【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
アドレーは受けた報告に頭に血が上っていた。
アドレーの指示で再興した海軍がこちらの任務の最中、独断で仕出かしたと言うのだ。具体的には日本皇国領内で無断侵犯並びに工作員の投入。無断侵犯に関してはかなり強引にやっていたそうだが、何のお叱りも無しだった。だがもう一つが問題だ。
工作員を投入した事自体が問題なのだが、投入した場所と内容だ。場所は横須賀鎮守府艦隊司令部。目的は情報収集と艦娘の誘拐。16人の特殊部隊を投入したとの事。
「大統領......まだあるのですが、お聞きに?」
アドレーの秘書は顔を青くしているのでアドレーは気になった。
何故、報告で顔を青くしているのか。これ以上の問題があると言うのだろうか?
「あぁ、言ってくれ。」
そうアドレーが言うと、恐る恐る秘書は話した。
「日本皇国政府からの連絡で横須賀鎮守府艦隊司令部に潜入した米海軍特殊部隊 隊員16名は情報収集中及び誘拐を試みた際に12名が無力化され......。」
ガクガクと震える秘書は消え入りそうな声で続きを言った。
「4名が横須賀鎮守府艦隊司令部付きの警備部隊と交戦、全員の戦死が確認されたそうです。」
「何だとっ?!」
切迫した勢いでアドレーは言った。
これは非常に不味い事になった。軍の勝手な行動ではあるが、無断侵犯や工作員の投入に加えて他国で交戦したのは今後の日本皇国との関係に亀裂が入る。
「誰なんだっ!その時日本皇国に行っていたのはっ?!」
「ウェールズ・マスキッド海軍少将です。」
「国防総省に連絡だっ!ウェールズ・マスキッドを逮捕せよっ!」
アドレーは即刻指示を出した。そんな事をやるのならこのウェールズしかいないと。この米海軍の日本皇国への航海はウェールズが提案した事だ。
日本皇国が旧型艦と艦娘なる存在を使って深海棲艦と戦っていると言う理由から、記念艦として残っていたアイオワを即刻整備して使えるように指示を出したと言うのに、完了するとウェールズは肩慣らしにアイオワも艦隊に加えると言って許可を求めてきたのだ。
だから、アイオワも何かに使われたのかもしれない。
アドレーの脳内を嫌な未来がうずめいた。
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今日もいつものように執務をしていると突然大本営から連絡が入り、アメリカから使節が来るだとか。どうやら俺に用があるらしく、事前に連絡を取り次いだという事だ。
使節という事は、何か話があるのだろう。そう考えると思い当たる節は1つしかなかった。ウェールズが来た時に起きた一連の騒動。あれで米海軍の特殊部隊の1/4と交戦して殺してしまった事だろうか。何か責めれるのではないかと俺は思い、言い訳を考え始めるが埒が明かない。
そんな事をしていると、使節が到着する時間になり、俺は埠頭に出た。この使節の来航にはこれまで和やかな雰囲気だった鎮守府も一瞬にしてピリピリとし、艦娘はほぼ全員が出て来て、門兵も通常装備ではなくベストを着こみ、重装備で俺の前に現れた。そして挙句の果てには上空を烈風と彩雲が飛び回る始末。
あれだけの事があれば当然なのだろうが、いくらなんでも警戒しすぎではないのだろうか。俺はそう思った。
「司令、見えてきましたよ。」
今日の秘書艦は比叡だ。俺はこれ程比叡に感謝した事は無かった。これが金剛や赤城、鈴谷だったらどうなっていたことやら......。
船影を捉え、どんどんと近づいてくるアメリカの艦隊はこの前、来たアイオワの姿はなかった。あくまで現代艦の護衛だけらしい。そしてそこからある人物が現れる。
「お久しぶりです。」
「フレンツさんですか。」
前回の使節として来たフレンツ・アルバリアンだった。フレンツの顔には前回とは違う雰囲気を纏っていて、何だか緊張し始めた。
どういった用件で来たのかまだ分からないが、俺は門兵たちを少し下がらせてフレンツに声をかける。
「今日はどういった御用件でしょうか?」
そう訊くとフレンツは船の上からではあるが頭を下げた。
「先日、我がアメリカの艦隊がとんだ事を仕出かしたとの事。本日は謝罪に上がりました。」
そう言うので俺は対策を練っていた言い訳が一瞬で無になったのと、理解が追い付かないので少しテンパるとフレンツに言った。
「とっ、取りあえず降りて来てくださいっ!座って話しましょう。」
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警備棟の応接室で俺はフレンツとその他使節の3人、武下、天見と共に入った所で話を再開した。
