【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

173 / 209
第百五十七話  新型砲弾

 

 

 地下司令部には切迫とした空気が流れていた。

先の侵攻艦隊の迎撃に備えた艦隊行動、作戦が進行中でその火蓋が切り落とされようとしている。支援艦隊は砲撃支援位置に到着し、何時でも砲撃できる状態になっている。そして迎撃艦隊も交戦予定海域の手前に来ていた。

 

「支援艦隊から入電。哨戒機が侵攻艦隊が三宅島に接近中。」

 

 通信妖精のその一言が入った。この時こそ、迎撃戦が始まる時だ。俺は指示を出していく。

 

「支援艦隊はそのまま哨戒機による弾着観測射撃体勢に移行。交戦予定海域に向け、飽和砲撃開始用意。」

 

「横須賀鎮守府より支援艦隊。支援艦隊はそのまま哨戒機による弾着観測射撃体勢に移行。交戦予定海域に向け、飽和砲撃開始用意。」

 

 通信妖精が復唱する。

 

「迎撃艦隊は第一次攻撃隊発艦開始。続いて支援艦隊より支援隊発艦開始。」

 

「横須賀鎮守府より迎撃艦隊。迎撃艦隊は第一次攻撃隊発艦開始。」

 

「横須賀鎮守府より支援艦隊。支援艦隊より支援隊発艦開始。」

 

 3人の通信妖精がそれぞれの艦隊に指示を出す。

 

「迎撃艦隊は飽和砲撃確認後に海域突入。以降は現場の判断に任せる。」

 

「了解しました。」

 

 ここでひとまず俺の仕事は終わった。

今の一連のモノは以前の空襲後から決めてきたことだ。もし鎮守府が襲われ、迎撃に出る場合は俺が指揮を執ると決めていたのだ。だが俺は艦娘の艤装に乗り込んでいる訳では無いので、大まかな指示しか出さない。それは最もだろう。一番良い判断が出来るのは現場だけだ。

 

「迎撃艦隊が交戦予定海域に突入。交戦を開始します。」

 

 通信妖精のその一言で俺たちは唾を飲み込んだ。

これは普段の戦闘ではない。艦隊が破れるようであれば侵攻を許してしまい、以前の空襲の様な被害が出てしまうかもしれないからだ。

もしそうなってしまえば、またもや再建の日々だ。時間は掛からなかったとはいえ、心労は大きいモノだったのだ。自治体の抗議やらが空襲を境に増えたからだ。

ここで何としても防ぎたいという気持ちが俺の中に唯一つだけあるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結果から言おう。支援艦隊の飽和砲撃によって侵攻艦隊の半数を中破させ。その後の航空戦にて制空権を奪った。その後は艦攻・艦爆隊による攻撃、砲雷撃戦の末、侵攻艦隊は交戦予定海域内で殲滅する事が出来た。

支援艦隊は飽和砲撃後には支援隊のみだったので一足先に鎮守府に帰ってきていたが、その後に帰ってきた迎撃艦隊の有様に俺や待っていた艦娘は目を丸くした。

艤装には小さいが穴が空き、それは無数にあるのだ。そして迎撃艦隊旗艦として出ていた長門によると、侵攻艦隊の兵装は小型艦に限り、異様な貫通力を有していて艦橋に着弾したモノは内部で残端が四散し、機器に被害を出していた。そして側面に着弾したモノは当たり所が悪ければ装甲板を貫き、浸水してしまったという事だった。それに高角砲、対空機銃などの小口非装甲銃座や軽装甲部への着弾では銃身や砲身が吹き飛んだり、弾薬が吹き飛んだりしたとの事だった。こういった小さな被害が重なり、迎撃艦隊は全員が小破以上を被ってしまっていた。装甲の薄い北上や大井を庇っていた長門や瑞鶴に至っては大破に近い中破だった。

 そういった報告を聞いた俺は迎撃艦隊として出ていた艦娘の艤装を見に来ていた。その際、武下も同行した。どうやら地下司令部から出た後は誘導やなんかは全て部下がやってしまう為、暇だった様だ。それに俺の近くに居ればすぐに情報が入ってくるからという理由も付け加えていた。

 

「これが艦橋に被弾した砲弾の痕だ。」

 

 一緒に見に来ていた長門がそう自分の艤装で説明をしてくれる。今は空母が優先という事で加賀と瑞鶴の艤装が入渠中なので待機してなければならないからだ。

俺は長門に指された砲撃痕をなぞる。それは砲撃にしては小さいもので、ピンポン玉やテニスボールくらいの大きさの穴がポッカリと綺麗に空いているのだ。

 

「小型艦による砲撃だったな。」

 

「そうだ。これによって一部機器が使用不能になったのだ。これによって私の損傷具合も的確に把握できなかったところがある。」

 

