【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第二話  提督、三週間した後に皆の前に姿を見せる

 

着任してからというもの、俺は一日中執務室と執務室に隣接する私室を行き来して生活している。

こんな生活も初めて三週間。着任してから三週間こんな生活だ。

俺が執務室で書類と睨めっこしていても、長門しか執務室にはおらず、食事は時間になると何故か赤城と加賀が持ってくるのだ。

朝昼晩の三食はどれもバランスが取れていて、とても食べがいのあるものだった。

今日も昼の時間、赤城と加賀がお盆を持って執務室に入ってきた。

 

「失礼します。提督、お昼ご飯の時間ですよ。」

 

俺はそれを合図に書類との睨めっこをやめて、執務室にあるソファーに腰を掛けた。書類を見ていた机で食べてしまうと、書類に食事のカスやら液やらが飛んでしまうからだ(※もう初日にやらかした)。

 

「ありがとう。」

 

俺は持ってきてくれた赤城に礼を言うと、箸を手に取り手を合わせて食べ始めた。

そして食べながらある事を考える。

俺は執務室と私室以外に行っていないんだ。

俺の居た世界で艦これのSSでは食堂や風呂を入渠に見立てた設備、甘味処、練習場、いろいろな設備があったが、初日に大淀に案内された時は執務室に直行していた。

そして、俺の目の前によく現れる長門や赤城、加賀などの第一艦隊以外の艦娘を見ていない。これまた初日の案内で執務室に来る道中に艦娘を見なかったのだ。

俺は目の前で俺と同じメニューを頬張る長門や赤城、加賀に何気なく聞いてみる事にした。

 

「なぁ、俺、この部屋と私室以外に出た事ないんだけど。」

 

そう言うと、長門たちは肩をピクリと反応させた。それも同じタイミングでだ。

 

「そっ、それはだな......。」

 

長門がどもりながら言う。その様子のおかしさに俺は不信感を抱いた。

 

「この部屋と私室、生活するには十分な設備があるし。お手洗いも風呂も。食事だって赤城と加賀が持ってくるし。」

 

「そっ、そうですね。」

 

今度は赤城が少し冷や汗を出しながら答えた。

 

「と言うか、6人以外の艦娘に逢ってない。扶桑と山城、日向は報告書を持ってくるけど、他の艦娘のもその3人が持ってくる。俺はてっきり皆自由に執務室に来るものだと思っていたんだけど?それに、全体の連絡で俺の着任も知らせると持ってたんだけど?」

 

「......。」

 

加賀が黙ったまま冷や汗を少し出しながらそれとなく目を赤くしている。

 

「そもそも、現状俺ってここに軟禁されてるの?」

 

そう言うと全員がプルプル震えだした。俺は横で食べていた長門に声をかける。

 

「どうしたのさ。」

 

「いっ......いやっ......その、だな......。」

 

明らかに動揺する長門。

俺はそれを見て溜息をついて箸を置いた。

 

「......なんとなく分かった。怒らないから説明して。」

 

俺がそう言うと、長門が箸を置いて説明を始めた。

 

「提督が着任することが決まった日。私たちは全員を集めた状態で提督の事を皆に発表することを検討していたんだ。」

 

俺はその様子を脳内で想像する。6人が円になって話しているところを想像すると少し笑えてきた。

 

「検討した結果。夜の夕食時、全員が集まるだろうと私たちは考えてそれ通りに物事を進めていたのだが......。」

 

「だが?」

 

「遠征艦隊、12名がその時刻になっても帰還出来なかったのと、提督着任の前日の北方海域キス島への出撃に大型艦が多数出撃していった影響で大型艦のほとんどが入渠していたから夕食の時に艦娘が多数の駆逐艦と私たち第一艦隊しかいなかったんだ。」

 

俺はそれを訊き、記憶を辿る。確かにこの世界に来る前日に金剛を求めてキス島に多数の大型艦を出撃させていたのを思い出した。第四艦隊解放の為でもある。

 

「確かに。あれって、そんなに時間かかって......たな。次の日の入渠に回して寝たと思う。」

 

「あぁ、夜中まであの機械からの命令書が止まらなかったからな。そう言う訳があって初日にチャンスを逃してからというもの、連日のキス島への出撃が重なって夜中にまで入渠に時間を費やしたから出来なかった。」

 

