【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十七話  処理と甘味

 

 俺は警備棟に来ていた。理由は明白だ。

侵入していたアメリカ軍の特殊部隊の処理についてだ。この件に関しては国外の人間だけにこちらだけで決めかねないという事で、大本営から人が派遣されている。

 

「提督、大本営から参りました神薙(かんなぎ)と申します。」

 

 神薙と名乗った男性は新瑞から連絡のあった派遣された人だ。

 

「米軍の部隊の処理に関して、お話に上がりました。」

 

「わざわざありがとうございます。」

 

 一言礼を言って俺と武下、艦娘からは代表で長門と赤城、大井が座った。

座ると横の大井が俺の脇腹を突いて話しかけてきた。

 

「何で私がこの場に居るんですか?第一、こんな事があったなんて知りませんよ?」

 

「いいんだよ。大井がここに居るのにはちゃんと意味があるから。」

 

 俺はそう言って話を始める。

 

「今回のウェールズ氏の無許可来泊と上陸は目を瞑りますが、艦娘奪取と情報収集をしていた特殊部隊の扱いに関してですがこちらとしては送還しようと考えています。」

 

 そう俺が言うと神薙はすぐに返答した。

 

「大本営の回答は"送還せず"です。艦娘の奪取と情報収集は重大な情報漏えいですから、新瑞長官はそれを良しとしない様です。」

 

「成る程......。」

 

 これまで俺たちの好きにやらせてくれた新瑞も外交となれば話は別らしい。外交という事は政府も絡んでいるんだろう。

 

「では処理は大本営任せという事ですか?」

 

「そうなります。」

 

 俺はそれを訊くと黙って考え始めた。

処理に関してはこちらでやりたくないのが本音だ。それにあの部隊は16人いたと言う。だが捕まえているのは12人。4人はどうしたのか。俺は不思議だった。12人捕まえたという報告以来、何の報告も訊いていないのだ。

あの時、金剛の言った通り、殺されてしまったのだろうか。

 

「そちらの報告書では16人いるようですが、今は12人だとか。説明頂きたいです。」

 

 俺が丁度考えていた事を訊いてきた。だが俺は答えられない。知らないのだ。

少し戸惑っていると、武下が口を開いた。

 

「こちらは事前に部隊の侵入を予測していたので迎撃にこちらも人を回していました。12人は無力化しましたが、4人は接触でしたので交戦状態に入りやむなく殺害してしまいました。」

 

 俺はその事実を訊いていない。

だが正直、これに関しては仕方ないのかもしれない。あちらは銃を持った人間で、こちらも多分拳銃くらいは持っていただろう。あちらは潜入で、見つかればお終いだ。見つかったのなら見つかった相手を処理しなければならない。交戦するのは自然な流れだ。

それが殺した殺されたになってしまうのは銃を使っているからだ。

吐き気が急に込み上げてきたが、俺はそれを飲み込み、その事実も飲み込んだ。俺自身に仕方ないのだと言い聞かせて。

 

「ふむ......。そうでしたか。ならば、仕方ないですね。あちらから仕掛けてきたモノですし。」

 

 そう言って神薙は紙にメモを取ると話を続ける。

 

「彼らの身柄をこちらに引き渡しては貰えませんか?あとは大本営と政府が処理しますので。」

 

 そう言うと長門が机を叩いた。

 

「何だとっ?!あいつらはここに土足で上がり込んで艦娘の拉致と機密を盗みに来て、更に銃撃戦をしたのだろう?!あいつらは殺すべきだっ!全員が捕まるまでに何を知ったか分からないんだぞ?!」

 

 長門の言う事は最もだ。鎮守府の中を歩き回り情報収集していたのなら全員が捕まるまでに大なり小なり情報を手に入れているはずだ。もし、妖精に関する情報や開発した兵器での実戦データが持っていかれたら『イレギュラー』を知らない彼らが何をするか分かったものじゃない。一番考えられるのは大戦時に米空軍が使っていた大型爆撃機を使う事だ。使った場合、あちらが焼け野原になるがこちらのも飛び火する。それだけは何としても避けたい。

実戦データも内容次第ではダメだ。富嶽を何百機と投入した爆撃や富嶽が本隊の作戦、海上絨毯爆撃......これらを知られるのは何としても避けたいのだ。多分、長門はそれを見据えているのだろう。

 

「彼らは日本人ではないんですよ?それに"捕虜"はジュネーヴ条約で人道的な扱いをしなければならないのです。殺すだなんて、違反です。」

 

「だがっ......。」

 

 ジュネーヴ条約。第二次世界大戦で捕虜の扱いが荒んでいたのをきっかけに1949年に締結された国際条約だ。拘束力のあるこの条約を犯すと国際的に孤立するだろう。だが、現状、世界とは連絡が付かないので無視してもいいんじゃないかとも感じたが、先にどうなるか分からない。もし殺してしまえば、記録が残り、それを元に日本が責められる可能性だってあるのだ。

 

「こちらでアメリカとの交渉が済むまで身柄を拘束しておくのは?」

 

 赤城が血走った目でそう神薙に訊いた。赤城も長門同様に怒っているのだろうか?

