【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

192 / 209
第百七十六話  真実の兆し

 天皇陛下の勅令によって大本営発表がテレビで中継されている。俺はというと、例外なく大本営に居るがテレビの前には出ない。

連れてきた護衛が殺気立っているのだ。誰が護衛かというとこれまた例外なく金剛、赤城、鈴谷、番犬艦隊(ビスマルク、フェルト、オイゲン、レーベ、マックス、ユー)と最近番犬艦隊に入ったアイオワだ。ちなみにアイオワだけは呑気にしている。一応彼女とビスマルク曰く『提督への執着』はあるみたいだが、軽度のようだ。

大本営発表が行われる舞台を見下ろせるところに俺たちは居る。

 そうしていると始まった。大本営発表だ。俺たちは部屋でテレビの中継を通して見ている。

 

『これより、大本営発表を行います。』

 

 アナウンスが入り、新瑞が壇上に上がった。

 

『私は大本営海軍部長官、新瑞である。今回の発表は陛下からの命を賜ったものである事を先に宣言しておく。そして今から発表する事は、突飛でとても信じ難い事だと思うだろう。だが、信じて欲しい。嘘偽りなく発表をする。』

 

 新瑞は少し呼吸を整えた。緊張しているのが分かる。アレほど平常でない新瑞は初めて見た。

 

『今回の発表は情報開示だ。』

 

 変わらない口調で新瑞は淡々と話し始めた。

 

『深海棲艦に奪われた海域を次々と奪還し、アメリカとの連絡手段までも手に入れた日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部についてだ。』

 

 会場の様子は変わらない。

 

『率直に言おう。日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部は日本皇国海軍の軍事施設でありながら、門を潜った先は日本皇国憲法や軍法が発生しない治外法権区域である。』

 

 一気に会場が騒がしくなった。と言っても知っている人間がほとんどだろう。

 

『昨年、メディアの撮影許可を出した軍法会議によって裁かれた『海軍本部』の事は覚えているだろう。彼らがしてきた事の全てを明るみにした軍法会議だ。艦娘を不当な扱いをしていた組織だが、他にも極悪な事をしていたのだ。』

 

 騒がしかった会場が一瞬で静かになる。

 

『日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、皆が提督と呼ぶその彼。歳は18だ。そして......』

 

 一瞬にして会場の物音ひとつまでもが消えた。

 

『提督は『海軍本部』の極悪非道な行為によって異世界から連れて来られた一般人だ。』

 

 会場はその言葉で一気に騒ぎが起きる。それまでの騒ぎとは比べ物にならないほどだ。

 

『提督によると、深海棲艦の居ない平和な日本から来たとのこと。しかもまだ学生だ。そんな提督は『海軍本部』による艦娘統制システムによってこちらの日本に連れてこられたのだ。艦娘統制システムというのは、遡ること十数年前。『海軍本部』によって艦娘が不当な扱いを受け始めた時、取り入れたものだ。異世界への何らかの接触によって異世界から艦娘たちの戦闘指揮をすることだ。鎮守府各所に設置された印刷機によって戦闘指揮詳細の書かれた指令書に沿った作戦行動を艦娘独自で実施していたのだ。』

 

 会場の空気はもう変な方向に走っている。

 

『それによって艦娘を閉じ込め、戦争を肩代わりさせていた事に良心が働いた『海軍本部』は艦娘に言った、〈何か欲しいものはあるのか〉と。それに艦娘全員がひとつだけ答えた〈私たちを直接指揮してくれる指揮官、提督が欲しい〉と。』

 

 空気に構わず新瑞は続ける。

 

『その艦娘の回答に『海軍本部』はこうしたのだ。〈戦果を挙げろ。戦果を挙げればその印刷機の向こう側にいる人間を呼び出そう〉と艦娘に伝えたのだ。それによって艦娘は数年間奮闘をし、横須賀鎮守府の艦娘は司令官を得ることが出来たのだ。それが提督だ。この深海棲艦との戦争には全く関係のない人間だがな。』

 

 ハハッと新瑞は笑うが、笑えない。

 

