【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十六話  牢

 俺は任務の為、体制の変わってしまった日本の軍事施設に潜入した。上官から受けた任務は『艦娘を奪取せよ。』と『何でもいいから情報収集せよ。』だった。前者に関しては特徴などを事前に教えられていた。子どもからハイスクール卒業前後辺りの年の女を連れてくる事だった。そんな年も取ってない若い女を捕まえるのはいささか抵抗があったが、年からして簡単だろうと上官も俺も思っていた。後者に関してはよく分からないが、潜入先自体に入る事が情報収集になるという事で、見たもの聞いたもの全てが情報になるとの事。

仕事が無かったからこの任務はありがたかったが、まさかこんなことになるとは思ってなかった。

 軍事施設に到着し、海から潜入を試みた俺の部隊は16人。4人で1個分隊の1個小隊だ。こんな大がかりにしなくても良かっただろうにと思ったが、上官がそう言うのだ。その通りにした。

海から上がり、ボンベやマスクを岩陰に隠し全員で集まった時、任務を再確認した。皆、気合十分でそれでいて落ち着いてた。上官からは交戦や殺害は出来るだけ避けろと言われてきたが、正直不安で仕方がない。現場の判断で発砲も許可しそれぞれ携帯してきたサブマシンガンの弾倉をチェックし、それぞれの分隊長の確認で俺たちは散開した。

 昼の潜入はいささかリスクがあったが、情報では警備はただの警備兵でそれ程人数も居ない。そして大体がその『艦娘』というものらしいから用意だと思っていた。俺の分隊はそれでも慎重に進み、工場みたいな施設の横に来ていた。中では騒がしく作業をしている音がしているが、人の声はしない。日本の技術者というのは何時でも真面目なんだなと感心していると、隠れている俺たちの近くを女が歩いて行った。ハイスクール卒業くらいの年で顔も整っている。ハリウッド女優だと言われたら信じてしまいそうな女が鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

「隊長、どうしますか?」

 

 隊員がそう訊いてくるが俺は首を縦に振らない。潜入早々に捕まえてしまえば荷物になる。そう考えたのだ。

今は情報収集が先だ。

 

「まだだ。今は情報収集の方が先だ。ここは軍事施設だから本部があるはず。そこに行こう。」

 

 俺はそう部下に指示を出し、遠くに見える一際大きな建物を目指して前進した。

大きな建物に辿り着くまで、何度か女を見かけたが全員が別に何かを気にしている訳でもない。自然体のようにも見えた。だが少し違和感があった。ところどころ警備兵が立っている。それに全員アサルトライフルを持っていて装弾してあるみたいだ。その警備兵も目を光らせている。一瞬脳裏に任務がばれているのかと過ったが、こちらの情報は出ていないとの事だったので余り気にせずに大きな建物に入った。

 大きな建物の中はスクールの様にも思えたが違った。木造だと言うのはすぐに分かる。それに床にはレッドカーペットが敷いてあった。どういう意図か知らないがそう言う決まりなのだろう。俺たちは姿勢を低くしながら部屋のノブに手を掛け、入っていく。最初に入った部屋は何も置いてなかった。あるとしたら埃を被った机くらいだった。情報になるようなものはない。出るときは細心の注意を払い、廊下に出て隣の部屋に入る。

隣の部屋にはモノが置いてあって、全部日本語だ。俺は日本語は分からない。精々英語とフランス語くらいだ。

 

「この部屋にあるモノ、一応持っていけそうなものは持っていきますか?」

 

「あぁ。」

 

 部下はそう言ってバックパックに空きを作り、そこになんかの本を入れた。そして紙も1枚だけ。

その後、この部屋も辺りを見回して何かないかと探し、すぐに部屋を出る。細心の注意を払い、扉を開き、廊下に出る。それを繰り返す事5回目にして遂にモノが沢山置いてある部屋に辿り着く事が出来た。どういう部屋か分からないが段ボールや棚が所狭しと並んでいて、調べるならここが良さそうだと俺たちは窓に1人と扉に1人つけて部屋の中を物色し始めた。段ボールからは書類が出て来てそれ以外ない。棚にはファイルが入れられていてそれらも書類が挟まっている。

どう考えても保管庫の様にしか思えない。俺ともう1人がバックパックの空きに適当に入れていると、部屋のどこからか音がした。"コトン"そんな音だったと思う。木造だから何か小動物でもいるのではないかと疑い、一応サブマシンガンのセーフティを解除しておいた。引き金には指はかけない。

 

「あらかた終わりましたよ。そろそろ艦娘とやらを捕まえますか?」

 

 そう隊員が言った瞬間だった。俺の首筋に冷たいものが当てられている。それは鉄の様に冷たく、そして穴が開いているのを感じた。俺の直感はそれを銃口だと訴えている。

その刹那、後ろから声がした。"動くな"と。俺は動きを止め、サブマシンガンを床に置き、手を挙げた。

 

「あなた方を拘束させていただきます。」

 