 長門は報告の中に『戦闘終了まで自分が大破よりの中破をしている事に気付かなかった。』としていた。その理由がこれだというのだ。 

 俺がその痕をまじまじと見ていると横で武下がぼそぼそと何かを言い始めた。

 

「侵攻艦隊の編成に駆逐艦がありましたね......。それの砲撃で間違いないでしょう。深海棲艦の駆逐艦の主兵装は5inch単装砲か連装砲。5inchという事は約127mm......。」

 

「どうしたんです?」

 

 俺がそう武下に訊くとある言葉が出てきた。

 

「硬芯徹甲弾......。若しくは装弾筒付翼安定徹甲弾。」

 

「何ですか、それ?」

 

「APCR、APFSDS弾って言えば分かりますか?貫通力を求めた砲弾ですよ。」

 

「成る程......。」

 

 俺は納得した。確かにその砲弾だったとしたら、こうなってしまうのも頷けるのだ。

装甲に穴を開けるための砲弾だ。それなら穴が空いてしまう。

 

「では銃座や軽装後部へのやつはそう考えると......」

 

「HEAT。この場合は戦車じゃないのでHEASになりますね。」

 

 HEAT。High-Explosive Anti-Tankの略。和名成形炸薬弾。別名対戦車榴弾と言われているものだ。

 

「大本営の鎮守府がこれを使ったという事ですね。」

 

「そうみたいですね。ですけどもう大本営から使用停止が掛かっています。」

 

 そう言うと俺と武下は額から湧き出る嫌な汗を拭った。

だが、それがどういう意味なのか分かっていない長門に俺は説明する。

 

「艦娘が使う九一式徹甲弾、零式通常弾、一式徹甲弾、三式弾の様な砲弾の他にも色々な砲弾があるんだ。」

 

「それ以外にもあるのか。」

 

「硬芯徹甲弾というのは徹甲弾内部に硬い芯が入っていて、着弾するとその硬い芯も着弾部に押し出される。だがそれは周りを覆っていたものよりも遥かに硬いので撃ちだしたエネルギー、着弾したエネルギーを受けて着弾した装甲板にダメージを与え、向こう側に衝撃や破片を飛び散らかすんだ。装弾筒付翼安定徹甲弾というのはさっき言った硬芯徹甲弾の硬い芯が撃ちだした砲門から周りに芯以外のモノを落として、芯単体が飛行機の様な小さい翼で体勢を安定させながら飛ぶ砲弾だ。こっちは硬芯徹甲弾みたいな被害を出す。」

 

 俺は適当に説明をしていく。

 

「成形炸薬弾というのは構造は分からないが一言で言えば『装甲板を一瞬、液体に変える砲弾』だ。」

 

「装甲板を液体にっ?!」

 

「あぁ。金属はただならぬ圧力を与えられるとどれだけ硬かろうが圧力のかかった部分はドロドロになるんだ。」

 

「そんなものがっ!?」

 

 長門は驚きを隠せない様だ。俺も最初訊いたとき、目と耳を疑ったからだ。確かに着弾したところは他の砲弾が当たった様子よりもおかしかったし、威力があるというのも一目瞭然だった。

 

「成形炸薬弾は着弾すると着弾したある一部にただならぬ圧力をかけ、金属を溶かしてそれを飛び散らかす。つまり中では金属片が四散。分かりやすい表現で言えば成形炸薬弾が当たった場所は精肉機みたいになるって事だ。」

 

「そんな恐ろしいものをっ......!!」

 

「あぁ。だから艦橋に当たらなくて本当に良かった。」

 

 俺はそう言ってどんな砲弾が使われていたのか分かったので長門の艤装から降りた。

もうすぐ加賀の艤装の入渠が終わり、長門に交代するからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 全艦の収容が終わり、報告、点呼が終わると俺は大本営に連絡を取った。

侵攻艦隊の迎撃と、新型砲弾について。やはり硬芯徹甲弾と装弾筒付翼安定徹甲弾、成形炸薬弾で間違いなかった。どうやら、大本営の鎮守府は戦車砲弾としてあったモノを見てからインスピレーションが働き、勢いで作った様だった。だから砲弾自体は大型せずに現行戦車の滑腔砲用からライフリングの掘られたライフル砲用に作り替えたみたいだった。

 

『とんでもないものを作ったよ。こっちの鎮守府は。まさかそんなものを作るとはね......。』

 

「全くです。こっちでも砲弾着弾場所と被害から砲弾の特定をしましたが、砲弾の特性や性能を訊いた迎撃艦隊の艦娘は全員顔を青くしてましたからね。」

 

『悪い事をしたな。あっちにはイレギュラーについて伝えてあったところが少なかったんだ。今回の事で厳重注意をしたので心配はない。』

 

「了解しました。では。」

 