『横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘が提督を得たのは去年の9月からだ。そこからは皆も知っての通りだ。彼は全く関係のない日本皇国のために最善を尽くして私たちの代わりに戦争をしている。そして軍法会議の内容だ。『海軍本部』によって暗殺されかけたのだ。』

 

 俺の頭に走馬灯かのように着任の時からあったことが脳内を流れていく。

 

『ひとつめは今言った提督の事だ。次は横須賀鎮守府艦隊司令部がどうして治外法権区域なのか、だ。』

 

 少し呼吸を整えた新瑞は再開した。

 

『先程言ったように提督を得た艦娘たちは提督を失うわけには行かないとして過剰反応し、『提督への執着』と言われている提督への過剰な保護欲をみせる。記憶があるのではないだろうか?メディアは。』

 

『メディアはその仕事柄で鎮守府を訪れ、取材をする事がある。その際、艦娘に砲を向けられたそうだ。何者かもわからない信用出来ない人間を提督に近づかせまいとして。』

 

『その際、多くの艦娘は性格が豹変する。例えば有名な艦娘だと金剛だろうか。彼女を例に挙げよう。彼女は元気で笑顔がとても可愛らしい艦娘だ。それは皆も周知だろう。だがメディアが鎮守府を訪れた際は違っていた。表情から笑顔がなくなり、目の色が変わった。提督に近づいたレポーターは掴まれ、平たく言えば殺されそうになったのだ。』

 

 会場にいる取材陣は全員今言った事を知っているのでリアクションはしない。

 

『彼女ら艦娘曰く、『提督に近づく信用出来ない人間は殺す』そうだ。私たち人間の誰が提督に手を下すかわからないからだ。』

 

『だがそんな艦娘を止める事が出来るのが他でもない艦娘の過剰な保護対象である提督だ。つまり横須賀鎮守府が治外法権区域であるのは『提督への執着』が出る艦娘を我々が止めれず、それを唯一止めれるのが提督がいるからであるのと、鎮守府内を我々が艦娘のテリトリーとしているからだ。』

 

『補足をしておくが、艦娘は提督が不快に思ったり、提督の悪口を言おうものなら同じく殺そうとする。覚えておいて欲しい。更に艦娘が戦う理由だが、提督の為だそうだ。つまり我々、日本皇国のためではない。提督が日本皇国にいるから日本皇国を守っているに過ぎないのだ。』

 

『ふたつめは今の艦娘の事だ。次は日本皇国についてだ。』

 

 新瑞は息を整えると話しだした。

 

『深海棲艦によって海上航路を封鎖され、一度食糧危機や資源不足に陥った日本皇国は現在、安定した食料供給と資源を手に入れている。』

 

『経済が崩壊しかけ、一時は配給制にまでなったが今では自由に食料や工業製品を購入することが可能だ。』

 

『その一次産業を支えているのは紛れも無く艦娘である。』

 

『資源は艦娘による資源輸送任務によって国内の産業を支え、艦娘によって作られた食料プラントによって安定した食料供給をしている。野菜や穀類、肉の供給の殆どは食料プラントで支えられているのだ。』

 

 流石にこれはメディアも知らなかったのだろう、騒がしくなった。

 

『この事実を国民は理解しなければならない。提督によって生かされ、艦娘に養われている事実を。』

 

 そう言い切った新瑞は水を飲んだ。つまりこれで一応、終わりということだ。

だが、まだ終わっていない。今回はメディアからの質問に答えるのだ。

 

『国営放送です!提督によって生かされているとはどういう意味ですか?』

 

『答えよう。......提督の命令で艦娘は動く。命令次第では日本皇国全土を火の海に出来るということだ。だが有り難いことに、提督は寛容だ。艦娘による過剰保護反応を全て止め、これまで横須賀鎮守府に関わった人間は誰ひとりとして死んでない。そして今後も誰かを命令によって殺すこともしないと言っていた。』

 

 張り詰めた緊張が一瞬で解けたのか、取材陣の安堵の声がマイクが拾っていた。

 

