇国の憲法、法律、軍法が一切通用しません。」

 

「は?」

 

 フレンツは思わずそんな声を出してしまった。

 

「憲法、法律、軍法が適用しないってどういうことですか?」

 

「横須賀鎮守府は日本皇国海軍に籍を置く軍事拠点ですが、日本皇国政府や大本営は横須賀鎮守府の敷地内を別の国と捉えています。」

 

「横須賀鎮守府が別の国?」

 

「はい。ですが、憲法、法律、軍法はある条件下で適応されます。ある条件というのは、提督の前に居る時です。」

 

 声の出ないフレンツに通訳は話を続けた。

 

「ですがそれは提督の一言で適応されますので、もし何も提督が仰らなかったなら何をされても文句は言えません。」

 

「何をされても?」

 

「はい。もし、その場で殺されても文句は言えないんです。」

 

「無法地帯ですね......。」

 

「いえ、厳格とした法律がありますよ?」

 

「憲法も法律の軍法も無いようなところにある訳ないです。」

 

「提督という法律があるんです。全ては提督の一声です。」

 

 フレンツは想像を始めた。深海棲艦を駆り回り、海を奪い返すほどの性能を有した軍艦を指揮している人間を。

恐ろしい人間なのだろうと思い、フレンツの脳裏には凄い形相をした人間が写されていた。

 

「おっと、忘れてました。その横須賀鎮守府の提督から連絡を受けてまして、護衛の武装解除はしなくていいそうです。」

 

「そうですか。」

 

「はい。」

 

 フレンツは胸を撫で下ろした。丸腰で出て行く訳にはいかないと考えていたからだ。

 現在の日本の体制はアメリカはよく知らない。なので外交官であるフレンツに護衛が付いたのだ。もし、何かの抑止力になればという理由で大統領がそう命令を下していたのだ。

 

「ですが注意して下さい。」

 

「今度は何ですか?」

 

「亡骸を何体も本国に持ち帰る羽目にならない様にという事です。理由はさっき話した通りです。」

 

 そんな話をしているとその横須賀鎮守府に到着した。

 フレンツは通訳に誘導され、正門の前に立った。

 フレンツには同行として本国のテレビ局がついて来ていた。深海棲艦に海を奪われて以来の海外での取材だ。外交官フレンツに密着するみたいなものらしい。

 

「アメリカの使節ですか?」

 

 フレンツは日本語が分からないので通訳に通訳してもらいながら話をする。話しかけてきたのは衛兵というか、警備の兵だ。

 

「そうです。」

 

「皆さんを集めて下さい。」

 

 そう門兵が言ったのに対してフレンツは少し抗議をした。

 

「何故、門の外で私たちは下ろされたんですか?門の中で下ろすのが普通でしょう?」

 

「いいえ。先ずは使節の方々が鎮守府に入る事が出来るかを見ます。使節団の方々は手荷物検査と身体検査、金属探知機による検査を受けてもらいます。護衛の米兵の方々はナイフを置いて、小銃からは弾を抜いて下さい。」

 

 通訳された事をフレンツは訊いて違和感を覚えた。国賓であるのにこの扱いは何だと。正直フレンツは専用車の中で通訳から訊いた事を殆ど信じていなかった。軍事施設がその国の法にのっとってないなどと言うので普通に考えたらありえないからだ。

 通訳は門兵のその発言を通訳してフレンツとその護衛に伝えるが、護衛は困ったというよりも不振に思った。ナイフを置いて行き、弾を抜いておくなどそれでは護衛の意味をなさないのだ。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 護衛の1人が門兵に訊いた。勿論、通訳を介してだ。

 

「そのままの意味です。この門を通り、提督とお会いになるのでしたらしていただかなければなりません。これでも緩い方です。普段なら武装解除を求められますし、護衛はひょっとしたら入れないと言わてたと思いますよ?」

 

「何をバカげた......。」

 

「入りたくば従ってもらいます。」

 

 門兵は頑なに引き下がろうとしない。余りに言葉に言葉を重ね、エスカレートした時、門兵が小銃の銃口を護衛に向けた。

 

「聞けないのならここから去って下さい。もしそのまま行くのでしたらここで銃殺します。」

 

「何っ?!私はアメリカ国民だぞ?!戦争をおっぱじめる気か?!」

 

「戦争を始めても横須賀鎮守府が勝利しますので心配ありません。」

 

 そう言い合う2人にどう見ても偉いであろう服装をした人間が現れた。

 

「何の騒ぎか?」

 

「はい。頑なにナイフを置き、銃から弾を抜かずに入ろうとするので......。」

 

