【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百七十四話  正門の大井②

 

 大井は目から光は消えたが、動こうとはしない。多分、理性が働いているんだろう。

ここで本能の赴くままに攻撃してしまうのは良くないとわかっているのだ。

 

「提督、私、理性が働いてます。」

 

「あぁ、そうみたいだな。」

 

「......でも、殺してやりたいと、脳裏で誰かが言ってるんです。これが『提督への執着』......。」

 

 そう言う大井の前に立つが、後ろの騒ぎは落ち着くどころかヒートアップしていた。

生卵が無くなったのか、別のものも飛んできている。色んなものだ。ひとくくりに纏めてしまえばゴミだ。

 

「深海棲艦との戦争をここでやるなー!」

 

「国民を脅かすなー!!」

 

 言っていることの種類は少ない。さっきから同じことを言っているが、声の調子は変わっていた。

脳内麻薬でも出ているのか、声量や声の調子も違う。怒鳴りに変わっているように聞こえたのだ。

 

「退去して下さいっ!!抗議は大本営や政府に掛け合い、相応の手順をおって対応しますっ!!」

 

 門兵も負けじとゴミを被りながらそう叫んでいた。どこか怒りも混じっているように聞こえるが、それもそうだろう。

生卵やゴミが投げつけられているからだ。

 

「そんな事、関係ねぇ!!お前らがここにいると深海棲艦が寄ってくるんだっ!!」

 

「勝手にやってる戦争に巻き添えはゴメンだっ!!」

 

 門兵に対抗する声が上がる。彼らの言った言葉は、完全に今の日本に起きていることを理解できていない証拠だ。

何かに扇動されている事は確かだ。だがそれを疑おうともせずに、鵜呑みにしているんだろう。

 

「抗議は政府か大本営にお願いしますっ!!横須賀鎮守府への抗議は対応できませんっ!!」

 

 俺と大井はその光景を遠目から見ているだけだ。

俺たちが出て行っても出来ることなんてない。むしろ、もっと激しくなるのは確実だ。ただでさえ、騒ぎが大きいというのにこれ以上大きくは出来ない。

そんなことを考えながら居ると、武下が来た。

 

「提督。これ以上耐えれなさそうです。正門は閉まってますが、外の壁を突破しそうです。増員もこれ以上は出来ません。」

 

「限界なんですか?」

 

「はい。特に精神面では。......罵倒などが門兵たちを怒らせているようです。なんとか平静としていられているみたいですが、これ以上は......。」

 

 そう言った武下は俺に携帯を見せてきた。

俺は画面を覗き込み、見てみると、写っているのはどうやら動画みたいだ。

 

『現在、日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部正門前にて大規模なデモ隊が抗議に押し寄せています。抗議内容は鎮守府の退去、国民の安全、深海棲艦との戦争、提督による未成年の徴兵です。この事に関しては以前から大本営や政府の発表がありますが、深海棲艦との戦争は国力の維持に必要でもし戦争を停止してしまえばあらゆる資源の供給が止まってしまうことを示唆しています。更に深海棲艦による本土攻撃もあるのではないかと発表しております。更に艦娘に関してはこれもまた、特殊能力を有するヒトだとしておりますがその一方、彼女らを日本皇国国民でないとしております。そして提督による徴兵ですが、事実無根であり大本営と政府はそんな事実は無いとしています。』

 

 ニュースの映像だった。それを見せた武下は困り顔で言った。

 

「公になっている情報を歪曲して理解しているとしか思えません。それにデモ隊外縁部と機動隊の衝突が起きているみたいです。」

 

 武下の言ったことは想定済みだ。この様子なら確実に衝突するだろうと思っていた。

更に大井に言った、彼らの掲げる言葉に矛盾が生じたことも確認した。これで彼らから見た俺と彼らは同レベルの存在となった。

その刹那、携帯を仕舞おうとした武下の携帯が着信した。

 

「すみません。電源を切っていなくて......っ?!」

 

 携帯を出して電源を切ろうとした武下は驚いた表情をして携帯を見ている。

どうしたのだろうかと俺が思うと、武下はまた俺に画面を見せてきた。

 

『大本営が横須賀鎮守府と艦娘に関する情報を再提示しました。内容は以前と変わりません。更に天皇陛下がデモ隊に対して即時退散を呼びかけました。』

 