「先ほども申しましたが、無断侵犯と工作員の投入、日本皇国の国土で銃撃をしてしまった事を大統領の代わりに謝罪に参りました。」
「はっ、はぁ......。」
俺はおろか、武下も面を食らった様子だった。どうやら考えている事は同じみたいだ。
「工作員への命令を下した将官には厳重な処罰が下されました事をお伝えしたく......。」
俺はやっと状況を飲み込み、普通に話し始めた。
「そんな......こちらは死傷者無しでそちらに4人も殺してしまったのでそちらを謝罪したく......。」
「いえいえ、国の窮地を助けていただいたそちらに土足で上がり込み、銃撃をしてしまったのですから本当にっ.......。」
何だか無限にこのやり取りが続きそうだったので俺は取りあえず話を切り上げて、こちらとフレンツの方で情報の噛み違いが無いかを確かめる事にした。
「それでですね、そちらで報告を受けた内容をお聞かせください。もし、間違いがあれば訂正させていただきます。」
「はい。......日本皇国政府からの連絡で発覚した事です。派遣していた艦隊が無断で横須賀鎮守府艦隊司令部に2度乗り込み、2度目には工作員を放ったと。その工作員の目的は情報収集と艦娘の誘拐。そちらの警備部隊が12名を確保し、4名とは銃撃戦の末、全員射殺されたと。」
「おおむね合ってます。」
「そうですか。」
俺は平然としている様に見えるフレンツを見て言った。
「政府を通して訊きましたが、そちらはこのような事を指示していなかったと?」
「はい。あの時に派遣された艦隊は政府に用があったから派遣されたものですが、横須賀鎮守府艦隊司令部に立ち寄るなどという指示はありませんでした。」
「独断だったと?」
「そうとしか申し上げられません。艦隊指揮官であったウェールズ氏に責任があると判断し、尋問した結果がそうであったので処罰を下しました。」
フレンツはそう言う。
一方で俺はある訊きたい事を訊いた。
「それとこの件とは少し関係の無い事なんですがお聞きしてもよろしいですか?」
「はい。答えられる範囲でなら。」
許可を得たので俺は訊いてみる。
「ウェールズ氏が指揮していた艦隊の旗艦、アイオワは記念艦なんですか?」
そう訊くとフレンツは少し考え、答えた。
「そうです。そちらが旧型艦を使用しているのを見てからこちらで残っていた同年代の艦を戦闘できる程度に修繕して運用しています。」
艦娘の事は知っているだろうに、何故そんな事をしているのだろうか。そもそも記念艦を使えるようにしてどうするつもりなのだろうか。疑問がふつふつと湧いて出てくる。
「そうなんですね......。他には何か?」
「いえ、ありません。」
「そうですか。」
俺はそう言って立ち上がる。もうこの件は終わりだ。それに身柄引き渡しの交渉をしてこないという事は、こっちの処理に任せるということだ。
俺が立つとフレンツたちも立ち上がり、また頭を下げた。
「この度は申し訳ありませんでした。日本皇国政府の方にも謝罪をと申したのですが、横須賀鎮守府艦隊司令部へと言われましたのでこれにて。」
と言いかけたフレンツは俺に尋ねてきた。
「本当に政府は横須賀鎮守府を唯の軍事施設だとは思ってないのですね。」
「その様ですね......。」
俺はそう適当に返すとフレンツは帰ると言って自分たちの乗ってきた船に向かい、すぐに出航していった。
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執務室に帰ると比叡が秘書艦の机で船を漕いでいた。
首をかくかくと動かし、今にもズレ落ちて頭を打ちそうだ。
「比叡ー。起きろー、ひえー。」
適当に声を掛けると比叡はぼーっと目を開き、そのまま頭を支えていたものが無くなったので頭を机に思いっきりぶつけた。
ゴンと鈍い音を鳴らし、比叡は額を擦りながら俺に言った。
「ねっ、寝てませんよ?」
涎の跡を付けながら言われても全く説得力の無い事この上なかった。
「はいはい。......それで、執務は?」
「完璧ですよ!ほらっ!!」
そう言って比叡は俺に書類を見せてくる。
比叡は俺がこの世界に来て少し経った頃に番犬艦隊として居たことがあったのでその時に執務は覚えた。だが今出来る保証はないと比叡に言ったら『やれますよー!』と言って意地を張ったので経験があるならいいかとそのままにしていたら、まぁ出来ていた。
秘書艦としてはいいのだが、面白くないと俺は思ってしまった。
「まぁ......これならいいか。」
そう思ったものの、面倒なのでそのままスルーする。
俺の執務もあるので昼の時間にならないうちにとっとと済ませてしまおうと執務に集中し始めた。
いつもなら1時間くらいで終わる執務を俺は何故かかなり集中できたので40分で終わらせ、背伸びをする。ポキポキなる背中が気持ちいい。そして少し回すと俺は立ち上がった。
