【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百五十四話  身分証明書②

 足柄と羽黒が俺の護衛を始めて1ヵ月が経った。まだ大本営の鎮守府はレベリングを行っているみたいで、こちらには任務があまり回ってこない。最近の新瑞の話だとやっと大型艦の半数の練度が30に達したとの事。一度その辺りまで上げてから再び上げるらしい。

つまり、まだ時間が掛かるとの事だった。

という事なので、横須賀鎮守府艦隊司令部は未だに休暇同然になっている。こっそりレベリングに出てはいるが。勿論、俺も自動車学校に通っている。

 

「あ"ー、やっと受かった。」

 

 俺はやっと仮免許に合格した。といってもついこの間、技能学科共に終わったばかりだが。一発で合格したのでかなりの達成感はある。それに最近は名目上俺の補佐で来ている足柄や羽黒も友だちが出来たのだろうか。俺からは目を離さないが、時より話をしているのを技能教習中にチラッと見る。見たせいで集中が途切れてエンストを起こしたりもしたが、まぁ、何回かこんな事をしたお蔭でエンストへの対応も慌てずに行えるようになっていた。S字やクランクでの操作も初めてやった時から脱輪は1回も無し。仮免許を受けれるだけの能力が付いたかの指導員の審査も一発合格だったわけだ。

 

「だが今日から路上教習......。」

 

 受かったはいいが、それは昨日の話。今日から技能は入れている。もう初っ端から路上に出るのだ。

それを訊いた足柄と羽黒は付いて行くと言い張り、今、俺の目の前で指導員と交渉をしていた。

 

「彼は身体が弱いんですっ!不測の事態に指導員の貴方は対応できるんですかっ?!」

 

「しかし、教習生と指導員以外を乗せる訳にはっ......。」

 

 と強く足柄は指導員に言う。

 

「せめて入隊までは健康のままで......そのためにはちゃんと不測の事態が起きたらすぐに対応できる人が必要なんです。」

 

 それに羽黒も加勢する。それを俺は遠い目で見ていた。

何というか......言葉で表現できない。それを訊いていた指導員も遂に折れた。どうやら上司に話をつけてくるみたいだ。ちなみに俺の通っている自動車学校は教習生につき1人、技能の指導員が付く。入校前に決めていた事だった。多めに料金を払うと教習生に個人指導をしてくれるのだ。どうやらこれは新瑞の配慮だろう。住所や経歴などを詐称しているからだ。もし不特定多数の人間に接触してしまえばそれがバレる確率が上がる。それを押さえるためだ。

 上司に話をしてきたみたいで、数分で戻ってきた。

 

「特例で許可が出た。だがどちらかが乗りな。1人はここに残って。」

 

 そう言った指導員に足柄と羽黒は納得したのか、すぐに誰が付いて行くか決めた。今回はどうやら足柄が付いてくるみたいだ。

 

「では行くか。先ず俺が路上のコースを走るから助手席に座ってくれ。」

 

 指示を出した指導員に従い、俺は助手席に座る。ちなみに足柄は後部座席左側だ。

俺と足柄がシートベルトをしたのを確認した指導員はエンジンをかけ、サイドブレーキを下ろし、ローギアに入れると走り出した。

路上と言っても俺はその景色を見たことが無い。滅多に鎮守府から出ないので分かる訳もない。だが俺の眼下を流れゆく景色は俺が居た世界と何ら変わりない。左側通行だし、信号機も同じだ。標識も俺が覚えている範囲で全部同じ。そんな景色を尻目に俺は指導員の運転技術を見て学ぶ。素早いシフトチェンジや迅速な停止、発進、視線、姿勢。見て学べるものは全て吸収していく。そんな俺に指導員は運転しながら声を掛けた。

 

「お前はよく見るんだな。」

 

「何をですか?」

 

「俺の運転をだ。」

 

「早く上達するならこうして技術を見て盗まないといけませんからね。」

 

 そう言うと指導員は笑った。

 