 そう後ろの声が言ったのに俺は反応し、眼球を必死に動かして辺りを確認した。近くに居た隊員もサブマシンガンを置いて手を挙げている。その背後には黒のBDUに身を包み、拳銃の銃口を突きつけている兵士がいた。

 

「日本軍か?」

 

 そう訊くと後ろから返答が帰ってくる。

 

「えぇ。」

 

 声は落ち着いている。だがどうやら何か作業をしながら銃を突き付けている様だ。俺は全身に神経を集中させ、何をしているのか感じ取ろうとした。それはすぐに分かった。後ろで銃を突きつけながら俺の身に着けているものを取っている。ナイフでベルトなどを切り落としていっているみたいだ。先ずはサブアームを落とされた様で、ガシャンと音を立てていた。その次はナイフ、弾倉、あらゆるものを落とされ、俺は丸腰にされていた。

 

「さて、ここを甘く見ていた様ですが精々嘘を吐かない事ですね。」

 

 そう言われた瞬間、俺は気を失った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 目が覚めるとそこはひんやりと冷たい部屋で檻になっている事から、ここは牢だと言うのは分かった。そうして痛むところを押さえながら起き上がると周りには仲間たちがいた。全員装備は無く、BDUと何もないベストだけだ。ヘルメットも無い。

 

「隊長、気付きましたか?」

 

 そう話しかけてきたのは、俺の分隊で気を失う前に漁っていた片割れだ。

 

「あぁ。この状況、捕まったのか?」

 

「そうです。しかも彼ら、銃を突きつけながら装備を切り落として気絶させた後に身ぐるみ見られたみたいで手元にはものがありません。腕時計さえもです。」

 

 そう言われて俺は身体に身に着けていたありとあらゆるものを確認した。結果は.......何もない。全て無くなっている。隊員の言う通り、身ぐるみ取られてしまっている様だ。

 

「点呼はしたか?」

 

 全てものを奪われているこの状況に不満を持ちつつ、隊員にそう訊くとすぐに返事は帰ってきた。

 

「ここには12人います。それと、この牢は他の牢と並べられている様で、隣に声を掛けましたが返事はありませんでした。それと他にも声を出してみましたが返事は無いです。」

 

「じゃあここに居るので全員か?」

 

「そうだと思います。」

 

 隊員はそう言い切ったが苦しい事だ。ここにいるのは12人。ここに入ったのは16人だ。さっき誰がいるか見渡したが分隊で揃っているという事は分かった。という事は、1個分隊は残っていると考えられる。

 そう考え終わったのはいいが、ひとつ疑問が浮かんだ。対応が早すぎる上、奴らは何者なのか。日本軍だという事は一目瞭然だが、何故俺たちの潜入がこう早くバレてしまったのか。

更にどうやって背後まで近づいたかだ。物音はしたがあれっきりだ。そう考えると恐ろしい。俺たちは彼らがいる部屋に自らノコノコと入っていたって事になる。なんて様だ。

 任務に失敗し、その上捕まってしまった事を考え黄昏ていると誰かが向こうから近づいてくる。俺は目線をそっちにやると、隊員の頭に銃口を突きつけていたのと同じ格好をした奴と明らかに階級の高い人間、軍服を着た男、白い服を着ているが年不相応の男、それに見るからに艦娘がいた。

彼らは俺に分からない言葉で話した後、軍服を着た男が英語で話しかけてくる。

 

「1人ずつ名前と所属を言って下さい。」

 

 そう言われ俺たちは指示に従うべきが悩んだが、状況から察するに尋問というかよく分からないが話さなくてはならない類の状況だろうとそれぞれ答えていく。

答え終ると軍服を着た男は日本語で話すとすぐに返答をしてきた。

 

「全員同じ部隊という事でいいですか?」

 

 その問いには全員が頷いた。

 

「では現場指揮官は?」

 

 そう訊いた軍服を着た男に俺は声を掛ける。

 

「俺だ。」

 

 そう言うと軍服を着た男は日本語で白い服を着た男に何か話をするとその横に居た男がこちらに睨みをきかせてくる。

それから少し話をしたかと思うと軍服を着た男が訊いてきた。

 

「目的は情報収集と艦娘の誘拐ですか?それにあなた方は特殊部隊ですよね?」

 

「違う。アメリカ陸軍 第4旅団戦闘団 第7歩兵連隊だ。」

 

 そう俺が言うと軍服を着た男は日本語訳したのかそれを話すと白い服の男は表情を変えなかったが、その横の男は難しい顔をして白い服の男に何かを聞いた。そして何かを言った後、軍服を着た男が訊いてくる。

 

「本当にそこですか?」

 

「そうだと言っている。」

 

 第7歩兵連隊というのは嘘だ。上官に万が一と言われた偽の所属だ。

本当は彼らが言っている事であっている。俺たちは特殊な任務を担う特殊部隊だ。

そんな事を考えていると軍服を着た男はどうやら向こう側に置いてある俺たちの装備に手を掛けた。手に取ったのはサブマシンガン。カスタマイズされていて、いろいろいじくりまわしてある。それに光学機器やらサイレンサーまでつけているのだ。