そう言った。

俺はそれを聞いて考える。別に6人のせいじゃなくて俺の無理な連続ローテーション出撃のせいじゃん!と内心叫んだのであった。

 

「そうか......というか、俺の采配ミスか。済まなかった。」

 

俺はそう謝ると立ち上がり、執務室の机の上にある出撃表を手に取って見た。

この後、午後に重巡と軽空母の艦隊でキス島出撃があった。俺はそれにバツをうった。

 

「......午後の出撃は全部取りやめだ。夕食前に全員を集めて俺に挨拶させてくれ。」

 

そう俺が言うと、3人は頷いて、また食事を摂り始めた。

そして俺は一つ思った。

 

「さっきの反応はなんだったんだ?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は壁にかけてある時計を確認した。時刻にして3時。丁度書類が片付いたので、今日の仕事は終わりだった。

仕事と言って書類を片づけているが、大体が報告書。

出撃に出た艦娘と消費資源、戦果-。それだけを書いて行く。艦娘から提出される報告書を元に完結に纏めたものを艦娘曰く人間に渡すらしい。俺も人間なんだけど。

俺は長門の話した人間の話は多分、海軍や防衛省の人間、総理大臣みたいな人間の事を指しているだろうと考えていた。報告書とならば防衛省だ。

そちらに渡す報告書を手書きかと思っていたが、何故かパソコンで書いて印刷したものを長門に渡している。印刷には俺が着任する前に俺から届いていた命令書が出てきていた機械を使っている。やはり印刷機だった。

さっきは回りくどく言ったが、艦娘からの報告書は手書きなので、俺がパソコンで打ち込んで印刷しているだけだ。俺が着任した事を門の前に立っていた兵士やらなんやらかんやらで、艦娘のいう人間からそう言う命令が下ったのだ。

俺は大きな欠伸をすると、艦娘の手書きの報告書を纏めていた長門に声をかけた。

 

「なぁ、長門。」

 

「なんだ?」

 

「この後、俺の挨拶をする訳だけど。皆は提督着任の条件やらは知ってるのか?」

 

俺がそう言うと、長門は少し考えた後に答えた。

 

「多分、知ってると思うぞ。古参組は特に......。」

 

そう長門は答えた。

 

「なら長門が俺を呼び出す力を妖精から受け取ったことは?」

 

俺がそう聞くとまたもや長門は肩をピクリとさせた。この反応は昼に見た。何かを隠している様だ。

 

「知ってる......。というか、初日の時点でかなりの人数に知られている。」

 

そう答えると長門は続けた。

 

「......あくまで私の予想だが、三週間、提督が着任された事を知らせなかった。だが、私が力を持ち、呼び出した事は知ってる。もしかすると、第一艦隊以外の艦娘は提督が着任拒否をして戻ったと思っているかもしれない。」

 

「......。」

 

開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろうか。そう思った瞬間だった。

初日の話では艦娘の唯一欲しい提督が着任拒否だなんて、俺が艦娘なら単艦出撃してるだろうな、そう考えた。艦娘にとってそれ程の存在なのだ。

 

「......それって、大分不味いんじゃないか?」

 

「あぁ、物凄く不味い。士気に関わる問題だ。」

 

俺は眉間に手を当てた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は遂に執務室と私室の外に出た。

初日には歩いたが、廊下はどこか学校みたいな雰囲気が出ている。というか、建物自体が学校と似た作りになっている様だった。

俺は長門たち第一艦隊の全員の案内によって艦娘全員が集まっている夕食時の食堂に来ていた。

因みに俺が今いる場所は普段は使わないという食堂の入り口の前。全員が食堂に居るので廊下で立っていても大丈夫だろうと長門が言ったのでそこで待っている。

そうすると、中から声がし始めた。

 

「注目っ!!秘書艦より全体へ連絡だ。」

 

日向が声を出した様だ。先ほどまで騒がしかった食堂は一瞬で静まり返る。

 

「秘書艦の長門だ。今回夕食時ではあるが、連絡だ。」

 

全員静かに聞いている様だ。

 

「三週間前、私が提督の呼び出しを行った事を知っている者はどのくらい居るのだ。挙手せよ。」

 

数秒経った後、長門はまた口を開く。

 

「全員か。」

 

長門がそう答えると、少し音がしなくなり、長門が指名した。

 

「む、霧島。どうした。」

 

