【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百六十七話  『FF』作戦⑥

 バンクーバー島沖での戦闘で被害の出た米機動部隊は艦隊再編成を行っていた。大破艦で航行可能な戦闘艦は独自で艦隊を編成、離脱。損傷艦は航行不可能艦を曳航して数隻が艦隊離脱。1回の戦闘で米機動部隊は艦隊の半数を戦線離脱させたのだ。

それは当たり前のことだろう。現行艦は損傷を受けない前提の設計。少しの被弾は致命傷なのだ。

 

「一気に前が開けましたね。」

 

 赤城は離脱していった艦隊を見てそう言った。

多分、殿である俺たち横須賀鎮守府派遣艦隊の皆は同じことを思っているに違いない。こちらの派遣した艦隊よりも数隻か多く用意していたにも関わらず、今ではこちらよりも少数なのだ。

 

「そうだな。」

 

 俺は赤城の発言にそれだけしか答えれなかった。その理由はある。

損傷艦離脱の際、米機動部隊の司令官からの通信で酷く、頭にこびりついているのだ。

 

『我々は1回の戦闘で多くの艦と将兵を失いながら戦っている。だが貴国の艦隊は損傷軽微で報告では戦死者無しで我々が手こずる深海棲艦共をいとも簡単に全滅せしめた。我々が戦う理由、意味が見えなくなる。』

 

 と言っていた。ちなみに和訳されていたが、多分簡単にだろう。

 

「先程のことが気になりますか?」

 

 そんな俺に赤城は話しかけてきた。

 

「あぁ。」

 

 そう答えるが、俺は煙を上げながら離脱していく艦隊を見ながら内心、心を痛めている。

戦闘直後、米機動部隊の駆逐艦が損傷甚大で燃料に引火したのか爆沈したのだ。丁度その駆逐艦は乗組員が退艦している最中で、デッキにも乗組員が居て、赤くなった包帯を巻いている人や片腕が無い人は勿論、担架に積まれた人だって居た。

そんな人たちは懸命に退艦しているが、デッキには力尽きてその場で絶命している乗組員だって居た。

その刹那、駆逐艦は爆発。乗組員共にその言葉通り、消え去ったのだ。少し現行艦について興味を持った時に調べたことがあった。大体300人近くが乗っているらしい。それが爆発で一瞬で消えてしまったのだ。それも3隻。さっきの戦闘で約1000人は確実に戦死したのだ。さらに損傷艦からも戦死者が出ているはずだからもっと戦死している筈なのだ。

 現実というのは突きつけられた時、そのあまりの残酷さに苦しくなる。否、何も知らずに生きていた自分が恥ずかしくてたまらないのかもしれない。

日本皇国が確認していた中でアメリカが一番長いこと深海棲艦と戦争をしていたのだ。どれだけの期間戦争をしていたのかは知らないが、あの世界の警察と呼ばれていたアメリカの保有する軍艦が少ししか残らずに今回の作戦で参加した眠っていた軍艦がジョン・F・ケネディだけだと聞くと数字を考えるのも嫌になる。

それは日本も同じだろう。アメリカほどでは無いにしろ、あった護衛艦が全て轟沈しているのだ。一体、何人の自衛官と軍人が死んだのだろうか。

言葉にできない気持ちが俺の中を埋め尽くし、蝕んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 特殊陣形の組み換えを終わらせてから俺は飛行甲板に居た。先の戦闘で敵機来襲は無かったので、戦闘で被弾したのは大体が砲撃戦だったのだ。

なぜ、敵機来襲が無かったのか。

それは、米機動部隊による対空迎撃によるものだった。

彼らはSPYレーダーを駆使して主砲を使い、確実に深海棲艦の艦載機を落としていたのだ。この日米艦隊を深海棲艦の艦載機が射程に入れる前にだ。その対空迎撃能力には皆、目を見張っていた。勿論、赤城もだ。

その御蔭で"ハエ"に集られることは無かったのだ。実は現代艦にはそういう特性があったと思わる。つまり、現行艦が轟沈する理由は深海棲艦による『砲撃』、『雷撃』が考えられる。さらに仮説として上げるならば『艦載機の飽和状態』だ。

今回はこちらの艦載機が制空戦を繰り広げたあとに抜かれてしまった艦載機の迎撃をしたので、全機撃墜が成し得たと考えている。もし、それが飽和状態だったならと考えれば『艦載機の飽和状態』も対空迎撃が効く現行艦の轟沈理由になり得るのだ。

 

「提督。どうされたんですか?」

 

 そんな考え事をしていた俺に話しかけてきたのは、高角砲の妖精だった。

 

「ちょっとな......。考えることがあって。」

 

「そうですか。」

 

 妖精はそう言って俺の肩によじ登って言った。

 

「よいしょっと......さっきの戦闘の事ですね?」

 

「あぁ......。」

 

「味方が助けられなかったとか?」

 

「それもある。」

 

 そう言うと妖精は話しだした。

 