そんなサブマシンガンを手に取った軍服を着た男は日本語で何かを話ながら弾を抜いてセーフティを掛けると白い服の男にそれを見せる。そしてサイレンサーを指差して何か言うと説明を始めた。それは数十秒で終わったがすぐに白い服の男が軍服を着た男に何か言うと俺に話しかけてきた。

 

「本当にその所属なんですか?」

 

「......あぁ。」

 

 俺は少しどもってしまったが、ここで違うと言っても利益は無い。

軍服を着た男はサブマシンガンを白い服の男に渡すと俺に話しかけてきた。

 

「鎮守府に解き放たれた貴官の同族は貴官合わせて12人ですか?」

 

 そう訊いてくるので俺は答える。

 

「さぁ、どうだろうか。」

 

 俺はニヤニヤしながら応えてしまったが、白い服の男がそれを見て溜息を吐きたそうな表情をした。

そしてその白い服の男が艦娘を呼ぶと、何かを話し、それを軍服を着た男は訳した。

 

「あなた方の仲間はもう捕まってるみたいですね。それに死んでるかもしれないと......。」

 

 そう軍服を着た男が言うと俺は驚いた。もう死んでいるだとは思わない。しかも今、潜入から何時間経っているかもわからないのだ。

もし2時間気絶していたとして、まだ4時間も経っていない。そんな早くに俺の部下が捕まる訳がない。そう思っていたので発した言葉は慌ててしまった。

 

「何だとっ......彼らは潜入任務にっ!!」

 

 そう言った刹那、軍服を着た男は畳みかけてきた。

 

「米軍から投入された特殊部隊ですね?違いますか?」

 

 そう言われてしまい、俺は何も言えなくなった。負けた。装備は全部奪われ、口も滑ってしまった。

後悔をしていると軍服を着た男は話しかけてきた。

 

「合衆国に対し、政府を通して貴官らの送還に関する協議を行う事にします。いつ帰れるか分かりませんが、それまでここで我慢して下さい。場所が悪いですが、休暇だと思えば気は少しは楽になるでしょう。」

 

 そう言って軍服を着た男たちは出て行ってしまった。

どういう事だ。俺は首を傾げる事しか出来なかった。情報収集をしていた俺たちがココから出ると情報漏えいにならないのだろうか。彼らは俺たちの送還を検討すると言った。普通ならここで拷問してこっちの情報を吐かせるくらいしてもいいだろう。なのに送還なのだ。訳が分からない。

 それに終始気になっていたが、艦娘から飛ばされていた殺気はとても鋭かった。今にも殺すと言わんばかりの殺気に萎縮しかけていた。どういう事なのかさっぱり分からない。どうなっているのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 数時間牢の中に居ると、さっきの軍服を着た男が来た。

何かの書類を持っている様だった。

 

「あなた方に報告しなければならない事で、私が司令の命により来ました。」

 

 そう言った彼は書類を読み上げる。

 

「1つ。こちらの迎撃班と交戦した貴官らの1個分隊の遺体を収容しました。」

 

「迎撃......だとっ?!」

 

 俺がそう言ったのを無視して彼は続ける。

 

「2つ。貴官らの犯した罪は違法入国、軍事施設侵入、銃刀法違反......キリが無いのでこれくらいにしておきます。」

 

「......。」

 

 何も言い返せなかった。

 

「3つ。ホワイトハウスに確認を取りましたが、任務としてなかったようですね。」

 

「なんだとっ!?」

 

 俺たちに課せられていた任務は大統領から承った任務だと訊いていたのでそんな任務を全うする事は何て名誉な事なのだろうかと思っていたのにも拘らず、大統領がそんな任務は無いと言ったのだ。

嘘だという可能性もあるが、分からない。どっちなのだろうか。

 

「質問いいか?」

 

 俺はそう言って軍服を着た男に訊いた。

 

「さっき一番目にあった迎撃ってどういうことだ?」

 

 そう訊くと軍服を着た男は答えた。

 

「貴官らがこうやって入ってくるのは分かっていたんですよ。なので司令が前もって貴官らを捕らえる為に部隊を配置していたんです。」

 

「こっちの任務内容を知っていたのか?」

 

「いいえ、憶測です。」

 

 憶測だけでここまで出来るのかと感心した裏腹、とんでもないところに手を出したのだと俺は頭が痛くなった。

こんなところに手を出そうとしていた数時間前の俺の顔面をぶん殴ってやりたい。

 

「はははっ......。俺たちの完敗だ。少しの間"休暇"を楽しむ事にする。」

 

 そう言うと軍服を着た男は持っていた紙を脇に挟むと一言言って帰っていた。

 

「いい"休暇"を。」

 

 




 今回はずっと米軍の隊長視点での話でした。それと付け足しで話を加えておきました。
はやくこのウェールズ、アイオワらへんから脱出したいですね。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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