【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十八話  山城は炬燵で丸くなる

 アメリカ軍の部隊が大本営に移送されてから、鎮守府にはまた平和が訪れていた。

もう本格的な出撃が止まって1ヵ月以上が経っているが、未だに大本営の鎮守府のレベリングは終わっていないみたいだ。小型艦。特に軽巡や駆逐艦のレベリングが資材回収の為にかなり上がっているにも関わらず、大型艦はずっと暇を持て余していたからだと新瑞が言っていた。

戦艦、空母、重巡がお互いに協力しながらレベリングをしているとの事。主力として前線に出れる程度にするとの事だったが、具体的な目標は練度80くらいだと言っていた。数値で表されてると違和感があるが、分かり易くていい。

 さっき本格的な出撃はしていないという事だが、あれは嘘だ。レベリングは水面下でやっている。最近は大井のレベリングをやっているが、損傷して入渠すると代わりに熊野がレベリングをしていた。今、丁度大井が損傷して戻ってきたのでいつものように指示を出す。

 

「損傷してきたのか?」

 

「はい......と言っても小破ですけどね。ですけどまだ戦えますよ?」

 

「あー何度も言ってるが駄目だ。入渠して来い。」

 

 そう言って俺は大井を無理やり入渠に向かわせて、熊野を呼びつける。

 

「熊野。」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「レベリングだ。キス島の残敵掃討戦。」

 

「了解しましたわ。」

 

 熊野は大井と同じく、飽きたとか言わずに出撃してくれる。レベリングだと言う事も伝えてあるが、何の疑問も持たずに行ってくれる。

熊野は古参だが長い間出撃はしていなかった。戦艦が充実してきた頃から前線を退いていた。それ以来ほとんど出撃はしていなかったが、重巡の全体的な練度底上げの為に熊野にはレベリングに出てもらっている。前線を退いた頃、練度は30程度だったが一度、航空巡洋艦に改装されるまでになって貰うのが熊野のレベリング目標だった。

それも伝えてある。何の疑問も持たずにむしろ、『早く航空巡洋艦になりたいですわね。そうすればより提督の為に戦えるのでしょう?』とか言って好戦的なのだ。熊野はそうは言うものの、大井のレベリングの前は鈴谷がレベリングしていて大井に変わる前に航空巡洋艦に改装されたのを羨ましがっているのもあるだろう。

 

「金剛たち、熊野のサポートを頼む。」

 

「任せるネー!私の改装まで面倒を見てくれたからネー!」

 

 レベリングの随伴として出て行くのは金剛と比叡、瑞鶴、蒼龍、飛龍だ。空母の瑞鶴たちも一応、序でにレベリングをしている。旗艦でなくても経験値はあるのだ。

金剛が進水したての頃、熊野はまだ前線に出ていた時期だった。その頃はレベリングには長門や赤城なども出ていたが、その中に熊野も居たのだ。金剛のレベリングにはずっと熊野を付けていたのは覚えている。多分、その恩返しだろう。

今では金剛の練度は今の熊野の2倍近くあるから立場は逆転しているが、金剛が戦艦故、仕方のない事なのだ。

 金剛は『提督への執着』が強いとずっと言われてきて、イメージもそちらが大きかったが、金剛たちのたくらみが無くなってから俺と話をしてから変わったとよく聞くようになった。いろんな艦娘をお茶会に誘って一緒に楽しんだり、酒保で一緒に買い物をしたり、偶にジョークを言って笑わせてくれる。そんな風に振る舞っていると風の噂で俺は訊いていた。もう怖いイメージが付いていた金剛はどこにも居ないのだ。それは他の艦娘にも言えたことらしいが、詳しい事は知らない。

俺の知らないところでそんな風に変わっていっているのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日の秘書艦は扶桑だ。

昨日は山城だったのだが、午前中は警備棟で大本営から派遣された人との会談、午後は大井との約束で甘味処に行ってしまったりしていたので拗ねてしまったと言うのをさっき扶桑から訊いた。

