【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百四十九話  今日の秘書艦は怒るし出て行く

 

 今日も俺は早々に起きたので執務室に居た。

たまたま早く起きてしまったので6時過ぎくらいから執務室で腰かけていたのだが、今日の秘書艦は大井を彷彿させる早さで執務室に現れた。

 

「おはよう、クズ司令官。」

 

 そう欠伸もしないで入ってきたのは霞だ。そう、今日の秘書艦はこの霞である。

 

「おはよう。というかなんだ、クズって......。」

 

「クズはクズでしょ?」

 

「そんなあたかも普通だと言わんばかりに言われてもだなぁ......。」

 

 俺はそう言いながら霞に秘書艦の席に座って貰った。

 時計に目をやると時刻にして6時過ぎだ。やっぱり大井みたいだ。それにもう霞は執務の書類を持って来ていた。仕事が早いのこの上ない。

 

「まぁ、まだ始めるのには早いからダラダラしてろ。」

 

「言われなくてもそうしてるわ。」

 

 俺はそう言って窓の外を眺める。辺りは薄暗く、窓も結露があるこの時期はやはり部屋の中は寒い。俺はそう思って、ストーブを用意しているがこれがなかなか温まるのに時間が掛かるのだ。

電熱線から放射される遠赤外線によって温まるストーブの欠点だろう。温風が吹きだすものや、エアコンを点ければいいのではないかとも思うだろうが、エアコンも温風を出すのも騒音がある。エアコンなんて室外機がいい例だ。ゴーゴーと唸り、ファンを回して部屋の中の温度を変える機械だから温風を出すのよりも性が悪い。

そんなんだから俺は自分の足元と秘書艦の足元にそれぞれ1台ずつストーブを用意している。ちなみに起きて来て最初に電源を点けたのは部屋の照明よりもストーブの方が先だ。

 

「......。」

 

 手を擦りながら無言で部屋を見渡す霞を見て俺はある事を思い出した。

これまでに霞は執務室に来た事が無いのだ。姉の朝潮なんかはよく来るが、他の朝潮型はぼちぼちというところだ。満潮は他よりも少ないが、用事があるとだけ言って用事を済ませてすぐに帰ってしまうが、霞に関しては本当にこれが初めてな気がする。というよりも俺自身、霞を見るのは初めてな気もしなくもない。5、6ヵ月以上鎮守府に居るが本当に霞を見たのは初めてかもしれない。気付かなかっただけかもしれないが、そんな気がするのだ。だが、正直どうでもいい。これから何があろうと顔を合わせる羽目になるのは目に見えていたからだ。

 そんなこんなで時間が経ち、俺と霞は食堂に向かった。

食堂では秘書艦特権だとか言って俺の両脇のどちらかに座り、片方を姉妹や中のいい艦娘に譲るのが普通なのだが、霞は違った。俺の横を1こ開けて座ったのだ。これまで秘書艦が俺の横に座って食べるのが普通だったので少し違和感や寂しさを感じるものの、俺は箸を伸ばしだ。

そんな風にしているものだから俺の両脇は俺が箸を1回伸ばして口に放り込み、飲み込むまでの間に埋まった。左は朝潮で右は荒潮が座った。

 

「今日の秘書艦って霞じゃありませんでしたか?」

 

 そう首を傾げて尋ねてくるのは朝潮だ。それに俺は答える。

 

「そうだが?なんかあったか?」

 

「いえ......。ただ、秘書艦が食事の時に提督の隣に座らない事があるなんて思いもしませんでしたから。」

 

「あぁ。何でだろうな。」

 

 俺はそう言って朝食に箸を伸ばしていく。

箸を休め休め話しながら朝食を食べ、時間もいい頃合いになった時に俺はトレーを持って立ち上がった。同時に立ち上がる朝潮と荒潮もトレーを持つが、朝潮の向こうで霞も立ち上がった。偶に朝潮と話す時に霞を見ていたが、早々に食べ終わっていたのだ。なら何故、すぐに立ち、執務室に戻らなかったのか。理由なんて考えれば幾らでもあるだろう。霞を挟んで朝潮の反対側に霞と仲良くしている艦娘がいて、話をしていたか、テレビを見ていた。考えたらキリがないが、そんなものだろう。

俺は気にせずにトレーを戻して執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に戻れば、執務を始める。霞が持ってきてくれた書類を出して俺がやるのと、秘書艦の仕事を分けて執務を始める。