 天皇陛下。俺はこの文字を見たのはいつぶりだろうか。

そして天皇陛下という言葉がどういう意味をもたらすのか。この国は今は天皇制を執っている。その国家元首が直に呼びかけをしたという速報だ。

 

『国営放送が先ほど緊急速報として放送した映像を御覧ください。』

 

 そう映像が切り替わった。そしてその瞬間、礼服を着た壮年の男性が映る。

 

『国営放送にお邪魔し、全ての放送を中断させていただきました。本日、私がこのような事を命じたのは一部の国民が日本皇国内の国内情勢を理解できていない事を伝えるためです。』

 

 壮年の男性の身から出るオーラは画面越しでも強く感じる。

 

『今、日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部に一分の国民が集まり、自らの考えを訴えていらっしゃいます。それはとても素晴らしい事です。』

 

『その訴えを私は耳にしました。私はその訴えを聞き、心が痛くてたまりません。』

 

『皆さんが忘れていたとしても私は忘れてなどいません。艦娘は国が窮地に立ち、滅びが見えた時、私たちに手を差し伸べていただいた存在。どこからともなく現れ、深海棲艦を撃退し、私たちから奪っていったものを代わりに取り返すために尽力を尽くしていただいています。』

 

『ですが国内は私たちが本来やるべきことを肩代わりしていただいているにも関わらず、まるで深海棲艦が現れる前と同じ状態に戻ってしまいました。』

 

『私は心が痛くて堪りません。何故、外の世界のことだと考えてしまっているのだろうかと。』

 

『私たちは代わりに戦争をしていただいているんです。そのことを理解していただきたいです。』

 

 呼吸を整えた壮年の男性は再び話し始めた。

 

『私は国民の訴えを聞き、一番心が痛かった言葉があります。それは、〈提督は犯罪者〉という言葉です。』

 

『彼は18という歳でありながら艦娘を纏め上げ、深海棲艦と戦っています。その提督は言わば唯一艦娘と共に戦っている国民です。その提督を侮辱し、蔑み、犯罪者と騒ぎ立てる事がどういう事か理解しているのでしょうか。』

 

 壮年の男性は感情を込めた。

 

『私たちは艦娘と協力関係にあります。その艦娘が今後一切、深海棲艦の火の粉から国と私たちを守っていただけなくなるということです。』

 

『そうすれば艦娘によるヨーロッパとの貿易や石油や鉄などの資源の供給は寸断され、私たちの目と鼻の先にまで深海棲艦が攻撃をしにやってくるのです。そして......』

 

『そして、艦娘たちはこう仰ってました。〈私たちは日本皇国全土を攻撃する〉と。日本皇国は自らの首を絞め、延命している状態だということをここに私が断言いたします。』

 

『横須賀鎮守府に集まり、デモ活動をしている国民に命じます。即刻横須賀鎮守府から退去して下さい。そして横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、提督に命じます。もし、デモ活動をしている国民が自主退去しない場合は鎮圧して下さい。彼らが私の声を聞かないのならそれ即ち、その他の国民を危険に晒すテロリストなのです。』

 

『そして私は大本営へ命じます。私がこの場で伝え切れなかった事を、伝えて欲しいのです。』

 

 こうして映像は戻った。

俺は衝撃を受けている。画面の向こうの壮年の男性は天皇陛下だと言うのだ。その天皇陛下がこの状況を良くないと直接伝え、真実を伝えたのだ。

俺はすぐに武下に言った。

 

「......鎮圧用の火器は?」

 

「催涙手榴弾とショットガン、放水砲があります。」

 

「今すぐ用意。30分以内に退去しなければに制圧を開始して下さい。」

 

「了解しました。」

 

「更に警察に連絡。連携して鎮圧して下さい。」

 

 武下は携帯を持ったまま走って行ってしまった。

鎮圧するための準備に向かったのだ。その一方で大井はと言うと、艤装を身に纏っていないが、何か言っている。

 

「提督は艤装を身に纏う事を禁止したの......これならいいわ......。」

 

 そう言うと大井は歩き出した。そして門のすぐ近く、投げられたゴミが散乱している周辺に立った。

 

「お嬢ちゃん艦娘かいっ?!無理やり戦争させられているんだろう?!」

 

 そうデモをしている人の1人が言うと大井の身体が光だし、それとともに大きな音と衝撃で身体が揺さぶられた。

そしてその光源にあるのは艤装。魚雷発射管がいくつも並んでいるその特徴的なシルエットの艤装は大井だ。そしてその瞬間、艤装の機銃(※多分換装したもの)が動き、デモ隊を捉えた。