まぁ、俺も約束をして数時間も経たないうちに忘れ、更に山城にも伝えていなかったからだろう。仕方ないとは言えない。拗ねてしまったと言うのなら、何かしてやらないといけないのだろうか。

 

「なぁ扶桑。」

 

「はい、提督。」

 

 俺は頬杖を突きながら執務が終わり、書類を提出し終わった扶桑に話しかけた。

 

「まだ山城は不貞腐れているのか?」

 

「はい。」

 

 扶桑はそう苦笑いをして答えたが、そんなの俺にだって分かる。唯の確認だ。何故確認なのかというと、ずっと山城は執務室に居るのだ。炬燵に入って寝ている。正確には起きているが、寝転がっているのだ。俺の反対側を向いているから表情が見えない。

 山城の機嫌を直そうと試しに『甘味処に行かないか?』と誘ってみたもののとんでもない返しが帰ってきたのだ。それは『また大井さんと一緒に行けばいいじゃないですか。今日は扶桑姉様を置いて行けばいいんです。大井さんと2人仲良くあーんでもしてればいいんです。』とか訳の分からない事を言って来た。最初の2文はそうかもしれないが、最後の文はした覚えが無い訳では無い。というか、そんな風になっただけだ。

 

「はぁ......一体、どうすれば......。」

 

 そう言いながら機嫌を損ねた山城のご機嫌を取る方法を俺は模索し始めた。

と言ってもさっきの甘味処の奴が一番効果的だと思ったのだが、どうしてだろうか。俺はてっきり山城も甘味処に行きたかったのだと思ったのだが、違うのだろうか。

 唸りながら考えていると扶桑が話しかけてきた。

 

「山城の機嫌はそのうちに直りますよ。」

 

 柔らかい笑顔で言う扶桑に俺はそうかと一言だけ言って、あることを考え始めた。

中部・南方海域攻略に向けて動くことにはなっているが、それよりも先にしなければならない事があるんじゃないか、そう最近考えるようになっていた。俺がこの世界に来る前、艦これではイベントで事あるごとという程でもないが、通常の深海棲艦よりも強力な深海棲艦を相手に戦う事がある。鬼や姫と呼ばれるそれらがいない訳が無いのだ。西方海域がこちらの支柱にある今、それは装甲空母鬼並びに装甲空母姫の撃破が示されている。だが、それだけでは無いはずなのだ。

どのタイミングで、どのように姿を現すか分からない。姿を現したのなら即刻撃破しなければならない。なので俺は鬼や姫をどう撃破するかについて考えなければならなかった。

だが、ここで俺にはこれをテンポよく撃破する術はない。何故なら艦これを始めて一、二週間でこちらに飛ばされたのだ。それまでに沖ノ島までは攻略出来ていたものの、直後にある攻略戦くらいしか調べていなかったのだ。これまでかなり有利に事を進めて来たが、もうこれまで以上に有利に進められない。情報戦では五分五分なのだ。

 正直、北方・西方海域攻略に使った二方面短期決戦を使ってもいいが、負担が大きい上、中部・南方海域はそれまで以上に難易度が高い。短期で決着がつけれるとは到底思えないのだ。

ならば、どうするべきか......。

 

「扶桑。」

 

「はい。」

 

 俺は唐突に扶桑に話しかけた。

 

「奪還した海域の完全制圧と中部・南部海域を二方面短期決戦で攻め込むの、どっちがいい?」

 

 そう訊くと扶桑は驚いた顔をしたが、すぐに真剣な表情で考えだした。

多分、質問の意図を理解できたのだろう。不思議と扶桑はそう言うところがあると思う。二次創作では不幸キャラが定着しているが、扶桑自身はそうではないんじゃないかというのが俺の見解。実際、扶桑の運は普通くらいなのだ。

 

「そうですねぇ......私は完全制圧ですかね?」

 

「その心は?」

 

「提督が完全制圧と仰ったという事は、制圧したとはいえ残敵がいるという事。完全な深海棲艦の排斥ではありません。ですので、安全面や今後の事を考えると完全制圧が望ましいです。」

 

