【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八十一話  提督と艦娘③

 昨日、海軍部情報課からの命令(なのか怪しい)で急遽、中部海域攻略に乗り出した。

準備の方は完了しているが、一度遠征によって海域偵察を行った。だがなんだか引っかかる事があった。

中部海域への遠征はあったかどうかだ。だが、こちらには情報があまりないのでする必要があったのだ。

偵察に出て行ったのは球磨以下、強行偵察を専門的にやってもらっていた艦隊だ。

 遠征に出てから数日が経った頃、予定ではまだ帰ってこないとされていたが球磨たちが帰ってきたのだ。

その時、こう報告した。

 

『海域に侵入しようとしたら何かに阻まれたクマ。』

 

 ただそれだけだった。

どういう意味なのだろうかと考えると、思い当たる事が1つあった。

『番犬艦隊』だ。番犬艦隊は鎮守府から沖に出れない鎮守府が正当な方法で進水させていない艦娘の集合体だ。その彼女たちも沖に出れない時、『何かに阻まれた』みたいな事を言っていた。正確には『侵入する前に機関が停止して、引き返す事しか出来なかった』だ。

それを俺が球磨に言うとその通りだと返答があった。

つまり、俺が引っかかっていた謎が分かったのだ。中部海域への遠征は無いのだ。

 俺たちはここから進んでいかなければならないということになる。

だが1つ問題があった。潜水艦の建造に時間が掛かるのだ。デイリー建造を4回から1回に減らしていたが今日は4回にして潜水艦レシピをしてみたはいいものの、そう簡単に出てくる訳でもない。

 

(全く出てこないな。)

 

 今回の建造で出たのは球磨の艤装、長良の艤装、大井の艤装(軽巡)、イムヤの艤装だった。

これから当分は潜水艦の建造に力を入れなければならない。

 

「最初はこんなもんよ。」

 

 そう言って今日の秘書艦である夕立は椅子にもたれ掛かった。

 

「そうだろうな。」

 

「潜水艦は数が少ないから仕方ないわ。諦めずに建造を続けていたら出てくるけど、やっぱり伊8だけを狙うのは時間が掛かると思うわ。」

 

「全く同感だ。それに伊8はレア度が高い。」

 

「そうなると......翔鶴さんみたいに何ヶ月も掛かるっぽい?」

 

「そうなるっぽい。」

 

 俺は椅子にもたれながら夕立と話す。

一応、執務は終わっているのでやることがない。それに夕立が秘書艦ということもあり、執務もかなり早くに終わっていた。

 

「それより問題はこの作戦にあると思うわ。」

 

「ん?」

 

 夕立は突然、そんなことを言いだした。

 

「今回攻めるのは中部海域でしょ?」

 

「そうだな。」

 

「中部海域は南方海域の安全が確認されないとかなり危険だって戦術指南書に書いてあったの。それを鑑みれば今の状態でもし潜水艦が揃ったとしても中部海域の前哨戦は100%失敗すると思うわ。」

 

「......南方海域を先に落とす必要があるって事か?」

 

「うん。それと球磨さんの偵察遠征報告によればもしかしたらこのまま出撃したとしても海域に入れないと思うわ。」

 

 夕立は色々な書類を開いて見てはそんな事を言った。

秘書艦の机の上にはファイルが3つ。戦術指南書が1冊にノートが2つ開いている。どれだけ開いて調べたんだろうか。

 

「夕立の言い分だと、この作戦は発動前からおじゃんってことか?」

 

「うん。」

 

「弱ったなぁ......。」

 

 『NG』作戦が発動できないとなって最初に出た言葉がそれだった。

曲がりなりにも大本営からの命令だからだ。幾ら海軍部情報課からの命令であったとしても印は総督のもの。無碍に出来ない。

それにこの事は先ず、夕立に指摘される前に俺自信が気付くべきだったのだ。

 

「......悪い、夕立。」

 

「いいよ。......仕方ない事よ。それにその海軍部情報課からの命令なんて幾ら総督の印があっても確認しなきゃ。どう見たっておかしいじゃない。」

 