ストーブはモノから離してつけっぱなしで出てきたので執務室は温かくなっていた。寒さに手を擦る事無く執務に集中できるだろう。俺は黙々と書類を片付けはじめて30分が経った時、霞から声を掛けられた。それまでの間、普通の秘書艦なら色々と話しかけてくるのだが、霞は何も言わなかったので少し驚いた。

 

「ねぇクズ司令官。」

 

「クズって......なんだ?」

 

「終わった。」

 

 そう言って霞は俺に秘書艦が処理する書類を渡してきた。俺はそれを受け取ると、確認をする。一応、霞は秘書艦初経験だからだ。大本営に送る書類に不備があったら修正しなければならない。そう思って自分のしていた書類から一端目を離して書類に目を通す。

霞の字は案外丸っこい字で、読みやすい読みにくいで言ったら読みやすい。そんな字を目でなぞりながら見ていくと、不備を見つけた。ある書類の数字が違うのだ。桁と単位が違う。俺はそれを見てすぐに書類を机に置くと赤鉛筆を取り出し、ラインを付けた。

 

「ここ、違うぞ?単位が違う。それによって桁も見辛くなってる。」

 

「あっ......そこ......。」

 

 そう言って霞は書類を受け取るとそれをマジマジとみてこちらに顔を向けたので『すぐに直す』と言うと思ったが、その予想は180°逆だった。

 

「このままじゃダメ?」

 

「あぁ。読み辛い。」

 

 そう言って俺はペンを持って自分の執務を再開しようかと思ったその時、霞が机をトントンと叩いた。

 

「あのねぇ。私、秘書艦初めてなのよ?」

 

「そうだな。」

 

 突然そんな事を言い始めた。

 

「だからあの機械の使い方もさっぱりだし最初にやり方くらい教えてくれても良かったんじゃない?」

 

 そう言う霞の表情は見るからに怒っている様に見えた。

何故怒っているのか分からないが、俺は落ち着いて返す。

 

「分からなかったのならどうして言わなかったんだ?それに俺は初めて秘書艦をするなら補佐をつけると連絡した筈だが?」

 

「補佐なんて要らないわ。それに最初に説明くらいしなさいよ、このクズッ!そうしたら私だって不備出さずに出来たわよっ!」

 

 そう言ってもう目に見えて怒り始めた霞に俺も少し声を荒げそうになったが、それを押さえ、冷静に返答をする。

 

「こういう事になるから補佐をつけると言ったんだ。昨日の夜の時点で補佐は要らないって返答を口頭でしなかったのは霞だろう?」

 

「知らないわよ、そんな事っ!」

 

 そう言ってヒートアップした霞は色々と言った。

 

「それにコミュニケーションを取るって言ってた癖にクズ司令官は殆ど執務室から出てこないじゃないっ!それにいつも険しい顔してて怖いし、そんな顔してる割に何でそんな自活能力高いのよっ!第一、なんでこんなに長い間出撃停止してるのよっ!意味わっかんないっ!!!」

 

 そう言って霞は執務室から出て行ってしまった。

霞が叫んでいったのは大体図星なんだが、それはどうしようもなかった。執務室から出ないのは秘書艦にごねられたり、炬燵から出れなくなっているから。険しい顔をしているのはこれが普通だからだし、自活能力が高いのは小さい頃から両親に仕込まれたから仕方がない事で、長い間出撃停止しているのは大本営の鎮守府の艦娘が経験を積むためだったり、レベリングをしているからだからだ。

 

「はぁ......まさかキレて出て行くとは思わなかった......。」

 

 そう呟いて俺は霞が投げた書類を拾って赤鉛筆で引いたラインを丁寧に消しておいた。

そしてペンを握ると自分の書類に再び向かったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 霞が出て行って10分が経った頃、俺が静かに執務をしていると突然扉が開かれた。バンと勢いよく開いた扉の先には霞が顔を赤くして立っている。

息を切らせながら霞は俺の顔を睨みつけながら言った。

 

「何で追いかけてこないのよっ!」

 

 そう言って霞はズンズンと執務室に入り、俺の目の前に立った。

 

「何でって、そりゃ......。」

 

 俺はそう言いかけたはいいものの、この先に何を言うかなんて考えてなかった。ここでもしも変な事を言ってしまえば、更に怒らせてしまうかもしれない。

 