「私達も助けたかったですよ。今はそうでもありませんでしたが、交戦海域はとても寒かったですから。海に落ちようものなら凍死しますから。」

 

 何も答えない俺に妖精は続けた。

 

「でも、赤城さんは指示を出しませんでした。そうですね?」

 

「あぁ。理由はわかってる。妖精たちは介抱のために姿を表さないだろうし、俺にやらせるつもりもないということだ。」

 

「はい。だから見過ごした。助けられる命も見過ごしたんです。」

 

 妖精は俺の肩で揺れながら続けた。

 

「日米合同作戦......こうなる事はみなさん分かっていました。ですがそれは頭の片隅だけ。本心は提督のことしか考えてません。『提督は無事に帰ってこれるのか。』、『米兵を乗せれば鎮守府で門兵さんと撃ちあったように、ここでも提督を撃つに決まってる。』、『わざわざ米軍と共闘する必要なんて無い。提督がわざわざ手を煩わせる理由は無い。』そんなことを考えてます。」

 

「......。」

 

「提督が強引に助けたいと仰るなら私たちはその指示にしたがって助けるように動きます。ですが、手は出しませんよ?私たちは米兵、アメリカに姿を見せる気は微塵も無いですからね。」

 

「......。」

 

 そう言って妖精は少し呼吸を整えると聞いてきた。

 

「それで、提督は何を考えていたんですか?」

 

「あぁ。米機動部隊の対空迎撃能力に関してだ。」

 

「そうですか。あれは私たちにはありませんからね。確実で、絶対。凄いです。」

 

「あぁ。だけど、現行艦は深海棲艦相手に何も通用しないと思っていたからな。少し面食らった。」

 

「確かにそうですね。」

 

「だからある仮説を立てた。」

 

「ぜひお聞かせください。」

 

「『現行艦が深海棲艦に対して攻撃力が無いわけでは無い。』という事だ。」

 

 俺はそう言って近くで作業していた妖精から薬莢を借りた。ちなみに出撃した攻撃隊の後部銃座の薬莢らしい。

それを俺は6つ甲板に置いて説明を始めた。

 

「薬莢を現行艦とする。」

 

「はい。」

 

「基本的に海の上だけでは無いが、戦闘というのは集団戦だ。そうすると、必ず陣形を組み、集団で行動することになる。」

 

 俺はそう言って薬莢を動かした。勿論、置き方は変えずに。

 

「集団行動というものは周りに歩調を合わせ、行動を合わせる。だから個々は身勝手なことは出来無いんだ。」

 

 同じように薬莢を動かして、その正面にまた6つの薬莢を置いた。

 

「そして深海棲艦と接敵する。そうなれば、艦隊を組んでいる訳だから連携して攻撃をする。ある艦は索敵、ある艦は砲撃、ある艦は対空迎撃をする。」

 

 俺はそう言うと妖精に訊いた。

 

「この後の結果はわかるか?」

 

「はい。現代艦は敗北、ですね?そりゃ装甲がないに同然ですから。」

 

「正解だ。連携をして攻撃していたのにも関わらず、この時は全艦撃沈したとする。」

 

 そう言って俺は現代艦として置いていた薬莢を拾った。

 

「敗因はこちらの装甲不足。砲の威力の弱さ。色々あるだろうな。これは日本皇国でも経験している事だ。だが、決定的に気づいてないことがある。分かるか?」

 

 俺はそう妖精に訊いた。

 

「分かりませんね......。装甲不足、砲の威力不足はわかりますが、他には無いような......。」

 

「答えはこうだ。」

 

 そう言って甲板に薬莢を置いた。ただし1つ。

 

「えっ?......単艦?」

 

「つまり『現代艦と考えない』という事だ。噛み砕けば『現代艦であるが現代艦と考えちゃダメなんだ。』」

 

「それは......ですが何故、単艦であるんですか?」

 

「史実は分かるか?」

 

「はい。なんとなくですが。」

 

「夕立、綾波と同じだ。」

 

 どうやら分からなかったようだ。

 

「夕立と綾波の共通点はなんだと思う?」

 

「......夜戦奇襲、ですね。」

 

「そうだ。どういう状況での夜戦奇襲だった?」

 

 そう聞くとようやく分かったようだ。

 

「単艦だと艦隊を組んでいないから、誰かに合わせることなく自由に動けるということですね!」

 

「あぁ。それに装甲厚は夕立や綾波より薄いだろうが、近い。だから艦隊戦を行うよりも現行艦は単艦でいた方が戦果は挙げられると仮説立てた。」

 

「なるほど......。」

 

「現行艦が損傷多く、すぐ撤退するのは例えば水雷戦隊で攻撃するのと同じだ。貧弱な砲、装甲。そんな中、連携して攻撃するとなれば損傷は甚大だ。」

 

 そう言って俺は薬莢を全て拾った。

 

「さて、戻るよ。付き合ってくれてありがとう。」

 

「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。」

 