 俺はそう夕立に諭された。

全くもってその通りだ。最初に見た時に確認しておけば良かったのだ。だが幸いな事に被害を出す前でしかも準備段階で気付けた。

今から『NG』作戦延期を伝えて、大本営に確認を取れば問題ない。

 

「夕立。」

 

「はい。」

 

「『NG』作戦を知ってる艦娘はどれくらいいる。」

 

「昨日の秘書艦だった大井さんと私だけっぽい。でも、大井さんが誰かに言ってたら不特定多数の艦娘に知られているかもしれないわ。」

 

「そうか。」

 

 俺はすぐに夕立に命令した。

 

「大井を出頭させてくれ。」

 

「了解っ!」

 

 俺の命令を聞いた夕立はすぐさま立ち上がり、執務室を飛び出していった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕立はすぐに大井を連れてきた。そして俺は間髪入れずに『NG』作戦の無期延期と、作戦に関して口に出すことを禁じさせた。

無論、大井はそれに従う。何の疑問も持たずに。それもその筈だ。何故、このような事になったのかを大井についでの様に説明したからだ。それにちゃんと納得した上での口外禁止だ。

 

「了解しました。......昨日の命令書への疑惑、ですか?」

 

「あぁ。」

 

 退出するかと思ったが、大井がそんなことを聞いてきた。

無理も無いだろう。受け取って、読んで、作戦の概要を知っている大井なら訊きたくもなるだろう。

 

「そもそも疑惑に思っていたのは事実だろう?」

 

「そうですね。海軍部情報課......これまで送られてきた資料の中にそこから出ている書類はありませんでしたからね。」

 

 そう大井は腕を組んで答える。

 

「んで今日の出来事だ。中部海域に偵察に出ていた球磨からの情報で、海域に入る事が出来ないとのこと。」

 

「......番犬艦隊が沖に出れないのと同じ現象ですね。」

 

「あぁ。それに現状のまま潜水艦が建造できたとして出撃しても成功率は0%。」

 

「なら作戦の無期延期も仕方ないですね。......分かりました。では、失礼します。」

 

 大井はすんなりと執務室を出て行った。どうやら聞きたい事は以上だったみたいだ。

 見送った夕立は俺のところに戻ってきてあることを言った。さっき言えなかった。正しくは言えなかった事だろう。

 

「提督さん。大井さんって『提督への執着』が発現してからおかしいわ。」

 

「そうだな。」

 

 夕立も同じことを考えていたみたいだ。だが俺よりかは感じてない筈。

 

「大井っていう艦娘はあんな個体じゃない筈なのに......。」

 

 そう言った夕立を俺は小突いた。

 

「それを言うなら夕立もだろう。もっと夕立は子供っぽくておてんばなイメージが付いているんだぞ。」

 

「そうかもしれないわね。......うん。私もそれには気付いてるっぽい。」

 

「そうなのか?」

 

「うん。......演習で他の提督さんのいない鎮守府で戦う時に時々別の夕立と戦うことがあるの。他の夕立とも話した事あるけど皆口を揃えて『別の鎮守府の私は同じような性格してるけど、あなたは全然違うっぽい。』ってね。私、おかしいのかな?」

 

 そう夕立が言うと、髪の特徴的なところがペタリとしてしまった。

本当に、こう見ていると犬耳に見える。そんな夕立の頭の上に手を置いた。

 

「気にするな。夕立は夕立、他の鎮守府と違かろうが、似てなかろうが夕立は夕立だ。」

 

「本当?」

 

「本当だ。」

 

 俺はそう答える。夕立はというと、確かに変な個体だ。夕立自身が言う通りなのだ。

 

「......分かったわ。」

 

 そう言って夕立は頭の上に乗せた手からすり抜けていった。

そして秘書艦の席に座る。そんな夕立の表情からはさっきの髪がペタリと寝てしまった時の表情はなかった。何処か赤くなっていて、広げていたファイルやらを片付け始めた。

そんな夕立を眺めて俺は背を伸ばす。

 

「ん"ー!さて、何するか......。」

 