 そう言った扶桑は急に立ち上がり、本棚の前に立つとあるファイルを引き抜いた。それはそれぞれの海域の最新情報だ。毎日強行偵察艦隊が見てくるのでそれを記録しているものだ。

 

「これによれば制圧した海域でもまだ深海棲艦はいます。そこを本当の意味で安全にするならば完全制圧するほかありません。」

 

「そうか。......そうするとこれからは戦艦はローテーションになってしまうだろうな。扶桑と山城にも出てもらう事になるかもしれない。」

 

「それは......どういう意味ですか?」

 

「意味なんてひとつしかない。」

 

 どうやら扶桑は残敵掃討に関しては簡単な事だと思っていたらしい。だが俺からの言葉。『扶桑と山城にも出てもらう事になるかもしれない。』という言葉は、それほどまでに損耗する戦いが続くと言う事を意味していた。

 俺の艦隊運用法に関して、海域攻略の通常艦隊編成で戦艦は大体は斥候の時点で長門型、少し損耗してきたら金剛型か伊勢型というローテーションをしていた。これまでに扶桑や山城を攻略に出した事は沖ノ島以来ない。あの時は圧倒的な練度と火力で押し切ったところが多いが、練度に関しては別次元だった。沖ノ島攻略には見合わない適正練度をオーバー30はしていたのだ。

度々訛らない様にと扶桑と山城はレベリングに付き合ったりとしていたが、それでも戦艦の艦娘の中ではかなりの高練度を誇っている。それでいて攻略に出ない扶桑型が攻略に出されるという事は、扶桑型が出なければならない程に追い詰められる可能性があるという事だった。

 

「球磨ちゃんたちが仕入れてくる情報以上に居る可能性があるという事ですか?」

 

「残念ながら。」

 

 そう言って俺は扶桑から離れる。

 

「反復出撃が繰り返される予想もある。疲労の事も考えるとどうしてもそうなってしまうな。」

 

「そんなにもですか?」

 

 そうキョトンとする扶桑に近づいて山城に訊かれない様に小声で言った。

 

「俺個人で知っている事だが、その際に陸上型深海棲艦と対峙することになる。」

 

 そう言って俺は離れて続けた。

 

「まぁその時にはその時に応じた作戦を考えるさ。」

 

 笑いながらそう言う俺の両肩を扶桑がガシッと掴んだ。何だかデジャヴだが関係無い、何かあるのだろう。

 

「陸上型の深海棲艦で何ですかっ?!」

 

 そういう扶桑の表情は真剣そのものだが、何分近い。それに扶桑の手が掴んでいる俺の肩が痛い。

 

「何って、そのままの意味だ。北方海域と西方海域にそれぞれ1つ。それに完全制圧するにしても、これまで対峙してきた深海棲艦よりも強者の可能性が高い。」

 

 そう俺が言うと扶桑は俺の肩から手を放してくれた。

そんな扶桑はいつもと変わらない表情だが、どこか違う気がする。決意、覚悟、そんなものだ。そんな扶桑がぼそりと何かを言った。

 

「カタパルトデッキ、外して貰えないかしら......。」

 

 そう言ったが外したところでどうするのだろうか。それに、今更航空戦艦になっている扶桑をダウングレード出来る訳がない。

 

「それは無理だな。」

 

「そうですよね......。」

 

 そう言って俺はまた頬杖を突いてボケーっとする。

今度は扶桑も同じだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食も食べ終わり少しした時、小腹が空いてきた。時刻にして午後3時。おやつの時間という奴だ。昨日は珍しくおやつを食べたが、今日も食べたくなるとは思わなかった。

十分に昼食は食べたつもりだったが、どうやら足りなかったようだな。

俺は小1時間船を漕いでいた扶桑に声を掛けて甘味処に行くことにした。炬燵で不貞腐れていた山城にも声を掛け、結局山城もついて来て3人で甘味処に入った。

 昨日は適当に頼んでしまったから今日は真面目に考えようとメニューをまじまじと見つめ、間宮に注文する。

 

「五平餅を。」

 

「はーい。」

 

 オーダーをメモする間宮に扶桑も注文する。

 