「......なによっ。」

 

「執務があるからな。」

 

 そう言って俺は適当に誤魔化し、書類に目を落とす。

そんな俺に霞はまだ突っかかってきた。

 

「それで、何で最初に教えてくれなかったの?」

 

「何でってさっきも言ったが、補佐を付けるのを断ったからだろう?それに補佐が要らないという事は、秘書艦として執務が出来る自信があるという事だ。だから最初に説明もしなかった。」

 

「はじめっから出来る訳ないじゃないの。教えてくれなければ分からないわ!」

 

 そう言ってなんだか負の無限ループに入りかけた瞬間、再び執務室の扉が開かれた。今度は勢いよく開いた訳ではなく、普通に開けられた。

 

「失礼します。少し資料をっ......。」

 

「私もネー。」

 

 入ってきたのは赤城と金剛だ。珍しい組み合わせという訳では無いが、多分そこで鉢合わせたのだろう。

それに彼女たち同士でよく艦隊には編成される。それなりに交流は持っているだろうから、一緒に居て何ら不思議はなかった。

そんな赤城と金剛は俺と霞のやりとりを廊下から聞こえていたのか、間に入ってくれた。

 

「提督は.......いいけど、霞さんは落ち着いて下さい。」

 

「そうネー。少しクールダウンした方が良いヨ?」

 

 そう諭されて霞は少し黙り、熱を下げる。少し経つと霞は口を開いた。

 

「赤城さんたちには関係ないわよ。ほっておいて。」

 

 霞はそう言ってそっぽを向き、秘書艦の席に座った。不貞腐れたまま。

そんな霞を見て赤城は近付き、視線を同じ位置まで下げた。そして霞に話しかける。

 

「何があったんですか?良ければ教えてくれませんか?」

 

「......(そっぽ向いている)」

 

 そう優しく聞いた赤城を無視して霞は別の方向を向いた。

その間、金剛は俺に何があったか聞いてくる。

 

「何があったんデスカ?」

 

「あぁ。」

 

 俺は訊かれて取り合えず金剛にあった事を全て話した。まぁ金剛はうんうんと静かに聞いてくれるものだから話してて不快にならなかった。正直、冷静さを保つのでかなり中は熱くなっていた俺には丁度良かった。

 

「そんな事があったんデスネ......。」

 

「あぁ。」

 

「まぁ、この後の事はあっちが話してくれなければ進みませんノデ、もう少し待ってましょうカ。」

 

 そう言って金剛は気を逸らすためだろう、俺に漫画を見せてきた。それは進[自主規制]だった。どうやら前に話していた、比叡がまとめ買いしたのを借りたみたいだ。

どうやら俺とその漫画の内容について話すつもりだったらしい。

 

「最初は良かったんデスガ、途中から話がややこしくなって『ウガー!』ってなりマシタ......。」

 

「俺もなったぞ?『ウガー!』って。」

 

「そうデスヨネー......。そう言えば前に提督が言ってたこれの元になったっていうの、ありますカ?読んでみたいデース。」

 

「多分あると思う。だけど、結構ヘビーだぞ?」

 

「大丈夫デース。」

 

 そう言って金剛は持ってきていた漫画を置くとソファーに座り、話を切り替えた。

今度は漫画じゃなくて小説の話の様だ。

 

「そう言えば酒保で永遠の[自主規制]が売られてたので買ってみマシタ。専門用語が多いって聞いてましたが、案外読めるものデスネー。」

 

 そう言って袖からその本を出した。

 

「専門用語って兵器とか戦術の事だろう?ありゃ確かに読む人選ぶな。」

 

「そうなんデース。デスガ私は艦載機以外なら結構大丈夫なので問題なかったデース。それでさっき赤城と会ったからそれ以外の事を訊きながら来たんですケド、赤城ったら偶によく分からない事を言うんデス。『ラダーを少し動かして機体を微妙に流すのは確かに使えます』とか言ってましたがさっぱりデシタ......。」

 

 金剛はやれやれとジェスチャーしてそう言った。確かにその場面の理解は難しいと俺も思う。その作品を読んでる時にそういった知識があって心底良かったと俺は思ったくらいだった。ちなみにそれを読んでいた時に、金剛がさっぱりだと言った場面を何回か他の人に説明した事があった。

 

「おっ、終わったみたいデスヨ?」

 