デモ隊は面を食らい、静かになる。ゴミを投げるのも止まった。彼らは大井を見上げているのだ。

 

「嬢ちゃん?!どうしたんだい?」

 

「うっさいです......。」

 

 艤装にあるスピーカーを使っているんだろう。大井の声が流れた。

 

「私は横須賀鎮守府艦隊司令部所属 重雷装巡洋艦 大井です。正門前及び鎮守府周辺に集まるデモ隊に警告します。」

 

 大井の艤装の14cm単装砲が旋回。デモ隊を捉える。

 

「横須賀鎮守府正門及び周辺から即刻退散して下さい。先ほど天皇陛下より横須賀鎮守府は勅命を賜りました。」

 

 その大井の言葉にデモ隊は動揺する。いきなり天皇が話に上がってきたのだ。そしてちょくちょくとデモ隊から『天皇陛下がお話になられて退去を呼びかけてるぞ』という声が上がるが、その一方で奮い立たせようとする声も上がる。

 

「いいや!やっぱり戦争は良くないっ!!」

 

「横須賀鎮守府が退去すべきだっ!」

 

 そう叫び、動揺していたデモ隊も持ち直してきた時、大井の14cm単装砲が仰角一杯まで上げて一発、空に放った。方角は滑走路があった方向だ。

 

「警告です。立ち退かない場合、制圧させていただきます。」

 

 大井の艤装から退去を促す言葉が出ている中、門兵は着々と制圧の準備を整えていた。動揺してバリケードを押さなくなった門兵に暴徒鎮圧用ラバー弾のショットガンと催涙手榴弾、ガスマスクが配られ、大井の艤装と正門の間に放水砲が4門並んでいた。門の上の監視塔にもどうやら放水砲が出されたみたいで、シールド無しの放水砲が置かれて2人の門兵がそれを支えている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 30分経った頃、まだデモ隊は正門前に居た。天皇陛下の緊急放送と大井の警告を聞いて退去したデモ隊は100人程度。まだ門の前には1300人近くがいるらしい。

 

「そろそろ時間です。」

 

 俺の横で腕時計を見ていた武下がそう言った。

 

「......最終通告後、退去の意思が感じられなければ制圧開始です。」

 

「了解。」

 

 武下は近くの門兵に声をかけ、バリケードや放水砲、門の監視塔に伝令が走り、大井にも伝えられた。だが大井への指示は威嚇砲撃。信管を10秒にセットした榴弾を仰角最大でヘリを避けて撃てと伝えてもらった。

 

「最終通告です!!今すぐ横須賀鎮守府より退去して下さいっ!!」

 

「戦争を持ち込むなー!!」

 

 退去の意思無しだ。

 

「提督。制圧開始します。」

 

「はい。お願いします。」

 

 武下は下唇を噛みながら走って行き、放水砲の横で叫んだ。

 

「制圧開始っ!!!」

 

 その瞬間、バリケード後ろから門兵が催涙手榴弾を投擲。既にこちらは皆ガスマスクを着用している状態だ。

手榴弾が炸裂するとその辺りは煙が立ち上り、咳き込む声が聞こえる。

そして次に放水砲による放水が開始された。勢い良く噴き出す水にデモ隊はなぎ倒されていく。そしてある程度放水してもなお、立ち向かってくるのなら門兵たちはショットガンを構えた。そして撃鉄を落とす。

ラバー弾が飛翔し、近くのデモ隊に直撃していく。悲鳴や叫び声が木霊し、次々となぎ倒されていくデモ隊はなすすべなく制圧されていった。

この間、大井はずっと空に榴弾を撃ち、威嚇するも効果はなかった。

 制圧には30分かかり、正門外は死屍累々としている。気を失って伸びたデモ隊がびしょ濡れで転がっている。看板や横断幕、旗は穴だらけで折れ、無残に転がっていた。

機動隊の妨害をしていたデモ隊も機動隊による催涙手榴弾の投擲と盾による押し込みにより制圧。このデモで負傷者多数、検挙者が800人に上った。

 





 ここでまさかの天皇陛下登場です。日本皇国にした以上、登場させなければならないですからね。
それと初めてデモが制圧されました。これまで以上の人数が相手ですが。

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