【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百七十九話  提督と艦娘①

 

 今朝起きるともう大井はおらず、部屋に置き手紙があった。『早めに起きて帰ります。夜は独りで過ごしちゃダメですよ。』とあった。昨日の夜のことだというのは分かるが、何故俺が独りでいちゃいけないのだろうか。さっぱり分からない。

 

(時間だし着替えるか。)

 

 俺は布団から起き上がり、着替えて執務室で待つ。

 今日の秘書艦は大淀だ。いつぞや艤装が見つかってからこっちに居るのだ。

 

「提督、おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 時間通りという訳ではないが、他の艦娘が秘書艦の時の平均くらいだ。

 

「執務で使う書類は持ってきましたので、朝食にいたしましょう。」

 

「分かった。じゃあ、食堂に行こうか。」

 

 俺はそう言って立ち上がり、執務室を出て行く。

歩きながらだが、考え事をする。昨日の大井との話だ。日を跨いでもやっぱりあのままだ。理解は出来たが、どこか信じたくないところがある。やはり、大多数の艦娘が俺のことをモノとして認識している事だ。あくまで一説として捉えるが、それでもその説以外は聞いたことも無いし、俺も考えてみたこともない。

 提督が艦娘を"兵器"として見るというのは俺の居た世界でもよくあった事だ。捨て艦、デコイ、牧場、負傷改造、米帝プレイ、無休出撃......ゲームの中では正当なプレイであるかもしれないが、不当な扱いだとされている。提督から艦娘への行為だけだと俺は思っていたがそれは違っていた。ゲームの中では命令には有無を言わずに遂行しているが、こうやって俺が目の前に現れたとしても普通の艦娘の中では命令を出す司令塔に過ぎないのだ。

 なら何故、艦娘がそれを性格が一変してしまう程過剰に保護をするのか......。理由は簡単、司令塔を無くさない為だ。

自らは『指揮を直接してくれる指揮官が欲しい』と言っていたが、それは『直接指揮して欲しい』だったのだ。言葉に出る時には変換されていたということになる。

 

「初めての秘書艦ですから、緊張します。」

 

「そうか。......だが、補佐は無しってことになっているぞ?」

 

「はい。提督のお手を煩わせてしまいますが、少しずつやろうと思います。幸い、少ないですからね。」

 

 俺は大淀に返事を返す。

 大井の仮説では今、俺の横にいる大淀も俺をモノとして見ている1人だ。

特別何かがある訳でもない。一般的な艦娘。

 大井の発言で気になるところはまだある。俺が聞こえなかったところだ。あの後、聞き返しても教えてくれなかった言葉。とても重要だったかもしれない。

 

「着きましたね。」

 

「そうだな。」

 

 俺と大淀は食堂に入って、いつもの様に朝食を頼んで食べ始める。食堂で見る光景もいつも通りだった。

だがその光景をどこか俺は疑ってみていた。昨日の大井の話が気になって仕方がない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が大淀に教えながら執務を初めて2時間程で執務は終わった。いつもよりも倍かかったが、出来はいつもと同じくらい。大淀はどうやら執務が出来る艦娘みたいだ。1回覚えれば動くタイプの。

 

「お疲れ様でした。」

 

「お疲れ。じゃあ事務棟に出してきて終わりだ。」

 

「はい。行って参ります。」

 

 大淀を見送ると俺はまた考え事を始める。

だが結局、永遠と無限ループしているだけで、結局分からず仕舞いだった。大井の遠回しな言い方と聞こえなかった部分。気になるが、やっぱり分からないので俺は考えるのを止めた。ついでに言えば俺自身から見た艦娘の『提督への執着』の違いについて考えるのも止めた。俺の中ではやはり『提督への異常な保護欲』以外思い浮かばなかったからだ。ヒトやモノっいう観点からは考えられなかったのだ。

