【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百五十六話  身分証明書④

 今日で自動車学校に通うのも最期だった。卒業検定という路上での実際に走る検定を合格した俺は筆記も合格し、めでたく運転免許証を取得する事が出来たのだ。ちなみに通う事約2ヵ月かかった。

そして俺は今、自動車学校の技能教習で世話になった指導員に挨拶に来ていた。

 

「お世話になりました。」

 

「あぁ。」

 

 笑ってそう言ってくれる指導員は俺の肩をポンと叩く。

 

「軍人になっても頑張れよ。」

 

「はい。」

 

「あとひとつ訊いていいか?」

 

「どうぞ。」

 

「お前の後ろ、これまで路上教習で後部座席に来てた人たちが全員揃ってるけど、なんだ?」

 

 俺は後ろを振り返った。そこには足柄、羽黒、金剛、赤城、鈴谷がいる。足柄と羽黒はともかくとして何故他の艦娘が来ているかというと、特に意味はない。俺が今日、卒業検定を終わらせ、筆記をすると聞いて全員ついて来てしまったのだ。ちなみに外で待ってる西川は頭を抱えて『面倒な事にならなければいいですけど......』と言っていた。

 

「あはは......気にしないで下さい。いつもの2人でいいって言ったんですけど訊いてもらえなくって。」

 

「そうだったのか。それにしても俺はこんな事、初めてだったぞ。指導員を10年近くやってきたけど、身体弱くて面倒を看る人が教習車に乗り込むだなんて。それに指導員も指定だったしな。」

 

「そうなんですか。」

 

 指導員は俺がどれだけ変な教習生だったかを話し始める。自覚はあったので気にはしない。

 

「しかもストレートと来たものだ。最短でやったのに2ヵ月もかかったのはやっぱり体調崩したりしてたのか?」

 

 平日はなるべく行くようにしていたのだが、時々行けない日もあったのだ。特に金剛たちにバレるまでは。西川の待つところまでたどり着けなかったりもしたからだ。

 

「まぁ、そんなところです。」

 

「ここまでずっと面倒を見た教習生は初めてだったよ。良い思い出になった。特に路上の時に後部座席に座ってた人たちが何かしらのアクションをするのがな。黒髪の長いお姉さんが額を打って悶えていたのはまだ思い出しても笑えるよ。」

 

 そう言って懐かしそうに語るが2週間ほど前の話だ。

そんな指導員に俺は再び礼を言いかけた時、西川が走ってきた。これまで待っていた西川が来るだなんて何事か。

 

「......っと、少しいいですか?」

 

 そう西川は指導員に言うと俺を少し離れたところに連れ出した。

 

「何ですか?」

 

「深海棲艦です。哨戒任務中の艦載機が機影を捉え、提督に指示を貰おうと加賀さんが探し回って騒ぎになっている様です。」

 

「侵攻ですか。何故また......。」

 

「分かりません。」

 

 俺は携帯電話を取り出すが西川に携帯電話を押さえられてしまった。

 

「軍事行動を一般電話回線で指示なんて出せません。軍用無線を持って来てますのでこちらで警備棟を経由し、指示を出します。」

 

「分かりました。」

 

 そう言われ俺は西川から軍用無線を受け取り、周波数を合わせてあるという事だったので耳にあてた。

そうすると声が聞こえてくる。聞こえてくる声は武下だった。

 

『提督。ここに長門さんが来てますので口頭で指示を伝えます。』

 

 武下は落ち着いた声色でそう言った。

 

「侵攻艦隊の出現位置と艦種、数、侵攻方向をお願いします。」

 

『発見されたのは八丈島南南東120km。艦種。空母2、戦艦1、重巡1、駆逐2。侵攻方向は八丈島に向けて侵攻中、目標は横須賀鎮守府だと思われます。』

 

 俺は西川が地図を持っていたので開き、許可をもらってボールペンで印をつけていく。

 

「迎撃戦闘用意。大本営に緊急連絡を入れて下さい。迎撃艦隊編成を伝えます。」

 

『はい。』

 

「迎撃艦隊旗艦:長門、陸奥、北上、大井、加賀、瑞鶴。」

 

『復唱。迎撃艦隊旗艦:長門、陸奥、北上、大井、加賀、瑞鶴。』

 

 武下の背後で長門の声で『聴いたかっ!出撃準備を整え、埠頭に集合っ!』と聞こえた。どうやらほぼ全員の艦娘が集まっているみたいだ。

 

「支援艦隊旗艦:霧島、比叡、榛名、蒼龍、飛龍、鳳翔。」

 

『復唱。支援艦隊旗艦:霧島、比叡、榛名、蒼龍、飛龍、鳳翔。』

 

 また武下の背後で霧島が『呼ばれた艦娘が直ちに埠頭へ集合して下さい!』と叫んでいた。

 

「その場に長門と霧島はいますか?」 

 

『はい。』

 

「作戦を伝えますので長門と霧島に聞こえるようにしてください。その前に八丈島に到着するのにどれくらい時間が掛かりますか?」

 

『了解しました。哨戒機によると6時間ほどかかるみたいです。』

 

「あと三宅島と御蔵島に人は?」

 

『いません。変わります。』

 

