【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百五十五話  身分証明書③

 

 今日もいつもよろしく自動車学校に通っている。何時もの様に俺は学科を受けてから教習車に乗り込み、路上教習をやるのだが、今日は昨日の足柄に代わって羽黒が同乗していた。

もう指導員も昨日の事で有無も言わずにそうしている。だが今日は教習者は所内のコースに停められているものを交代で乗るのだが、何故か今日はコースから外れたところにポツンと停まっている1台に乗れとの指示を受けていた。

 

「じゃあ今日も行ってみよう。早速運転席に座って。」

 

「はい。」

 

 2回目となるとだいたいこうだ。それを見ていた羽黒も少し戸惑いながら後部座席のドアを開いて乗り込んだ。

 

「じゃあエンジンかけて、路上に。」

 

「分かりました。」

 

 いつものようにエンジンをかけて動き出す準備を整える。そして俺は路上に出る教習車の列に並び、路上に出て行った。

前回と同じコースなのである程度俺も覚えていた。教えられ、見た通りの動きをして走る。面白いのは手と足だけで、目に映る景色は何の面白みもない。強いていうのなら、路上にこれ程軍用車両が走っている光景だろう。10分走ると必ず1台は走っている。それもそのはずだ。この辺を軍用車両が走るという事は、この辺に軍事基地があるという事。この辺にある軍事基地と言えば横須賀鎮守府だ。酒保の拡大や艦娘と門兵の増員によってこれまで毎日1回だったのもかなりの頻度で運び込まれている。それに補給物資だってある訳だ。公道に軍用車両が長い列を成して走るのは良くない。だからバラバラに動いている、と間宮から訊いていた。

 

「そう言えば。」

 

 突然指導員が俺に声を掛ける。

 

「お前って海軍に入隊だとか言ってたけど、配属とかってもう決まった?」

 

 指導員は多分興味で訊いているんだろう。だが俺は回答に困った。ここで何か適当に言えばいいのか。それとも機密だと言われているのでとか言って誤魔化すべきなのか。

と言うか指導員が気になっている理由は多分俺が身体が弱いから補佐をつけてるとか言って護衛を付けているのにも関わらず、身体が仕事道具の軍隊に入るのならどんな所属なのか、そう言う事を訊いているんだろう。

 

「えっと......。」

 

 俺はすぐに答えれなかった。どうすれば正解なのか分からない。だがあまり回答が遅れると不審がられてしまう。俺はどうにでもなれと適当に答えた。

 

「水兵では無い事は確かですね。」

 

「ほぉー。」

 

 この回答、真実だ。俺は提督だ。船には乗ってないからな。

 

「まぁ、精々頑張れよ。もうちょっとで技能も学科も終わるんだろ?」

 

「はい。」

 

 そう言ってこれ以降は普通の路上教習になった。

ウィンカーを出すのを遅れて怒られたり、車線変更でトロトロやって注意されたりもしたが、さして問題ではないだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は何時もの様に時間になって西川の運転する自動車で自動車学校に行こうとした時、後部座席に乗ってくるいつもの2人じゃないのが乗っていた。

 

「今日は私ネー。」

 

「そういう訳だから、提督。」

 

 金剛がカチューシャを外し、髪を下ろして帽子を被っていつぞやの様な姿で乗ってきた。

それを見た西川は慌てる。金剛は顔が結構知られている。もし、自動車学校に居たとなると大騒ぎになるからだ。

 

「金剛さん、困りますっ!」

 

「問題ないと思うネー。私の髪型は特徴的デスカラ、それを崩してしまえば問題ないデース。」

 

 そう西川が言っても金剛は訊かないので俺に助けを求めてきた。

 

「提督、ダメですよね?」

 

 訊いてくる西川を俺は一刀両断した。

 

「いいんじゃない?確かにあれならバレなさそうだ。それに、金剛ならより危険があれば察知できる。これとないセンサーだな。」

 