 俺は受話器を置き、立ち上がると執務室を出て行く。

行先は地下司令部にシェルターの解放を伝えるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 シェルターの解放が済み、状況説明の為に武下は近隣住民数人に話をしていた。と言っても俺は監視塔から見てるのだが。

 

「......という事で、今回の侵攻は口減らしみたいなものです。」

 

 説明にはイレギュラーの話をする訳にはいかなかったので、偵察情報や色々な偽情報を交えて深海棲艦の何等かによる泊地圧迫の為にワザと侵攻させたという事にした。

偵察に艦娘が出て行くことも知っているというか、鎮守府の敷地外からなら湾を航行する艤装を見る事が出来るからだ。

 

「そういうことだったんですね。」

 

「早期発見と迅速な対応、感謝が絶えませんよ。」

 

 この辺の町内会の人たちはそう武下に言っている。

 

「いえいえとんでもないです。大本営から詳細は発表されますが、混乱を考えてのこちらからの情報提供ですので回覧板や掲示板、連絡網などで頼みますよ。」

 

「分かってます。......あと、提督にお会いしたいって言ってる人がいるんですけど......。」

 

 町内会の人がそう言うと、俺も良く知る人物が出てきた。

 

「貴方は?」

 

「私は自動車学校で指導員をしている者です。」

 

 そう言うと武下は何かを察したのか少し待っていて下さいと言うと、監視塔に上がってきた。

 

「提督。いかがしますか?」

 

「そうですね......。と言うか武下さん、俺が自動車学校に通ってる事、知ってたんですか?」

 

「勿論ですよ。でなければ自動車も出しませんし、西川の配置に細工をしたりしませんよ。」

 

 そう武下は笑いながら言う。やっぱり武下には警備部の長として大本営からある程度の話は聞かされているんだなと実感した。

 

「分かりました。俺も爆弾投下して帰ってきたので話をしてきますよ。」

 

「そうですか。では門兵を付けますね。」

 

 そう言われ俺は返事をせずに監視塔から降りていく。

監視塔から出て、俺は近くの門兵に軽く身体検査をしたら入って貰うように伝え、待つ事5分。指導員はこっちに来た。

 

「先ほどぶりです。提督。」

 

 そう切り出した指導員に俺は違和感を覚える。指導員はずっとタメ口だったのだ。そんな事勿論だが、俺は別に気にしていない。寧ろそれが正しいのではないかと思う程だった。

 

「よしてください。今まで通りで大丈夫ですよ。」

 

「そうですか......。」

 

 俺は監視塔の横のベンチに腰を掛けて貰い、俺もそこの横に座った。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

「そのだな......驚きが大きくて確認に来たんだ。やっぱり提督だったんだな。」

 

「そうですよ。最初は1人で来てましたけど、途中から連れて来てましたからバレてるかとヒヤヒヤしてましたよ。」

 

「じゃあやっぱりあの娘たちは、艦娘だったんだ。」

 

「その通りです。」

 

 そう言うと指導員は少し考えると口を開いた。

 

「ちなみに誰だったんだ?」

 

「長いこと居たウェーブのは足柄、黒髪ボブは羽黒。入れ替わりで最初に来たのは金剛で、その後が赤城、そして鈴谷ですね。」

 

「有名な艦娘ばかりだったんだな。だけど全然気づかなかったぞ?金剛なんてカタコトの日本語と特徴的な髪型で町中に居てもすぐ分かると思っていたんだが。」

 

「それはカタコトを無理やり直させて髪型も崩して来てましたからね。」

 

「そう言う事だったのか......。」

 

 俺は遠くを眺める。そうすると俺を探している様子の艦娘が通りかかる。金剛だ。

 

「オゥ、提督発見ネー。って指導員さんデスカ?」

 

 書類を抱えた何時もの金剛が現れた。様子を見る限り、警戒はしていない様子。

 

「さっきぶり、看護師さん。」

 

「そう言えばそんな設定になってたネー。さっき振りデース。」

 

 金剛は呑気にそう言って書類を持ったまま俺の横に来た。

 

「......そろそろ帰るよ。」

 

 そう言って指導員は立ち上がった。

 

「じゃあ、元気で。」

 

 そう言って立ち去ろうとする指導員に俺は声をかける。

 

「指導員さんもお元気で。ビシビシ他の教習生を指導してあげて下さい。」

 

「勿論だ。それに俺には"横須賀鎮守府の提督を指導した"っていう誇りが出来たからな。」

 

「そうですか。」

 

 指導員はそう言って帰っていった。

そんな後姿を俺と金剛は見送った。

 

 




 
 続きです。昨日はホワイトデーネタを挟んだので、本編ですよ。
新型砲弾に関しては作者の独断と偏見で選ばせていただきました。
 ひとつお伝えしなければならない事があります。まだはっちゃんいますね。すみません。
 それと今どれだけの艦娘がいるのか分からないという報告がありましたのでそのうち、お知らせしようと思います。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。