【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十一話  会談②

 

 フレンツは諦めてはいなかった。日本皇国がどうやって深海棲艦と互角に戦っているのかを知る事を。

そもそも、提督は何故あそこまで隠そうとしているのかが気になる。通訳曰く『横須賀鎮守府は日本皇国とは異なる存在』と言っていた。なら、その横須賀鎮守府が運用している艦隊も日本皇国のモノであるとは限らない。そしてあまりに少ない人員で、あれだけの規模の基地を運営しているとは思えない。更に、フレンツに拳銃を向けた少女は何者か。

 

「今日も頼んでみよう。」

 

 そうフレンツは一緒に日本に来ていた他の使節にも伝えた。

再度、提督と話をする。今度は、別の視点だ。なぜそこまで機密にする必要があるのか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 使節団は再び、横須賀鎮守府の正門の前に来た。

この時、フレンツ以外はまた情報を聞き出せないだろうと考えていたが、フレンツは違っていた。

フレンツの手には日本の新聞がある。それを通訳に翻訳してもらい、それを見たのだ。

 一面には横須賀鎮守府の事が書かれていた。そして、そこに何度も出てくる単語があった。

 『艦娘』。そう呼ばれている存在がある。紙面を見る限り、年の若い女ばかりだと書いてあった。フレンツにはそれが見覚えがあったのだ。昨日、フレンツに銃口を向けた少女。その少女は軍事施設に居ながら、軍服を着ておらず、独特な服を着ていた。新聞にあった写真の『艦娘』と呼ばれている少女たちもそれぞれ、特徴的な服装をしていたのだ。

フレンツは直観的に日本皇国が深海棲艦と相対する事が出来る理由が『艦娘』にあるのではないかと考えていた。

 

「着きました。」

 

「ありがとう。」

 

 通訳がそう言ってフレンツを専用車から下ろす。下ろされた場所は正門前。昨日と同じ場所だ。フレンツはそうすると護衛に目配せをした。フレンツはここに来る前にある事を護衛に指示をしていた。

 

『ライフルは置いていけ。』

 

 その意図はライフルを携えていたら必ず、『武器から弾を抜いておけ。』と言われるのは自明の理だ。それならばもうライフルは置いていけという事。そして腰にぶら下げているナイフもだ。だが、拳銃はどうするのか。それは、防弾ベストの内側に入れておく事だ。

 あちらの金属探知機は簡易的なもので、昨日着た時にも防弾ベストは着用していたが、脱げとは言われなかったのだ。それがねらい目だとフレンツは思い、護衛にそう言っておいたのだ。

 

「使節団の方々ですね。」

 

 門兵はそう訊いてくる。それに通訳が日本語で応え、昨日と同じように色々と始まった。今日は抵抗せずに素直に従い、全員が止められることなく通過する。

フレンツは上手く行ったと思いつつ、それを表情に出ないようにしながら提督と話をする部屋に入った。フレンツが部屋に入るともう既に提督は席に座っていた。何かアクションを起こすわけでもなく、フレンツは向かいの席に座った。

 

「今日は私からお聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」

 

 提督はそうフランツに言うと、フランツはすぐに返事をした。

 

「はい。こちらも機密に触れない程度ならお答えします。」

 

「なら遠慮なく......。」

 

 そう言った提督は少し咳払いをすると訪ねてきた。

 

「先ずは、我々の艦隊の艦載機がアメリカ合衆国領海と領空内に侵入してしまったことを今更ながら謝罪を申し上げます。」

 

 そう言った提督は頭を下げた。

何故謝ったかはフレンツは分かっているつもりだった。もし、自分でもそうしていただろうと考えていた。そして、そのお蔭で双方の生存確認が出来たのだ。それは利があったのだ。

 

「その事に関しては大統領は今回の侵犯はお互いの生存確認がなされたので良しとすると申しておりましたので、お気になさらず。」

 

「ありがとうございます。」

 

 フレンツは答えると手元の新聞に視線を落とした。いつ、訊くべきなのかとタイミングをうかがっていた。

 

「日本皇国と連絡が途絶えてから、貴国ではどのような体制を取っておられたのですか?」

 

「戦力が残っていた初期は抗戦をしてましたが、戦力が削られ切った頃に軍は撤退し、一切抗戦をしませんでした。」

 