 だったら何を考えるか。大井がここまで俺に近づく理由だ。

大井は『提督が"独り"で居ないように』と言っていたが、"独り"が気になる。そう言って大井の取った行動が、俺に擦り寄る事だった。自分で言って悲しいが、この人生で彼女が居たってことは無い。だから無いだろうけど、それの代わりだとか言われてもそれは無いとしか言えない。

そうしたら、何なのだろうか。俺に擦り寄る理由。

話の前後を考えると、話を始める前に大井が振った話は俺の居た世界の話だった。両親、友人、そういった関係を訊いてきた。十中八九これに関係しているに違いない。だが、それが関係していたとしても何が擦り寄る事に繋がるのだろうか。

 

(さっぱり分からない。)

 

 さっぱり分からないのだ。本当に。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大淀が書類の提出に行って帰ってきた時には11時過ぎだったので特に何かしたということはなく、少ししてから食堂に向かって先にテレビを見ていた。それから艦娘がちらほらやってきてテレビを見たり昼食を食べたりして時間を使い、結局俺と大淀は何か深く話す事なく、午後の暇な時間になってしまった。

 

「暇ですね......。」

 

「そうだな。」

 

 そんなやり取りを20分に1回のペースでやっている。そんなやり取りを既に5回はやっていた。時刻にして3時前。

 やり取りの間に結局諦めたつもりで居た大井の行動も考え始めてしまっていた。

大井の言った言葉を断片的に思い出していくと、あることを思い出した。『大井は"気付いた"艦娘の一員』だと名乗ったのだ。ということは"気付いて"いるのだ。俺への感情を。

 

(大井は俺の責任や独りになってしまった、戦争を強いられ、将来も無くなった事を知っているのだ。そこから何が考えられるというのか?)

 

 そう考えると大井も『提督への執着』が発現したにしては早過ぎる。ずっと持っている艦娘でも"気づいていない"くらいなのに。

 

(まぁでも、"独り"にならないでって言うのは有り難い。)

 

 そんな事を考えて俺は時間を過ごした。そこからはもう別のことを考えていた。次の作戦についてだ。

だがそれまでにかなりの準備が必要だということに気付いて少し落ち込んだのは別の話。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕食の後、大淀を部屋に返して俺は私室で1人、本を読んでいた。もしからしたら誰かが来るかもしれないからだ。

そんな事を考えながら本を読んでいると、案の定、執務室の扉が開かれた。

 

「お邪魔しマース。」

 

 入ってきたのは金剛だ。ちなみに1人で入ってきた。姉妹の誰を連れている訳でもないみたいだ。

 

「金剛か。......どうした?」

 

「ハイ......少しお話したくて。」

 

「いいぞ。」

 

 俺は手に持っていた本のキリの良いところに栞を挟んで置いた。

そんな事をしている間に金剛は給湯室でもう紅茶を淹れていた。つまり長居するということだ。

 

「どうゾ。」

 

「ありがとう。」

 

 俺は金剛と机を挟んだソファーに座って1口飲んだ。

紅茶は相変わらずで、普通に美味しい。こういう時、つくづく普通という言葉の万能さをつくづく実感できた。

表現出来ない美味しさなのだ。淹れる個人によって変わるだろうけど、同じ茶葉でも俺が淹れたのとでは全然違う。

 

「話ってのは、『FF』作戦の事ネー。」

 

「結構最近の話だな。」

 

「そうなんですケド、最近噂を聞きマシタ。『赤城が提督に添い寝してもらっている』と。その真意を確かめに来マシタ。」

 

 真剣な眼差しで俺にそう訊いてきた。

 赤城と俺が一緒に寝ていたのを誰から聞いたのだろうか。と言っても『FF』作戦中だけだ。今は寝ていない。

 

「それで、本当デスカ?」

 

「答えは否だ。」

 

 俺は即答した。ここで何か言っても仕方ないからだ。

 

「本当二?」

 

「本当に。」

 