「そうか。まぁそれなら車に待機してもらえばいい。申し遅れました、私は横須賀鎮守府警備部の武下です。」

 

 フレンツはてっきり現れた人間が提督かと思ったが、違った様だ。ここの警備の長だった様だ。

 

「武下さん。このとてもじゃありませんが、国賓への扱いではない様に思えますが、一体警備の教育はどうなっているんですか?」

 

 さながらクレーマーの様にフレンツは武下に言ったが、武下は顔色ひとつ変えずに答えた。

 

「これでも緩い方です。どうかお願いします。」

 

「分かりました......。護衛の者は指示に従って下さい。」

 

 フレンツは腑に落ちないどころか、不信感だらけで仕方なく従った。これも大統領の任務の為だ。

 

「提督のところへは私がご案内します。それとメディアの方々、門内への侵入は提督から許可は得ましたか?」

 

 一通り終わり、腑に落ちてない護衛を連れて歩き出そうとした時、武下は立ち止ってそう言った。

護衛の後ろにはカメラを構えたアメリカのテレビ番組のクルーがいた。カメラの電源は入り、ガンマイクは伸ばされている。

 その質問を通訳がメディアにすると『してない。というか出来無い。』と答えると、武下は言った。

 

「拘束させていただきます。鎮守府へ来ると聞いてましたのは使節団の方々と護衛だけと聞いてます。聞いてない者たちを入れる訳にはいきません。今すぐ引き返すというのなら、拘束は見逃しましょう。」

 

 そう言った武下から尋常じゃないオーラが発せられた。それは特有のオーラだった。

 

「では。こちらに。」

 

 武下はメディアが訳も分からず門の外に出てったのを確認すると、フレンツら使節団と護衛を連れて本部棟へ向かい始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 フレンツは本部棟の案内された部屋に居た。そこは見るからに会議室だ。応接室の様なものではない様だ。

少し待っていると、扉が開かれ、1人の青年が入ってきた。見るからに年は20も行ってない青年だ。青年は会議室の中を歩き、椅子に座った。そこはフレンツの正面。そこに横須賀鎮守府の提督が座ると言われていたので、心底驚いた。

 

「私が横須賀鎮守府艦隊司令部司令官です。アメリカ使節団のフレンツ・アルバリアンさんですね?」

 

「はい。」

 

 青年は自分の事を提督だと言った。

 フレンツは信じれなかった。この青年が、通訳や会った日本人が口を揃えて言う提督なのだろうか。

そして、不信感が増長した。この年で佐官になり、しかも深海棲艦から海を奪い返して回っている指揮官だと言うのだろうか。

 

「今日はどういった御用件でしょうか?」

 

 そう言った提督にフレンツの不信感は更に増長される。

 

「今回は大統領からの命により、横須賀鎮守府を見て来るように言われています。その前に、提督にご挨拶を。」

 

「そうでしたか。」

 

 気さくと言っていいか分からないが、普通に返してくる提督。

 

「それでですね、今日の門の前での出来事。あれは一体どういうことですか?」

 

 そうフレンツが聞くと提督は苦笑いをする。

 

「あれは諸事情で......すみません。」

 

「門の外で下ろされると言うのもどうかと。」

 

「それも事情があります。」

 

 フレンツはそう言いながら言及をするが、提督は事情などと言ってはぐらかす。いい加減、言わない提督にフレンツは言い放った。

 

「国賓に対しての対応がなってないと言いたいのです。それに、護衛への装備の制限など。あれをしてしまえば護衛の意味が無くなってしまいます。それに、そちらの警備兵が護衛に銃口を向けました。アメリカと戦争をするつもりですか?」

 

 フレンツは何も言わない提督にそう言及する。

 

「あれでもかなり妥協してもらったんです。それにこちらの門兵が護衛の方々に銃口を向けたのにはこちらの指示に従わなかったからではないですか?」

 

「そうだが......。」

 

 提督は顔色一つ変えずに続ける。それをフレンツは少し不気味に思った。

 

「まぁいいです。本題に入りましょう。」

 

 そう切り出したフレンツは率直に言った。

 

「深海棲艦と互角に戦うのに何故旧型艦が使われているんですか?」

 

「そうですね......。」

 

 フレンツはどうだろうかと思った。これまで数分話してて分かった事だが、この提督は身なりは軍人だが軍人では無い。そして、話も素人だ。どう深海棲艦と互角に戦えるのか聞き出せると思ったのだ。だが、それはあっさりと砕かれる。

 