 そう言って俺は妖精を下ろすと、格納庫に寄ってから艦橋に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 艦橋では観測妖精からの報告や、通信妖精からの連絡があるが、戦闘時程では無いので忙し様子はなかった。勿論、赤城もだ。

 どうやら損傷した艦載機の報告を訊いているみたいだ。

 

「艦戦、零戦隊が全機帰還はいつもの事ですが、今回は少し被弾機が多いですね。」

 

「はい。今回は空母2杯。普段良く見る深海棲艦の機動部隊ですが、例に比べて多いですね。それに中には下手をすれば未帰還になっていた機も......。」

 

「えぇ。エレベーターがやられてましたから......。練度がものを言いますね。低練度であれば不時着でした。」

 

 そんな話を多分だが整備妖精と話している。

 

「攻撃隊はいつも通り、全機帰還。損傷は被弾ありですが零戦隊ほどではありません。飛行にも問題なしです。」

 

「えぇ。」

 

「今回の航空戦並びに攻撃には総勢368機の航空機投入ですが、損傷が普段の第一航空戦隊飛行隊200機よりも酷い上に戦果もほぼ同じです。」

 

「損傷はどうやら端島鎮守府派遣艦隊の五航戦の娘たちが大半を占めているみたいですね。」

 

「はい。こちらは流星改に彗星一二型甲、烈風が配備されていますがあちらは良くて天山です。」

 

「装備の更新が滞っているのでしょうか?」

 

「そう見て間違いないです。それに零戦隊、攻撃隊の報告によれば端島鎮守府派遣艦隊の戦闘機隊並びに攻撃隊の練度はいいという訳ではないみたいです。」

 

 そう真剣に赤城と整備妖精が話しているのを俺は黙って訊いている。

 

「こちらは彗星と流星があまりに余っているというのに......。」

 

「全くです。」

 

 頃合いだったのか、話を切り上げた整備妖精は報告で書いたのであろう紙を赤城に渡すと戻って行った。それと同時に赤城はこちらに気づく。

 

「提督。飛行甲板から戻ってらしたんですか?」

 

「あぁ。戻ってきたらさっきの会話が聞こえてな。聞いてしまった。」

 

「いえ、これは提督の耳にも入りますから問題無いですよ。」

 

 そう言って赤城はさっき整備妖精から受け取った紙を俺に見せてきた。

 

「航空戦の被害です。」

 

「あぁ。さっき聞いていた。端島鎮守府の空母がどうのだろう?」

 

「えぇ。報告を見て聞く限り、練度が足りないです。被撃墜数も多いですし、ここまで航空戦力が削られた状態で次の戦闘には端島鎮守府派遣艦隊は自艦隊の制空権確保で精一杯だと思います。」

 

「零戦隊が酷いな。しかも運用してるのは21型か。練度関係無しで被害を考えると運動性能か?」

 

「はい。52型よりも幾分か運動性能は悪いですね。それに機関砲も52型のほうがいいものを使ってます。」

 

 そう言って赤城は紙を仕舞った。どうやらさっきの会話中に全部読んでいたようだ。

 

「次の戦闘では私たち、横須賀鎮守府派遣艦隊が航空戦を支える事になります。もしかしたら未帰還機が出るかもしれませんね。」

 

 赤城はそう云うが、未帰還機というのはその言葉通りなのだろう。出撃したまま帰ってこない、という事だ。

 

「そういえば撃墜された艦載機ってどうなるんだ?」

 

「提督。提督は詳しいんじゃなかったんですか?」

 

 そう言うと赤城は答えた。

 

「撃墜されれば墜落、落ちてる最中に爆発が普通です。勿論、未帰還で処理されます。」

 

「だったら、搭乗妖精は......。」

 

 と聞いてみる。回答なんてあってないようなものだ。そう俺は思っていた。

 

「帰ってきますよ?」

 

 俺はそれを聞くと俺だけが艦橋で滑った。どうやら妖精たちは周知だったらしい。

 

「なんだそれ!」

 

「機体は投棄ですね。ですが妖精さんたちは戻ってきます。当たり前じゃないですか。」

 

 そう赤城はさも当然だと言いた気に言った。

 

「そうか。よくよく考えて見れば撃墜されたら練度はなくなるからな。」

 

「はい。だから補充はボーキサイトで済むんですよ。」

 

 心配していたが、どうやら思い違いだったようだ。心底安心したのだ。

 この後も赤城と色々と話をしたが、結局次の戦闘があるようなら攻撃隊はこちらが主力となって攻撃する。直掩もこちらだけが出す事になった。端島鎮守府派遣艦隊の戦闘機隊は艦隊上空に展開する事となった。

 




 今回は提督と赤城の方だけです。作戦は続行ですよ。
 それと端島鎮守府派遣艦隊の実情やらを少し話しました。そりゃ設立も横須賀より遅かったですし、レベリングをしてる鎮守府ですからね。そう考えると仕方のないことなのかもって考えられます。

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