 そう渋ってくる金剛。

 

「デモ、添い寝してたって赤城の艤装の妖精がっ......。」

 

「妖精がか......いつの話だ?」

 

「『FF』作戦中はずっとって言ってマシタ......。」

 

 どうやら赤城の艤装の妖精の中には相当口が緩いのが居るみたいだ。

そんな話を自分の艤装の持ち主でない艦娘に話すのかと思った。

 

「うーん。」

 

「間違いないって......どうなのデスカ?」

 

 金剛が捨てられた子犬のような目で俺を見てくる。

心に来るからやめて欲しい。それにそんな目を見ていると、嘘が言えなくなる。逆に真実を嘘偽りなく言ってもなんとかなるとも思った。この場合、嘘言ってこじらせるより本当のことを言った方が良いと俺は思った。

 

「......してたけど、色々あったから仕方なくって感じだ。」

 

「仕方なく?提督と寝ることがデスカ?」

 

 金剛がグレーな発言をしたが俺はスルーして答える。

 

「俺が艤装に乗り込むことになって準備はしてきたものの、寝る場所が無かったんだ。赤城のな。」

 

「無かった?」

 

「あぁ。赤城はすっかり忘れてたと言って、なら艦長室(艦娘が普段寝るところ)で寝ればいいって言ったはいいが布団が1組しかなくてな。」

 

「ほうほう。」

 

「俺はソファーで寝るからって言ったんだけど駄目だ、それなら私がソファーで寝るって聞かなくって色々あって結局、一緒に寝ることになったんだ。それが添い寝に見えるのも仕方なかっただろうな。」

 

「そうだったんデスネ......。」

 

「あぁ。」

 

 俺はカップに入っていた紅茶を飲み切った。

 

「フーン。」

 

 なん嫌な予感が脳裏を過ぎった。

 

「なら......。」

 

「なら?」

 

 俺の予想は的中する。

 

「私とも寝て下サーイ!」

 

 俺はその金剛の発言に抵抗するも虚しく、最後には『適当に尾ひれ付けて誰かに言う』と言われたものだから結局、金剛と寝ることになってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ベッドの中に今、俺と金剛が入っている。

同室の姉妹には『提督に任務を頼まれたから今日はこっちで寝れないデース。』と言ってきたらしい。そんな事を言ったら後で任務内容を聞かれて面倒な事になってしまうと思う。霧島あたりに言及されそうで怖い。

 

「あったかいデスネ......。」

 

「そうだな。」

 

 俺は天井を見上げて金剛の言葉に相槌を打った。

 

「もっと寄ってきて下サイ。」

 

「いや、金剛は嫌だろう?」

 

「嫌ならあそこまでして一緒に寝よとはしマセンヨ。ほらっ。」

 

 そう言って金剛は俺の腕を掴んで引き寄せた。

距離にしてあと少しで触れてしまいそうな距離。金剛はそんな俺に抱きついた。

 

「んなっ?!金剛っ?!」

 

「しーっ!黙って私に抱きつかれてればいいんデース。」

 

 金剛は俺の頭を抱きかかえる様にしている。なんというか男から出てこないような匂いが鼻に充満する。

考えないように俺は必死に頭を動かした。

 

「温かいデスカ?」

 

「あぁ......。」

 

 俺はそう答える。

 

「やっぱり提督ってば甘えないデスネ。こうやって誰かに甘えて欲しいデス。誰かとは言わずに私に......。」

 

「そうだなぁ......。」

 

 俺は半目になりながら答える。

 

「そのうちな......金剛。」

 

「はいっ!」

 

 そしてそのまま俺はまどろみに落ちたのだ。

 




 
 眠気で凄いことになってましたが、堪忍して下さい(白目)
時間がなくて眠気との戦いでした。それはさておき、今回からまたシリーズに入ります。
題名通りですので、乞うご期待!
 
 ご意見ご感想お待ちしてます。

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