 俺は地図を見て大雑把に侵攻方向の線を入れ、艦隊の移動を考える。俺にある作戦なんてものの数は少ない。

常套手段で行くほかなかったので俺は印をつけていく。

 

「長門と霧島聞こえるか?」

 

『『はい。』』

 

「作戦を伝える。」

 

 大雑把に書いた地図を広げて伝える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「迎撃艦隊は出撃。直進しているなら御蔵島東側を通過する。そこで交戦だ。」

 

『了解。』

 

「支援艦隊は三宅島西側で待機、迎撃艦隊が交戦を始める前に支援砲撃。支援砲撃後は蒼龍、飛龍の航空隊で加勢。鳳翔は待機。」

 

『了解。』

 

「準備出来次第出撃してくれ。」

 

 俺はそう言って地図を畳んで無線を西川に渡した。そして振り返ると俺はある事を思い出した。

指導員と話している最中だったのだ。

 

「お前......。」

 

「あっ......いやーその、そういう遊びが流行ってましてね......。」

 

 俺は誤魔化すがここに居るメンツがダメだった。

 

「提督っ!今のってっ?!」

 

「どうなってるデスカー!?」

 

 そう。金剛と鈴谷がいて......。

 

「今すぐ鎮守府に戻りましょうっ!」

 

 赤城が居るのだから。

それを訊いた指導員は顔を真っ青に変えている。

 

「"提督"って、あのっ?!横須賀鎮守府の?!」

 

 もうここまで来てしまえばバレてるようなものだった。俺は急いで指導員に声をかける。

 

「すみませんでした。騙してて......。ですが深海棲艦の目標は横須賀鎮守府ですから今すぐシェルターに避難して下さい。」

 

 そう言って俺は走り出した。西川の運転する自動車に飛び乗り、布を縫う針の様に道を通り抜け、鎮守府に入った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は地下司令部に来ていた。正面の画面に映る情報を見て、妖精たちが状況を知らせてくれる。今はまだ距離があるため、そこまで声は飛び交わないが、ちょこちょこ情報が入ってきていた。

 

「提督。大本営から避難命令が出され、シェルターへの民間人の収容が始まりました。」

 

「時間はある。確実に迅速に。」

 

「了解。」

 

 俺は鎮守府周辺に点在するシェルターの状況の出されているところを確認した。

横須賀鎮守府周辺にはシェルターが10箇所点在しているが、そのうちの7つは鎮守府が勝手に作ったものだ。横須賀に住んでいる民間人全員が収容できる容量はある。それに備蓄食料やらなんやらも一応用意してある。そんなところの入り口の映像が流れる。

その1つのシェルターの入り口に目をやった。それは俺が通っていた自動車学校の近くにあるシェルターだ。ここのシェルターは大本営からの避難命令が出る前から人が集まっていた。俺の専属指導員をしてくれていた指導員が上手く状況を周りに広めれたお蔭だろう。収容はどこよりも早く進んでいて、もう終わりかけていた。

 

「支援艦隊が出撃します。」

 

 俺は目線を切り替え、埠頭の映像を見た。埠頭から霧島を先頭に支援艦隊が離れていった。

そしてその後を追うかのように数分後、迎撃艦隊が出て行く。

これからは何事も無ければ通信も無いので俺は一息ついた。そんな時、赤城が俺に声を掛ける。

 

「提督。」

 

「何だ?」

 

「今回の侵攻。『イレギュラー』ですよね?」

 

「間違いないだろう。」

 

 前回の空襲も俺が富嶽による新戦術のせいだという事は明確になっていた。それは本来ならばシステムにない行動だったので、そう言う現象が起きたと俺たちは考えている。そう考えると今回の侵攻は何かイレギュラーがあったとみて間違いは無かった。

だがイレギュラーだと分かっていても原因が掴めずにいた。これまで俺たちは実質、休みで出撃を殆どしていない状況だった。レベリングはしていたがそれはシステム範囲内での事。ならば何があったと考えるべきか。

 

「大本営の鎮守府......。」

 

 あり得るとしたらそこだけだ。横須賀鎮守府がやらなければここしかやるところが無い。

俺は電話を手繰り寄せ、大本営に電話をかけた。

 

『提督か。』

 

「はい。急ですみませんが、大本営の今レベリング中の鎮守府で何か目新しい事、ありませんでしたか?」

 

 そう訊くと新瑞はすぐに答えてくれた。

 

『小型艦でも大型艦に太刀打ちできるようにと、新型砲弾が開発されたみたいだな。』

 

「そうですか、ありがとうございます。」

 

『何か深海棲艦の侵攻以外にあったのか?』

 

 そう訊いてくる新瑞に一言だけ俺は言った。

 

「その新型砲弾の使用を禁止して下さい。イレギュラーです。」

 

『......分かった。』

 

「では、失礼します。」

 

 俺は受話器を置くとモニタを睨む。

今回の侵攻は以前のよりも軽いものだと信じたかった。だが引っかかる事がある。

以前の侵攻は俺が投入した新兵器や空襲などをそのままそっくり返されたのだ。なら今度のは新型砲弾で攻撃されるという事だろう。脳裏に嫌な予感が過る。

 




 
 今回は初の試み、前からやって見たかった挿絵をいれてみました。と言っても地図を加工しただけですけど。
これでより明確に伝わると思います。たぶん。

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