「そういえば所内(自動車学校の敷地内)でもいつもそうだったな。それで仮免許も一発で?」

 

「それは分かりませんね。」

 

 そう言いつつ俺は指導員が走りゆくのを見る。俺も指導員の操作を見てばかりいる訳では無い。ちゃんとどういう道を走っているのかも見ている。多分、路上に出ても何処で左折するか右折するか、駐車するかなんて言ってくれるだろう。だが覚えていなければならない。自分で判断しなければならないからだ。

 

「よし、1週したな。交代だ。」

 

 俺はそう言われ自動車学校の近くで駐車してから乗り換える。運転席に座りシートを一杯まで下げてシートの高さも下げる。ハンドルも少し変えてからキーを差し込み、クラッチペダルとブレーキを踏み、ハンドブレーキが上がっているのを確認、ニュートラルに入っているのを確認してからキーを回す。そしてローギアに入れ、ハンドブレーキを下した。アクセルペダルを踏みながら半クラッチの状態にして離してからすぐにクラッチペダルを踏み込み、セカンドにギアを入れる。今日乗っている教習車は癖があり、クラッチを上げ下げする時に音が出るのだ。どうやら入れにくい個体らしい。

 そんな俺を後部座席から見ていた足柄はずっとこっちを見ていた。何故見ているのか聞きたいところだが今は教習中だ。訊きたいのを我慢し、運転に集中する。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 路上教習は2時間に渡り、同じコースをグルグルと回っていた。度々教官と入れ替わり、助手席でどうするなどと色々と話された。

だが結局、俺の方が運転席に座っていた時間が長かった。

自動車学校に帰ってきた俺と足柄は羽黒と合流して鎮守府に帰る。

 

「今日、路上教習だったみたいですね。」

 

「そうなんですよ。ヒヤヒヤしました......。」

 

「自分も最初はそうでしたよ。」

 

 さりげなく西川がフォローしてくれる。ちなみに最近聞いたのだが、西川も俺と同じ車種を選んでいるみたいだ。

 

「MTは慣れれば簡単ですからね。」

 

「まぁ、その言葉最近は少しは言えるようになりましたよ。流石にエンストはしませんよ、もう。」

 

 俺はMTを選択していた。一応、乗る事になった時にMTであってもいいようにという事だ。

 

「そりゃそうですよ。もう十何時間と乗ってますよね?」

 

 俺はそんな話をしながら鎮守府に帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 司令官さんの知らぬところで報告会が行われています。私は護衛として足柄姉さんと共に司令官さんに付いて行ってますが、それで何があったかなどの報告を金剛さんや鈴谷さん、赤城さんにしているところです。

 

「今日から路上教習って言って、私を乗せて実際に提督が路上で運転してたんだけど......はぁ~♪」

 

 足柄姉さんは開口一番にそう言いました。ちなみに私は帰り道に何も聞いてません。

 

「なんかあったの?」

 

 興味津々に聞く鈴谷さんに足柄姉さんは答えました。

 

「MT、マニュアルっていう種類のを提督が取ってるって前に言ったじゃない?」

 

「そうだねぇ。鈴谷たちも気になって酒保で見てきたもん。ありゃ難しいわ。走りながらあちこち操作するんでしょ?絶対、鈴谷には無理。」

 

 そう鈴谷さんは言います。ちなみにこれまでこの報告会で提督がどの程度進行しているかなんて報告はしたことありません。それよりも皆さんは提督が何をして提督に何もなかったという報告が効きたいだけでしたからね。

 

「これまで提督がどんな様子でやってるかなんて私たちが見たことも無いから言えなかったけど、今日は見れたから報告しておくわ!」

 

 足柄姉さんはそう言ってフンスと鼻息を噴き出して言い放ちました。

 

「私も提督と一緒に学科を訊いたりしてから分かるんだけど、マニュアルってのは操作に失敗するとエンストって言ってエンジンが止まるんだって。ガタガタと揺れて止まるって言ってたら少し覚悟してたけど提督ってばエンストしなかったのよ!しかも操作してる姿がもう何とも言えなくって......。」