だが赤城の問いには大井が答えた。

 

「勿論駄目ですよ。ここに置いておいたとして、どうするんですか?面倒を見るのは誰ですか?これ以上、門兵さんの負担を増やしたくはないですよね?」

 

 そう大井が言ったのを聞いた赤城は黙った。

 俺が大井を呼んだのはこういう理由からだった。いつでも理性的でいられる大井なら落ち着いた視点で物事を判断して意見を言うだろうと思ったからだ。

 

「そうですね......。」

 

 俺の中ではもう答えは決まっていた。神薙に頼み、もうアメリカ軍の特殊部隊を引き渡す事。問題になる種は早々に捨てておきたいのだ。

 

「神薙さん。"捕虜"は任せます。移送の準備をお願いできますか?」

 

「了解しました。話が早くて助かります。」

 

 俺はそう言って長門と赤城への説明を大井に任せて話を進めていった。一刻も早く彼らを鎮守府から追い出す事。そして本当は一刻も早く艦娘の近くから遠ざける事だ。

今にも殺されておかしくないのだ。

 最近の傾向で艦娘には元々あった『提督への執着』とは別に、鎮守府の中での仲間意識というか家族みたいに思っているところがあるみたいだ。それは駆逐艦や軽巡の艦娘に顕著に表れている。遊び相手を非番の門兵がやってくれているからだ。多分、近所のお兄さんみたいに思っているのだろう。そんな気がしてならない。

そんな門兵たちがアメリカ軍の部隊と交戦したなんて聞けば心配するのも当然、殺されようモノなら『提督への執着』程ではないにしろ、ある程度箍が外れる可能性があった。

 長門と赤城に一通り話をし終えた大井が俺の脇腹を小突いて話しかけてきた。

 

「はぁ......こんなに面倒なんですね。これを普段は提督だけでやっていたんですか?」

 

「お疲れ。あぁ、そうだな。といってもここまで時間はかからないけど。」

 

「どんな魔法ですか、それ。」

 

 大井は苦笑いしてそう言う。大井の向こう側で長門がすね、赤城が膨れているのを見るとどういった顛末でこうなったか気になるところだが何があったかは聞かない。

 

「まぁいいです。こんな事に新米を駆り出したんですから、甘味処に連れてってください。」

 

 そういきなり言った大井に俺は戸惑いつつ、適当に誤魔化す。

 

「そのうちな。」

 

 そう言ったが大井は抜け目がない様だ。すぐに設定してきた。

 

「今日、執務は終わってると訊いてますので3時にお願いしますね。」

 

「......あぁ。」

 

 いい笑顔でこんな事言うものだから俺は肯定してしまった。

この後、大井に甘味を奢らされるわけだが、そこまで甘味は高くないので置いておく。

 メモを取り終えた神薙を見送り、その後アメリカ軍の兵士たちを護送車で送り出すと俺は伸びをして執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督、絶対忘れてましたよね?」

 

 そう言って執務室の扉を勢いよく開いて入ってきたのは大井だった。

 

「何を?」

 

「......はぁ。」

 

 俺がそう答えると大きなため息を吐かれて腕を掴まれた。

 

「応接室で約束したじゃないですか!甘味処に行くって。」

 

「あぁ......はいはい。」

 

 俺はそう言って立ち上がる。それをポカーンと見ていたのは今日の秘書艦、山城だ。

 

「てっ、提督?どちらに?」

 

「甘味処行ってくる。誰か来たら席外してるって言っておいて。」

 

 そう言って俺は扉から出ると、部屋から山城の声が聞こえた。『不幸だわ。』と。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 甘味処に大井と入り、適当に注文する。

今更説明するが、甘味処と言ってもここは食堂だ。朝昼晩以外の時間は甘味処として動いている。間宮が切り盛りしているんだが、どうやら間宮はずっと厨房に立っているらしい。偶に変わってやろうかと考えるが俺は口に出さない。面倒事になるからだ。

 そんな事より、甘味処というのはあまり艦娘は来ないみたいだ。酒保が拡大してから来る艦娘が減ったらしい。こういったおやつの時間に来る艦娘はいるみたいだが、他の時間は基本暇をしているらしい。

 俺はみたらし団子を頼み、大井はパフェを頼んでいた。どんなサイズか気になるところだが俺は大井に話しかける。

 

「なぁ、大井。」

 

「はい、何でしょう?」

 

 俺は大井の横を凝視した。俺はてっきりそこに誰かいるのだと思っていたがそれは幻想だった様だ。

 