 そんな事を呟いたが俺は便箋とペンを寄せて書き始めるが、よく考えれば電話すればいいのではと思い立ち、電話を掛ける。

相手は大本営、新瑞だ。

 

『......もしもし。提督か?』

 

「はい。」

 

 一度、秘書に繋がった後に内線で新瑞に繋がる。

 

『どうした?』

 

「お聞きしたことがあります。お時間、よろしいですか?」

 

『構わない。それで、何だ?』

 

「はい。先日大本営海軍部情報課より総督の印が付いた命令書が届いたのですが、とても不自然でしたので確認を取りたく......。」

 

『情報課から命令書?情報課にはそんな権限は無いはずだが?』

 

「権限が無いのなら尚更怪しいですし、新瑞さんの反応を鑑みるとそちらには耳に入っていないのですね。」

 

『あぁ。今のが初耳だ。して、どのような内容の?』

 

「中部海域の奪還開放、制圧です。」

 

『海域開放の催促か。......そんな指示を出した覚えは無いし、総督からの指示を下に流した覚えもない。こちらで何かが起きているのかもしれない。』

 

 ほんの数回のやり取りで事態を新瑞は読み取ったみたいだ。そして、大本営で起きている可能性のある事も。

 

『分かった。こちらで総督に確認を取った後、処理を追って通達する。』

 

「よろしくお願いします。失礼します。」

 

 俺は返事を聞くと受話器を置いて、その命令書を角に置いた。

 

「夕立。」

 

「はい。」

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして!」

 

 俺は夕立に礼を言って電話の前で待ち続けた。

およそ20分後に返事があり、やはりそのような指示は無かったのと総督もそのような書類に印を押した記憶は無いとの事だった。

その連絡を聞いた俺はすぐにその命令書を破り捨てたが、付け足しで新瑞にあることを言われた。

 

『何か起きるかもしれない。鎮守府の警戒態勢を強めておけ。』

 

「了解しました。」

 

『では。』

 

「ありがとうございます。失礼します。」

 

 そう言われ、俺はすぐに行動を取る。

夕立に言って赤城を招集。空母たちに哨戒機を出すことを指示するのと、戦艦以下の艦娘に艤装装着を命じ、警備部にも警戒態勢を伝えた。鎮守府内はたちまち騒がしくなり、緊張感に包まれる。

 

「配置完了したわ。」

 

 夕立が艤装を身に纏った状態で執務室に入ってくると俺は次の指示を出す。

 

「何かあればすぐに報告することを徹底だ。止む終えない場合のみ、無力化する事を許可する。」

 

「了解っ!」

 

 夕立は返事をして無線でそのことを伝える。

 

「大本営で新瑞さんが情報課を抑えるまでだ。それまで何があってもいいようにすること。」

 

 そう俺は言う。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼を超えた辺りで夕立が執務室から離れると言って代わりに時雨を連れて来て置いていった。

時雨と仲がいいって事は知っているが、こんな事も頼むのかと俺は内心少し驚いている。そんな俺に時雨は話しかけてきた。

 

「こうやって話をするのも久し振りだね。」

 

「そうだな。」

 

 落ち着いた雰囲気ではあるが、艤装を身に纏っている時雨はそんな事を言う。

 

「最近ね、夕立がすることが無いって言って片手間に色々な事をするようになったんだ。僕も一緒にやってるんだけど、夕立にはかなわないよ。」

 

「何をしてるんだ?」

 

「平たく言えば家事かな?自分で出来る事は自分でやってるんだ。私室の掃除、ご飯の用意、洗濯物の片付け、裁縫......他にも酒保で外国語の本を買って勉強したりしてるんだ。」

 

「ほぉー。凄いな。」

 

 時雨は柔らかい表情で話してくれる。

 

「僕もやってるんだけどね。......あれは大変だね。提督は夜にあんなことをしてるんだ。」

 

「......まぁ、そうだな。やってる。」

 