『これで以上だ。今日、私が話した事は全て事実である事をここにもう一度言っておく。』

 

 これで大本営発表が終わった。ついでに帰れる訳だが、どう帰ろうか悩むところだ。

ここに提督が居るか否かは分からないところだが、ここにいる情報が掴まれている可能性もある。どういうタイミングで出て行くのが正しいのやら......。

そんなことを考えていると、俺たちがいる部屋に新瑞が入ってきた。

 

「帰るか?」

 

「はい。お疲れ様でした。」

 

「あぁ。大本営発表はいつやっても慣れない。それと、これから帰るのなら丁度横須賀鎮守府に行く輸送トラックが居る。それに便乗してトラックで帰るといい。」

 

「ありがとうございます。」

 

 俺は新瑞に案内されてトラックに乗り込み、鎮守府に帰った。ちなみにトラックは俺が乗るものは大本営にあるトラックを偽装したものだ。

 今更だが、新瑞はアイオワを見ても何も反応しなかった。どうしたのだろうか。見たことのない艦娘なら名前くらい訊くだろうに。多分、海外艦が多くて気づかなかったのだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大本営発表は昼から夕方にかけて行われたので、帰るなり夕食、就寝だった。執務は赤城に頼んで、早めに終わらせていたので問題ない。

少し、気疲れしていたのか早くに寝てしまった俺はいつもよりも早く起きてしまった。時刻にして午前4時過ぎ。まだ外は暗く、日中は温かいのだが夜は冷え込んでいて、布団から出ようものなら寒いくらいだった。例外なく、今も寒いわけで、目が覚めたが俺はまだ布団の中に居た。

 

(早く起きすぎたな......。)

 

 そんな事を考えながら、ベッドから見える外の景色をボーッと眺めた。

ただ暗いだけの景色は変わることは無いが、俺の心を落ち着かせてくれた。

そんな時、執務室から物音が聞こえた。誰かの歩く音というより、ものに当たった音だ。

 

(誰かがいるのか?侵入者ではないだろうし......。)

 

 侵入者が鎮守府に入る事は十中八九無理だ。慢心ではないかとも思われるが、その自信が何処から来てるのかなんて皆、承知だろう。

金剛と鈴谷だ。あの2人がここに現れたならあの物音を立てた正体が侵入者だということになる。だが実際は現れない。ということは、侵入者ではないということだ。

 耳を澄ませて執務室の方を集中した。ひたひたと歩くような音が聞こえる。人数は1人。

 

(誰だろう。)

 

 俺はそう思いつつ、耳を再び澄ませた刹那、声が聞こえた。

 

「ふふふっ......。」

 

 その声に聞き覚えがある。大井だ。

 

(笑ってるのか?しかもこんな時間に大井はなんの用だろう?)

 

 そう思って起き上がろうとした時、私室の扉が開かれた。

俺はこの時、起きればよかったのに寝たふりをしてしまったのだ。

 

(しまった......。これじゃあ声が掛けれない。)

 

「提督?寝てますよね?うん......寝てますね。」

 

(起きてますっ!!)

 

 目は閉じているが、オーラで分かる。いつもの大井でもなければ『提督への執着』が出ている訳でもない。

変な雰囲気だ。

 

「来ちゃいました。私......。」

 

 そう言って大井は俺の顔を覗き込んだのか、スッと空気が流れ、足音は離れていく。

私室の中を歩き回っているのか、ひたひたと歩く音があちこち彷徨い、俺の横に戻ってきた。

 

(一体何なんだよ。)

 

「やっぱり広いですね。提督の私室は......。」

 

 そう言って大井は横に座ったのか、ベットが少し沈んだ。

 

「昨日、私に『提督への執着』が発現してから色々な事が分かったんです。......この鎮守府で一番短い期間居る私ですが、気付いちゃいました。」

 

 大井が気付いたのは九割方アレだろう。

 

「赤城さんも金剛さんも驚いてましたよ。」

 

(当たりかよ、コンチクショー。)

 