「そうなんですね。こちらも同じです。」

 

 何を聞いてくるかと思えば、回答の予想が簡単につきそうなものを訊いてきた。フレンツは身構えて損した気分をした。

 

「沿岸部からは国民は離れていると聞いておりますが、全ての船が無くなった訳では無いんですよね?」

 

「勿論です。民間船は放置されていますが、政府が管理している船は全て動かせるようにはなってます。」

 

 少しフレンツの予想とは違う質問が飛んできたが、機密になんてかすりもしてないので普通に答えた。

 

「今の、日本をどう思いましたか?」

 

「そうですね......深海棲艦との戦争が起きているのかと思わされる様な、異世界の様だと思いましたね。」

 

「そうですか......。」

 

 提督はフレンツのその回答を聞き、少し気を落としてしまったみたいだ。

 

「すみませんが私からお尋ねしたかった事は以上です。そちらは?」

 

 フレンツはチャンスだと確信した。このタイミングで新聞の事を聞けば、何か有力な情報が手に入ると確信していたのだ。

 

「えぇ。この新聞にある『艦娘』について教えてください。」

 

 そうフレンツが言った瞬間、提督は顔をしかめた。ビンゴだ。そう確信した。

そしてここまで言われてしまえば、断れまいと考えていた。

 

「分かりました......お教えしましょう。」

 

「本当ですか?」

 

「はい。よくよく考えてみれば、何れ知られる事でしたので。」

 

 そう言って提督は立ち上がり、一度、扉を開いて出て行ってしまった。そしてほんの1分すると、誰を連れて戻ってきた。

フレンツはその誰かに見覚えがあった。昨日、フレンツに銃口を向けた少女だったのだ。

 

「彼女がその『艦娘』です。」

 

「はぁ......。それで、彼女が何だと?」

 

 そうフレンツが聞くと、にわかに信じがたい事が提督の口から語られた。

 

「彼女たちは貴国と同じように窮地に立たされ、戦闘艦が全滅した時、現れた我々の味方です。」

 

「現れた?」

 

「はい。現れ、この東京湾の奥深くに入り込み、海岸部の街を焼こうとしていた深海棲艦を一掃。そして我々に味方をすると誓った者たちです。」

 

 フレンツは必死に脳内で情報を処理した。現れたなんて単語は都合がいい。どういう意味なのだろうか。どこからともなくなのか分からないが、取りあえずこのままだと処理しきれないので言葉のそのものの意味で捉えた。

だが安息を取り戻したフレンツの脳内に更に爆弾が投下された。

 

「彼女らがあの旧型艦を操り、海を駆け、深海棲艦を駆っている張本人です。」

 

「なんだと......。」

 

「それに、金剛。艤装を。」

 

 フレンツが驚きを隠せないでいると、提督はその少女を呼び、少女が光に包まれた。

そしてその光が消えていくと、その少女の腰にとてもではないがその華奢な身体では到底支えれないであろうサイズのモノを背負っている。そしてその背負っているモノには明らかに砲塔が4つ、乗っていた。サイズは小さいが、どうみてもそうだった。

 

「今、彼女が腰に背負っているモノは艤装と呼ばれています。」

 

「艤装っ?!戦闘艦の装備ですか?!」

 

「はい。彼女らはいわば特殊能力を持った少女たちという事です。」

 

「特殊能力で、特殊だから深海棲艦と互角に戦えるという事ですか?」

 

「そうなります。」

 

 そう提督は白状した。だがそれはあまりにフレンツの想像をはるかに超えたモノだった。

特殊能力、艤装を背負う、年端も行かない少女。それはフレンツの思考を乱し、正常な考えをすることを阻害した。

 

「にわかに信じがたいですが、現行艦ですら歯が立たない深海棲艦です。特殊であるからこそ戦えたとなると、信じざるを得ないですね。」

 

「ありがとうございます。」

 

 そうフレンツが言うと、提督は答えた。

だがその後、提督は続けた。

 

「この際ですから、横須賀鎮守府にはいる為に何故あそこまでされたのかというのも説明させていただきます。」

 

「そうですか。」

 

「理由は大きく1つあります。それは、この艦娘が現在、日本皇国と協力関係にあるという事です。」

 