「秘書艦が提督の呼び出しを行って三週間が経ちます。それなのに、どうして私たちの前に姿を見せないのでしょうか?」

 

そう霧島が言うと、ざわざわと艦娘が話し始めた。

 

「そうだよ......あれから三週間。着任したっていう連絡はおろか、噂も立たなかった......。」

 

「じゃあやっぱり、着任拒否したっていう噂、本当だったのかな?」

 

「......私たちも自分たちの司令官に逢うことも無く水底に消えるのかな............。」

 

廊下からでも判る食堂がどれ程空気が悪くなっている事が。まるで葬式だ。

そうすると、一際ハッキリとある声が聞こえた。

 

「でもさ、ちょうど三週間前の出撃で夕立が海域でロストしたよね?ロストっていう表現は今まで使ってこなかった。」

 

時雨がそう言ってる。口調的に俺はなんとなくそう感じた。

 

「一週間後にロストした海域から鎮守府近くの浅瀬で座礁してる夕立を発見したよね?それってこれまでの僕たちの置かれた環境が変化したってことじゃないの?」

 

時雨は淡々と話していく。そしてついにそれを口にした。

 

「この異常は三週間前から始まったと考えていいんじゃないかな?そう考えるとこの環境の変化、特に僕たちの置かれた環境の変化で一番大きな影響を与えるのはなんだろうね?」

 

そう言うと全員のざわつきが消え失せた。

 

「どうなんだい、長門?」

 

時雨がそう言うと、長門が口を開いた。

 

「.......済まない。連絡が遅れていたのだ。入ってくれ。」

 

俺はその合図で食堂の普段使われていない扉を開いて入った。

入った瞬間、とてつもない数の視線を感じたがそれを見ることなく、長門の元へ歩いていく。

 

「此方は私たちへ指示を出してた提督だ。時雨の言う通り、三週間前に着任している。」

 

長門がそう言った瞬間、食堂は歓声で溢れた。耳を劈く様な音量で、思わず耳をふさいでしまったが、その声と表情から喜んでいるのは見て取れた。

 

「三週間前に提督として着任した。皆、よろしく。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一頻り騒いだ後、それぞれ席について歓迎会を始めた。もちろん俺のだ。

歓迎会が始まるやいなや、俺の前に時雨が来た。表情は画面で見るような表情。なんとなく想像はしていたが、普段の表情からは読み取る行為が出来ないみたいだった。

 

「提督。」

 

「ん?なんだ??」

 

俺がそう答えると、時雨の立つ背後に少し違和感のある艦娘の髪が見えた。それはサイドに少し刎ねた赤みがかった金髪。俺はそれが誰だか一瞬で分かった。

 

「提督が三週間前に着任したお蔭で、提督着任で起きるイレギュラーが起きたみたいだ。そのイレギュラーが夕立を救ったみたいだよ。」

 

そう言った時雨の背後から、夕立がひょこりと顔を出して出てきた。

 

「提督さん......。ありがとう!」

 

そう言ってニコッと笑った夕立は俺の司令下にある夕立、記憶にある夕立とは違っていた。なぜなら、その夕立は改二になっているのだから。

 

「あぁ......というか、夕立。改装できるまでの練度だったか?」

 

そう言うと夕立は眉を吊り上げてフンスと鼻息を出すと言った。

 

「ロストしていた一週間、鎮守府海域の製油所とかいろんなところを移動しながら鎮守府を目指してたけど、疲労で敵の砲撃受けて大破して逃げてたらどうやら座礁したっぽい!」

 

そう言うとピョンピョン俺の前で夕立は飛び跳ねた。

 

「普通ならロストした時点で轟沈してるっぽいけど、ただ夕立ははぐれただけっぽい。今は長門さんと同じくらいの練度だよ!提督さん褒めて褒めて~!!」

 

そう嬉しそうに言う夕立の横で時雨は困った顔をして俺を見ていた。

 

「夕立は一週間、自分の艤装に接敵して轟沈させた深海棲艦の数を記していたんだ。座礁してみつかった時、その印は11。一人で11も轟沈させたんだ。褒めてあげなよ。」

 

そう時雨に言われて俺は夕立の頭に手を置いた。

 

「そうだったのか、夕立。よくやったよ。」

 

「わふー!」

 