「すまし顔でいう事じゃないわね......。」

 

 俺はそう言うが実際その通りなのだ。それに金剛は何度もその恰好で外に出ている。これまでの実績があるのだ。

 

「ならいいですけど......知りませんよ?」

 

「あぁ。」

 

 そう言って西川は腑に落ちてないと言わんばかりの表情で自動車を走らせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「おや、今日はいつもと違う人なんだな。」

 

 指導員は金剛を見るなりそう言った。それも無理はない。これまで毎日居たのは足柄と羽黒だからだ。それが足柄と金剛になっていたら驚くのも無理はない。

 

「だがどうして入れ替わったんだ?」

 

 そう訊くのも無理はない。不審だろう。どう考えても。だがこんな時の為に俺は理由を考えてあった。

 

「彼女、看護師ですよ?本当なら毎日付き合ってられないですからね。」

 

「なら最初の2人もか?」

 

「いえ、1人はいますがなんて言いましょう......。看護師ではないです。」

 

 そう俺が言うと指導員は疑うことなくスルーしてくれた有難い。

それを気にせず指導員は俺に発車の指示を出した。路上に出て違うコースを走る事になっているが、どうやらぶっつけで知らない道を走れるかという訓練らしい。指導員が指示を出し、俺はその通りに運転していく。1週し、指導員交代することになりふと後ろを振り返ってみると金剛が俺をガン見していた。この前の足柄よりも凄い目力だ。

 

「どうした?」

 

「いえ......何でもないです。」

 

 そう金剛はカタコトを矯正した話しでそう言ったが、指導員がそんな金剛に言った。

 

「そんなに心配か?」

 

 そう言うと金剛はすぐに頷いた。

それを見た指導員は俺に言う。

 

「本当は海軍ではなく大学とかにしておいた方が良かったんじゃないか?」

 

 そんな素朴な質問に俺は乾いた笑い声で返す。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昨日宜しく俺はまた西川の自動車に乗り込み、自動車学校に行こうとしていた。だがまたそれは起きた。

今度は羽黒が乗っているが、足柄が居ない。今日は赤城が居る。

 

「今日は私です。」

 

 そう言う赤城に西川は何も言わずに俺の方を見た。

 

「まぁ、赤城なら多分大丈夫だろう。心配するな。」

 

「だといいんですけど......。」

 

 またもや西川は腑に落ちてない様子で自動車を発進させる。

そして自動車学校に着き、今日は学科が無いのですぐに実技教習になった。昨日みたいにまた外れたところに停めてあった教習車で、俺はそれに乗り込む。

そうすると指導員も乗り込み、赤城が後部座席に乗った。

 

「昨日みたいにまた違う人だな。」

 

「はい、すみません。」

 

「いいさ。昨日の人は?」

 

「今日は勤務ですよ。代わりの人ですね。」

 

「成る程......。」

 

 そう言って指導員はバックミラー越しに赤城を見た。

 

「昨日は茶髪のロングヘア―。今日は黒髪のロングストレート......。しかも美人ばかり......。こうも美人ばかりな病院ならぜひとも入院したいね。」

 

 そう冗談を言う指導員は笑った。

 

「身体壊すのはおすすめしませんよ。仕事が仕事ですからね。」

 

「全くだ。」

 

 そう軽く何かを話すと指導員は昨日と同じコースだからと言って俺に発車しろと言う。

俺はそれに従い、エンジンをかけて路上に出て行く教習車の列に混じった。

 路上を注意を払いながら走る自動車だが、慣れてくると気を抜きがちが。俺も今、少し気を抜いている。だが今は左折中だ。左折は減速して徐行速度まで落としてからクラッチペダルを踏み込み、惰力で進みながら歩行者を注意して発進しようとするがいきなりクラッチペダルを離してしまった。ガタガタと大きく車体を揺らしてエンジンが止まってしまう。俺は冷静にキーを回して発車するが、その際、バックミラーで後続車を確認した。そんな時、後ろで悶えている赤城が目に入る。