 九割だと自分で考えておいて当たったらこんな風に捉えてしまう。

出来れば気付いて欲しくなかった。それには理由はある。今の大井は『提督への執着』が発現した状態で、しかも赤城のようなタイプだ。勝手に色々な事を始める可能性がある。

 

「それに今の気付いたことに対する状況の取り方も......。ふふふっ......きっと私がっ......。」

 

 そう言って大井はベッドから立ち上がったみたいだ。少しベッドが浮いた。

 

「提督は寝たフリが上手なんですね。」

 

 そう言って大井は急に俺のデコをデコピンした。

 

「ははっ、気付いてたか。」

 

 そう言って俺はやっと目を開き、大井の顔を見た。

目から光は消えてない。正常のようだ。

 

「今は正常ですよ?......途中から変な感じがしましたからね。きっと最初から起きてたんでしょう?」

 

「あぁ。」

 

 俺はそう答えて起き上がった。そして大井はベッドに再び腰を掛ける。

 

「私も赤城さんと共に提督のために手を尽くすことにしたんです。」

 

「話の筋からしてそうだろうな。でも今は何も出来ない事になってるぞ?」

 

「知ってますよ。」

 

 大井はそう言って手を伸ばしてきた。

 

「あの3人は失敗しましたからね。」

 

 突然そんな事を大井は言った。何を失敗したのだろうか、俺にはさっぱりわからない。作戦のことでもないだろうし。

 

「私はしませんよ。そんなこと......。」

 

 そう言って大井は俺の両手で抑えた。

 

「何をっ。」

 

「ふふふっ......寂しいなら言ってくださればいいのに。」

 

「おいっ!!」

 

 そのまま大井は手で頭を引き寄せてきた。逃げたいが、何分どこからそんな力を出しているのか、逃げれない。

 

「止めろ大井っ!」

 

「嫌です。」

 

「止めないと面倒なことがっ......。」

 

 そう俺が言った刹那、私室の扉がまた開かれた。

そこに立っていたのは金剛だ。鈴谷はどうやら居ないみたい。

 

「何してるデスカ、大井。」

 

「何って、金剛さんが出来なかった事をしようと......。」

 

「それは出来なかったのではなくて、してないだけデス。受け身に行動する事が暗黙の了解デス。」

 

「それでは今まで通りですよ?」

 

「ぐっ!!?」

 

 一体何の話をしているのかわからないが、とりあえず大井が手を離してくれない。

 

「一体何の話をしてるんだ?」

 

 そう俺が聞くと大井が答えた。

 

「チキンかチキンじゃないかって話です。知った艦娘の長の1人である金剛さんがこうでは本末転倒。新参者の私が代わりにと......。」

 

 そういった大井に金剛は冷たい声で言った。何度か聞いた事のある金剛の冷たい声は確実に多いに対しての言葉だった。

 

「代わり?そんなの、ある訳ないデス。大井でも、赤城でも、鈴谷でも、私でもないデス。」

 

 そう言って金剛はこっちに来て、大井の肩を掴んで出て行った。

抵抗する大井を無視して金剛は私室の入り口まで行くと、『二度寝するといいデース。二度寝は史上の幸せって言いますカラネ!』と言って出て行ってしまった。

何処へ行ったのか分からないが、翌朝起きて秘書艦と食堂に行くと、椅子に縛り付けられた大井が居た。その大井の首に看板が下がっていたのだ。

『私は卑怯者です。』と書かれていて、口枷をされていたので『ん"ー!ん"ー!』としか聞こえなかったが、多分『助けてっ!』って言っていたんだろう。俺がそんな大井の口枷を取ろうとしたら金剛に『これは提督の手料理を1人だけ食べた罪と同等デス。御飯の後に開放しますカラ、気にしないで下サイ。』と言われ、何を気にしなくていいかわからないがとりあえず朝食を食べた。そして朝食後に大井はちゃんと開放されたみたいだった。

 




 今日のは少しいつもと違います。それと大本営発表の内容はこれまでのまとめみたいですから、ちゃんと読むことを推奨します。間違いがある可能性があるので、修正することが多々あると思いますが、よろしくお願いします。
 金剛がどんどんキャラが......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。