夕立は髪の刎ねたところをピョコピョコさせて喜んだ。

そんな事をして歓迎会をすごしたが、時雨と夕立と話した後色々な艦娘に絡まれて困ったのは言うまでない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の歓迎会が終わり、執務室に帰ってきた時には外はすっかり暗くなっていた。

そして新たな疑問に直面する。

俺はてっきり戦艦・空母は大飯食らいだとばかり思っていたが、普通の女性並みにしか食べなかった。

一緒に執務室に入ってきた赤城に訊いてみる事にした。

 

「なぁ赤城。」

 

「はい?」

 

赤城はどうやら執務室にある機械、もとい印刷機に用事があったらしくそれの前に立って返事をした。

 

「俺はてっきり戦艦や空母の艦娘は大飯食らいだとばかり思っていたんだけど......。」

 

そう俺が言うと少し怒った風に赤城は答えた。

 

「提督!?それは艤装の方ですっ!私たちは提督の食べる量と同じくらいしか食べませんよっ!」

 

俺の中で戦艦と空母が大飯食らいだという事が覆された。

 

「ふーん、艤装がねー。というか艤装?」

 

俺がそう反応すると、赤城は印刷機の用事が済んだのか数枚の紙を持つと俺を呼んだ。

 

「提督、付いてきてください。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は真っ暗なところを赤城と歩いていた。それは一か月振りの外。夜の海辺は潮と共に冷たい風が吹き、俺の身体が上着を欲したくらいだった。

平然と歩みを進める赤城の後ろで、見える景色が変わらない事に気が付いた。

そうするとすぐに赤城が立ち止り俺の方を向いた。

 

「これが艤装です。」

 

そう言って赤城が指差したのは、黒い壁。夜だから暗いので何か判らないが、取りあえず黒くて大きなものだというのが判った。

 

「なんだ?壁か?」

 

「違いますよ!」

 

そう言うと赤城はどこから現れたのか、妖精に何か言うとその妖精はどこかへ消え、数秒後、目の前の壁をどこかのライトが照らした。

それは壁ではなく大きな船だった。

 

「これが艤装です。まぁ、私なんですけどね。」

 

そう言って近くにあったラッタルに足を掛けた。

 

「付いてきて下さい。」

 

そう言われ俺もラッタルに足を掛けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

数秒上るとボートがクレーンにかかっており、ソレの横を通り過ぎて、階段を上りを繰り返して、やっと広いところに出た。

 

「ここは上部甲板です。ここまで来れば判りましたよね?」

 

俺は黙って頷いた。

 

「大量に食べるのは艤装なんですよ。燃料と弾薬、鋼材、ボーキサイト。全て私が出撃した時に消費される資材はこの艤装が給油、艦載機の修理、撃墜された艦載機の補充、被弾箇所の補修、整備なんかに使われます。と言っても艦載機の修理は正直資材を消費しませんけどね。」

 

そう言うと近くに寄ってきていた妖精を赤城が撫でた。

 

「なので、提督がいらした世界で私がどんな風に言われていたかは提督の言葉でなんとなくわかりましたけど、実際はこうなんですよ?」

 

そう言って赤城は笑った。

 

「すまなかった。」

 

「いえ、いいですよ。」

 

俺は謝ると、甲板から見える夜空を眺めた。

そうしていると赤城が恐る恐る声をかけてきた。

 

「......因みに、提督?」

 

「ん?」

 

「提督のいらした世界では私はなんと呼ばれていたんですか?」

 

「......大食艦、妖怪食っちゃ寝とかかな。」

 

「ひどいっ!!!」

 

この後、俺が赤城に『俺は妖怪食っちゃ寝だなんて思ってないぞ。』と言ったときに加賀とすれ違った。

 

「提督、何故赤城さんが涙目なんでしょうか?」

 

俺はふとある事を思い出して赤城に言った。

 

「そういえば、加賀も赤城と同じように大食いキャラつけられて、実は赤城より食べるとか言われてた。」

 

「......くくくっ!!」

 

赤城は口を押えて笑っていたが、加賀は何のことかわからずに俺を睨んでいたので取りあえず走って逃げる事にした。

因みに赤城には加賀が生粋の提督LOVE勢扱いの方が多かったという事は黙ってた。

 




ここから多くの独自設定と独自解釈が乱射されますのでご注意を。
提督挨拶の時の話と知られざる赤城の秘密的な感じの話でした。

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