「機密です。ですがひとつ、言える事があります。それは、旧型艦に見える別の船という事ですね。」

 

「どういう意味ですか?」

 

「お答えできません。」

 

 フレンツの計算外だった。そうやすやすと言う訳では無い様だ。

もうこれを聴くことは出来ないだろう。警戒されてしまっているのは見え見えだった。次の話に切り替えた。

 

「そう言えば基地にはずいぶんと人がいないんですね。兵士や乗組員はどこに?」

 

「私も末端の兵士や乗組員の状況まで掴めないので分かりかねます。」

 

 これもダメだった。そうフレンツは思った。次の話を考える。何でも言いから情報が欲しかった。

 

「ここが日本皇国として扱われてないと聞きました。どういうことでしょうか?」

 

 フレンツはそう言って提督の顔を見た。これまでのとは違い、効果があった様だ。答えを出し渋っている様子。

フレンツは次に提督の口から発せられる言葉が楽しみに思った。

 

「ここ横須賀鎮守府は事実、ひとつの国として機能してます。私を頂点とした横須賀鎮守府という国家です。」

 

「そうなんですね。それで、それは誰が決めたことですか?」

 

 フレンツは『しめた』と思い、渾身の質問を提督にぶつけたが、状況が一変。一緒に会議室に入っていた門兵が安全装置を解除した様な音を発した。

何かに触れたのはもう言わずとも分かっている。何に触れたのか、正直フレンツは知りたくなかった。

 

「それはお答えできかねます。」

 

「そうですか。なら、この司令部以外の棟とか見せていただけないでしょうか?私としては何故、基地の中に大規模な工場とショッピングモールの様な建物があるのかが気になります。」

 

 フレンツは冷や汗を額から垂らした。何故なら門兵が見るからに警戒態勢なのだ。それに触発されてか、護衛もマグポーチに手を掛けている。いつでも給弾して射撃できるようにしているんだろう。

 

「それは出来ません。工場とショッピングモールの様な建物はお見せすることは。」

 

「何故ですか?」

 

 フレンツはこれでまた答えれないと提督が答えると思った。そうすれば、『何故これまでの事、全て答えれないんですか?』と訊こうとしていた矢先、突然会議室の扉が開かれた。

 そこに立っていたのは、日本風の衣装に身を包んでいる少女。奇抜ともいえるそのファッションにフレンツは目を丸くした。

そしてその少女は袖口に手を入れると、黒い塊を手に持っていた。拳銃だ。

 

「そこまでにしてください。」

 

 少女はこれまで通訳を介して話をしていたフレンツと提督の間に入り、流ちょうな英語でそう言った。

 

「門兵さん。彼らに逮捕権を執行します。」

 

 そう無表情の少女を見てから提督の方に目をやると、呆れたかのような表情をしていた。

そうすると提督はその少女に話しかけ、少女の手から拳銃を奪った。そして日本語で何か言うと、頭を下げた。

 

「部下の無礼をお許しください。」

 

 そう言った。

 

「部下、ですか?軍でありながら日本の軍人はあのような恰好をしているのですか?しかも年端も行かぬ少女です。」

 

「それは彼女の私服です。気にしないで下さい。」

 

 そう提督が言うと、その少女を会議室から追い出した。日本語だったが、唯一聞き取れた単語があった。『コンゴウ』だ。

それがどういう意味なのかはフレンツにとってさっぱり分からないものだったが、何か有力な情報を手に入れたと確信できた。

 

「提督、逮捕権とは?」

 

「そのままの意味です。といっても鎮守府内と正門前のみ有効ですが、逮捕された場合、牢屋に入れられますよ?」

 

 提督の発した言葉はもう国家として成り立っていた。それをフレンツは直感で感じた。

 

「それと早く鎮守府から出る事をお勧めします。」

 

 突然提督がそんなことを言い出した。

 

「何故ですか?」

 

「横須賀鎮守府は私が法律と言われていますが、それは否とも言えます。」

 

「それがどういう意味で?」

 

「意味を考えてはいけません。」

 

 提督はそう言って席を立った。提督が立って退出したのならそれは強制的に解散という事になる。

 そしてフレンツは使節団を連れて立った。

 

「提督の言ったことを信じましょう。今すぐここを出ます。」

 

 そう言ってフレンツは一時、横須賀鎮守府を離れた。

 





 今回の会談は全てフレンツ視点だという事に気付きましたでしょうか?気付かなかったのならもう一度読み返して下さると意味が判ると思います(※気付かない人いないでしょう)。

 提督が必死に情報を隠そうとしているのにはちゃんと理由があるのでお楽しみに。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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