 

「痛ったぁ......。」

 

 そう言いながら赤城は頭を擦っていた。そんな赤城の姿に指導員が声を掛けた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい......。さっきの揺れでガラスに頭をっ......。」

 

 運転しながら耳で聞いているがどうやらエンストの時にガラスに頭をぶつけたみたいだ。

何というドジ。俺もだが赤城もだ。

 そんなアクシデントはあったものの、時間通りに自動車学校に帰ってきて俺は指導員から注意点などを指摘された後、教習車から降りて羽黒のもとへ行く途中、赤城は俺に言った。

 

「面白そうですね。運転。」

 

「あぁ。慣れると楽しいらしい。」

 

「そうなんですか。私も運転してみたいですね。」

 

 赤城は打ったところを擦りながらそう笑って言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 もう西川は何も言わなかった。今日は足柄ともう1人は鈴谷が乗っている。しかもズラを被っていた。

 

「ふふーん。これならバレないっしょ!」

 

 そういう鈴谷に車内に居た鈴谷以外の全員が首を横に振った。

 

「何でー?!」

 

「だって結構辛いぞそれ。髪盛り過ぎだ。」

 

「仕方ないじゃん!」

 

 そういうが西川が俺のいう事を分かっているかのように自動車を発進させる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「今度も違う......。」

 

 指導員は鈴谷を見てそう言った。まぁ無理もないだろう。3日立て続けに入れ替わったのだ。

 

「昨日の人は?」

 

「今日は勤務です。」

 

「やっぱり?」

 

「はい。」

 

 指導員は分かっていた様にそう言う一方で鈴谷は楽しそうだ。

 

「さぁしゅっぱーつ!」

 

「運転中は静かにしててくださいよ?」

 

 指導員もたじたじだった。鈴谷のノリに着いていけないみたいだ。ちなみに俺も。

 昨日、エンストを起こした左折も成功し、今日は何の問題も無く終わった。結局、終始鈴谷は何かしら言っていたが俺と指導員は無視をして教習に集中していた。

指導員は仕事だし、俺は通っている訳だからそうなるのも無理はない。最後の方は鈴谷も黙ってしまっていたが、それが正しい。

 

「じゃあお疲れさま。」

 

「ありがとうございました。」

 

 そう言って教習車から降り、足柄のもとへ戻り、鎮守府に帰った。

そんな道中、鈴谷が話にある事を挟み込んできた。

 

「そう言えば昨日、赤城さんが頭を擦ってたけどなんかあったの?」

 

 俺はその鈴谷の質問を訊いて、思い出した。

赤城は俺のエンストでガラスに頭をぶつけているのだ。しかも何か音を立てたのなら良かったが、エンストの独特な揺れと音でその音はかき消され、気付いたときに頭を打っていた。つまり面白い要素が無い。

 

「あぁ......エンストした時にたまたま頭をぶつけたみたいでな。」

 

「成る程......エンストしたら頭ぶつのか。」

 

「ぶたないからな。」

 

 鈴谷がなんかエンスト=頭ぶつみたいなイメージをつけていたがすぐに話を違うものに変えた。それは今日の路上教習だ。今日は特別で高速教習と言って、高速道路での教習だった。

 

「なんか訊いてたのと違ったんだけど。」

 

「そりゃそうだ。」

 

 そう。高速教習はAT車でやるのだ。どうやら鈴谷はMT車を楽しみにしていたみたいだ。見ていて何が楽しいのだろうか。特に女の子ならなおさらだ。

 

「鈴谷もMT車を運転する提督が見たーい!!」

 

「騒ぐなっ!!」

 

 そんな風にしながら俺たちは鎮守府に帰っていった。

 





 遂に乗りたいと言い出した知っている組は交代で乗るようになりました。
ですけどやっぱり鈴谷は無理があるだろうな......。
 
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