時計を見たらまだ11時前なので食堂に行くには早すぎる。なので炬燵に入る事にしたのだ。炬燵の電源に手を伸ばし、電源を入れ、足を入れる。まだ冷たいがすぐに温まるだろう。
そうやって待っていると比叡も炬燵に入ってきた。
「ひえー。まだ温かくないんですね。」
「点けたばかりだからな。」
そう言って俺は炬燵の上に乗っているみかんに手を伸ばす。ここに入ってしまうとどうしてもみかんに手が伸びてしまうのだ。それを見ていた比叡もみかんに手を伸ばし、皮を剥く。
そして裂いて口に放り込んだ。俺も同じ動作をしてみかんを口に放り込む。
相変わらずの甘さに満足しつつ、だんだんと温かくなった炬燵に少し深く入り、手も入れる。とても温かい。
「あ"ー。温かー。」
「そうですねー。」
のほほんとした空気を出しつつみかんを口に放り込むが、段々と瞼が重くなりそのまままどろみに落ちてしまった。
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比叡に声に起こされて俺はまどろみから覚める。
「司令っ!お昼ですよー!!」
そう言って比叡は時計に指を指す。食堂が開く時間になっているのだ。俺は慌てて炬燵から這いだし、電源を切って食堂に走った。
今日の昼メニューは間宮が新しいメニューを入れたとの事で結構楽しみにしていたのだ。俺もだが比叡も勿論、他の艦娘もだ。俺と比叡が来た時にはもうトレーを持って席について食べ始めている艦娘も居た。
俺はトレーを持つと間宮に頼む。
「新しいのを頼む。」
その横から入ってきて比叡も頼んだ。
「私もっ!」
そんな俺と比叡に間宮は優しく答えてくれた。
「はいはい。ではすぐに用意しますね。」
そう言われて俺は席に着いた。比叡は勿論俺の横。と思って一息つくともう俺を挟んだ比叡の反対側は埋まっていた。誰かと言うと金剛だ。
「ヘーイ、提督ぅー!」
「金剛か。」
「今日のランチは新メニューデスヨっ!楽しみデース!!」
「そうだな。」
「そうですねー!」
金剛の無邪気な笑顔に俺と比叡は答える。
そうしているうちにもうトレーに運ばれてきた。新しいメニューと言うのはチーズリゾット。俺がいつぞや蒼龍に作ったメニューだった。
俺は新メニューとは知っていたが、まさかこれだとは思わなかったので少し動揺しつつ手を合わせる。
「いただきます。」
「いただきまーす!(マース!)」
横の金剛が何か言うかと思ったが何も言わなかったので俺はそのまま口に運んだ。
俺が作るのとは少し違う味がした。俺の作るのはあらびきこしょうが目立つが、間宮のはチーズとこしょう、ベーコンの風味があって美味しい。それにくどくないのだ。手が進むので俺は何も言わずに食べ続けた。何も言わないのなら勿論、すぐに食べ終わるので最後の1口を入れると辺りを見た。比叡ももう食べ終わっていたが、金剛はまだ食べていた。
「美味しかったな。」
「はいっ!新メニュー、最高ですねっ!次のも楽しみですっ!」
そうガッツポーズをして見せる比叡に俺は『そうだな。』と答え金剛に目をやった。どうやらやっと食べ終わった様で、口を少し拭くとスプーンを置いた。
「美味しかったデース!.......デモ。」
「でも?」
俺は何だか悪い予感がした。
「提督のチーズリゾットも食べてみたいデース。」
そう言った瞬間、食堂は静寂に包まれた。そしてそれと同時に俺の体内の何かが警報を鳴らしている。これは何かのデジャヴだと。
「そうかー?」
そう言って俺は手を合わせて『ごちそうさま。』と言って立ち上がり、そそくさと食堂を後にする。
それを金剛は追いかけて来た。
「待つデース!私も食べたいデスっ!!」
「誰に訊いたんだっ!!!」
「蒼龍デスっ!」
「だあぁぁぁぁ!!」
俺は本部棟の中を走りながらそう叫んだ。
これはオムレツの再来だ。今夜、多分食堂に行くと蒼龍が縛りつけられている事だろう。
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夕食の時間になって食堂に行ってみると案の定、蒼龍は縛りつけられていた。
「ん"-!!ん"ん"ん"っーー!!」
ちなみに今回はご丁寧に口まで封じられている。
そんな蒼龍を解放してやる条件はやはりチーズリゾットを食べさせることだったので、後日、俺は間宮に頼み、厨房に立ち続けた。
久しぶりのフレンツの登場です。なんか今回はずっと謝ってる感じでしたが、目的もそれをするためですからねぇ。それにあっさりと提督にアイオワの裏付けも取られましたね。
比叡と金剛の下りはもう気にしないで下さい。あと2度あることは3度ありますから(白目)
ご意見ご感想お待ちしてます。