「北上は連れてきてないのか?」

 

「北上さんですか?えぇ。どうやら阿武隈さんが魚雷の扱いに関して訊きに来てるみたいです。北上さんがどうかしたんですか?」

 

 そうキョトンと答える大井に俺は重ねて質問した。

 

「てっきり大井だから北上も連れてくると思ってたんだが。」

 

 そう言うと大井は溜息を吐いて答えた。

 

「どんなイメージが張り付いてるか知りませんが、前にも言いましたけど北上さんとは親友みたいな関係ですから。そこまでべたべたしませんよ?ただずぼらですから世話をしてあげないといけないだけで......。」

 

 そう言う大井には特段変なのろけは無い。本当の事の様だ。

 

「そうだったか。まぁいいか。」

 

「お待たせしましたー。みたらし団子とパフェです。」

 

 間宮がお盆に乗せてそれらを持ってくると一端会話は中断し、それを一度口に運ぶ。

甘辛いタレに使って少し焼いてあるみたらし団子はとても美味しいかった。団子ももちもちしていて申し分ない。目の前に鎮座するパフェもそこまで大きくない。おやつなら相応の大きさだ。

 

「甘ーいっ!」

 

 そう言いながら頬張る大井は幸せそうだ。

まぁそんな表情のを見て俺は役得なのかもしれない。少しそれを見た後、俺もみたらし団子を食べる。

 

「提督。」

 

 もさもさと食べていると、突然大井が話しかけてきた。

 

「何だ?」

 

「それ、ひとくちいただけませんか。しょっぱいものが欲しくて。」

 

 そう言ってきたので俺は皿に乗っていた一本を差し出す。

 

「ん。」

 

「いえ、そっちで大丈夫ですよ。」

 

 そう言って俺が手に持っているのを言うので俺が差し出すと、大井は身を乗り出してそれに食いついた。パクリと口を閉じて引き抜くと、団子が1つ無くなっており、大井はモゴモゴさせている。

 

「ありひゃとうごひゃいまふ。」

 

 多分『ありがとうございます。』と言ったんだろうが、そう言いながら顔色一つ変えずに食べるので串を置くと大井に訊いた。

 

「野郎が口付けたので良かったのか?」

 

 そう訊くと大井は表情を変えずに答えた。

 

「別に、なんとも思いませんよ?提督ですからね。」

 

 そう言ってまた大井はパフェを食べ始めた。

そんな大井を見て俺は呟いた。

 

「腑に落ちん......。」

 

 そう思い、食べ差しの団子を口に運ぶ。

何の気なしに話しながら食べるが、それ以外は特段何かあったわけではない。大井がレベリング中に見たことなどを話してくれるので退屈はしなかった。

だが時より大井は困った顔をするので俺が『どうかしたのか?』と訊いても『別に何でもないですよ。』とだけしか答えてくれなかった。まぁそう言うならと俺は深くは訊かなかった。

大井のレベリング中に見たことで衝撃的だったのは、護衛に出ていた比叡の艤装に深海棲艦の砲撃が直撃した事だった。てっきり爆発するものだとみていたらしいが、全く爆発しないので、戦闘終了後に比叡が見に行くと砲弾が艤装に突き刺さっていたそうだ。つまり不発弾だ。それはすぐに妖精の手によって引っこ抜かれたのだが、その処理がぞんざいだったみたいだ。その不発弾を海に投棄したら比叡の艤装、スクリューの辺りで起爆。比叡の艤装のスクリューは一瞬にして吹き飛び、戦闘をしていないと言うのに曳航されたとの話だった。

笑える笑えないじゃなく、唯のブラックな話だったが、そういう話も聞けて俺は嬉しかった。

 

「レベリングはその時その時で色々な事が起きて楽しいです。」

 

 そう言うものだから俺は言った。

 

「レベリングした艦娘は全員、飽きたとか言ってたが大井は意外だな。」

 

「そうですか?楽しみを見出してるんですよ。同じ海域に出てるだけですからね。」

 

 そう言った大井は最後の一口を食べると『ごちそうさまでした。』と言ってスプーンを置いた。俺ももう食べ終わっていたので大井が口の周りを拭き終わるのを見てから会計を済ませて甘味処を出て行く。

 

「ありがとうございました。」

 

「いい。新米を駆りだしたからな。」

 

 そう言って俺は歩き出す。

そんな俺に大井は俺に聞こえない声で言った。

 

「はぁ.,....この人って......。」

 

 と。俺はこの大井の言葉を聞いていない。

 





 今回は少し重い話を入れたので最後に変なのをぶち込みました。
前々から考えていたものですので、入れれて良かったです。
 大井の行動はどういう意味だったのか......。第二章が終わるまでには分かりますよ。たぶん......。

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