 俺がいつそんな事をしているのかと言うと、夜に秘書艦を返した後だ。大体夜の10時辺りから始めている。食事は食堂で摂っているので料理はしないが、掃除と洗濯はちゃんとしている。裁縫も着ている制服のボタンが取れかけていたりしているのはその日のうちに直しているのだ。流石に制服の修理は出来ないがな。

 

「料理はいつも食堂で済ませてるからやってないだろうから、洗濯と掃除かな?」

 

「うむ。だがあんまり時間はかからないぞ。」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。全部やって40分くらいか?夕食の後、私室でなにかやってるだろう?あの時に洗濯機を回して置くんだ。」

 

「そうだったんだ。」

 

 俺がそんな事を話していると執務室の扉が開いた。入ってきたのは夕立。そして出て行く時には持ってなかったモノを持って現れた。

 

「ここから離れられないだろうから、お弁当、持ってきたわ。」

 

 そう言って夕立は机に置く。

 

「ふふっ......夕立、赤いよ?」

 

「んー?!時雨、あげないよ?」

 

「あー待って、ごめんね。」

 

「許してあげる。はいっ。」

 

 夕立はそう言って時雨にも包を渡した。

俺の机に置かれた包よりも時雨と夕立が持っている包は小さい。

 

「あっ、ありがとう。」

 

「どういたしまして!さぁ、食べましょ!」

 

 俺は席を立ち、ソファーに座ると包を開く。

中にはそれなりの大きさの弁当箱があり、中を開けてみると彩りやバランスがちゃんと考えられた弁当だ。ご飯におかずは卵焼き、多分手捏ねの肉団子、プチトマト、アスパラベーコン、ブロッコリーだ。

 

「いただきます。」

 

「「いただきます。」」

 

 俺は箸を伸ばして口に肉団子を放り込む。

市販のやつや冷凍食品では味わえないような味がしている。やはり手捏ねの様だ。

そして白いご飯を口に運び、黙々と食べ進めていく。時雨と夕立は少し話をしながらだが、俺は黙って食べた。

7分もすれば全て綺麗に食べ切り、箸を置いて手を合わせる。

 

「ごちそうさま。」

 

「お粗末さま。」

 

 それに夕立は答えてくれた。

 

「どうだった?」

 

「うん。美味しかった。肉団子、手捏ねだっただろう?」

 

「そうよ。気付いたっぽい?」

 

「あぁ。」

 

 正直に言えば夕立の作ってきた弁当は俺の中でストライクだった。いいバランスで的確な量。腹の満足度もちょうど良かったのだ。

 

「今日、準備してたら時雨もやるって言ったんだけど、入れれなかっくってね。」

 

「あっ、ちょっと!」

 

 夕立がその話を始めると時雨は慌て始めた。どうしたんだろうか。

 

「焦がしちゃったの。生姜焼き。」

 

「生姜焼きっ?!」

 

「あー、夕立のバカ......。」

 

 生姜焼きで反応してしまったが、生姜焼きは焦がすものなのだろうか(←提督は料理で焦がした事がありません)。

 

「本当は生姜焼き弁当っぽくなる予定だったんだけどね、慌てて肉団子を入れたの。」

 

「もうっ......。」

 

「あははっ、そっか。」

 

 膨れる時雨とニコニコする夕立を見て俺は率直にそんな風に話した。

それを夕立は聞き逃さなかったみたいだ。

 

「今提督さん、口調変わってた?」

 

「あっ......あぁ。そうみたいだな。」

 

「んふー。そっちでもいいと思うよ?」

 

「そうか?」

 

 そう言って来る夕立から逃げるために俺は時雨に話しかけた。

 

「今度一緒に生姜焼き焼くか?」

 

「うん。」

 

「えー、私もー!」

 

 そんな楽しそうな雰囲気を出して話をするが、鎮守府には警戒態勢が敷かれているのだ。

多分、近くを通りかかった見回りの艦娘は変に思っただろう。

 




 昨日とは打って変わって絶好調でした。といっても休み休みでしたので、時間はかかりましたけどねw
 今回はサブタイらしからぬ内容ですが一応関連があるのでよろしくお願いします。
このシリーズがどういう意味をもたらすのか、気になるところですね。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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