「あんみつをお願いします。」

 

「あんみつですね、はいっ。」

 

 間宮はメモにすらすらと書いていく、そして書き終わったのか顔を上げて山城を見た。

ついてきた山城は未だにメニューと格闘をしていた。どうやら決まらない様だ。

 

「山城?」

 

 中々オーダーしない山城に扶桑が声を掛けると山城はあっさりと何を悩んでいるのか自白した。

 

「最中と安倍川餅、どちらも捨てがたいです。」

 

 そう言って唸りながら悩んでいる山城は間宮を3分待たせていた。

中々決まらないので俺は間宮に声を掛ける。

 

「最中と安倍川餅も。」

 

「はーい。......では少々お待ちを。」

 

 そう言って歩き去った間宮が厨房に消えたのを見届けると俺は正面を向いた。

正面には扶桑と山城が並んで座っている。扶桑は特段、何があったわけでもないようで、『やっぱり甘味処はいいですねぇ。』と言ってお茶を飲んでいるのだが、山城は俺を少し睨んでいた。

 

「なっ、何だ?」

 

「いえ......どうして2つも頼んだんですか?私、そんな食べないですよ?」

 

 そう言った山城はジト目のまま俺を睨む。そんな山城に俺は言った。

 

「どっちも食べたかったんだろう?余るようなら俺が食べるから。腹減ってるし。」

 

「そう......ですかっ......。」

 

 そう俺が言うと山城は消え入りそうな声でそう言って俯いてしまった。

どういう事かさっぱり分からないが、俺はお茶を飲みながらゆったりと運ばれてくるのを待った。

 

「お待たせしました。五平餅とあんみつ、最中、安倍川餅ですね。」

 

 そう言ってお盆に乗せて持ってきてくれた間宮は丁寧に机に置いて行くと、すぐに引っ込んでしまった。

俺は五平餅に手を伸ばし、口に入れる。昨日のみたらし団子とは違う甘じょっぱさがなんとも言えない絶妙な味だった。それにすりごまが混じっているのか、風味が良い。

 口につかない様に慎重に食べながら俺は2人を観察した。2人とも髪の長さが違わなければ目つき以外で見分けれない程、似ている。おっとりとした扶桑に五十鈴と金剛と赤城を足して3で割り、比叡を足した様な山城。こう言ってて意味が判らないが、そんな感じだ。そうやって観察していると扶桑はもうあんみつを食べ終わっていた。

 

「ごちそうさまでした。はぁ~、美味しかったぁ。」

 

 そう言っている扶桑の脇で山城はそれぞれ半分ずつ残して俺を見ている。どうやら食べきれなかった様だ。というかよく見てみると、最中はぱっくりと真ん中で割れ、安倍川餅も2つ乗っていたが1つだけになっている。

 

「食べれなかったか?」

 

「はい。」

 

 そう言った山城から俺は皿を受け取るとポイッと口に最中を放り込んで飲み込み、安倍川餅もきなこをつけながら食べきった。

 

「ごちそうさまでした。さて、戻るか。」

 

「はい。」

 

 俺は立ち上がり、伝票を持つと会計を済ませて甘味処を出て行った。

執務室に帰る最中、何かを思い出したように山城は言った。

 

「提督。なに自然に会計しちゃってるんですか!」

 

「あぁ、一気にやった方が良くない?」

 

 そう言うと山城が私の分は払いますからと言ってお金を押し付けてくるのでいいと言って押し返すのを執務室に着くまで続けた。

 

「あら、提督。ありがとうございます。」

 

「いい。」

 

「扶桑姉様っ?!」

 

 そんな会話を廊下でしながら帰るのは結構楽しかった。

そんなこんなて山城の機嫌は直ったのだ。

 

 

 




 今回はレベリングの話と扶桑型の話を合わせました。題名はインパクトのあるのを.......。最初の方は全然関係ないんですけどね。
 
 前日のでも提督は甘味処に言ってますが、提督のチョイスは気にしないで下さい。甘くないじゃんって思った人もいらっしゃると思いますが......。

 ご意見ご感想待ちしてます。

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