 そんなこんなで話をしていると赤城と霞との話が決着がついた様だ。

金剛との話を一端中断して赤城の方を見る。

 

「金剛さん、どうでした?」

 

「うーんとデスネ......。」

 

 金剛は俺から訊いた事をそのまま赤城に伝え、赤城と金剛が言った。

 

「霞さんは意地を張らずにちゃんと話せばよかったんですよ?それに不満を一気に言っても提督は戸惑ってしまいますから、ちゃんと順を追って伝えた方が良かったですね。」

 

「そうデース。デモ確かに提督はいつも険しい顔をしてマース。スマイルはしないんデスカ?」

 

 そう言った赤城と金剛に霞は噛み付いた。どうやら腑に落ちない様だ。

 

「何よっ!不満を一気に言っちゃったのは勢いだけど、意地なんて張ってないわっ!2人も揃いも揃って......いいっ!姉妹にも訊いてみるからっ!」

 

 そう言ってまた霞は飛び出して行ってしまった。

そんな姿を目で追いかけた俺と赤城、金剛はそのまま待つことにした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 霞は姉妹全員を連れてきた。どうやら近くに居たみたいでほんの5分で全員が執務室に入ってきた。

どうやら来る道中に霞から話を訊いていたみたいで、俺は霞が連れて入ってくるときに見た他の姉妹の顔を見た瞬間、答えは分かった。赤城や金剛と同じ顔をしているのだ。

 

「ねぇ朝潮姉さんどうなの?」

 

 そう訊かれた朝潮は肩を少し跳ねさせて答えた。

 

「霞は意地っ張りですから......もう少しちゃんと話すべきです。」

 

 朝潮がそう言うとすぐに霞は隣に居た大潮にも答えを求め、それをあと3回した。それでも回答は全部同じ。

それが不満なのか少し震えだした霞に俺はフォローをしてやらないといけないと思い、その場から歩き出し、霞に目線を合わせた。

 

「霞の言ってる事は違う回答だったのかもしれない。俺が霞がいらないと言っても勝手に補佐をつければ良かったのかもしれないし、ちゃんと最初に説明をしておかなければならなかったのかもしれない。戸惑ってる霞に気付いて教えてやればよかったのかもしれない。それに不満に関しては最後のやつだけは連絡をしてなかっただけだからな......それは済まなかった。」

 

「......。」

 

 何も答えない霞に俺は続ける。

 

「俺に自活能力があるのも仕込まれてたから仕方のない事だから。それに険しい顔もデフォルトだ。慣れて欲しい。」

 

「......。」

 

 まだ霞は何も言わない。

 

「だけど俺が執務室から出ないのには理由がある。」

 

「......何で?」

 

 やっと霞は口を開いた。

俺は少し笑って言った。

 

「炬燵から出れないだけだ。」

 

 そう言うと霞は手を握りしめて言った。

 

「こんのおぉぉ、クズ司令官っ!!!!」

 

 そう言って霞は俺を叩いた。

痛くはない。力加減をしているのか、そもそもそんな力がないのか分からなが、霞は俺の肩をポコポコと叩く。

俺はそれが止むまでそのままでいた。

 数分後。霞は叩くのを止めて俺を呼んだ。

 

「ねぇ。」

 

「ん?」

 

「やり方、教えなさいよ。」

 

「あぁ。」

 

 そう言って俺は霞が秘書艦の席に座った横で屈んで、あれこれと教えて行く。

偶に分からないと言われて同じことを言ったりもしたが、霞はちゃんと覚えてくれた。そして不備のあった書類をもう一度やり直すと言って自分で始めてしまったのだ。

そんな姿を俺は見て自分の椅子に座ると、その場にまだ居た朝潮たちは笑って執務室から出て行き、赤城と金剛もソファーに座って見ていないそぶりを見せた

 少し待つと霞は書類を持ってきた。直した書類だ。それを俺は受け取り、見直してそのまま終わった書類のところに置く。

 

「ありがとう。これで終わりだ。」

 

「......ふんっ!楽勝よ。」

 

 そう言ってそっぽ向く霞はさっきまでの表情は無かった。ぶっきらぼうではあるが、どこか笑っているように俺には見えたのだ。

 





 今日は珍しく当たりの強い艦娘を選びました。
まぁ、霞はゲーム通りの口調にしましたが、性格は少し変えておきました。
 書いてて思いまいたが、罵倒を書くのが難しいです......。

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