 

「何とも言えないってどういうことですか?」

 

 足柄姉さんの話に赤城さんが食いついてしまいました。もう歯止めは訊かないでしょうね......。

 

「なんだかグッと来たのっ!乗せて貰えば分かるわっ!!」

 

 その話で盛り上がる足柄姉さんたちから少し私は離れた。別に今回、私から報告する事なんてないですから遠目から見てることにしました。

 

「もう一度見たいわぁ~。」

 

「私も見てみたいデースッ!」

 

「鈴谷も行きたいっ!!......でも、かつらで誤魔化せるかなぁ?」

 

 そう金剛さんと鈴谷さんが言ってますが、赤城さんは何も言いません。

ですが直ぐに赤城さんも言いました。

 

「私も......見てみたいですね......。」

 

 照れくさそうに笑う赤城さんは何だか可愛らしかったです。実を言うと私も明日、楽しみにしているんですよね。何故なら明日は私が護衛として教習車に乗りますから。

考えていたら何だか明日が待ち遠しくなりました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛たちの報告会を露知らず、俺は執務室で本を読んでいた。本来ならば自動車学校の学科で使う教科書で自習でもしてればいいものの、伝えてあるのは俺が出かけている事に気付いた金剛と鈴谷、赤城だけだ。護衛としてついて来ている足柄と羽黒は別だな。その誰かが俺の秘書艦だったならこういう時にでも気兼ねなく勉強が出来るってものだ。

ちなみに今日の秘書艦は潮だ。

 

「あのっ、提督。」

 

「ん?」

 

 俺は本に栞を挟んで潮の方を見た。ちなみに潮は今日が初秘書艦だったので補佐に時雨を付けた。毎回初秘書艦の時は何か問題が起こる事なんて1回しかなかったが、潮は夕立や島風を連想させる様な働きだ。時雨なんて始めて5分で『僕はいらないみたいだね。終わるまでそこにいるよ。』と言ってソファーでくつろいでいたくらいだ。

そんな潮が俺に声を掛けた。

 

「2時くらいから、どこに行ってたんですか?」

 

 唯の好奇心かなんかだろう。潮はその事を訊いていた。

そんなこともあろうかと俺はその質問の返しを作ってあった。

 

「警備棟に用があったんだ。それと地下牢に大量にある資材の確認。」

 

「それだったら私も手伝ったのに......。」

 

 そう言ってしょんぼりする潮に『また今度な。』とだけ言って俺は時計に目をやる。時間にして5時過ぎだ。まだまだ食堂に行くには早い。なので何か暇つぶしでもしようかと本から何か別のモノに意識を変える。

と言っても、特段何かがあるわけでもない。執務室には一応トランプやらちょっとした遊び道具は置いてあるが、2人ではつまらないだろう。じゃあ、何をするか。

 

「提督、訊いてもいいですか?」

 

「何をだ?」

 

 俺が悩んでいると潮から声を掛けてくれた。

 

「どうして提督から鉄と油、硝煙でもないにおいがするんですか?なんか......そう、革みたいな......。」

 

 俺は思い当たる節があった。自動車学校の教習車だ。アレ以外で革なんて殆ど触らない。

それを嗅ぎ分けた潮は何なんだろうか。

 

「気のせいじゃないか?それに革って言ったら俺がしてるベルト、コレは合成だけど革だぞ?」

 

 俺はそう言って苦し紛れな言い訳をした。それで納得してくれればいいが、少し黙ってしまった潮はすぐに返事を返してくれた。

 

「ベルトですか。普段匂わないものですから、敏感に反応しちゃって......すみません。」

 

 どうやら何かを疑っていた訳では無いらしい。

少し心臓が飛び出るような思いをした。

 




 
 久々にこんなけの投稿でした。最近は5000字は超えたましたからね......。
最後の強引にねじ込んだ潮ネタはあまり深い意味はありませんのでお気になさらず。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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