「それはつまり?」

 

「日本皇国海軍扱いですが、軍としてくくってもいいのかあやふやな立ち位置です。」

 

「さっぱり分かりませんね。」

 

 フレンツはそれを訊くと、率直な感想を言った。それ以外思いつかなかったのだ。

 

「まぁ、協力関係だと思って下さい。それで彼女たちは最初、日本皇国内では英雄と称えられていましたが、深海棲艦の大型艦になると彼女たちと似ていると言う理由から、人類に味方をしている深海棲艦だと勘違いされ、国内でデモや暴動が起こるのを避ける為に政府が彼女たちを隔離したんです。」

 

 提督の口から語られる話は多分かなり端を折ってあるのだろうが、大体の情景は予想出来た。

 

「ただ戦わせていると感じていた当時の軍は戦争を肩代わりしている礼に彼女たちが求めるものを聞いたそうです。そうしたら皆は口を揃えて『指揮官が欲しい』と言ったそうです。」

 

 フレンツは口を挟まずに聞いた。

 

「それに困り果てた軍は私を指揮官として鎮守府に入れたんです。」

 

 最後の締めにはいささか違和感があるものの、フレンツは大体納得した。もう何をどう聞けばいいのか分からない状態でもあったのだ。

 

「それで、どうしてここまで厳重に?」

 

 辛うじて聞けたのはこれだった。それに提督が答える。

 

「指揮官を欲しているのは、日本皇国に散らばる他の鎮守府でも同じでした。それは艦娘たちは本能で指揮官を求めていたんです。ですが、指揮官が着任するには確率が0に近い事を成し遂げなければならず、それをクリアしたからこそ、艦娘は外から入ってくるものを何でもそう警戒するようになってしまったんです。私を失いたくないが一心に考え、行動していった結果がこれだったんですね。」

 

「成る程......。」

 

「だがどうして艦娘ではなく、門兵がその指示に従っていたか......。それは、私が暗殺未遂に遭った時、艦娘の怒れようから艦娘の思いを汲み取るようになったんです。艦娘を怒らせない様にと。」

 

「何故怒らせてはいけないのですか?」

 

 フレンツはその質問をしなければよかったと後悔した。

 

「艦娘は私に関わる事に敏感で、私が怒っていれば艦娘もその対象に怒ります。そうすると彼女たちはこういうんです。『それに攻撃を加えましょう。』と。民間人が住んでいる地域でも、国の機関があるところでも、皇居に攻撃を加える事を厭わないのです。」

 

 フレンツはそれを訊いて、信じられなかったが信じるしかなかった。もうここまで聞かされて、自分の脳では処理しきれないのだ。全てが分から無いことだらけだ。

 

「もし、怒る対象になってしまうとどうなるんですか?」

 

 フレンツはそう訊くと、提督は表情を変えずにとんでもないことを言った。

 

「そうですね......。なら、こうしましょう。今、私はこちらに居る門兵に怒っているとしましょう。」

 

 そう提督が言った途端、少女は信じられない動きで門兵の前に立ち、置いてあったボールペンのノックしてペン先を門兵の目にあと数mmで刺さるという距離で止めた。

 

「そうするとこうなります。殺そうと動き出すんです。」

 

 そう言った提督に聞こえない程度の声でフレンツは言った。

 

「イカれていやがる......。」

 

 フレンツは咳ばらいをして言った。

 

「......暗殺専門の部隊でもこんな事はしませんよ。何者なんですか?」

 

「艦娘です。」

 

 フレンツはそう言って聞くも、提督に一蹴された。

 

「つまり、艦娘は私に降り注ぐあらゆる危険を察知し、跳ね除け、私が害だと思ったものを即刻排除しようとします。」

 

「......。」

 

 もうフレンツは返事をする気にもなれなかった。

フレンツはやっと昨日、提督が言っていたことの意味が判ったのだ。ここが日本皇国でありながら、あらゆる法が有効でない理由が。

 

「分かりました......。ありがとうございました。」

 

「いいえ。」

 

 フレンツはそう言って席を立つと足早に会議室から出て、専用車に乗り込んだ。

本能がここから出て行った方が良いと訴えていたからだ。

 





 これで会談は一応終わりです。これからは偶にアメリカ視点になる事がありますので、お願いします。

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